提言・オピニオン

日本社会で貧困が「再発見」されてから10年。貧困対策は進んだのか?

提言・オピニオン

参議院選挙の投票日(7月10日)まで一ヶ月を切りました。

この選挙の争点の一つが、子ども、若者、高齢者など、世代を越えて拡大する国内の貧困問題への対応であることは言うまでもありません。しかし、今からたった10年前には、国内の貧困が政治的な課題になる、ということは全く想像もできないような状況でした。

1990年初頭のバブル経済崩壊以降、路上生活者など生活に困窮する人の数は増加の一途をたどっていましたが、当時はそのことを国内の貧困問題として認識する人はほとんどいませんでした。

貧困が注目され、可視化されるようになったきっかけは、皮肉にもその存在を否定しようとした当時の大臣の発言です。

2006年6月16日付け「朝日新聞」朝刊に掲載されたインタビューの中で、小泉政権の経済政策を担ってきた竹中平蔵総務大臣(当時)は「社会的に解決しないといけない大問題としての貧困はこの国にはない」と明言したのです。

今から見ると、噴飯ものの発言ですが、ただ、こうした認識は2006年時点では珍しくありませんでした。

国会議事堂

当時、NPO法人もやいには、NHKの『ワーキングプア』取材班など、複数のテレビ局チームが常時、生活困窮者支援の現場の取材に来ていましたが、その取材クルーが苦労していたのは、それぞれの局の上層部に「日本で貧困が広がっている」ということを前面に打ち出した番組を放映することを認めさせることでした。

政治家だけでなく、マスメディアの関係者の間でも2006年の時点では、「国内に深刻な貧困問題は存在しない」という認識が一般的だったからです。

竹中発言に憤りを覚えたもやい事務局長(当時)の湯浅誠は、国内の貧困問題を可視化するための新たな運動を始めることを決意し、「反貧困」をスローガンとした社会運動を展開していくことになります。

そして、それが2008~2009年の「年越し派遣村」につながる動きへと発展し、ようやく貧困が政治の場で議論される状況が生まれていきました。

その意味で、今年の夏は日本社会で貧困が「再発見」されてから、ちょうど10年という節目の年にあたると言えます。

この10年間、国内に貧困問題が存在することは誰の目にも明らかになりました。子どもの貧困対策法や生活困窮者自立支援法といった貧困対策を打ち出した法律も制定されました(特に後者の法律にはさまざま問題がありますが)。

しかし、貧困対策のかなめである生活保護の基準は引き下げられ、アベノミクスは国内の格差と貧困をさらに拡大させています。

この10年の間に、国内の貧困はどのように変化し、貧困対策はどこまで進んだのか。参議院選挙を通して問うていきたいと思います。

関連記事:仕事さえあれば、貧困から抜け出せるのか?~生活困窮者自立支援制度の問題点

 

「家賃下げろデモ」&若者の住宅政策・政党アンケートにご注目を!

提言・オピニオン

6月12日(日)、若者を主体とする CALL for HOUSING DEMOCRACY による「家賃下げろデモ」がおこなわます。
この間、安全保障関連法反対や最低賃金引き上げなど、さまざまなイシューで若者による社会運動が盛んになっていますが、住宅政策に関する若者主体のデモは初めてになります。
ぜひご参加ください。報道関係者の方は取材をお願いします。

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以下は主催団体によるステートメントです。ぜひご一読ください。

call for housing democracy/住宅政策にデモクラシーを

わたしたちは、すべての人が住宅を自分たちの意思に基づいて選択でき、全ての人が文化的な生活を営める住宅政策の実現を求めます。

今日、多くの人びとにとって住まいは安心ではなく不安の元となっています。持家に住む人にとっても、賃貸に住む人にとっても、 住居費負担は増える傾向にあります。とりわけ多くの若者・高齢者は収入のほとんどを住居費に費やしています。 親元を離れて自立できない若者の増加が指摘されますが、その多くは高い住居費を理由とした「望まない選択」です。 ビッグイシューの調査によれば、 20 代/30 代で未婚・年収 200 万円未満の若者は、4 分の 3 が親元にいるとされています。 東北・熊本で相次ぐ震災で家を失った被災者は、将来の住まいについて大きな不安を抱えています。街中でネットカフェ難民が増え脱法ハウスが蔓延する背景にも、良質・低廉な住宅の不足があります。こうした現状に住宅政策によって対応することは喫緊の課題です。

日本では、 長いあいだ「 持家重視」の住宅政策が行われてきました。 これまでの雇用・家族を前提として人生計画を立てローンを組むことを政策的に援助してきたのです。反面、このような政策は「賃貸軽視」でもありました。日本の公営住宅は少なく、国際的に見てもわずかしか供給されていません。近年、 雇用や家族のあり方が変わった結果、 個人や世帯にとって選択肢たりえる賃貸住宅がないことによって、生活の土台が掘り崩されています。

わたしたちは、 現在の住宅政策のオルタナティブとして、 住宅手当の抜本的拡充を求めます。 これによって、入居者にとって住宅の選択の幅が広がるだけでなく、住宅費の負担も軽減されます。 現在、公営住宅の倍率は数十倍にも及びます。公営住宅を抜本的に拡大しないことには、入居できる人とできない人との不公平を解消できません。 このように、賃貸住宅に公的に支援を行うことによって、 持家取得を多くの人びとにとってよりゆとりをもった選択肢とすることができます。すべての人びとが安心できる住宅市場をつくるためには、政策の重点を民間賃貸で暮らす人びとの必要に置き、住宅手当による居住の安定という「ボトムアップ型」の住宅政策からはじめるべきです。

そのためには、住宅問題に取り組むことを公的責務として捉えることが必要とされています。現在、政治の場で「住宅」が重要な争点とされることはほとんどありません。持家重視の政策の背景にある、住宅問題を「 個人の甲斐性」「 自己責任」であるという認識を転換する必要があります。 すべての人びとの必要に見合うかたちで十分な住宅を保障することは公的責務です。

第 2 回国連人間居住会議「 ハビタットⅡ」において、居住の権利は基本的人権として国際的に認められています。 これまでの住宅政策は、経済成長を優先し居住の権利を軽視してきました。 これからの住宅政策は、 憲法 25 条の精神に基づいた権利としての政策へと、その基本理念と方向性を転換する必要があります。 すべての人びとに十分で安定した居住を保障するため、わたしたちは住宅手当の拡充による民主的な住宅政策の実現を求めます。

住宅手当で家賃を下げろ、住宅保障に税金使え、 住宅にデモクラシーを!

 

若者の住宅政策に関する政党アンケートを実施!14日に発表します。

また、私が世話人を務める住まいの貧困に取り組むネットワークでは、参議院選挙に向けて各政党に「低所得の働く若者対象の住宅セーフティネット施策」に関するアンケート調査を実施しています。
若年層の住まいの貧困が広がっていることを受けて、家賃補助や準公営住宅の設置等の必要性について、主要政党の見解を求めています。

このアンケート結果は、6月14日(火)に開催される「住まいは人権デー」集会で発表されます。

6月14日(火) 「住まいは人権デー」の夕べ ―住宅セーフティネットと若者の住宅問題

こちらもぜひご注目ください。

これらの動きを通して、深刻化する住宅問題を参議院選挙の争点にしていきたいと思います。ご協力よろしくお願いします。

関連記事:障害者差別解消法施行!障害者への入居差別はなくせるのか?

 

「住まいは人権」から20年。今こそ、住宅政策の転換を!

提言・オピニオン

今から20年前の1996年6月、トルコのイスタンブールで第2回国連人間居住会議(ハビタットⅡ)が開催されました。ハビタットⅡは、20世紀の後半、世界各国で都市への人口集中が進み、住民の居住環境の悪化が深刻な社会問題となったことを踏まえ、人類が直面する居住問題の解決に向けた取り組みを促進するために開催されました。

会議には、各国の政府代表だけでなく、地方自治体、NGO、研究者、企業などが参加。6月14日に採択されたイスタンブール宣言では、「人間にふさわしい住まいは、命の安全、健康、福祉、教育や本当の豊かさ、人間としての尊厳を守る基礎であり、安心して生きる社会の基礎である」という前提のもと、「適切な居住への権利」は基本的人権であることが宣言され、各国政府は居住権の保障を自国の住宅政策の最重要課題として進めていくことを確認し合いました。

イスタンブール宣言には日本政府も署名しました。日本政府も「住まいは人権」であることを認め、住宅政策を拡充していくことを国際的にも確約したわけです。

それから20年経って、国内の住まいをめぐる状況はどうなったでしょうか。

住まいの貧困の極限形態であるホームレス問題については、2006年以降、生活保護の運用を改善させる運動が広がったことにより、路上生活をせざるをえない人は減りつつあります。
しかし、民間の賃貸住宅市場で高齢者や障害者、外国籍の住民といった人々が住宅を借りにくい状況は改善されておらず、高齢者や障害者の「入居に拒否感がある賃貸人の割合」はむしろ高まっています。

国土交通省資料「入居選別の状況」

また、国内の貧困が若年層にまで広がったことにより、若者の住宅問題も深刻化しています。2000年以降は、ワーキングプアの若者がネットカフェや脱法ハウスといった不安定な居所で暮らさざるをえない状況が大きく広がりました。

2014年に、私も参加したビッグイシュー基金・住宅政策提案・検討委員会による調査では、首都圏と関西圏に暮らす年収200万円未満の未婚の若者のうち、6.6%が広い意味のホームレス状態を経験していることが明らかになりました。親と別居している若者に限定すると、その割合は13.5%にのぼります。

*「若者の住宅問題」調査の詳細は以下の画像をクリックしてください。

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このように、まだまだ日本国内では「住まいは人権」が確立されたとは言えない状況があります。

国内の住宅問題に取り組む諸団体は、イスタンブール宣言が出された6月14日を「住まいは人権デー」と位置づけ、毎年、記念のイベントをおこなってきました。

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今年の「住まいは人権デー」では、「住宅セーフティネットと若者の住宅問題」をテーマにした集会を開催します。

6月14日(火) 「住まいは人権デー」の夕べ ―住宅セーフティネットと若者の住宅問題

また、6月12日(日)には若者を主体とするCALL for HOUSING DEMOCRACY が「家賃下げろデモ」をおこないます。

6月12日(日) CALL for HOUSING DEMOCRACY 家賃下げろデモ at 新宿

これらの一連の行動を通して、今夏の参議院選挙でも住宅政策の転換を争点に押し上げたいと考えています。

ぜひ多くの方のご参加、ご協力をお願いいたします。

関連記事:障害者差別解消法施行!障害者への入居差別はなくせるのか?

 

障害者差別解消法施行!障害者への入居差別はなくせるのか?

提言・オピニオン

今年4月に障害者差別解消法が施行されて、1ヶ月が経ちました。

この法律は、2006年に国連総会で採択された障害者権利条約を日本が批准するために制定された法律の一つで、日本社会から障害を理由とする差別をなくしていくことを目的としています。

法律は差別を解消するための措置として、民間事業者に対しても「差別的取扱いの禁止(法的義務)」と「合理的配慮の提供(努力義務)」を課しており、その具体的な対応として、それぞれの分野の担当大臣は事業者向けの対応指針を示すことになっています。

住宅の分野では昨年12月、国土交通省が宅建建物取引業者を対象とした対応指針を公表しました。指針では「差別的な取扱い」として禁止する行為として、以下のような事例が挙げられています。

・物件一覧表に「障害者不可」と記載する。
・物件広告に「障害者お断り」として入居者募集を行う。
・宅建業者が、障害者に対して、「当社は障害者向け物件は取り扱っていない」として話も聞かずに門前払いする。
・宅建業者が、賃貸物件への入居を希望する障害者に対して、障害があることを理由に、賃貸人や家賃債務保証会社への交渉等、必要な調整を行うことなく仲介を断る。
・宅建業者が、障害者に対して、「火災を起こす恐れがある」等の懸念を理由に、仲介を断る。
・宅建業者が、一人暮らしを希望する障害者に対して、一方的に一人暮らしは無理であると判断して、仲介を断る。
・宅建業者が、車いすで物件の内覧を希望する障害者に対して、車いすでの入室が可能かどうか等、賃貸人との調整を行わずに内覧を断る。
・宅建業者が、障害者に対し、障害を理由とした誓約書の提出を求める。

障害を理由に賃貸住宅への入居を断る行為は、以前から人権侵害だとして行政機関による指導の対象になっていましたが、法律が施行されたことにより、明確に「違法」だと認定できるようになったと言えます。

2010年には東証一部上場企業の大手不動産会社が、入居者と結ぶ賃貸借契約書に「入居者、同居人及び関係者で精神障害者、またはそれに類似する行為が発生し、他の入居者または関係者に対して財産的、精神的迷惑をかけた時」は契約を解除するという条項を設けていたことが判明し、大阪府が改善を指導。この会社が問題の条項を削除し、障害者団体などに謝罪する、という出来事がありました。今後、こうした「明文化された形での入居差別」はなくなっていくと思われます。

国交省が公表した対応指針では、努力義務である「合理的配慮」の事例もあげられています。例えば、「多くの事業者にとって過重な負担とならず積極的に提供を行うべきと考えられる事例」としては、「障害者が物件を探す際に、最寄り駅から物件までの道のりを一緒に歩いて確認したり、一軒ずつ中の様子を手を添えて丁寧に案内する」という行為が例示されています。

法律の施行と国交省の対応指針によって、障害者は賃貸住宅に入居しやすくなるのでしょうか。先ほど、「明文化された形での入居差別」はなくなるだろうと述べましたが、逆に言えば、「明文化されない、明示されない形での入居差別」はなかなかなくならないのではないか、と私は感じています。

大阪府と不動産に関する人権問題連絡会が2009年に、府内の全宅建業者を対象に実施した調査では、22・7%の業者が「障害者については家主から入居を断るように言われた」と回答しています。こうした家主の意識はすぐには変わらないため、明白に法律違反だと見なされるような形での入居差別は減っていくでしょうが、はっきりと理由を言わないで入居を事実上、拒否するケースはむしろ増えるのではないかと懸念しています。

昨年、日本賃貸住宅管理協会が管理会社に対して実施したアンケート調査結果でも、障害者のいる世帯の入居を「拒否している」と答えた賃貸人の割合が2・8%と、五年前の同調査から1・2ポイント減少したのに対して、「拒否感がある」と答えた賃貸人の割合は74・2%と、前回よりも21・3ポイントも増加してしまいました。「拒否している」と明言するのは不適切だという認識は広がっているものの、四人のうち三人が「なるべくなら入れたくない」と思っているのでは、部屋探しのハードルは高いままでしょう。

国土交通省資料「入居選別の状況」

昨年、全国賃貸住宅経営者協会連合会は、宅建業者、管理業者、家主向けに「障害者差別解消法について充分にご理解いただき、障害のある方々への適切なご配慮にお努めください」というタイトルのパンフレットを作成し、配布を始めました。家主の意識は一朝一夕には変わらないでしょうが、地道な啓発活動が求められています。

全国賃貸住宅経営者協会連合会パンフレット(PDF)

ちんたい協会パンフ

※関連記事:今後10年の住宅政策の指針が閣議決定!パブコメは反映されたのか?

生活保護基準引下げは違憲!東京国賠訴訟がスタートします!

提言・オピニオン

安倍政権は2013年8月以降、3回にわたって生活保護基準を引き下げました。
引下げの幅は平均で7.3%、最大で10%にも及び、多くの人々の反対にもかかわらず、制度発足以来、最大の引下げが強行されました。

生活保護の基準が一方的に引き下げられたことにより、利用者の暮らしは大きなダメージを受けました。食事の回数を減らすなど、本来、国が保障すべき「健康で文化的な最低限度の生活」を維持できなくなった人は少なくありません。

また、生活保護基準は他の低所得者対策の適用範囲を決める目安として機能しているため、低所得世帯の子ども向けの支援策である就学援助を受けられなくなる家庭が各地で出るなど、他の制度利用者にも悪影響が及びました。

生活保護基準は日本社会における「支援が必要な貧困状態」のラインを決めるもので、これを一方的に変更してしまうことは、政府が勝手に「貧困の定義」を変えてしまうことと同じだと言えます。

この引下げに対して、全国27都道府県で引下げ処分の取り消しを求める集団訴訟が起こされ、850人以上の生活保護利用者が立ち上がりました。

東京でも2015年6月に31世帯33人の利用者が国家賠償と保護費の減額取り消しを求める訴訟を起こしています。

この「生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟」がいよいよ本格的にスタートし、5月16日(月)に東京地裁の大法廷で第1回口頭弁論が行われます。

160516生保裁判

第1回口頭弁論では、弁護団長の宇都宮健児弁護士による口頭陳述も行なわれる予定です。

「貧困の定義」を勝手に変えた安倍政権にNO!を突きつけるために立ち上がった生活保護利用者を応援するためにも、ぜひ多くの方々の傍聴をお願いします。

口頭弁論の後には報告集会も予定されています。あわせてご参加ください。

以下は、生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟弁護団(はっさく弁護団)からの呼びかけです。

http://blog.goo.ne.jp/seihohassaku

生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟・第1回口頭弁論期日のご案内
2016年5月16日(月)午後2時~
東京地方裁判所103号法廷
(千代田区霞が関1-1-4・地下鉄霞ヶ関駅A1出口すぐ)

手荷物検査がありますので、早目に裁判所にお越しください。

終了後(午後2時50分ころ~)、裁判所近くで報告集会を行い、法廷のやり取りの解説や原告のお話等を予定しています。

報告集会はTKP新橋内幸町ビジネスセンター カンファレンスルーム615で行います。
東京都港区西新橋1-1-15 物産ビル別館6Fです。

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各種団体・ジャーナリスト・市民のみなさま

「生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟」の傍聴をお願いします!

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2016年4月

生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟原告団・弁護団(はっさく原告団・弁護団)

〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-3-1岩波書店アネックス7階
東京駿河台法律事務所内
電話 03-3234-9133
弁護団事務局長  白木 敦士

わたしたちは、生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟弁護団・原告団です。
2013年8月1日以降3回にわたって実施された生活保護基準の引下げは、憲法25条に違反する違憲・違法のものであるとして、国などを相手取り、東京都内の生活保護受給者31世帯33人が、国家賠償と保護費減額の取消しを求めている訴訟の原告団・弁護団です(2015年6月19日提訴。現在は原告32人)。

その第1回口頭弁論期日が、2016年5月16日午後2時から、東京地裁103号法廷で開かれます。当日は、原告が裁判に向けた思いを語る意見陳述等が法廷で行われます。ぜひ、傍聴に来ていただきたいと思います(閉廷後、午後2時50分ころから、TKP新橋内幸町ビジネスセンターカンファレンスルーム615(港区西新橋1-1-15 物産ビル別館6F)で報告集会も予定しております)。

いま、生活保護費の引き下げに反対する全国の受給者たちが、国や自治体を相手取って、引き下げ処分の取り消しを求める集団訴訟を行っています。全国の原告は850人以上で、全国27の地方裁判所で訴訟が展開されています。東京地裁で行われる集団訴訟が、「生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟」です。
この訴訟は、受給者の人権尊重を前面に押し出した憲法訴訟です。

しかも、今回の基準引き下げは、加算部分ではなく、ベースとなる保護基準の「本体」そのものを引き下げるものであって、引き下げ幅も大きく、受給者の生活を直撃するものです。生活保護基準の「本体」の合憲性が正面から争われるという点では朝日訴訟以来であり、憲法訴訟としても大きな意義を有する裁判になります。

裁判を勝ち抜くためには、多くの皆さんの知恵とパワーを結集する必要があります。生活困窮者問題に関心のある方、高齢者・障がい者や母子家庭の問題に関心のある方、社会的弱者の人権擁護に関心のある方、憲法問題に関心のある方など、多くの方々に裁判傍聴に加わっていただき、受給者の生活と権利を守る闘いを共に進めていきましょう。

関連記事:「生活保護利用者の人権は制限してもよい」の先には、どのような社会があるのか?

ネットから無料で入手可能!知っておきたい生活保護のしくみ

提言・オピニオン

桜が咲く季節になりました。

4月から新たに、福祉に関わる仕事に就いたり、社会福祉系の学部や専門学校に進学された方もいらっしゃるかと思います。
この時期、貧困問題に関わるNPO等から、「新人スタッフ研修のため、生活保護の基礎知識について話してほしい」という依頼を受けることが多くなっています。

そこで、生活保護制度に関してネット経由で無料に入手できる情報をまとめてみました。

生活困窮者支援に関心のある方だけでなく、自分自身が生活に困窮しているという方や、「将来、生活に困るかもしれない」と感じている方にも活用していただければと思います。

生活保護制度の基礎や基準を知るには?

まずは初級編です。

生活保護制度の基礎知識について、一番コンパクトにまとまっているのは、日本弁護士連合会が制作したパンフレット(A版8ページ)です。

日弁連:「あなたも使える生活保護」(PDF)

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PDFのダウンロードが難しい方は、ビッグイシューオンラインの記事で概略を見ることができます。

BIG ISSUE ONLINE :「生活保護」は、働いていても、若くても、持ち家があっても、車があっても申請可能です

また、日弁連は生活保護基準の引き下げ問題や子どもの貧困、ワーキングプアの問題等についても、さまざまな資料を作成しています。

以下のリンク先に一覧があるので、ご参考にしてください。

日弁連:人権問題に関する資料一覧

もう少し詳しい資料としては、私が理事を務めるNPO法人自立生活サポートセンター・もやいで制作したパンフレットがあります。こちらはA4版16ページです。

NPO法人もやい:「困った時に使える最後のセーフティネット活用ガイド」(PDF)

もやいのウェブサイトでは、生活保護の申請書や「これで研修・授業・講座ができる!貧困問題レクチャーマニュアル」もダウンロードできるようになっています。あわせて、ご活用ください。

NPO法人もやい:生活支援関連資料

生活保護の基準は、地域や世帯の人数等によって変動します。また、障害加算や母子加算などの加算もあるため、保護基準の計算はなかなか複雑になっています。

この面倒くさい基準の計算を自動でやってくれるのが、山吹書店のサイトでダウンロードできる生活保護費計算シート(Excel)です。

山吹書店:生活保護費(最低生活費)計算シート

この計算シートは無料でダウンロードできますが、寄付によって成り立つドネーションウェアなので、ぜひ寄付にもご協力ください。

生活保護をめぐる様々な論点

次は中級編。

「生活保護をめぐる様々な論点をわかりやすく紹介しているなぁ」と私が感心しているのは、読売新聞の医療サイト「ヨミドクター」で原昌平記者が連載している「貧困と生活保護」のシリーズです。

1990年代から大阪で野宿者の置かれている状況を取材してきた原記者だけに、生活困窮者支援の現場で問題になっていることを的確にまとめてくれています。

2016年3月末時点で第27回まで掲載されています。

ヨミドクター:原記者の「医療・福祉のツボ」:貧困と生活保護

もっと多角的に考えてみたい方にお薦めなのは、みわよしこさんが「ダイヤモンドオンライン」に連載している「生活保護のリアル」。

2012年から生活保護を利用している当事者の声を紹介したり、生活保護基準の引き下げや法改正など近年の政策をめぐる動きを追い続けていて、書籍化もされています。

ダイヤモンドオンライン:生活保護のリアル みわよしこ

この連載は第94回(!)でいったん終わりましたが、現在は続編が連載されており、こちらもすでに40回を超えています。

ダイヤモンドオンライン:生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ

法律家による意見書と裁判例から学ぶ

最後は上級編です。

生活保護問題に関わる全国の法律家らでつくる生活保護問題対策全国会議のブログでは、同会議がこれまで出してきた意見書や要望書を読むことができます。

生活保護問題対策全国会議ブログ

最近の事例では、大分県別府市が「パチンコ店への出入り」を理由に保護の支給停止をおこなったという処分に関して、法的な問題点を指摘した意見書があります。

遊技場立ち入りを理由とした保護停止処分に対する意見書

また、全国生活保護裁判連絡会のウェブサイトには、生活保護に関する20件の裁判事例が紹介されており、それぞれの事案の内容、問題の所在、裁判所の判断がコンパクトにまとめられています。

全国生活保護裁判連絡会ウェブサイト

以上、私の知る範囲で活用できそうなリンク先をまとめました。
生活保護制度については、誤解やデマも多く流されているので、ぜひ正しい知識を広げていきたいと思います。

なお、「今、生活に困っている」、「近いうちに困りそう」という方はお早めにご相談を。下記の相談先リストをご参照ください。

生活保護のことで相談したい場合は、こちらへどうぞ(相談先リスト)

 

今後10年の住宅政策の指針が閣議決定!パブコメは反映されたのか?

提言・オピニオン

3月18日、政府は今後10年の住宅政策の指針である新たな「住生活基本計画(全国計画)」を閣議決定しました。

新たな「住生活基本計画(全国計画)」の閣議決定について

私が注目していた「住まいの貧困」への対策では、「空き家を含めた民間賃貸住宅を活用して住宅セーフティネット機能を強化」という文言が盛り込まれましたが、その具体策の詳細は盛り込まれませんでした。

一方で、安倍政権が進める「三世代同居・近居の促進」はそのまま盛り込まれました。

住生活基本計画ポイント

私はこの基本計画の案が出た時、「住宅セーフティネットの強化を求めてパブリックコメントを出そう」という呼びかけを行い、私自身もパブコメを提出しました。

関連記事:空き家を準公営住宅に!パブコメを出して住宅政策を転換させよう! 

このパブコメ募集では、住宅政策の分野としては珍しく、219件もの意見が集まったそうです。

パブコメは計画に反映されたのでしょうか。以下のページにパブコメ結果が出ているので、見てみましょう。

「住生活基本計画(全国計画)の変更(案)」に関する意見募集の結果について

 三世代同居・近居促進はライフスタイルの干渉にならない?

私が出した意見(一部)とその意見に対する国交省の回答を以下に紹介します。

【稲葉】「希望出生率1.8 の実現につなげる」ことを住宅政策の目標の中に明記するのは、個人のライフスタイルへの干渉になりかねず、不適切なので、削除すべき。「三世代同居・近居の促進」も同様の理由で不適切であり、削除すべき。

【国交省】希望出生率は、夫婦の意向や独身者の結婚希望等から算出しているものです。また、三世代同居・近居についても、望む方々が実現できるような支援を行うものであることから、個人のライフスタイルへの干渉にはならないと考えており、また、政府全体として取り組んでいる一億総活躍社会の実現に向けた取り組みとも整合しており、原案通りとさせていただきます。

【稲葉】住宅困窮者対策として、一定の基準を満たす空き家、民間アパート、戸建て住宅を「準公営住宅」として位置付けるべき。対象は、子育て世帯や高齢者ひとり親世帯、若年単身者なども含めた低所得者全般とし、「準公営住宅」が従来の「公営住宅」とあわせて住宅セーフティネットの役割を果たせるように大量に供給できる体制をつくるべき。

【国交省】目標3(基本的な施策)(1)において、「住宅確保要配慮者の増加に対応するため、空き家の活用を促進するとともに、民間賃貸住宅を活用した新たな仕組みの構築も含めた、住宅セーフティネット機能を強化」と記載しております。これを踏まえ、今後具体的な施策を検討してまいります。

【稲葉】若者の間でシェアハウスが広がっているが、「シェア居住」を定義する法制度が整備されていないことが、空き家の一戸建てをシェアハウスに転用する際のハードルとなっている現状がある。新しい住まい方としての「シェア居住」を法制度の中で位置づけるべき。

【国交省】シェアハウスについては、まずその現状・実態の把握をした上で必要な措置について検討をする必要があると考えており、原案通りとし、計画の実施にあたり適切な対応をしてまいります。

家賃補助については慎重姿勢を崩さず

また、多くの方が求めた「家賃補助制度の導入」については、パブコメへの回答の2ヶ所で「なお、家賃補助制度については、対象世帯、民間家賃への影響、財政負担等の課題があり、慎重な検討が必要であると考えております。」と書かれています。

住生活基本計画が審議された国交省の社会資本整備審議会・住宅・宅地分科会では、委員から「民間の空き家を活用した準公営住宅の創設」や「家賃補助制度の導入」といった意見も出されていたのですが、今のところ、国交省は慎重な姿勢を崩していないようです。

ただ、国交省は住宅セーフティネットの「新たな仕組みの構築」を検討するため、住宅・宅地分科会に新たに小委員会を設置しました。今後、この小委員会で具体策を検討するとのことです。

住宅セーフティネット策の具体化はこれから。さらに声をあげよう!

多くの人がパブコメを出したにもかかわらず、住生活基本計画自体はあいまいな内容になってしまいましたが、今後、住宅セーフティネットの具体策を決める過程において、さらに声をあげていきたいと思います。

7月には参議院選挙もあるので、各政党にも住宅政策の拡充を求めていく予定です。

4月27日(水)には正午から、「住生活基本計画のこれからと家賃補助の実現」と題した院内集会を衆議院第二議員会館多目的会議室で開催します(詳細は後日お知らせします)。ぜひご参加ください。

住宅政策の転換に向けて、ぜひ多くの方のご注目、ご支援をお願いいたします。

複合的な障害・疾病を抱える生活困窮者をどう支えるのか

提言・オピニオン

「役所は銭湯やコンビニじゃない!今日はあっち、明日はあっちってその日の気分で生活保護受けるとこじゃないんだ!」

2013年年末、東京都内の某区に生活保護の申請に行った阿部さん(仮名・60代男性)に対して、福祉事務所の相談員は、声を荒げて叱責を始めました。

相談員が怒り出したきっかけは、阿部さんがわずか2年の間に首都圏の5つの自治体で生活保護の開始と廃止を繰り返していたことを知ったことでした。

路上生活をしていた阿部さんは、各地の福祉の窓口で相談をして、民間の宿泊所に入れられ、そこでの環境になじめずに、数か月後には自己退所をするということを繰り返していました。

その背景には、阿部さんが知的障害や精神疾患を抱えているという事情があった(後に認知症もあることが判明)のですが、どこの福祉事務所もその点を配慮することはありませんでした。

そして某区の相談員も、阿部さんを「福祉をコンビニのように使う困った人」として扱ったのです。

その場に同席をしていたNPO法人もやいのスタッフが抗議をして、無事に生活保護の申請はできましたが、身体的な疾患もあり、複合的な障害や疾病を抱える阿部さんへの支援は、私たちにとっても試行錯誤の連続でした。

残念ながら、生活保護申請から約1年後、阿部さんは病死されました。

阿部さんが亡くなった後、阿部さんに中心的に関わったスタッフが支援の記録をまとめ、その文章が『賃金と社会保障』2016年2月下旬号に掲載されました。

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阿部さんのように多重に困難を抱える生活困窮者をどう支えていけばいいのか、という点についての問題提起になっています。

約2万字に及ぶ長文ですが、生活保護行政や生活困窮者支援に関わる方にはぜひ読んでいただき、今後の支援のあり方に関する議論の素材にしていただければと思います。

『賃金と社会保障』は、専門誌で入手しにくいので、ネットで購入されるか、図書館などで見つけてお読みください。

また、この号の特集は「日本と英国における生活困窮者自立支援制度」です。あわせてご覧ください。

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『賃金と社会保障』2016年2月下旬号(1652号)

「こんなバカでしいません」- ある生活困窮者支援の記録

小林美穂子(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいスタッフ)

【目次】

まえがき
初来所
路上と施設間のヘビーローテーション
生活保護が続かない
「たしけてください」
兄の死、故郷へ
故郷の拒絶
希死念慮
再び上野、そしてC区へ
生い立ち
〜おしんとしての幼少時代
〜働きづめの日々から路上へ
クリスマスイブのSOS
これが最後のチャンス
検査結果
綱渡りの入院生活
カッパ現る
使える制度を利用するために
まるでパンドラの箱
増える問題行動
最後の晩餐
無言の対面
故郷の土に帰る
お姉さんと幼なじみに見守られ
阿部さんの足取りをたどる
支援者の悩み
福祉事務所の悩み
シェルター事業から見えたこと

※関連記事:「路上からは抜け出したい。でも、劣悪な施設には入りたくない」は贅沢か? 

「生活保護利用者の人権は制限してもよい」の先には、どのような社会があるのか?

提言・オピニオン

拙著『生活保護から考える』が第2刷になったのを機に、内容の一部をご紹介したいと思います。

関連記事:27ヶ月かかりましたが、増刷になりました!

安倍政権の発足以来、生活保護基準の引き下げや生活保護法の改悪など、生活保護を利用している人の暮らしや権利を脅かす政策が続いています。

また、地方自治体レベルでも、兵庫県小野市の「福祉給付適正化条例」や、大分県別府市でのパチンコ店調査・保護の支給停止など、生活保護などの福祉制度利用者の「素行」をことさらに取り上げて監視をしていこうという動きが強まっています。

関連記事:パチンコで生活保護を停止した別府市の「罪と罰」|生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ|ダイヤモンド・オンライン 

こうした動きの背景には、自民党に根強い「人権制限論」があります。

自民党の生活保護に関するプロジェクトチーム座長を務めていた世耕弘成参議院議員は、『週刊東洋経済』2012年7月7日号に掲載されたインタビューで以下のように述べています。

「(生活保護の)見直しに反対する人の根底にある考え方は、フルスペックの人権をすべて認めてほしいというものだ。つまり生活保護を受給していても、パチンコをやったり、お酒を頻繁に飲みに行くことは個人の自由だという。しかしわれわれは、税金で全額生活を見てもらっている以上、憲法上の権利は保障したうえで、一定の権利の制限があって仕方がないと考える。この根底にある考え方の違いが大きい。」

税金が投入されている制度の利用者の人権は制限してもよい、とする「人権制限論」の先には何があるのか、拙著で考察しています。ぜひご一読ください。

以下、『生活保護から考える』より抜粋(P176~P179)

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■利用者バッシングと社会保障費抑制

制度利用者のモラルの問題を言い立てることで、制度自体の縮小を画策するという政治手法は、すでに生活保護以外の社会保障分野でも始まっています。

2013年4月24日、麻生副総理兼財務大臣は東京都内で開かれた会合で「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで糖尿になって病院に入るやつの医療費は俺たちが払っているんだから、公平じゃない」と述べました。麻生氏は「生まれつき弱いとかは別の話」と断った上で、「こいつが将来病気になったら医療費を払うのかと、無性に腹が立つときがある」とも語ったと言います。

これは、糖尿病患者への偏見を悪用し、「利用者のモラルハザード」を焦点化することで、医療費全体の抑制へと社会保障政策の舵を切るためのアドバルーン的発言だと思われます。生活保護バッシングと同様に、制度利用者を叩くことで制度自体を利用しづらくしようとしているのだと思われます。

社会保障制度の利用者に「清く正しく美しく」あることを求める発言は、他の自民党の政治家からも出てきています。

2012年9月11日、テレビの報道番組『報道ステーション』に出演した石原伸晃衆議院議員は、生活保護費などの社会保障費抑制の具体策について述べる中で、いきなり、こう切り出しました。

「一言だけ言わせていただくと、私はね、尊厳死協会に入ろうと思うんです、尊厳死協会に。やっぱりね、ターミナル・ケアをこれからどうするのか、日本だけです。私は誤解を招いたんですね、この発言で。私はやっぱり生きる尊厳、そういうものですね、一体どこに置くのか、こういうことも考えていく。そこに色々な答えがあるんじゃないでしょうか。」

石原氏はこの発言を「個人の意思」を述べたものだと強調しましたが、この直前には公営住宅を活用することで生活保護費を八千億円削減できるという独自の社会保障費削減策を述べていました。彼が社会保障費削減の手段として尊厳死を用いようとしているのは明らかです。

生活保護制度の見直しを盛り込んだ社会保障制度改革推進法は、医療保険制度について「原則として全ての国民が加入する仕組みを維持する」(第六条)と書かれています。「原則」とは「例外」があることを前提とした言葉であり、これまで日本の国是とされてきた国民皆保険制度を絶対堅持するという政府の姿勢はここには見られません。

2013年7月、日本は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉に正式参加しました。アメリカの圧力により、日本で混合医療(保険医療と自由診療の併用)が解禁されれば、診療費が高騰し、アメリカの民間医療保険が日本でシェアを拡大するでしょう。次第に保険医療がまかなえる範囲が縮小すれば、アメリカ型の「民間医療保険に加入しなければ、病気になることもできない」という社会が到来しかねません。いわば、健康が自己責任となるのです。

2013年8月6日には、政府の社会保障制度改革国民会議が最終報告書をまとめ、安倍晋三首相に提出しました。報告書には、介護を必要とする度合いが低い「要支援」者を介護保険制度の対象から外して市町村に委ねることや、七十~七十四歳の医療費窓口負担を段階的に一割から二割に引き上げることなどが盛り込まれました。最低保障年金の創設や後期高齢者医療制度の廃止などを求めてきた民主党は、三党の実務者協議からの離脱を決めました。安倍政権がかつての小泉政権のように社会保障費を抑制する方向に舵を切ったことは明らかです。

介護の必要度が低い高齢者が介護保険の対象から外されれば、当然、家族や地域のボランティアに負担がのしかかることになります。この動きも、生活保護の扶養義務強化と同様、家族や地域で支え合うことを美徳として強制し、公的責任を後退させる「絆原理主義」の現れだと言えます。

生活保護バッシングから始まった生活保護制度「見直し」の動きは、これら社会保障制度全体の「見直し」に向けた先鞭をつけるものだと言えます。生活保護の分野は政治力のある圧力団体が存在しないため、「最初のターゲット」にされようとしています。しかし、生活保護利用者をバッシングし、制度を使いにくくしようとする動きの延長線上には、医療・介護・年金など、人々の命や暮らしを支える社会保障制度全体を縮小していく動きがあることを忘れてはなりません。

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以上は、2013年11月に発行された本に書いた文章ですが、今年に入り、TPPの署名が行われたほか、厚生労働省は介護保険の「要支援1、2」の介護予防サービスを市町村に移すだけでなく、「要介護1、2」の家事援助を介護保険から外し、自己負担を導入する方向で検討を始めました。
「介護離職ゼロ」どころか、本来、国が責任を持つべき社会保障を家族や地域の支え合いに丸投げしようという動きが強まっています。

また、問題発言をおこなった石原伸晃氏は甘利氏の辞任に伴い、経済再生担当相に就任しました。

「人権制限論」の先にどのような社会があるのか。そのことを私たちは本当に望んでいるのか。真剣に考えるべき時が来ています。

空き家を準公営住宅に!パブコメを出して住宅政策を転換させよう!

提言・オピニオン

今年1月22日、国土交通省は今後の住宅政策の方向性を示す住生活基本計画(全国計画)の見直し案を発表しました。

住生活基本計画見直し案概要

住生活基本計画見直し案概要

 

8つの目標のうち、「目標3」に住宅セーフティネットの充実が盛り込まれている。

8つの目標のうち、「目標3」に住宅セーフティネットの充実が盛り込まれている。

新たな計画案の最も大きな柱は、既存の住宅ストックの利活用推進です。年々、増加の一途をたどっている全国の空き家は、年には戸数で約820万戸、割合で総住宅数の13.5%を占めるまでに至っており、各地で深刻な社会問題となっています。

私たち、「住まいの貧困」に取り組むNPO関係者や研究者は、こうした空き家を住宅の確保に苦しむ低所得者への居住支援に活用できないかと、様々な形で提言活動を行なってきました。

空き家率同様、上がってほしくないのに上がり続けているのが日本の相対的貧困率です。「空き家を活用した低所得者支援」は、私たちの社会が抱える二大問題を一石二鳥で解決する方策だと言えます。

無題

こうした問題意識に基づき、昨年5月にも、『市民が考える!若者の住宅問題&空き家活用』というシンポジウム(主催:NPO法人ビッグイシュー基金)が開催されました。このシンポジウムの報告書は下記のページでダウンロードできます。

NPO法人ビッグイシュー基金:「若者の住宅問題&空き家活用」シンポ報告書が完成しました

また、一昨年、私が立ち上げた一般社団法人つくろい東京ファンドは、まさにこうした問題意識から民間の資金で「空き家を活用した低所得者への居住支援」を実施することを目的とした事業体であり、民間の物件オーナーの協力を得ながら、都内に複数のシェルターや若者向けシェアハウスを開設してきました。

民間のレベルで空き家活用事業を形にして見せることで、腰が重い行政に発破をかけようと思ったのです。

空き家を「準公営住宅」に!ついに国が動いた!

そうした私たちの動きに刺激されたのかどうかはわかりませんが、今回の計画案には住宅セーフティネット機能を強化するために「民間賃貸住宅を活用した新たな仕組み」を構築する、という文言が盛り込まれました。

また報道によると、国土交通省は耐震性などの基準を満たす空き家の民間アパートや戸建て住宅を「準公営住宅」に指定し、子育て世帯や高齢者等などに貸し出す仕組みを検討しているとのことです。今後、詳細を詰めて、来年の通常国会にはそのための法案を提出する予定だということです。

日本経済新聞:空き家を「準公営住宅」に 国交省、子育て世帯支援

ようやく国のレベルで、空き家を低所得者支援に活用する動きが出てきたことは歓迎したいのですが、この「準公営住宅」構想は住生活基本計画の見直し案にはっきりと書かれているわけではありません。
せっかく出てきた構想が尻すぼみにならないように、住生活基本計画にきちんと書きこませることが重要だと私は考えています。
住生活基本計画の見直し案は、2月12日までパブリックコメントを受け付けているので、ぜひ多くの方に意見を寄せていただければと思います。

パブコメの出し方については下記のリンク先をご覧ください。

「住生活基本計画(全国計画)の変更(案)」に関する意見の募集について

基本計画の見直しにおいて、私が重要だと思うポイントは、以下のとおりです。

・一定の基準を満たす空き家を「準公営住宅」として位置付けることを計画に明記する。

・「準公営住宅」の対象は、子育て世帯や高齢者だけでなく、若年単身者なども含めた低所得者全般とする。

・「準公営住宅」が従来の「公営住宅」とあわせて住宅セーフティネットの役割を果たせるように大量に供給できる体制をつくる。従来の「公営住宅」も削減をせず、特に抽選倍率の高い都市部では戸数を増やす。

・「希望出生率1.8 の実現につなげる」ことを住宅政策の目標に掲げるのは、個人のライフスタイルへの干渉になりかねず、不適切。「三世代同居・近居の促進」も削除すべき。

 

まだまだ楽観はできない。パブコメで後押しを!

空き家を活用した「準公営住宅」が大規模に実施されれば、戦後の住宅政策の大転換とも言える事業になるでしょう。

その一方で、これまで国土交通省が作ってきた住宅セーフティネットがあまりに貧弱であった、という「実績」を踏まえると、楽観ばかりできないと私は考えています。

最悪のシナリオは、「準公営住宅」という仕組みを作ったものの、実際にはほとんど整備されず、「新しい制度ができたから」ということが口実になり、従来の公営住宅の戸数が削減される、という結果になることです。

そのため、ぜひ多くの方にパブリックコメントを出していただき、「空き家を準公営住宅に!」という声をあげていただければと思っています。

住宅政策の大転換を実現させるためにご協力をお願いします!

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