提言・オピニオン

公営住宅での強制退去に伴う悲劇をなくしていくために

提言・オピニオン

昨年9月24日、千葉県銚子市の県営住宅に住んでいた母子世帯が、家賃滞納を理由に明渡訴訟を提起され、その判決に基づき強制退去を求められた日に、中学生の娘を殺害し自分も死のうとする、という痛ましい事件(無理心中未遂事件)が起こりました。

生活に困っている人が安定した住まいを失い、ホームレス状態になってしまうことは、生活困窮の度合いがさらに深まると同時に、当事者に多大な精神的なダメージを与えます。今回の事件は「ホームレス化」という現実がもたらした絶望感が引き金になったのではないか、と私は考えています。

事件当時の報道によると、この母親は2013年4月に銚子市市役所を訪問し、医療費について相談をしていたようです。その場で、生活保護の制度に関する説明を受けていたそうですが、申請には至っていません。

一方、県営住宅を管理する千葉県は部屋の明け渡しを求めて裁判手続きを進めていましたが、福祉部局との連携は行なっておらず、家賃減免制度を促すこともしていませんでした。

この事件に関して、1月19日、弁護士や市民グループでつくる「千葉県銚子市の県営住宅追い出し母子心中事件の現地調査団」(団長・井上英夫金沢大学名誉教授)が、千葉県と銚子市に公営住宅の家賃減免制度の周知徹底などを求めて申し入れをおこない、記者会見を開催いたしました。

写真 (57)

申し入れの内容は下記をご覧ください。

私が世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」も調査団に加わり、申し入れに参加しました。

調査団が調べたところ、千葉県内の県営住宅入居者のうち、家賃減免対象者が11616世帯(2013年度)もいるのに対し、減免を実施したのはわずか1961世帯(2014年3月末現在)と2割に満たないことがわかっています。

今回のような悲劇を繰り返さないために、各行政機関が縦割りの壁をのりこえて、生活に困窮している人を必要なサービスをつなげていくことが求められています。

この申し入れについての記事が、1月20日付け東京新聞千葉版に掲載されたので、ご参考にしてください。

*東京新聞:生活保護など「改善を」 弁護士ら申し入れ 銚子の心中未遂受け

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2015年1月19日

千葉県知事 森田健作 殿
千葉県県土整備部住宅課長 殿
千葉県健康福祉部長 殿
銚子市長 越川信一 殿
銚子市福祉事務所長 殿
銚子市保険年金課長 殿
銚子市住宅課長 殿

県営住宅での強制退去に伴う母子心中事件の対応についての要望書

    千葉県銚子市の県営住宅追い出し母子心中事件の現地調査団
自由法曹団/全国生活と健康を守る会連合会/
中央社会保障推進協議会/住まいの貧困に取り組むネットワーク

2014年9月、千葉県銚子市内に所在する千葉県営住宅の入居者(母子世帯)が、家賃滞納を理由に明渡訴訟を提起され、その判決に基づき強制退去を求められた日に、中学生の娘を殺害し自分も死のうとする痛ましい事件(無理心中未遂事件)が起こりました。
この事件の経緯について千葉県、および銚子市の対応は、後記のように問題があると考えられるので、緊急に以下の対応をおこなうよう要望します。

1.県は、県営住宅の入居者に対し、家賃の減額制度があることを、十分に周知させること。

2.県は、家賃の滞納者に対し、入居者の置かれた状況を確認し、家賃の減額制度や他の社会福祉制度が利用できる場合には、その制度を丁寧に滞納者に対して説明すること。また、この説明は手紙や文書だけでなく、民生委員などと協力してできるだけ訪問することより、対面で説明を行うこと。

3.県は、民間賃貸住宅よりも低額な県営住宅を家賃滞納で退去させられた入居者の多くは、ホームレス状態にならざるを得ないことを認識し、退去後の生活ができることを十分に確認するべきであり、明渡訴訟は最後の手段とし、安易にこれを提訴しないこと。

4.市は、保険証を失効する、水道料金を長期間滞納するなど生活困窮の様子が見られる市民に対し、利用できる社会福祉制度を丁寧に説明し、申請意思があるかどうかを確認すること。仮に申請意思が認められない場合でも、長期間の家賃の滞納や保険証の失効など職権保護が妥当と判断される場合には本人からの申請がなくとも生活保護を利用させること。なお、誤った説明により、生活保護が利用できないと思わせる言動は間違っても行わないこと。

5.県と市は、県営住宅の入居者が生活に困窮していることを認識した場合、互いに情報を伝え、市からも県営住宅の家賃の減額制度の説明をしたり、県からも利用できる社会福祉制度を説明をすること。

6.県と市は、今回の事件の事実経過を明らかにし、再発防止のためにいかなる措置を採るべきか検討し、その防止策を県民、市民に公表すること。

<千葉県および銚子市の対応の問題点>

報道によれば、入居者の母親は、県営住宅の家賃の減額ができる程度の収入しかなったとされています。しかし、千葉県では、この母親に対し減額の申請を促すような対応をした形跡はありません。そもそも、一般の民間賃貸住宅よりも低額な県営住宅の家賃すら支払えない場合には、生活に必要な収入が減少しているか、なくなっていることが予想され、極度に困窮している状況にあることは十分に考えられることです。このような場合、安易に明渡訴訟を提起するのではなく、生活困窮していないかどうかを確認し、生活困窮していることが確認された場合には、家賃の減額の申請や利用できる社会福祉制度を伝えるべきです。

また、千葉県では入居者と接触しないまま明渡訴訟を行うケースもあると報道されています。生活に困窮している入居者は、相談先さえ分からない場合や、不安定・低賃金、劣悪な労働条件の雇用で、仕事を休むと給与が減額されるなどの恐れがあることから相談に行く時間すら作れない場合が多くあります。家賃を長期間滞納している多くの入居者もそのままの状態でいいと思っているわけではなく、何とかしなければならないと思いながらも、上記のようなことからどこにも相談にいけない状況に置かれていることを予想して措置をとるべきです。

さらに、報道によれば、2013年4月にこの母親は銚子市保険年金課に保険証再発行の相談に訪れた際、保険年金課の職員は生活保護の申請を勧められ、生活保護の相談をしていますが、結局生活保護の申請には至っていません。本来、福祉事務所は生活に困窮している者に対しては、申請の有無にかかわらず職権で保護を開始するべき責任を負っています。

低額な県営住宅の家賃さえも支払えず、保険証を失効し保険年金課に保険証の再発行の相談をしていること自体で生活困窮は明らかです。このような場合にまで「申請がなかったから」との理由で保護を開始しないことは、生存権を尊重していないと言わざるを得ません。

このような問題点が多々見られることから、緊急に前記の要望を行うものです。

以上

「共生」が憎しみ合いに転じるのを許さないために立ち上がる~フランスからの報告

提言・オピニオン

1月7日に発生した『シャルリー・エブド』襲撃事件に始まる一連のテロは、フランス、そして全世界に大きな衝撃を与えました。
フランスでは、1月11日の午後、パリ中心部で開かれたデモ行進に百数十万人の人々が参加しました。フランス全土でデモに参加した人数を合わせると、参加人数は370万人を超えたと言われており、フランス史に残るデモ行進になりました。

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今回の一連の事件はフランスでどのように捉えられているのでしょうか。

かつて日本に滞在し、NPO法人もやいの活動にもボランティアとして参加したことのあるフランス人研究者のマリーセシールさん(Marie-cecile Mulin)に、今回の連続テロの背景についてメールでうかがったところ、お返事をいただきました。

マリーセシールさんは11日の歴史的なデモ行進に参加し、そこで撮影した写真も提供してくださいました。

多くの方にフランスからの報告を読んでいただき、私たち日本社会のあり方について考える材料にしていただければと願っています。

なお、マリーセシールさんが日本の貧困問題をどのように見たのか、という点については、もやいブログに連載記事がアップされているので、こちらもご参考にしてください。

「海外からのもやいボランティアインタビュー」
http://www.moyai.net/modules/d3blog/details.php?bid=1723
http://www.moyai.net/modules/d3blog/details.php?bid=1761
http://www.moyai.net/modules/d3blog/details.php?bid=1899

 

質問1:フランスでは事件はどのように受け取られているか?

フランスでは、1789年に「人権と市民の権利」の宣言が採択されてから、ブラスヒーム(神への冒涜行為)罪は撤廃されました。その結果、国家と宗教が分離され(1905年政教分離法成立)、そのことで原理が決定的に制度化され、世俗主義は私達の国家の核として形成されてきました。世俗主義のことをフランスでは“laïcité(ライシテ)”と呼んでおります。

これまでにも、『シェルリーエブド』に掲載された漫画によって侮辱されたと感じたフランスカトリック教会やフランス国内のイスラム教組織が風刺漫画家達を相手に何度も裁判を起こしてきましたが、それでも彼らが糾弾されずにきた理由はこういう背景があるからです。それは、宗教を扱った風刺画に対するフランスの寛容さとも説明できます。時には低俗で露骨なものであってもです。

『シェルリーエブド』は、その不遜なユーモアセンスと因習打破の漫画と記事でフランス国内でも有名な新聞社です。そこで働くジャーナリスト達(大体はアナーキストか極左の人たちですが)の信条は、反啓蒙主義とあらゆる形の支配的イデオロギー相手に闘うことです。

大部分の一般市民は自分の宗教が何であれ、≪laïcitéライシテ≫と≪表現の自由≫の原理に深く共感しており、1月11日にパリで行われるデモには多くの人が参加を表明しています。(仏内務省発表370万人!!が参加)

たとえ、『シェルリーエブド』の故意に挑発的な記事に対して、時に意見を異にする人でも、「フランスをひざまずかせようとした行為がフランスを立ち上がらせた」という一文によってテロリストに対する自らの態度を表明しているのです。

人々が示したいのは、一つは自分たちが決して恐怖に屈服しないということ、そしてもう一つは、狂信的なテロリストと他のイスラム教徒達を決して混同しないということ、最後に、私たちが団結して立ち上がる事で「共生」が憎しみ合いに転じるのを許さないという強い姿勢を示すことです。

極右政党を支持する人たちの中には、今回の事件をイスラム教徒全体のせいにしようとしている人たちもいます。私達はこういう危険な考えを注視し、阻止していかなければいけません。

それと同様、イスラム教徒の人々の中には、今回のテロ行為を非難しない者もあります。パリや大都市を囲むスラム地域に住む貧困層の若者などです。そういう人たちは、「JE SUIS CHARLIE 私はシェルリー」といったスローガンに共感できず、「私はシェルリ―ではない」と表明しています。この現象は二問目の質問の答えに続きます。

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質問2:今回の連続テロの社会的背景に何があると思うか?

最初の質問で、スラム地帯で育つ貧困層の若者の様子をお答えしましたが、どうして高校生たちがこのようなリアクションをしているのでしょう?その理由は、彼らが存在する環境と、将来の見通しの無さにあります。今回のテロリストたちがなぜあのような野蛮なテロ行為に及んだか、その説明にもなります。

60年くらい前のフランスでしたら、貧困に苦しむ者が貧困を脱出し、自分や家族がより豊かな将来を獲得する為の主な手段は学校教育でした。実際、教育は社会、民族、文化など、社会統合の強力な武器でした。様々な国からフランスに移ってきた移民や、社会的排除を受けてきた市民達は、教育によりフランス社会と統合し、さらに独自の文化と併せ、より一層文化を充実させていきました。それでも、みな同じ価値観を共有することができたのです。しかし、70年代初頭から状況は変わり始めます。失業者が増加し、個人主義の台頭…私たちの世俗主義的な社会の基盤が崩れ始めたのです。

かつて貧困層だったものの、教育システムを最大限に活用できた人たちは、スラム地域から出て行きました。今スラムに残っている人たちは、主に近年の新しい移民を中心とする人たちが多いのですが、失業と貧困に直面する人々は年々増え、その子どもたちはもはや教育システムがきちんと機能していない学校に取り残されてしまいました。それとともに高まるレイシズムや差別が彼らの困難に追い打ちをかけているのです。

同時に、大多数の政治家達の関心はこれらの貧困層から徐々に離れていき、彼らはひどい苦境の中で自力で生活していくことを課せられます。そんな苦境の中で、彼らは政治/宗教過激派のいいカモになってしまいます。共同体や地域社会で孤立した人々が外国人排他主義で知られる極右政党「国民戦線」に吸収されていく。そんな現象が知らず知らずに増殖する癌細胞のように社会に拡がっています。

将来に希望が見出せず、差別され続ける若者たちの中には、宗教に逃げ道を求める者も出てきます。それは貧困と無知によって拍車がかけられます。そして、そういった若者たちの苦悩は宗教の原理主義者に利用されてしまうのです。この憂慮すべき現象は、フランス以外のヨーロッパ諸国でも見られるようになってきました。パリで起きたような事件が、どこで起きてもおかしくないのです。

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質問3:最後に日本の皆さんにメッセージをお願いします。

困難な時代において社会的つながりは非常に重要な概念で、責任ある社会であれば、困窮している人々を助けていくのは必要不可欠です。しかし、このことをフランスはこれまで成し遂げることができないできました。しかし、皮肉なことではありますが、(事件が起きてからの)3日間で私たちは「共和国の良心の光」とでも呼ぶべきものを改めて始めることができたように思います。

『シェルリーエブド』の社員が命を落とした「表現の自由」に関してですが、あらゆる民主主義が絶対に死守しなければいけない極めて重要なものです。そして、「表現の自由」がテロ防止の為とか、国家防衛の為などという口実によって踏みにじられぬよう絶えず注意していなければなりません。私たちの社会や生活を守るためには、新聞やメディアの言論統制をさせてはいけないのです。私たちが油断していたら、フランスも日本もこのような脅威に直面することになるでしょう。(Marie-cecile Mulin)

あまりに非人道的な生活保護の住宅・冬季加算ダブル削減方針

提言・オピニオン

1月14日に閣議決定される2015年度予算案で、生活保護費のうち住宅扶助と冬季加算が削減されることが大臣折衝で決まりました。

※関連記事:【2015年1月13日】 東京新聞:15年度予算案 住宅扶助、冬季加算カット 「命にかかわる」

家賃に相当する住宅扶助は、国費ベースで2015年度に約30億円、2018年度には約190億円の削減を見込んでいると報道されています。

厚生労働省は、有識者で構成される社会保障審議会・生活保護基準部会の報告書を踏まえて引き下げを決めたと説明しているようですが、ライターのみわよしこさんが報告されているように、同部会の報告書は引き下げを容認する内容にはなっていません。

生活保護の住宅扶助引き下げを、社保審・生活保護基準部会は決めていません(みわよしこ)

報告書のとりまとめがなされた1月9日の部会を私も傍聴しましたが、民間の委員からは口々に「引き下げ方針」がマスメディアで事前報道されていることへの不快感が表明されていました。

社会保障審議会・生活保護基準部会報告書PDF

2015年1月9日の生活保護基準部会

2015年1月9日の生活保護基準部会

安倍政権が社会保障費全体を削減していくという方針を明確にする中で、厚生労働省は財務省からの削減圧力に屈してしまったのでしょう。

私は、NPO法人もやいで生活保護利用者の入居支援(アパート入居時の保証人や緊急連絡先の提供)をおこなってきた経験から、「現状でも生活保護の住宅扶助基準は十分ではない」ということを訴えてきました。

2013年には、東京都千代田区で生活保護利用者が福祉事務所職員の紹介により「脱法ハウス」に入居していたことが社会問題になりましたが、その背景には住宅扶助の基準内で入居できるアパートが地域の中にないことがあります。

国土交通省の調査でも、「狭小・窓無し」のシェアハウス(脱法ハウス)の入居者のうち、11%を生活保護利用者が占めていたことが明らかになっています。

関連記事:住宅政策という「パンドラの箱」を開けよう!

車いすで暮らす障がい者からも、現状の基準では車いす生活をできる居住環境を確保できない、という問題が指摘されています。

関連記事:生活保護の住宅扶助基準引き下げの動きに反対する記者会見を行いました

厚生労働省の調査でも、生活保護利用者の住宅の13.8%に「腐朽・破損」があることが判明するなど、居住環境が劣悪であることが判明しています。

今回の削減方針は予算の大枠を決めただけであり、具体的にどの地域で、どのような形で基準が引き下げられるかは明らかになっていませんが、現状でも住宅扶助基準が充分と言えない状況で、さらに生活保護利用者の居住環境が悪化してしまう危険が高まります。

また、冬季加算の引き下げは寒冷地で暮らす生活保護利用者の健康悪化につながりかねません。

しかも、住宅扶助と冬季加算が同時に下げられると、2つの引き下げによる相互作用で、さらに深刻な影響を与えかねません。

一般に、家賃の水準と住居の断熱性・気密性は比例関係にあります。
家賃が低ければ、「腐朽・破損」があり、すきま風が吹く木造の住宅に暮らさざるをえません。すると、当然、暖房費は鉄筋の住宅に暮らすよりも高くかかります。

現在でも、そのために暖房費の捻出に苦慮している生活保護利用者は多いのですが、冬季加算が下げられると、最悪の場合、生命の危機に直結してしまいます。

厚生労働省や財務省は、こんなことも理解できないのでしょうか。あまりに人々の生活実態が見えていないと言わざるをえません。

ただでさえ、生活保護の生活費にあたる生活扶助基準は段階的に引き下げられています。食品などが値上がりしているにもかかわらず、厚生労働省は今年4月に第三弾の引き下げを強行しようとしています。

人々の健康を害し、いのちをないがしろにする非人道的な住宅扶助・冬季加算の削減方針の撤回を求めます。

 

年末年始だけではなく、炊き出しだけでもない!野宿者支援の広がり

提言・オピニオン

年末年始のお休みも今日が最終日。明日は仕事始めになります。

全国各地で行われてきた越年の活動(年末年始の野宿者支援)も今日が最終日になりました。

年末年始は役所が閉庁し、福祉行政の機能が停止するため、各地で路上に取り残された人々を支援する活動が行われています。

今回は東京の渋谷区が炊き出しを妨害するために区内の3公園を封鎖するという暴挙に出たこともあり、大きな注目を浴びました。

ただ、今回の公園封鎖をきっかけに野宿者問題に関心を持った人の中には、「年末年始だけ活動をしている」、「炊き出しだけをしている」といった誤解をしている人もいるようです。

そこで、野宿者支援活動の広がりについて、改めてご説明したいと思います。

その前に、「野宿者問題についての基礎知識を知りたい」という方は、以下のページがよくまとまっているので、ご参考にしてください。

NPO法人Homedoorウェブサイト「ホームレス問題とは」

民間による野宿者支援活動は、バブル経済崩壊の影響で全国的に野宿者が増え始めた1990年代半ばから盛んになりました。

各地で越年の活動を担った団体は、どこも通年で炊き出しや夜回り(パトロール)、福祉事務所への同行といった支援を行なっています。

初期の野宿者支援は路上での直接的な支援が中心でしたが、徐々に活動の領域は広がってきました。

今ではさまざまな分野で支援活動は展開され、さまざまな業種の人が参加しています。以下に分野別に見ていきましょう。

【福祉・医療】

ホームレス状態で生活している人の中には、食事も満足にとれない人や持病を抱えている人もたくさんいます。

特に冬の時期には、冷たい路上で寝ているために体温を奪われ、凍死してしまう人も出ています。

そのため、各地の支援団体はボランティアの医師や看護師など医療従事者の協力を得ながら、無料医療相談会の開催など健康面での支援を行なっています。

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その中でも東京・池袋で活動をしているNPO法人てのはしは、国際NGO「世界の医療団」などと協力をして、知的障がいや精神疾患を抱えた野宿者に特化した支援プロジェクトを行なっています。

東京プロジェクト – ホームレス状態の人々の精神と生活向上プロジェクト –

野宿をしている人の中に、知的障がいや精神疾患を抱える人が非常に多いという事実は、このプロジェクトの中心を担っている精神科医の森川すいめいさんらの調査によって明らかになりました。

森川すいめい「ホームレス化する日本の障がい者 池袋の取り組みと調査」PDF

【法的支援】

医療従事者だけではなく、弁護士や司法書士といった法律家も専門知識を活かした野宿者への支援活動を行なっています。

東京を中心に活動するホームレス総合相談ネットワークは、生活保護の申請や多重債務問題など、ホームレス状態にある人のニーズにあった法的支援を行なっています。

生活に困った人が生活保護を申請するのは当たり前の権利ですが、住まいのない人たちには長年、生活保護の窓口で差別的な運用が行われてきました。

今でも野宿者に対する福祉事務所の水際作戦(窓口での追い返し行為)はなくなったわけではありませんが、こうした法律家のグループの活動により、以前よりは野宿の人たちが生活保護を利用しやすくなっています。

2008年には東京・新宿区で50代の野宿の男性の生活保護が三度にわたって却下されるという事態が起こりました。

この男性が法律家のサポートを得て裁判を起こしたところ、最終的に新宿区が敗訴し、その判決が確定しています。

【仕事づくり】

ホームレス状態になって困ることの1つに「履歴書に書く住所がなくなる」という問題があります。

野宿者と直接、話をしたことのある方なら、「仕事をしたくても住所や住民票がないために門前払いされる」という話を聞いたことがあるでしょう。

こうした状況を打開するため、野宿状態でもできる仕事を民間の手で作っていこうという活動もあります。

よく知られているビッグイシューは、「ホームレスの人だけが販売することのできる雑誌」であり、販売者は一冊(350円)売るごとに180円の収入を手にすることができます。

関連記事:ビッグイシュー販売者の路上脱出を応援したい!対談:瀬名波雅子さん(ビッグイシュー基金)×稲葉剛

大阪で大学生たちが立ち上げたNPO法人Homedoorでは、「野宿のおじさんに自転車修理が得意な人が多い」という点に着目し、HUBchariというシェアサイクルの仕組みで仕事を作り出しています。

関連記事:「同世代から同世代に伝えたら一番伝わりやすいから伝えよう」 対談:川口加奈さん(NPO法人Homedoor代表理事)

また、東京の山谷地域で支援活動をしてきた人たちが中心となって立ち上げた企業組合あうんは、リサイクルと便利屋事業で雇用を創出しています。

【住宅】

住宅支援の分野は手前味噌になりますが、私が代表理事を務める一般社団法人つくろい東京ファンドでは、住まいのない人のための個室シェルターを運営すると同時に、アパートの空き室を使った住宅支援を展開しています。

また、「アパートを借りたくても、契約に必要な保証人がいない」という人もたくさんいます。

私が理事を務める認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいでは、広い意味でのホームレス状態にある人がアパートに入居する際に団体が保証をするという事業を行なっており、2001年の設立以来、約2300世帯の保証を行なっています。

【教育】

野宿者が直面する深刻な問題の1つに、若者たちによる襲撃があります。

昨年、都内の支援団体が合同で行なったアンケート調査では、実に野宿者の4割が襲撃された経験があることがわかりました。しかも、加害者のうち38%は子どもや若者でした。

関連記事:野宿者襲撃の実態に関する調査結果を発表。都に申し入れを行いました。

こうした襲撃事件をなくすために活動をしているのが、一般社団法人ホームレス問題の授業づくり全国ネットです。

このネットワークには、全国の支援団体関係者、報道関係者、教員などが参加し、各地の学校で「ホームレス問題の授業」を実施しています。

また、野宿者問題を子どもに伝えるための独自教材(DVDや書籍)も作って、その普及活動をおこなっています。

 

以上あげたものは、ほんの一部です。ここにあげた団体以外にも、さまざまな団体が各地域や各分野で活動を展開しており、相互に連携をしながら動いています。

年末年始に野宿者問題に関心を抱いた方は、ぜひ引き続き、野宿者支援の活動にご注目とご支援をお願いいたします。

最後に宣伝を。私の新著『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』は、過去20年間の野宿者支援活動の報告をまとめたものです。

90年代半ばからの支援活動の経緯や排除・襲撃問題についてもわかりやすく解説しているので、ぜひこちらもご参考にしてください。

関連記事:『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』刊行!予約受付開始&プレミアム版限定販売中です!

 

『若者の住宅問題~住宅政策提案書 調査編』が完成!17日に記者会見を開きます。

提言・オピニオン

認定NPO法人ビッグイシュー基金・住宅政策提案・検討委員会(委員長:平山洋介神戸大学大学院教授)は、このたび『若者の住宅問題』と題した調査報告書をまとめました。
私も委員の一人として執筆しています。

この調査では、若年・未婚・低所得の若者の居住実態をインターネット調査で調べましたが、回答者の4分の3の若者が親と同居している一方、ネットカフェ、友人宅など広い意味でのホームレス状態を経験したことがあると回答した人が全体の6.6%(親と別居しているグループに限定すると13・5%)にものぼることがわかりました。

これはホームレス化のリスクを回避するために、親もとから出られない若者が増えていることを意味しています。

ぜひこの調査報告書を多くの方に読んでいただき、日本の住宅政策や若者支援のあり方に関する議論が深まればと思っています。

以下はビッグイシュー基金からのお知らせです。報道関係者の方はぜひ記者会見にご参加ください。

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http://www.bigissue.or.jp/activity/info_14121201.html

ビッグイシュー基金では、住宅政策の再構築が日本の貧困問題解決の切り札ではないかと考え、2013年より研究者、実践家に呼びかけ「住宅政策提案・検討委員会」を開き、同年10月「住宅政策提案書」をまとめました。
(『住宅政策提案書』に関しては、リンク先過去の記事をご覧ください。)

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これに続いて2014年8月、提案を裏付け、さらに深めるために調査事業を実施しました。

首都圏(東京都・埼玉・千葉・神奈川) /関西圏(京都・大阪府・兵庫・奈良)に住む <1>若年(20~39歳)<2>未婚 <3>低所得(年収200万円以下)の男女を対象に、インターネット調査を実施し、1767人をサンプルに調査報告書をまとめました。

低賃金で過酷な住居費負担にあえぎながら、6.6%もの人が広義のホームレス状態を経験している一方で、回答者の4人に3人が親と同居。3人に1人が「大卒」、「いじめ経験者」、3割弱が「うつ病経験者」など、無業・ひきこもりなどの社会的不利・困難を抱えた若年層の居住・生活の実情も明らかにされました。

複雑・深刻化する貧困下の若者の問題を、「住宅」の側面から照らした日本で初めての量的な調査です。以下はその目次です。

『若者の住宅問題』―住宅政策提案書 調査編― (A4版 40p.)

目次

第1部 若年・未婚・低所得層の住宅事情――調査結果の分析
平山洋介(神戸大学大学院教授)

1. 人生の足がかりをつくる――若者の住宅問題
1-1 人生の道筋と住宅
1-2 「年収200万円未満」について
2.“結婚する、できるは1割未満”――親との同居/別居と結婚意向
3. 増加した“移動しない人生”――出身地と学歴
4. 多い極貧レベルの人たち――経済生活基盤の実態
4-1 無職と不安定就労
4-2 少ない収入・資産
4-3 社会保険加入の不安定さ
5.いじめ、ひきこもり、就職挫折、人間関係トラブル、うつ病……
――苦難の経験と相談相手
6.親持家が6割、自己借家は2割――住宅所有形態について
6-1 誰の所有・賃貸なのか
6-2 住宅所有形態の特性
7.住居費や家事で親に頼る――親の家と世帯内単身者
7-1 親に頼れる/頼れない
7-2 続かない安定
8.負担の過酷さ天地の開き――住居費負担の特性
8-1 負担する/しない
8-2 異様に重い負担
9.親持家は”とどまるべき”場所に――住宅困窮と定住・転居指向
9-1 だれがどのように困っているのか
9-2 親の家の内/外―住宅所有形態について
10.“健康”、そして“住まい”と“仕事”が大切
――暮らし向きの変化、幸福の条件
11.“次の段階”へ、もっと選択肢を――住宅政策から社会持続へ

第2部 若者に多様な住まいを――調査結果から

・家を借りることがリスクの時代――檻のない「牢獄」と化した実家
藤田 孝典(NPO法人ほっとぷらす代表理事)

・若者の自立・家族形成の保障は住宅政策から
川田 菜穂子(大分大学 教育福祉科学部准教授)

・ホームレス化しない「絆原理主義の国」の若者たち
稲葉 剛(NPO法人 自立生活サポートセンターもやい理事)

ご希望の方には無料で必要数をお送りいたします。(ゆうメール着払い分の送料のみ、ご負担をお願い致します)ご希望、お問い合わせは基金代表メール info@bigissue.or.jpか、FAX(06-6457-1358)までご連絡ください。(担当:高野)

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『若者の住宅問題』発表記者会見のお知らせ

◆日時・場所・概要

■タイトル:『若者の住宅問題 ―住宅政策提案書 調査編―』 発表記者会見
■概要 :住宅政策提案・検討委員からの調査報告
平山洋介委員長 (神戸大学 大学院人間発達環境学研究科教授) 、
稲葉剛委員 (NPO法人もやい理事)

■日時:2014年12月17日(水)13:45~14:45 (13:40開場)
■場所:日本弁護士会館502-A 会議室

住所:東京都千代田区霞が関1丁目1番3号 弁護士会館5階

主催:住宅政策提案・検討委員会  認定NPO法人ビッグイシュー基金(http://www.bigissue.or.jp)

各党の住宅政策を比較してみました

提言・オピニオン

12月14日(日)に衆議院総選挙が行われます。
私が世話人を務める住まいの貧困に取り組むネットワークでは、各党のウェブサイトに掲載されている公約から、住宅政策に関する記述を抜き出して比較してみました。

こうして比べて見ると、党によって力点の置き方がかなり違うことがわかります。

どの党が「住まいの貧困」に正面から向き合っているのか。
ぜひご参考にしていただければと思います。

【自民党】
政策BANK
https://special.jimin.jp/political_promise/bank/index.html

<躍動感ある経済の実現を>
大幅に拡充した住宅ローン減税と減税の効果が限定的な所得層に対するすまい給付金の給付措置を引き続き講じます。
住宅金融支援機構の金利引下げや住宅に関するエコポイント制度の創設等により、良質な住宅取得や住宅投資の活性化を図ります。
不動産市場を支える制度面の整備により、不動産市場の活性化や投資の喚起を促し、経済再生との好循環を図ります。
空家の除去や再生支援等空家対策を推進するとともに、住宅評価の客観化、取引情報の透明化、リフォーム産業の活性化等を通じ、中古住宅市場の活性化を図ります。

【公明党】
衆院選重点政策

https://www.komei.or.jp/campaign/shuin2014/manifesto/manifesto2014.pdf

2 家計支援―賃金上昇と消費拡大の好循環
① 低所得世帯等への家計支援
「経済の好循環」の実現に向けた「緊急経済対策」を講じます。特に、GDPの6割を占める個人消費の回復がカギを握っていることから、簡素な給付措置の対象拡大などにより中低所得世帯への支援を行うとともに、個人消費を喚起するため、住宅ローン金利の引き下げや住宅エコポイントの復活による住宅取得支援、自動車に係るグリーン税制等の見直しによる環境性能の優れた自動車への買い替えを促進します。

7 魅力ある地域づくり
⑥空き家対策の着実な推進
2014年11月19日に成立した「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、使用できる空き家は地域の活性化のために利活用するとともに、周囲に迷惑をかけているような空き家は除却を促すなど、空き家対策を着実に進めます。

2 充実の医療・介護体制の確立
① 地域包括ケアシステムの構築
誰もが住み慣れた地域で老後を安心して暮らせるために、医療、介護、住まい、生活支援サービス等を高齢者が地域の中で一体的に受けられる「地域包括ケアシステム」の構築を加速します。(中略)さらに、低所得者の高齢者のための住まい確保とともに、24時間365日いつでも利用可能な在宅支援サービスを強化します。(後略)

【民主党】
政権公約 マニフェスト
http://www.dpj.or.jp/global/downloads/manifesto20141202.pdf

住宅・交通・物流
●「まちづくり基本法」の制定、中古住宅のリフォームの推進や流通の活性化などを進めます。

生活困窮者などの自立支援
●経済的に困窮している人や社会的に孤立している人に対し、求職者支援制度の活用、ハローワークや自治体のさまざまな相談機能の縦割りの解消、NPO等との連携により、社会復帰、早期就労や住居確保など自立支援を充実させます。

【維新の党】
マニフェスト
https://ishinnotoh.jp/election/shugiin/201412/pdf/manifest.pdf

●エコ住宅減税を拡充。住宅の環境性能とエネルギー効率を高め、住宅購入の負担を軽減する。

【次世代の党】
政策宣言マニフェスト
http://www.jisedai.jp/download/pdf/jisedai_manifest.pdf

4.世代間格差を是正する社会保障制度の抜本改革、徹底的な少子化対策
⑦近居や二世帯・三世帯の住宅の建設に対する支援制度

【共産党】
2014年 総選挙各分野政策

http://www.jcp.or.jp/web_policy/2014/11/-201411-25-1990.html

19、住宅・マンション

居住の権利を明確にし、その保障を基本とする住宅政策に転換します

良好な居住環境の住まいを確保し、安心して住み続けたい、これは多くの人々の共通の願いです。そしてこの願いは、個人の努力まかせではなく、権利として保障することが国際的な流れとなっています。

日本国憲法ではその第25条で「すべて国民は、健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する。」と宣言し、社会福祉、社会保障増進の努力義務を国に課しています。また「個人の尊重、生命、自由、幸福追求の権利」を規定しています。

1990代後半に仕事と住まいを同時に失い路頭に迷う、家賃滞納を理由に暴力的に退去を強要する「追い出し屋」の横行、住宅ローン滞納で多額の債務を抱えたまま住み慣れた持家を失う事態が顕在化しました。また家族構成の変化、高齢化の進展などによる地域コミュニティの喪失、「孤立死」の多発が社会問題になっています。

また2013年には、2~3畳に間仕切りした「部屋」で、プライバシーが確保できず、避難経路や防火設備が不十分、窓がない、空調の不備など劣悪な住居である「脱法ハウス」がクローズアップされました。国交省が規制措置をおこなったものの、いまだに悪質な業者による脱法行為がはびこっています。その背景には月10万円前後の収入での生活を強いられているワーキングプアの増加があります。

また東日本大震災では、多くの人々が津波、地震で住まいが損壊し、いまなお9万7千人余が劣悪な仮設住宅等に居住を余儀なくされています。生活再建支援法による支援金の額が過小であるため、恒久住宅建設が困難になっています。

これらは、住まいについて人間らしく生きる権利が著しく損なわれていることを示しています。いまや住まいを権利として位置づけることを本格的に検討すべき時期に来ています。

歴代政権の住宅政策

我が国の住宅政策は、公営・公団(現在のUR住宅)・公社住宅など公的住宅供給と持ち家支援策である住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)による金融支援による持ち家供給という2本柱で進められてきました。しかしその中でも明確に持ち家支援策が優先的に行われてきました。

その結果、持ち家戸数は全住宅の61%を占め、次いで多いのは民間賃貸住宅で27%、公的な住宅はわずか6%にすぎません。(2008年「住宅・土地統計調査結果」)

住宅供給をもっぱら民間市場に任せ、公的支援を縮小していく施策が一貫しておこなわれてきました。2006年6月の住宅宅地審議会答申では、新たに「市場重視」という概念が登場し、「国民生活の基盤である『居住』についても、競争を通じた適正な価格の下で多様な選択が可能になるようにしていくことが必要」とし、「公の役割は、『市場の環境整備』『市場の誘導』『市場の補完』に限定」するとされました。

このような流れを受けて、2006年6月に「住生活基本法」が、07年に「住宅セーフティネット法」が制定され、低額所得者、被災者、高齢者など住宅の確保に特に配慮を要する者の「居住の安定の確保」を謳ったものの 、「居住の権利」は明記されず、結果として公的保障を限られた貧困層に絞り込む内容となっています。また、公的住宅も含め、住宅の計画的な建設を明記した「住宅建設計画法」も廃止されました。

前・民主党政権もこの路線を継承しつつ、住宅部門における「構造改革」を一層鮮明にし、UR(都市機構)住宅の削減・民営化を推し進め、“地方主権”に名のもとに、公営住宅の削減と入居階層の貧困層の限定化をすすめていきました。また、住宅金融公庫も、住宅ローンを証券化(住宅ローンを証券化して資本市場で売買)する機関へと姿を変えられました。その結果、銀行の住宅ローン供給が急増し、大規模な市場が確保されています。住宅金融市場を、銀行などの金融機関に明け渡したものです。さらに、建物の安全検査の民間まかせと安上がり競争を奨励した建築行政によって、耐震強度偽装事件や欠陥エレベーターの死亡事故が起きるなど、住宅の安心・安全も脅かされています。低層住宅地域に高層、超高層マンションが入り込み、風害や日照被害など住環境や景観の破壊も深刻です。

日本共産党は、この住宅政策を転換し、国民の居住の権利を明確にし、その保障を基本とするよう「住生活基本法」(「住宅基本法」)を抜本的に改正します。その内容としては、(1) 国民の住まいに対する権利の規定と国自治体の責務の明確化、(2) 公共住宅の質量ともの改善の明確化、(3) 耐震性や居住スペースなど、めざすべき居住・住環境の水準の法定化、(4) 適切な居住費負担の設定と家賃補助制度の創設、(5) 国民の居住権を守るための住宅関連業者・金融機関などの責務を明確化し、市場任せでなく国・自治体が積極的に介入するなどです。そして、以下のようなとりくみを地域からすすめ、国民の居住生活の改善・向上をめざします。

住まい喪失者緊急対策……政府は失業に伴う住まい喪失者対策として「住宅手当緊急特別支援事業」を創設し、住宅支援給付を行っていますが、対象者に対してその利用状況はわずかにとどまっています。要件と手続きの緩和、手当支給期間の延長、さらに失業していないものの、収入が低いなどのため、劣悪な居住環境におかれているものに対しても支給するなどの改善を図ります。

雇用促進住宅の全廃方針を撤回し、居住権を保障します……定期契約者も含めて入居者の声を十分に聞き、納得のいく話し合いをおこない、一方的な住宅廃止や入居者退去の強行をやめさせます。低賃金や不安定雇用などで住居を確保できない人たちの住宅対策の一環として、雇用促進住宅の新たな活用をすすめます。

公営住宅の改善……公営住宅は、法制度の改悪で、ごく限られた低所得者しか入居できないため、居住者の高齢化などにより自治会活動など、住民の共同活動も困難を抱えています。しかも、東京都をはじめ大都市は、新規建設をおこなわないため応募倍率が89.3倍(東京都営住宅世帯向け一般募集住宅の抽選倍率 2013年11月)になるなど、現在の計画では、住宅に困っている人の需要を充足することはできません。

公営住宅の新規建設をすすめるとともに、UR住宅の空き家や、民間賃貸住宅を借り上げて公営住宅にするなど、多様な供給方式の活用で公営住宅を大幅に増やします。公営住宅については、現行の月収15万8千円の入居収入基準の引き上げで、若い子育て世代も入居できるようにします。子供への居住継承は復活します。また「孤立死」を防ぐため単身高齢者見守りなどをおこなう自治会に対する支援制度を強化・充実します。家賃も収入にあったものにし、収入が増えると不当に高い家賃を課して居住者を「追い出す」ことをやめさせます。期限付き入居制度である定期借家(期限がくれば理由のいかんを問わず契約更新をおこなわない)、入居時の資産調査などをやめさせます。

公団住宅(UR住宅)の改善……大都市部の住宅不足を補うため中堅所得者を対象として誕生した公団住宅(UR住宅)・公社住宅は、今では新規建設から全面撤退しました。そのうえ10年間で8万戸削減する「削減・民間売却」方針を実施し、耐震強度不足を理由にした取り壊しを進めようとしています。また「家賃改定ルール」により、3年ごとに家賃が値上げされるなど、家賃負担が重くなっています。建て替え後の家賃が2~3倍にもなり、住み慣れた団地を去らなければならない居住者が増えています。また、「団地再生」の名による敷地の民間売却がすすみ、隣地への高層マンション建設など、地域社会が大きく変わる事態も進行しています。

UR住宅の居住者の高齢化と世帯収入の低下がすすんでいます。全国公団住宅自治会協議会がことし9月行ったアンケート結果によると60歳以上の世帯主は73.8%、7割が世帯収入367万円未満となっています。それだけに、現在の家賃負担が重いと答えた世帯が72.6%に上っています。

UR賃貸住宅の「民営化」を許さず、公共住宅として守り、充実させます。「削減・民間売却」方針は、白紙撤回させます。また、住み続けられる家賃にするため、家賃は近傍同種家賃制度を改め、負担能力を考慮したものにします。高齢者や低所得者、子育て世帯への家賃減額制度をつくるなど家賃制度を改善します。老朽化した団地についても、一律建て替えでなく、改修やリフォームなど多様な住宅改善をすすめ、だれもが戻って住み続けられるようにします。劣化した台所、風呂場、トイレなどの設備の改善、畳・ふすまの入れ替えを、UR負担で行わせます。阪神淡路大震災でも東日本大震災でもUR住宅で倒壊するなど甚大な被害は出ていません。UR住宅の空き家が被災地から避難した世帯の「みなし仮設住宅」になりました。こうしたことからもUR住宅を存続、改善していくことは重要です。

民間賃貸住宅の改善……民間賃貸住宅市場は全体の住宅の約27%を占めていますがその改善が求められています。居住環境が良好で広い住宅は高家賃であり、また低家賃の住宅は狭いうえ設備も劣悪であるなど多くの問題を抱えています。

政府は良好な民間賃貸住宅を供給する家主やデベロッパーにたいし、建設費の補助をおこなうなどの施策をおこなっていますが、住宅スペースも小規模で高家賃になるなど効果も上がっていません。ヨーロッパ諸国での施策を参考にしながら、民間賃貸住宅に居住する低所得者への家賃補助制度を創設します。この家賃補助制度によって、年収200万円以下の約340万世帯への居住費負担を軽減します。

民間賃貸住宅に暮らす高齢者や子育て世帯、「生活困窮フリーター」と呼ばれる、低賃金のために家賃が払えない若者などにたいする自治体の家賃補助、敷金・礼金など住宅確保のための初期費用貸付や相談業務など、「チャレンジネット」のとりくみを広げると共に、公的な居住保証制度を確立して、追出被害の撲滅を図ります。

定期借家制度の導入に反対します……借家人の追い出しを容易にする借地借家法の改悪や定期借家制度の導入・拡大が推進されています。こうした居住の安定確保を脅かす改悪にきっぱり反対します。

住宅の改善、住環境の保護……住宅の耐震化や老朽化対策、バリアフリー化など、安全で快適な住宅をめざすリフォームを自治体として支援します。耐震偽装事件に象徴される欠陥住宅問題の被害をなくすために、建築確認・検査制度を民間まかせにせず国や自治体の責任を明確にし、行き過ぎた厳格運用などを改善するとともに、消費者保護、被害者救済などの制度改善をすすめます。「瑕疵担保責任保険」については、中小建設事業者の保険料負担を軽減します。居住者に重い負担となっている、固定資産税の軽減をはかります。

42年ぶりに土地区画整理事業の計画決定段階での提訴を認める判例変更が行われました。都市再開発や土地区画整理事業などまちづくりへの住民参加をすすめ、「住民が主人公」のまちづくりを支援し、住環境や景観、コミュニティを守り、改善します。それを目的・基本理念として、住民主体の計画づくりや許認可制度を軸にした「都市計画法」の改正や「建築基本法」の制定をめざします。

空き家対策

総務省の調査では、2013年10月時点での空き家は全国で820万戸。総住宅戸数の13.5%を占めています。空き家の増加によって、防災、衛生、景観など地域住民の生活環境に影響を及ぼしています。11月19日の臨時国会で「空き家対策特別措置法」が成立しました。空き家取り壊しによる固定資産税の軽減措置を行うなど老朽危険空き家をなくすための施策をすすめます。またシェアハウスへの活用など空き家活用を行う地方自治体への支援をすすめます。

分譲マンションの維持・管理への支援……分譲マンションは国民の1割、1400万人の人々が暮らす場であり、都市における新しいコミュニティの場でもあります。マンションの維持・管理に対する公的な支援を充実し、安全、快適で、長持ちするマンションをめざすとりくみを支援することが求められています。

国や自治体の責任で耐震診断・改修への助成を強めるとともに、共用部分のバリアフリー化、省エネ化、アスベストの除去などを支援します。自治体の実態調査や相談窓口の整備などをすすめ、マンション管理の主体である管理組合のとりくみへの行政の支援を充実します。大規模修繕など、マンションを長持ちさせるとりくみを支援します。電気、ガス、水道など、ほんらい公共がおこなう基本的サービスの居住者負担を軽減するために、行政や、電力・ガス会社などに応分の負担を求めます。すでにいくつもの自治体が実施していますが、集会室、ゴミ置き場、遊び場などは、その公共性にふさわしく固定資産税を減免します。集合住宅の共用部分の固定資産税を減免させます。マンション購入時の消費者保護をすすめます。

マンションの老朽化と、居住者の高齢化が問題になっていますが、管理組合の理事会をなくし、マンション管理を管理会社まかせにする「新マンション管理方式」をファミリータイプのマンションにまで広げることに反対します。住民の立場で活動するマンション管理士の育成・活用や、管理組合団体などの自主的な助け合いのとりくみへの支援、行政の相談体制の整備など支援体制を充実します。

http://www.jcp.or.jp/web_policy/2014/11/post-664.html

24、高齢者

高齢者が安心してくらせる社会をつくります

高齢者向け住宅の増設……高 齢者で、現在、居住している住宅で困っている人は4割を超えます。特養ホーム待機者は50万人を超えており、ケアハウス、グループホームなどの入居希望者 も増えています。政府は、「高齢者住まい法」を改定し、「サービス付き高齢者向け住宅」の建設を推進していますが、その利用者は、家賃・食費・サービス 費・介護保険の自己負担分をあわせて月15~20万円程度を負担できる人に限られます。低所得・低年金の人も含め、高齢者に住まいを確保する取り組みが必 要です。

低所得で体調に不安があり、様々な理由から同居家族がいない高齢者を低廉な費用で住まわせる「軽費老人ホーム」の増設、低所得者や 高齢者が住み慣れた町で暮らせるよう、国と自治体の責任で住宅整備や家賃補助を行う「地域優良賃貸住宅」の活用など、住宅福祉を抜本的に拡充します。

介護保険の住宅改修の改善をはかるとともに、自治体による住宅改造助成制度の新設・拡充をすすめます。サービス付き高齢者住宅については、自己負担への補 助制度や入居者のくらしと権利をまもる仕組みづくりをすすめます。

公営住宅やUR(都市再生機構)の賃貸住宅の建設をふやし、高齢者むけ家賃減免制度の拡充をはかります。民間賃貸住宅に暮らす高齢者にたいする自治体の家賃補助制度の普及をすすめます。

【生活の党】
政策パンフレット
http://www.seikatsu1.jp/wp-content/uploads/91c15980a0296c61d938cca8955c83d0.pdf

① 家計収入の増大こそ最優先課題
住宅ローン減税とともに、住宅取得にかかる税制上の優遇措置、給付措置などにより負担を軽減します。

【社民党】
衆議院選挙公約2014
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/2014/commitment.htm

(4)地域の安心・安全の確保
○すべての人に安定した住まいを保障するよう、「住宅基本法」を制定します。公営住宅の供給拡大や空き家等の活用、家賃補助等による「住宅支援制度」を創設します。

【新党改革】
『2014約束』
http://shintokaikaku.jp/web/manifesto.html

記載なし

【関連記事】稲葉剛「進行する住まいの不安定化~イラストで見る住宅問題」(上)

【関連記事】稲葉剛「進行する住まいの不安定化~イラストで見る住宅問題」(下)

 

貧困対策を最優先課題にしてください!

提言・オピニオン

12月2日、衆議院議員選挙が公示されました。
これにあわせて、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいでは、「緊急声明:貧困対策を最優先課題にしてください」をリリースしました。
衆院選での各政党・候補者に貧困対策への関心とコミットを訴えていきたいと思います。ぜひご注目ください。

以下が声明文です。

【緊急声明】貧困対策を最優先課題にしてください
認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長 大西連

~衆院選をむかえるすべての政党及び候補者のみなさまへ~

私たちは、日本国内の貧困問題に取り組む団体として、生活に困窮された方が生活保護などの社会保障制度を利用するにあたっての相談・支援や、安定した「住まい」がない状態にある方がアパートを借りる際の連帯保証人の提供、サロンなどの「居場所作り」といった活動をおこなっています。

2001年の団体設立からこれまでに、のべ約2,300世帯のホームレス状態の方の連帯保証人を引き受け、また、生活にお困りの方から寄せられる面談・電話・メール等での相談は、年間3,000件近くにのぼります。

私たちは相談の現場において日夜、貧困の現状に直面し、まさに今、社会全体の底が抜けて、少しずつですが確実に、一人ひとりの「いのち」を守る前提や土台が崩れつつあるのを感じています。

実際に、厚労省国民生活基礎調査によれば、日本の相対的貧困率は16.1%、子どもの貧困率が16.3%(いずれも2012年)と、近年、増加傾向にあります。

また、2013年8月より段階的に生活扶助基準の引き下げが始まり、生活保護世帯の家計の平均6%がカットされました。しかも、子どものいる世帯ほど結果的に多く削減される計算方法がとられており、同年に成立した「子どもの貧困対策基本法」の理念と矛盾した施策となっています。

そして、2014年4月よりは、消費税が8%となり、低所得者、生活保護世帯の暮らしを圧迫しています。また、物価の上昇や円安の影響により、食料品や灯油代等の値上げも、喫緊の課題として家計を直撃しています。

政府は、2012年に成立した社会保障制度改革推進法に基づき、税と社会保障の一体改革を進め、消費増税をしてもその分、社会保障に充てていく、ということを内外に表明してきました。しかし、実際に、低所得者、生活保護世帯等には、どの程度の手当てがなされたのでしょうか。
彼ら・彼女らの生活の実態を見ていると、きちんと再分配がなされているとは言えない状況です。

私たちは、持続可能な社会保障制度を求めています。そして、そういった議論が国会でおこなわれることを強く望んでいます。しかし同時に、私たちは今この瞬間、食べるものもなく、寒さに震え、孤立し、誰にもSOSを発することができずに苦しんでいる方がいらっしゃることを知っています。

彼ら・彼女らをどう支えたらいいのか。どのような施策が必要なのか。私たちは「貧困問題」に取り組む団体として、そして、「貧困」に晒されている一人ひとりの方の声を受けとめている立場として、より具体的な貧困対策についてのビジョンやアウトラインを策定していく必要性を強く感じています。
貧困対策は今やこの国の持続可能性を考える上での最優先課題の一つでもあるのです。

12月14日に衆院選をむかえるすべての政党及び候補者のみなさまへ。

貧困を社会的に解決したい。私たちの想いは、ただその一点のみです。そして、その困難な道を拓くためには、政治の力がどうしても不可欠です。私たちは、真摯に貧困の現状と実態を見つめ、困難な状態に陥っているすべての人の声を受けとめて社会に還元し、必要な制度や施策の実現につなげていく政治家を求めています。

私たち、<もやい>としては、以下の施策の提案をおこないます。

【最低限度の生活を守るために~短期的に必要な手当て~】

◆低所得者向けの簡素な金銭給付
 今回の消費増税や物価上昇への手当てとして単発でなく継続して給付措置
◆生活扶助基準引き下げの中止と引き上げの検討
 生活保護世帯への手当てとして削減の中止と物価上昇をうけての基準引き上げ
◆消費増税延期にともなう代替財源の確保
 医療・年金・介護・子育て等の各施策の社会保障税源の確保
◆安心・安全に働ける場の確保
 最低賃金の底上げや社会保険の拡充、労働基準法の順守徹底や労働環境・待遇の改善
◆低所得者向けの住宅政策の拡充
 求職者向けでなく低所得者向けの住宅手当等の住宅政策の創設・拡充

【社会保障のビジョンの転換~貧困対策に必要な中長期的な視点~】

◆個人単位の社会保障へ
 特定の家族のあり方や世帯の状況へのサポートから個人単位での社会保障へ
◆必要な人に必要な給付を
 子ども・障がいや疾病・高齢など状況に応じた現金給付型の社会保障の創設・拡充
◆社会保障の財源についてのより広範な議論を
 消費税以外の税源による社会保障財源の確保についての具体的な議論
◆「貧困」を知るために
 貧困の実態の調査や貧困の背景にあるリスク要因の調査

以上

*関連記事:生活弱者の切り捨てに懸念(2013年10月2日)

 

東京都墨田区で野宿者襲撃が10分に1に減少

提言・オピニオン

東京都墨田区で、当事者と支援団体の要望に応える形で「ホームレス問題の授業」が教育委員会主導で始まったことは、以前にもお知らせしましたが、山谷労働者福祉会館活動委員会によると、今年に入って、区内での襲撃件数が10分の1まで減少しているとのことです。

活動委員会が野宿の当事者向けに配布しているチラシの文面を転載する許可をもらったので、以下に貼り付けます。

関連記事:「ホームレス問題」の授業が墨田区教育委員会の主導で始まりました

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この夏、墨田区で野宿者襲撃を10分の1に減らせることができた!

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野宿している仲間に対する暴力は最も卑劣な行為だ。石を投げる、ペットボトルを投げる、ダンボールを蹴るといった暴力を多くの仲間が受けている。

繰り返される襲撃に「襲撃を止めなくては」と立ち上がった仲間と共に取り組みを続けてきた。見張りをやったり、襲撃者を追いかけたり、写真をとったり。その中で2年続けて襲撃の加害者が明らかになり、2件とも墨田区立中学の生徒だった。どちらもグループで何度も襲撃を繰り返していた。

墨田区と団体交渉を何度も持った。はじめは他人事のようだった人権課、教育委員会。なぜ野宿者に暴力をふるうのか。「おもしろ半分」 いやちがう。その子らは一般の大人を襲うことはしていない。野宿者だから襲ったのだ。そこにはっきりとした差別意識がある。そこを直視しなければ襲撃は決して止められない。

差別意識の原因を掘り起こすと野宿する人のことを生徒も親も教師も知らないということが浮かび上がってきた。

どんな仕事をしてきたのか。どうして野宿になったのか。今どうやって生き抜いているのか。何も知らずに「怠けもの。いてはいけない人」などと思い込んでいることがわかった。役所の追い出しやアルミ缶仕事に対する条例を作ったことも偏見の原因を作っていることも。

墨田区教育委員会がようやく本腰をいれ取り組みをはじめた。この夏休み前に区内の全ての小中学校で「野宿者を知る」授業が行われた。ある小学校には区内で野宿する仲間が授業に行って自分の暮らしについて話した。10代からペンキ屋として働きその後日雇い労働者の土方になった。ドロドロになりながら基礎工事の穴掘りの仕事をやってきた。50代でバブルの崩壊、年齢制限で仕事に就けなくなりドヤに泊まれなくなった。今もアルミ缶を拾いながら小屋で暮らしている。

子供たちの感想は「大変な暮らしをしているのを知らなかった」「絶対石を投げてはいけないと思った。」

この夏墨田区内の襲撃は激減した。(わかっているだけで区内の夏の襲撃件数は2012年28件、2013年20件、2014年3件)「野宿者襲撃は問題にもならない。」そんな現状に対し立ち上がった仲間たちのねばり強いとりくみの成果だと確認したい。

墨田区が引き続き本気で取り組んでいくこと、墨田区だけでは問題は解決しないので台東区をはじめ他の区や東京都もきちんととりくみを始めることが必要だ。

襲撃を根絶するまでがんばっていこう。

山谷労働者福祉会館活動委員会
山谷争議団/反失実

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墨田区では大きな成果をあげることができましたが、野宿者への襲撃が発生しているのは墨田区だけでなく、他区にも広がっています。
これは本来、東京都が対応すべき問題であり、現在、都内の複数の支援団体で、東京都に対しても具体的な襲撃防止策の実施を求めて要望をしているところです。
ところが、都の対応は8月に舛添都知事が「対策を徹底する」と記者会見で公言したにもかかわらず、担当者レベルでは具体的な動きが未だに出てきていません。

関連記事:舛添都知事が野宿者襲撃への対策を徹底すると表明!実効性ある対策を求めます。

引き続き、東京都に対しても粘り強く働きかけをしていくので、こちらもご注目をお願いします。

 

住宅政策という「パンドラの箱」を開けよう!

提言・オピニオン

昨年8月から始まった生活保護の生活扶助基準の段階的引き下げにより、生活保護利用者の暮らしはますます厳しくなっています。

厚生労働省はそれに追い討ちをかけるように、住宅扶助基準(賃貸住宅の家賃分に相当)の引き下げも狙っています。社会保障審議会の生活保護基準部会では、今年に入り住宅扶助に関する議論が急ピッチで進んでおり、今年11月に報告書をとりまとめる方針だと言われています。

これに対して、生活保護問題対策全国会議と住まいの貧困に取り組むネットワークが中心となり、7月9日に「生活保護の住宅扶助基準引き下げの動きに反対する共同声明」を発表し、記者会見をおこないました。

9月15日(月)には、この問題に関する緊急集会も開催されます。

9月15日(祝) “低きに合わせる”のが、この国の生存権保障なのか?~次に狙われる住宅扶助基準と冬季加算の削減

厚生労働省は今年の7月、「生活保護受給世帯の居住実態に関する調査」を実施しました。これは各地の福祉事務所ケースワーカーが生活保護世帯を家庭訪問した際に、住居の状況(家賃、面積、設備など)を調査するというもので、「近隣同種の住宅等の家賃額と比較して、明らかに高額な家賃が設定されている」という疑いがあるかどうかについても調べているようです。

この調査結果はまだ公表されていませんが、厚労省が「生活保護世帯は一般の低所得者世帯よりも高額な家賃の住居に居住している」という調査結果を導き出し、「だから、住宅扶助基準は下げるべき」という方向に議論を誘導しようとしているのは火を見るより明らかです。

しかし、ここで考えなければいけないのは、「なぜ生活保護世帯が割高の家賃のところに住まなければいけないのか」という問題です。生活保護の利用当事者にとって、住宅扶助費は受け取った額をそのまま大家に払うので、その金額が高くても本人には何のメリットもありません。

私はNPOもやいで多くの生活保護利用者のアパート入居の支援(連帯保証人や緊急連絡先の提供)を行なってきましたが、何人もの方から「不動産屋を何軒もまわっても、自分の年齢を言うと貸してくれない」という話を聞いてきました。

本来、住宅に困窮している人たちのためにある制度が公営住宅です。しかし近年、各地の自治体は財政難を口実に公的住宅の数を抑制・削減してきました。東京でも1999年以降、都営住宅が増えていません。

そうした中、ほとんどの生活保護利用者は民間のアパートを借りざるをえません。ところが、日本の民間賃貸住宅市場では、高齢者、障がい者、失業者、ひとり親家庭などに対する入居差別が蔓延しており、こうした人々が多い生活保護利用者はなかなか部屋を借りることができません。

そのため、住宅扶助基準の上限額を払って、ようやく貸してくれるところを確保するという状況が広がっているのです。地域によっては、上限額を払っても貸してくれるところがないため、「管理費」や「共益費」の名目で数千円を上乗せして、部屋を借りている人もたくさんいます。

厚生労働省が、生活保護利用者が暮らす部屋の家賃が「割高」であることを問題にしたいのなら、こうした実態こそ改善すべきなのです。

今回の住宅扶助基準をめぐる議論は、住宅政策を管轄する国土交通省とは全く無関係に進められようとしています。

国土交通省が今年7月に発表した「貸しルーム入居者の実態調査」はインターネットを使って、各地のシェアハウスに暮らす人びとの生活や就労の実態を調べたものですが、その中で興味深いのは、「狭小・窓無し物件」に暮らす人のデータをピックアップして公表していることです。

「狭小・窓無し物件」というのは、「部屋が7㎡未満」か、「窓のない」のいずれか、両方を満たす物件ということなので、事実上、「脱法ハウス」と言えます。

この「狭小・窓無し物件」に暮らす人の半数は15万円未満で、やはり低所得者が多いのがわかります。

狭小・窓無し収入

しかも、驚くべきは入居時に生活保護を受けていたという方が11%もいることです。生活保護を利用しているにもかかわらず、「脱法ハウス」に暮らしていると考えられます。

狭小・窓無し物件

厚生労働省は、国土交通省が発表したこの調査結果をどう考えるのでしょうか。

こうした実態に目を向けず、住宅扶助の金額だけを下げてしまえば、生活保護利用者はさらに劣悪な住まいへと追いやられてしまうでしょう。

生活保護の住宅扶助に関する議論を真面目にしたいのであれば、厚生労働省と国土交通省という省庁の縦割りによって議論が封印されてきた「日本の住宅政策のあり方」という「パンドラの箱」を開けるべきだと私は考えます。

貧困ジャーナリズム大賞2014発表!生活保護問題に挑む書き手たち

提言・オピニオン 書評・関連書籍

9月4日、反貧困ネットワーク(代表世話人・宇都宮健児弁護士)は、「貧困ジャーナリズム大賞2014」の受賞作品13点を発表しました。

「貧困ジャーナリズム大賞2014」受賞者一覧

7回目となる今年の大賞は、ダイヤモンド・オンラインの長期連載「生活保護のリアル」などインターネットを中心に生活保護問題を発信しているフリージャーナリストのみわよしこさんと、下野新聞で半年にわたる連載「希望って何ですか 貧困の中の子ども」を報じた「子どもの希望」取材班に贈られました。

また、『陽のあたる家~生活保護に支えられて』を描いた漫画家のさいきまこさんとNHK(Eテレ)の「ハートネットTV」取材班に貧困ジャーナリズム特別賞が贈られました。

『陽のあたる家』は、普通に暮らしていた一家が父親の病気をきっかけに生活に困窮し、生活保護を利用しようとしたらどう扱われるのかをテーマにした作品で、生活保護制度の基礎知識や生活保護バッシングの問題点などをわかりやすく描いています。

 

『陽のあたる家』から。

『陽のあたる家』から。

作者のさいきさんは、NPO法人もやいの生活相談活動にもボランティアとして参加され、その経験が作品の中でも生かされています(「水際作戦の撃退法」も!)。

まだの方はぜひご一読ください。

貧困ジャーナリズム賞(9点)でも、生活保護基準引き下げや法「改正」の問題点を鋭く突いた東京新聞の上坂修子さんの一連の報道やTBS「報道特集」の生活保護報道が選ばれました。

また、連載が始まってまもないので、今回はノミネートされませんでしたが、「週刊ビッグコミックスピリッツ」では、柏木ハルコさんの話題作『健康で文化的な最低限度の生活』が現在連載されており、9月3日には単行本の第1巻が刊行されました。

写真 (51)

こちらは、福祉事務所の新人ケースワーカーが直面する生活保護行政の実態が非常にリアルに描かれています。

柏木ハルコさんはこの連載を始めるにあたり、各地の福祉事務所や民間の相談機関に徹底した取材をされています。NPO法人もやいにも取材に来られ、私も何度もお話をしました。

「スピリッツ」で連載中のお話がどのように展開していくのか、とても楽しみです。

近年、生活保護制度や利用者への誤解や偏見に基づく報道が各マスメディアで垂れ流される中、少数ながらも、生活保護をめぐる「本当の問題は何か」という点に着目して、発信するジャーナリストや著述家、漫画家の方がいらっしゃるということは、私にとっても大きな希望になっています。

*関連記事:相対的貧困率が16.1%、子どもの貧困率が16.3%に上昇

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