稲葉剛「進行する住まいの不安定化~イラストで見る住宅問題」(下)

提言・オピニオン

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東京では、2010年にネットカフェ規制条例が制定されてしまい、防犯対策を名目に、ネットカフェに入店する際に免許証や住民基本台帳カードなどの身分証明を提示することが求められるようになりました。
そのため、ネットカフェに暮らしていた人の一部がネットカフェにすら泊まれない、という状況が生まれてしまいました。

2010年頃から、こうした人々をターゲットに、極端に狭い部屋を貸し出す業者が増えてきました。こうした部屋は「コンビニハウス」「押し入れハウス」などと呼ばれていましたが、2013年、毎日新聞が「脱法ハウス」という言葉で報道すると、この用語で知られるようになりました。

こうした物件の多くは名目上、「レンタルオフィス」や「貸し倉庫」という名目で人を集めて住まわせています。「ここは住居ではない」と言い逃れることで、建築基準法や消防法が住宅に対して求めている規制をすり抜けようとしているため、「脱法ハウス」と呼ばれているのです。

国土交通省ウェブサイトより「脱法ハウス」(違法貸しルーム)の例

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一部の「脱法ハウス」に対して消防庁から火災の危険性が指摘されたことを受け、2013年5月24日、東京の神田にある「脱法ハウス」で「6月30日で閉鎖する」という貼り紙が掲示されました。

入居者から相談を受けた「住まいの貧困に取り組むネットワーク」では、法律家とともに、立ち退きの停止を求める仮処分の申請を東京地裁に行い、その結果、立ち退き期限の延長と一部期間の家賃免除をかちとることができました。

この問題は国会でも取り上げられ、国土交通大臣が「脱法ハウス」であっても入居者の居住権は借地借家法で守られる、ということを明言しています。

立ち退き問題が起こった東京都千代田区の「脱法ハウス」

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2013年9月以降、国土交通省は「脱法ハウス」を「違法貸しルーム」と呼び、調査と規制に乗り出しています。
2014年2月末時点で、建築基準法違反の疑いのある全国の1801物件が調査対象になっています。そのうち、8割近い1391物件が東京都内に集中しています。

●違法貸しルームの是正指導等の状況について(平成26年3月25日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000470.html

私たちとしては、危険な物件に規制を行なうこと自体は賛成ですが、同時に入居者が適切な住まいに移れるための支援策も行なうべきだと考えています。規制だけが進めば、結果的に今住んでいる人たちが立ち退きにあい、路頭に迷うことになるからです。

「脱法ハウス」問題には、日本社会における住まいの貧困の問題が凝縮しています。
その背景には以下の要因があると考えます。

・民間賃貸住宅における高い家賃と初期費用
・ワーキングプア、失業者、外国籍住民等への入居差別
・民間賃貸住宅入居に際して、親族の連帯保証人を求める慣行の弊害
・家賃保証会社の協会が家賃滞納履歴のデータベースを作り、それが「ブラックリスト」として機能していること。
・追い出し屋被害の広がり

つまり、民間賃貸住宅が「入りにくく、出されやすい」構造になっていることが、最大の問題なのです。

また、行政による住宅セーフティネットも非常に貧弱なものです。
そもそも多くの自治体では、若年の単身者は公営住宅に入居する資格を持っていません。

2009年10月に始まった住宅手当制度(2013年度より住宅支援給付と改称)は、離職者に対して、ハローワークの指導を受けて求職活動を行なうことを条件に、一定期間、アパートの家賃分を補助する制度で、創設当初は私も大いに期待しました。
それまで民間の賃貸住宅に暮らす人びとに家賃分を補助する制度は生活保護以外になかったため、この制度が将来的に普遍的な家賃補助制度に発展することを期待したのです。

しかし、その後、使い勝手の悪さからこの制度の利用はほとんど進みませんでした。

住宅手当・住宅支援給付制度の実績

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利用者数が減少するにつれて、常用就職率が上がっているのは、窓口の段階で利用者を絞り込んでいるからだと考えられます。厚生労働省が「居住支援策」として制度を発展させることよりも、「再就職支援策」として制度を位置づけることを優先したため、就職率を上げるために入口を絞るという運用がなされてしまったのです。

こうした「住まいの貧困」の現状を一枚のイラストで示したのが、冒頭のさいきまこさんのマンガになります。もう一度、掲載します。
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このイラストでは、同心円の外側に行くほど住まいが不安定になっていきます。
一番外側にいる人たちが「中からは簡単に外にはじき出されるのに、外からは中に入れない」と叫んでいます。

住まいの不安定化を進行させる「遠心力」ばかりが働いて、内側に向かう「求心力」が存在しない。

一番外側にいる人たちにも、「ファストフード店からの排除」や「公園からの排除」という「遠心力」が働いています(以下の記事もご参照ください)。

田中龍作ジャーナル:「ホームレスお断わり」 マック難民はどこへ行くのか
田中龍作ジャーナル:渋谷区と警察、公園から野宿者を強制排除

住宅政策を根本的に転換し、外側にばかり向かうベクトルを180度変えていかないことには、住まいの貧困は解決しないと、私は考えています。

【参考資料】
住まいの貧困に取り組むネットワーク「脱法ハウス入居者生活実態調査報告書」
ビッグイシュー基金/住宅政策提案・検討委員会「住宅政策提案書」

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