稲葉剛「進行する住まいの不安定化~イラストで見る住宅問題」(上)
2014年3月28日に東京弁護士会が開催したシンポジウム「不安定化する住まい-賃貸住宅の現状から」での稲葉剛の基調講演の要旨を掲載します。
さいきまこ画「不安定化する住まい」
「追い出し屋」被害、公的住宅政策の問題、脱法ハウス問題、ホームレス問題…それぞれの問題がどのようにからみあって「住まいの貧困」を作り出しているかを描いています。
私は1994年からホームレス状態にある方々への支援活動をおこなってきました。
2001年には〈もやい〉を立ち上げ、路上生活者に限らず、幅広い生活困窮者の相談・支援を始めましたが、2004~05年から20代、30代のワーキングプアの若者の相談が増えてきました。
〈もやい〉に最初にネットカフェに暮らす若者からメールで相談が寄せられたのは、2003年の秋のことです。
「ワーキングプアの若者たちの中に、アパートに入居する際の初期費用(敷金・礼金など)を用意できず、ネットカフェで寝泊まりしている人が出てきている」という問題は、2007年、テレビ報道をきっかけに「ネットカフェ難民」という名称で知られるようになりました。
その背景には1999年と2003年の労働者派遣法改正により派遣労働が原則解禁となり、若年層を中心に非正規労働が広がったことがあります。
さいきまこ画「ワーキングプアとハウジングプア」
このイラストは、漫画家のさいきまこさんに描いていただいたもので、「ワーキングプアであるがゆえにハウジングプア」になる、という状況を描いています。
「仕事」と「住まい」は人々の「暮らし」を支える2本の大きな柱ですが、不安定な非正規労働の広がりは、仕事をしても生活を支えきれない状況を生み出しました。
特に登録型派遣に象徴される細切れ雇用は、収入の不安定化を招きます。「ある月には15万円稼げたけど、翌月には5万円しか収入がない」というような状況になると、アパートの家賃も滞りがちになり、最終的には住まいを失ってしまうことになります。
そこに拍車をかけるのが「追い出し屋」の存在です。本来、アパートの賃借人には居住権があるので、家賃を少し滞納しただけで追い出すことは借地借家法違反になります。
しかし、近年、家賃保証会社や管理会社、大家などが部屋をロックアウトするなどして、一方的に賃借人を追い出す「追い出し屋」の被害が多発しています。
アパートを追い出された人はネットカフェなどの不安定な居住環境に移らざるをえません。アパートを退去したことが役所にわかると、住民票が消除されてしまいます。そうすると、安定した仕事に移ろうとしても、「住所がない・住民票がない」ということが求職活動の大きなネックになります。こうなると、貧困の悪循環に陥ってしまいます。
ネットカフェはアパートの家賃よりも宿泊代がかかります。また、自炊もできず、昼間に荷物をコインロッカーなどに入れておく経費もかかるため、生活費のやりくりはますます苦しくなります。
こうして、ネットカフェ生活も困難になると、24時間営業のファストフード店などに移り、さらに困窮すると、最終的に路上生活になってしまいます。
ただ、こうした不安定な居所はネットカフェばかりではありません。
「ネットカフェ難民」という言葉が流行語になったため、ネットカフェのみが注目されてしまいましたが、実際にはこうした不安定な居所はサウナ、カプセルホテル、ドヤ(簡易旅館)、個室ビデオ店など様々あります。
また、行政は路上生活者と「ネットカフェ難民」を分けた上で別々の対策を行なっていますが、この二者を分ける意味もあまりありません。住まいに困窮している人がネットカフェに泊まるか、屋外で寝るかは、「その日のフトコロ具合」によって左右されているだけだからです。
そのため、私は「ハウジングプア」という言葉を使うことで、住まいの貧困の全体像を見ていく必要がある、と訴えています。
ハウジングプアの全体概念図
【参考資料】
ビッグイシュー基金「若者ホームレス白書」
ビッグイシュー基金「若者ホームレス白書2」
2014年5月21日