提言・オピニオン

第3回国連人間居住会議が17日開催!日本政府は国内に住まいの貧困があることを認めたくないの?

提言・オピニオン

国内ではほとんど注目をされていませんが、10月17日からエクアドルの首都キトで第3回国連人間居住会議(ハビタットⅢ)が開催されます。

「適切な居住への権利」は基本的人権であることが宣言されたハビタットⅡから20年を経ての開催になります。

関連記事:「住まいは人権」から20年。今こそ、住宅政策の転換を! 

ハビタットⅢでは、前回会議からの20年間に進められてきた各国の取組実績をもとに、人間居住にかかわる課題の解決に向けた国際的な取組方針「ニュー・アーバン・アジェンダ」をとりまとめられる予定です。

いわば、各国の提出した「通信簿」をもとに、新たな計画を決めようというわけです。

では、日本政府はこの20年間の「人間居住」に関する取り組みをどのように自己評価しているのでしょうか。

外務省のウェブサイトに、日本政府が提出した「ナショナルレポート」の全体版(英語)と概要(日本語)がアップされています。

外務省:第3回国連人間居住会議(ハビタット3)に向けた国別報告書の提出 

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驚くべきことにこのレポートでは、日本国内の「住まいの貧困」について全く触れられていません。英語の全体版を見ても、homelessという単語は一度も登場せず、日本国内で適切な住宅を確保できていない人は存在しないかのような書きぶりです。

東日本大震災の復興に関しても、「新しい東北(“New Tohoku”)の創造」といった美しい言葉ばかりが並び、被災者の住宅状況については「住宅再建とコミュニティ復興を加速化」としか触れられていません。東京電力・福島第一原発事故からの避難者についても「長期避難者に生活のための基盤を提供」と、全く問題がないかのような記述になっています。

この甘すぎる自己採点に対して、国内の住宅問題に取り組んできた団体で、以下の共同見解を発表しました。ぜひご一読いただき、「ナショナルレポート」の問題点と「人間居住」に関して、本来、政府が行なうべき政策について、考えていただければと思います。

 

第3回国連人間居住会議(ハビタットⅢ)の開催にあたって

日本政府報告書の問題点と私たちの見解

 

2016年10月15日

日本住宅会議理事長 塩崎賢明
国民の住まいを守る全国連絡会代表幹事 坂庭国晴
住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人 稲葉 剛

 

はじめに―ハビタットⅢ、南米エクアドルで開催

2016年10月17日~20日、南米エクアドルの首都キトで第3回国連人間居住会議(略称・ハビタットⅢ、人間居住に関わる課題解決のために開催される正式な国連会議)が開催される。

1996年トルコのイスタンブールで開催されたハビタットⅡから20年ぶりの開催で、テーマはhousing and sustainable urban development(住宅と持続可能な都市整備)で、前回Ⅱのテーマを引き継いでいる。その開催主旨は、「前回会議からの20年間進められてきた各国の取組実績をもとに、急速に進展する都市化を成長に結びつけることにより、幅広い人間居住に係る課題の解決に向けた国際的な取り組み方針『ニュー・アーバン・アジェンダ』をとりまとめる」こととなっている。

私たちは、日本における様々な住宅問題に携わっている団体として、「幅広い人間居住に係る課題の解決」は極めて重要であり、そのための議論が深められることを期待している。そして、「国際的な取り組み方針」がこうした議論を経て採択され、ハビタットⅢが成果をあげることを願っている。

日本政府報告書と居住貧困の現実

ハビタットⅢの開催に向けて、日本政府は2015年12月に「ナショナル・レポート」を提出している。これは「我が国のこれまでの経験と次世代に向けた課題について、有識者の意見等を踏まえ、我が国の人間居住に関する国別報告書をとりまとめた」ものとされている。

しかし、この報告書は、ハビタットⅢにおいて今後の国際的な取り組み方針に反映されるべき日本の公式文書としては、きわめて重大な問題を含んでいる。

・前回ハビタットⅡの宣言

そもそも前回のハビタットⅡのアジェンダ(行動綱領)では、「すべての人のための適切な住宅」が主要な柱として、次のように盛り込まれた。「われわれは、諸国際文書が定めた適切な住宅に対する権利の完全で漸進的な実現に向けての誓約を再確認するものである。この脈絡において、人びとが住まいを確保でき住宅と近隣を保護し改良できるようにする、政府のもつ義務を確認する」とし、「われわれは人権の基準と完全に合致する態度をとり、この目的を実施、促進しなければならない」と明確に宣言したのである。

したがって、当然日本はこの20年間における「住まいの確保、住宅と近隣の保護・改良」のための取り組みとその結果を報告すべきであるが、報告書はそうした内容にほとんど触れていない

・日本政府報告書での「住宅について」

報告書は、6つの章から成り立っているが、住宅については、最後の章で以下のようにごくわずか述べているだけである。

住宅については、2003年には、世帯数(4,700万世帯)を住宅戸数(約5,400万戸)が上回る状況となった。本格的な少子高齢社会、人口・世帯減少社会の到来等を契機に、2006年に「住生活基本法」を制定し、「住宅の量の確保」から「住宅の質の向上」へと政策を転換した。今日では、「サービス付き高齢者向け住宅」などによる高齢者が安心して暮らせる住まいと生活に係る福祉サービス等の一体的供給や住宅の省エネ性能の向上、低炭素社会の実現に向けた取組等が課題になっている。(日本語版概要)

・住宅貧困の記述なし―政府報告書

まず、ここで「2003年には世帯数を住宅戸数が上回る状況となった」としているが、わが国で、住宅戸数が世帯数を上回ったのは1968年であり、それ以来一貫して住宅戸数は世帯数より多いのである。2003年をことさら強調することには意味がない。

より重大な問題は、住宅戸数が世帯数よりはるかに多く、膨大な空き家が発生しているにも関わらず、ホームレス、ネットカフェ難民、脱法ハウスなど住まいに困窮する人々が大量に存在している現状に全く触れていない点である。現在大きな問題となっている空き家問題についても触れていない。また、住生活基本法の制定について述べているものの、住まいに困窮する人々(住宅確保要配慮者)に対する住宅セーフティネットについては、民間賃貸住宅を活用するために居住支援協議会を作るとしているだけで、現実に低所得者、被災者、高齢者、子育て世帯などの住宅貧困を解決する課題については記述がない。逆に、「地域優良賃貸住宅が効果的に使われている」、「公共住宅がUR(都市再生機構)などによって建設されている」(英文報告書)と述べられているが、実際には公共住宅の新規建設は事実上ストップしており、現実とかけ離れている。

・わが国の公営住宅の現状と居住権の侵害

今年7月、政府審議会の「新たな住宅セーフティネット検討小委員会」は、高齢者等の住宅確保要配慮者にとって住宅セーフティネットである公営住宅の応募倍率が東京都22.8倍、全国5.8倍(2014年)となっていることをふまえ、「応募倍率は大都市圏を中心に高い状況にあり、希望しても入居できない世帯が多く存在する状況にある」としている。「希望しても入居できない世帯が多く存在する状況」を認めているのであるが、この状況は20年間何ら改善されていない。

それどころか、2009年度から実施された入居収入基準の大幅引き下げ(月収20万円以下から月収15万8千円以下に変更)によって、公営住宅を「希望することさえできない状況」が作り出されている。

事実、2006年度の全国の公営住宅応募者は931,771世帯(応募倍率9.6倍)であったが、2013年度には同642,614世帯(6.6倍)となり、29万世帯も減少している。つまり制度改悪によって応募者が締め出されたのであって、住宅セーフティネットの状況はむしろ悪化しているのである。

東京都内では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に伴う新国立競技場の建設や関連工事により、国立競技場近隣に300戸ある東京都の公営住宅・霞ヶ丘アパートの住民の追い出しが行われ、また、明治公園など各地の野宿者が立ち退きにさらされている。政府報告書は日本国内で居住の権利が侵害されている現実に向き合うべきであるが、その記述も見られない。

大震災・原発事故被災者の住まいの問題

報告書の第3章「地球温暖化対策と災害に強い地域づくりに向けて」では東日本大震災について次のように述べている。

2011年3月、東日本大震災により18,000人以上の死者・行方不明者が発生し、最重要課題として復興の加速化に取り組んでいる。復興に際して、『新しい東北』の創造、世界のモデルとなる『創造と可能性ある未来社会』の形成を全国に先駆けて目指す考え方も示された。2014年6月、『国土強靭化基本計画』が策定され、これに基づき、政府一丸となって強靭な国づくりを計画的に進めていく。また、わが国は、2015年3月に第3回国連防災世界会議をホストし(於仙台市)、我が国の知見を広く国際社会に発信共有し、防災の主流化を提案する。(日本語版概要)

・住宅難民の状態が続く―政府の理不尽な対応

驚くことに、ここには「被災者」やその住まいについての記述が全く登場しない。東日本大震災から5年半を経過するが、今なお14万人の人々が避難し、終の棲家に到達できず、先行きの見えない状況が続いている。また、兵庫県・神戸市・西宮市では、21年前の阪神・淡路大震災で借上げ公営住宅に入居した被災者が行政によって強制退去させられようとしている。東日本大震災や熊本地震等、近年頻発している災害の被災者の住宅再建は立ち遅れており、3000人以上の関連死を生み出した避難所や仮設住宅の非人間的な居住環境は一刻も早く改善されなければならない。

東京電力福島第一原発事故による被災者は全国に散らばり、先行きの見えない状態が長く続いている。加えて自主避難者を対象に、福島県が実施している住宅の無償提供が2017年3月末に打ち切られるという問題も発生している。

日本政府の報告書は、このような被災者の置かれている現状に触れないまま、復興庁の設置、復興予算25兆円の投入、復興の加速化、「新しい東北」の取り組みなどの記述に終始している。政府が取るべき姿勢は、現在進行中の被災者の深刻な居住問題に正面から向きあうことである。

「住生活基本法」とあるべき住宅政策

2006年の「住生活基本法」の制定と「政策転換」はどのようなものであったか。当時の政府は、「住宅及び住宅資金の直接供給のための政策手法について、抜本的な改革が行われてきたところであり、その総仕上げとして、今般、住生活基本法の制定により、住宅セーフティネットの確保を図りつつ、健全な住宅市場を整備するとともに、国民の住生活の質の向上を図る政策への本格的な転換を図る道筋が示された」と説明した。

しかし、「政策手法の抜本的な改革」のもとで、実際には、①ハビタットⅡが開催された1996年から、住宅セーフティネットの主柱である公営住宅制度の「抜本的改悪」が進められ、今日では新規建設供給の廃止に至っている。②住宅公団は、2004年に独立行政法人「都市再生機構」(UR)に改組され、賃貸住宅の直接供給が廃止された。③住宅金融公庫は、2007年に独立行政法人「住宅金融支援機構」に改組され、個人向け住宅融資は原則廃止された。

このように、「政策の転換」の中身は、公的住宅制度の縮小、廃止だったのであり、「その総仕上げとして、住生活基本法の制定」が行われたのである。

・「住宅セーフティネット」とハビタットの理念

住生活基本法の重要な柱である「住宅セーフティネットの確保」は、実現しない事態が今日まで続いている。そのことは今年3月閣議決定された「住生活基本計画」がよく示している。そこでは、「住宅確保要配慮者の増加に対応するため、・・・住宅セーフティネット機能を強化」するとし、「新たな住宅セーフティネット検討小委員会」を設置して、「新たな仕組みの構築」に乗り出さざるをえなくなった。検討小委員会では、「高齢者世帯や子育て世帯のみならず、障害者、外国人、低所得の若年単身世帯を含む低額所得者等の住宅確保要配慮者について」対応することが示されている。そして「新たな住宅セーフティネット制度は、公営住宅を補完するものとして、公営住宅の入居対象世帯も含め、多様な住宅確保要配慮者を対象とすることが考えられる」として、公的住宅制度に準ずる仕組みの構築が検討されている。これは、1年前から政府が検討しているものであるが、これらの動きについては今回の政府報告書にはまったく触れられていないのである。

私たちは、ハビタットⅢの開催にあたって、現在検討されている「新たな住宅セーフティネット」が我が国の住宅困窮各層の実態と要求に基づき、実効性のあるものとすることを強く求めるものである。また、公営住宅制度をはじめとした公的住宅制度の再生、充実・強化を求めるものである。

さらに、私たちはこうした狭義の住宅政策のみならず、都市政策、福祉政策、災害復興等、「人間居住」に関連するあらゆる政策において、「住まいは基本的人権である」というハビタット(国連人間居住会議)の理念が貫かれることを政府に求めるものである。

空き家活用型セーフティネット住宅が実現へ!対象者は?家賃補助はどうなる?

提言・オピニオン

住まいの貧困が広がる中、国レベルで住宅セーフティネットの拡充を図る動きが本格化しています。

国土交通省に設置された「新たな住宅セーフティネット検討小委員会」は、7月に「中間とりまとめ」を発表。
国交省はこれを受け、8月末の来年度概算要求で「子育て世帯や高齢者世帯が安心して暮らせる住まいの確保」、「民間の賃貸住宅を活用した、住宅セーフティネット制度を創設」、「サービス付き高齢者向け住宅や住宅団地に子育て支援施設の整備の推進」などに1320億円の予算を要求しました。

特に注目されるのは、空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度です。
小委員会は年内に最終とりまとめを行ない、来年国会に向け、予算案とともに関連法改正案が用意される予定です。

関連記事:「空き家活用+家賃補助」の新たな住宅セーフティネット整備へ!

 

しかし、この新たな住宅セーフティネット制度はまだまだ不明瞭な点がたくさんあります。

国土交通省住宅局の概算要求を見てみましょう。

子育て世帯や高齢者世帯などの住宅確保要配慮者の増加に対応するため、民間賃貸住宅や空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度を創設し、住宅確保要配慮者向けの住宅(あんしん入居住宅(仮称))の改修や入居者負担の軽減等への支援を行う。併せて、居住支援協議会等による住宅確保要配慮者の円滑な入居等を図るための活動への支援を行う。

また、イメージ図によると、「あんしん入居住宅」(仮称)は以下の2種類に分かれています・

・認定あんしん入居住宅(仮称)
一定の要件を満たす子育て世帯、高齢者世帯、障害者世帯等向けの専用住宅

・登録あんしん入居住宅(仮称)
子育て世帯、高齢者世帯、障害者世帯などの入居を拒まない住宅

このうち、「国・地方公共団体による家賃低廉化補助」や「保証料等補助」を受けられるのは、「認定」の方のみとなっています。

 

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「家賃低廉化補助」というのは、実質的な家賃補助だと考えられます。実際に低家賃になるのは「認定」だけのようです。
そうすると、「認定」の対象者や入居条件が気になりますが、「一定の要件を満たす子育て世帯、高齢者世帯、障害者世帯等」という書き方ではよくわかりません。

近年は、一人暮らしの若者の間でも住まいの貧困が広がっていますが、「等」の中に若年単身者が含まれるかどうかは、今の時点で明らかになっていません。

私が懸念するのは、空き家の登録制度ができて、登録される物件が増えても、実際には低所得者が入れる家賃水準の住宅がほとんど供給されず、しかもそこに入るのが公営住宅のように「狭き門」になる、という事態です。

そのためには、「認定あんしん入居住宅(仮称)」の対象者や入居資格をなるべく広くさせ、戸数も確保させる必要があります。

せっかくできる新制度を実効性のあるものにしていくためには、多くの人がこの制度に関心を持ち、声をあげていくことが必要だと考えます。

私が世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」など3団体は、10月26日(水)に「今こそ、住宅セーフティネットの拡充を!」と題した院内集会を参議院議員会館で開催します。ぜひご参加ください。

10・26院内集会
「今こそ、住宅セーフティネットの拡充を!」

と き 2016年10月26日(水)13時~15時30分
ところ 参議院議員会館1階101会議室 東京メトロ「永田町」駅すぐ。

※当日は12時30分から議員会館1階ロビーで会議室への通行証を配布します。

集会の詳細は、こちら。

 

生活保護引下げ違憲 東京国賠訴訟が進行中!9月26日(月)の口頭弁論を聴きに行こう!

提言・オピニオン

私も応援している生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟の第2回口頭弁論期日が、9月26日(月)14時より東京地裁103号法廷で開かれます。

5月16日の第1回口頭弁論では、大法廷の傍聴席が満席になり、訴状と答弁書の陳述、松野靖・原告団共同代表と宇都宮健児弁護団長それぞれによる意見陳述などが行われました。

写真は報告集会で発言する宇都宮弁護団長です。報告集会では、私も「支える会」(準備会)の呼びかけ人として発言を行ないました。

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第2回の口頭弁論もみんなで参加して、傍聴席をまたいっぱいにしましょう!

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以下は弁護団のブログからの引用です。

【お願い】
生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟(はっさく訴訟)の第2回口頭弁論期日が2016年9月26日(月曜)午後2時から、東京地裁1階の103号法廷で開かれます。
原告のみなさんは、東京都内の生活保護受給者31世帯33人です。障害を抱えている方も多いです。
2013年8月1日以降3回にわたって実施された生活保護基準の引下げは、憲法25条に違反する違憲・違法のものであるとして、国などに対し、国家賠償と保護費減額の取消しを求めています。
今回の法廷では、原告の1人が裁判に向けた思いを語る意見陳述等を行う予定です。
憲法で保障された「健康で文化的な最低限度の生活」の切り下げを絶対に許さないためにも、ぜひ傍聴に来ていただきたいと思います。

閉廷後、午後2時30分ころから、裁判所近くの日比谷図書文化館(日比谷公園内)で報告集会も予定しています。
こちらにもご参加をお願いします。

関連記事:生活保護基準引下げは違憲!東京国賠訴訟がスタートします! 

 

「空き家活用+家賃補助」の新たな住宅セーフティネット整備へ!

提言・オピニオン

国土交通省の「新たな住宅セーフティネット検討小委員会」は、7月22日の第3回会合で、民間の空き家・空き室を活用した「セーフティネット住宅」を整備するという内容の中間とりまとめを発表しました。

国土交通省:第3回新たな住宅セーフティネット検討小委員会資料

 

新たな住宅セーフティネット

 

拡大する住まいの貧困に対応するために、空き家や空き室を活用する、というアイデアは、これまでずっと私たちが要望してきたことです。

今年春の住生活基本計画の策定にあたっても、空き家・空き室を活用した準公営住宅をつくることを提言しました。

関連記事:今後10年の住宅政策の指針が閣議決定!パブコメは反映されたのか? 

無題

また、私が代表理事を務める一般社団法人つくろい東京ファンドでは、空き家・空き室を活用したシェルターやシェアハウスなど、低所得者向けの住宅事業を実践してきました。

関連記事:東京・池袋でハウジングファーストを実現したい!クラウドファンディングを展開中です!

民間の力でモデル事業を実施することで、行政に対しても「こういうやり方がある」ということを示してきたつもりですが、思ったより早く国土交通省が動き始めたことは歓迎したいと思います。

ただ、実際に空き家・空き室を活用した「新たなセーフティネット住宅」が整備される際、どの程度の戸数が供給されるのか、どの程度の質の住宅が整備されるのかが問題になっていきます。

現在の案では、民間の賃貸住宅のオーナーに空き家・空き室を登録してもらう仕組みになっているので、事業に協力してくれるオーナーがどのくらい出てくるのかによって、事業の規模が決まってくるかもしれません。

また、入居資格をどうするのか、家賃をどこまで補助するのか、という点も重要です。

国土交通省では、今後、具体化に向けて詳細を詰め、来年の通常国会に関連法改正案の提出を目指すと言います。

この動きを注視し、「新たなセーフティネット住宅」という名前にふさわしい事業になるよう、働きかけを強めていくつもりです。

ぜひご注目ください。

生活が苦しいなら声をあげよう!~「家賃下げろデモ@新宿」スピーチ

提言・オピニオン

今年6月12日、若者を中心とした「Call For Housing Democracy」主催による「家賃下げろデモ@新宿」が開催され、私も参加しました。

約120人が「住宅手当で家賃を下げろ!」、「最賃上げて、家賃を下げろ!」等と声をあげながら、新宿の街をデモ行進しました。

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このデモの様子は、雨宮処凛さんのコラムや賃貸住宅業界の専門誌、ジャパンタイムズなど様々なメディアで取り上げられました。

マガジン9「雨宮処凛がゆく!」:「家賃を下げろデモ!~住宅問題でも声を上げ始めた若者たち〜の巻」

全国賃貸住宅新聞:新宿で学生ら120人がデモ 「住宅手当で家賃負担を下げろ」

The Japan Times:A rise in vacancies won’t mean drops in rent

デモの様子は秋山理央さん撮影の動画でも見ることができます。

秋山理央・動画(YouTube):家賃下げろデモ – 2016.6.12 新宿

「Call For Housing Democracy」のtumblr に、デモの中で私が行なったスピーチの内容がアップされたので、以下に転載します。

現在行われている東京都知事選挙でも、深刻化する住まいの貧困への対応が議論されることを願っています。

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住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人の稲葉剛です。

今から20年前、ここ新宿で、新宿段ボール村というホームレスの人たちのコミュニティが強制排除されるという事件がありました。当時はバブル経済が崩壊した後で、日雇い労働者の人たちが仕事がなくなって、路上生活に追い込まれ、新宿の西口で、段ボールハウスを作って、たくさん暮らしていました。そこを東京都が強制的に排除したわけですが、そのとき、野宿の人たちは、デモを行い、座り込みを行って、自らの居住権を守るために闘いました。

しかし、残念ながら、私もその現場にいたのですが、多くの人たちの反応というのは非常に冷たかった。仕事がなくなって住まいを失って、ホームレスになる。そして路上からも追い出されてしまう。そうしたことが、自分の身にも起こるとは、当時はほとんどの人が思っていませんでした。

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しかし、その後20年間、私たちの社会はどうなってしまったでしょうか。私は、この20年間ずっと、住まいを失った人たちの相談支援を行ってきましたが、10年ちょっとくらい前から、20代・30代の若い人たちの相談に乗ることが多くなってきました。私たちのNPOには、ワーキングプアで、あるいは仕事がなくなって住まいを維持できなくなり、ネットカフェに暮らしていたり、あるいは友だちのうちを転々としている、広い意味でのホームレス状態にある方が、次々と相談に来るという状況がなっています。

2年前、NPO法人ビッグイシュー基金が調べたアンケート調査では、20代・30代のワーキングプアの若者、親と別居しているワーキングプアの若者の実に13.5%が、広い意味でのホームレス状態を経験している。路上生活、ネットカフェ、友人宅での居候など、安定した住まいを失った経験があると答えています。13.5%です。7人・8人に1人の若者たちが、自分の住まいを確保することすらできず、この都会の中で、おそらくこの新宿のまちでも、漂流しながら不安定な生活を送らざるをえない、そういう状況が広がっています。

みなさん、新宿を歩いていらっしゃるみなさんも、家に住んでいると思います。賃貸住宅で暮らしている方も多いと思います。みなさんの家賃はいかがですか。みなさんの家賃、おいくらですか。みなさんの家賃を、みなさんの月の収入で割ると、どれくらいの割合になりますか。例えば、20万円の月給で暮らしている人が、6万円の家賃で暮らしている。これはもう30%を家賃で費やしているということになります。非常に苦しい生活です。
しかし、国の統計では、いま単身で賃貸住宅に暮らしている人の、家計支出の3割が家賃に費やされている。家賃のために働かざるをえないような状況が広がっているんです。しかもこれは全国の統計ですから、東京ではおそらく、3割どころか4割、人によっては5割を家賃に費やさざるをえない。そんな状況が広がっています。

かつてはごく一部の日雇い労働者の人たちの問題であった住宅喪失という問題、ホームレス化という問題が、今や、若い人たちにまで広がってしまっている。今ここの道を歩いている、デモ参加者だけでなく、沿道歩いているみなさんにいつ起こってもおかしくない、住まい喪失・住居喪失という問題が、現にあるということを私たちは見なければなりません。

私は思います。家賃の負担が苦しいなら声を挙げればいいんです。賃金が低くて困っているんなら、声を挙げればいいんです。奨学金の返済に困っているなら、声を挙げればいいんですよ。声を挙げないから、我慢しなくちゃいけないから、そういうふうに思いこんでいるから、変な方向にエネルギーが向かってしまう。
なにか、自分の隣にいる人がいい思いをしているんじゃないか、ねたんでしまうような気持が生まれてしまうんです。自分の権利のために声を挙げないから、生活保護の人がなにか楽をしているんじゃないかというふうにデマを信じてしまったり、在日の人たちが特権があるんじゃないかと妄想にとりつかれたり、そんな輩が出てくるんですよ。だから、みなさん、自分のために、自分の生活や自分の権利のために声を挙げましょう。

一か月後には選挙が迫っています。参議院選挙、この選挙は、私たちが、私たちの生活のために、私たちの権利のために、声を挙げる、そのための機会です。このチャンスを失ってしまえば、私たちはもう、ずっと耐え忍んで、黙らされてしまうかもしれない。

家賃の負担がつらい、声を挙げましょう。家賃を下げろと声を挙げましょう。給料が低い、困っている、給料上げろと声を出しましょうよ。奨学金の返済に困っている、保育園が見つからない、日々の生活どうしたらいいか分からない。そういう人たちが今やマジョリティなんですよ。マジョリティの私たちが声を挙げて、この社会を、この政治を変えていきましょう。

 

【参議院選挙】「住まいの貧困」対策に関する各党の見解が明らかになりました!

提言・オピニオン

私が世話人を務める住まいの貧困に取り組むネットワークでは、参議院選挙に向けて、主要政党に住宅政策に関するアンケート調査をおこないました。

その結果、民進党、日本共産党、生活の党と山本太郎となかまたち、社民党、おおさか維新の会の5党からご回答をいただきました。ありがとうございました。

残念ながら、自民党、公明党からは回答をいただけませんでした。

質問項目と回答結果は以下のとおりです。

 

1.住宅確保に特に配慮を要する人々への住宅支援策について、住宅セーフティネットの強化はどのような手段でなされるべきだと考えるか?

「1.公的な保証制度の拡充」、「2.低所得者への家賃補助」、「3.低所得者への敷金の貸付あるいは補助」、「4.家主への家賃補助」、「5.礼金請求等に関する規制」、「6.借上げ公営住宅の拡充」、「7.その他」、「8.わからない」から選択をしてもらう(複数回答可)。

民進:1、2、4に賛成
共産:1、2、3、6、7に賛成
生活:1、2、3、4、6に賛成
社民:1、2、6、7に賛成
お維:7に賛成

2.低所得の働く若年単身世帯への家賃補助は、「必要」か、「必要ない」か?

民進:必要
共産:必要
生活:必要
社民:必要
お維:必要ない(別施策で手当て)

3-1.準公営住宅の供給は、「必要」か、「必要ない」か?

民進:どちらともいえない
共産:必要
生活:必要
社民:必要
お維:無回答

3-2.低所得の若者を公営住宅の裁量階層に含めることは、「必要」か、「必要ない」か?

民進:どちらともいえない
共産:必要
生活:必要
社民:必要
お維:無回答
「その他」の意見内容や各項目に関するコメントは下記をご覧ください。

 

政党アンケート結果1

 

政党アンケート結果2

 

「野党共闘」を進めている民進、共産、生活、社民の4党が「低所得者向けの家賃補助」、「低所得の働く若年単身世帯への家賃補助」、「公的な保証制度の拡充」が必要である、という点で一致しました。

ぜひこのアンケート結果を参議院選挙の投票の参考にしていただければと思います。また、選挙戦において住宅政策が争点となるよう、引き続き、働きかけていきます。

 

日本社会で貧困が「再発見」されてから10年。貧困対策は進んだのか?

提言・オピニオン

参議院選挙の投票日(7月10日)まで一ヶ月を切りました。

この選挙の争点の一つが、子ども、若者、高齢者など、世代を越えて拡大する国内の貧困問題への対応であることは言うまでもありません。しかし、今からたった10年前には、国内の貧困が政治的な課題になる、ということは全く想像もできないような状況でした。

1990年初頭のバブル経済崩壊以降、路上生活者など生活に困窮する人の数は増加の一途をたどっていましたが、当時はそのことを国内の貧困問題として認識する人はほとんどいませんでした。

貧困が注目され、可視化されるようになったきっかけは、皮肉にもその存在を否定しようとした当時の大臣の発言です。

2006年6月16日付け「朝日新聞」朝刊に掲載されたインタビューの中で、小泉政権の経済政策を担ってきた竹中平蔵総務大臣(当時)は「社会的に解決しないといけない大問題としての貧困はこの国にはない」と明言したのです。

今から見ると、噴飯ものの発言ですが、ただ、こうした認識は2006年時点では珍しくありませんでした。

国会議事堂

当時、NPO法人もやいには、NHKの『ワーキングプア』取材班など、複数のテレビ局チームが常時、生活困窮者支援の現場の取材に来ていましたが、その取材クルーが苦労していたのは、それぞれの局の上層部に「日本で貧困が広がっている」ということを前面に打ち出した番組を放映することを認めさせることでした。

政治家だけでなく、マスメディアの関係者の間でも2006年の時点では、「国内に深刻な貧困問題は存在しない」という認識が一般的だったからです。

竹中発言に憤りを覚えたもやい事務局長(当時)の湯浅誠は、国内の貧困問題を可視化するための新たな運動を始めることを決意し、「反貧困」をスローガンとした社会運動を展開していくことになります。

そして、それが2008~2009年の「年越し派遣村」につながる動きへと発展し、ようやく貧困が政治の場で議論される状況が生まれていきました。

その意味で、今年の夏は日本社会で貧困が「再発見」されてから、ちょうど10年という節目の年にあたると言えます。

この10年間、国内に貧困問題が存在することは誰の目にも明らかになりました。子どもの貧困対策法や生活困窮者自立支援法といった貧困対策を打ち出した法律も制定されました(特に後者の法律にはさまざま問題がありますが)。

しかし、貧困対策のかなめである生活保護の基準は引き下げられ、アベノミクスは国内の格差と貧困をさらに拡大させています。

この10年の間に、国内の貧困はどのように変化し、貧困対策はどこまで進んだのか。参議院選挙を通して問うていきたいと思います。

関連記事:仕事さえあれば、貧困から抜け出せるのか?~生活困窮者自立支援制度の問題点

 

「家賃下げろデモ」&若者の住宅政策・政党アンケートにご注目を!

提言・オピニオン

6月12日(日)、若者を主体とする CALL for HOUSING DEMOCRACY による「家賃下げろデモ」がおこなわます。
この間、安全保障関連法反対や最低賃金引き上げなど、さまざまなイシューで若者による社会運動が盛んになっていますが、住宅政策に関する若者主体のデモは初めてになります。
ぜひご参加ください。報道関係者の方は取材をお願いします。

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以下は主催団体によるステートメントです。ぜひご一読ください。

call for housing democracy/住宅政策にデモクラシーを

わたしたちは、すべての人が住宅を自分たちの意思に基づいて選択でき、全ての人が文化的な生活を営める住宅政策の実現を求めます。

今日、多くの人びとにとって住まいは安心ではなく不安の元となっています。持家に住む人にとっても、賃貸に住む人にとっても、 住居費負担は増える傾向にあります。とりわけ多くの若者・高齢者は収入のほとんどを住居費に費やしています。 親元を離れて自立できない若者の増加が指摘されますが、その多くは高い住居費を理由とした「望まない選択」です。 ビッグイシューの調査によれば、 20 代/30 代で未婚・年収 200 万円未満の若者は、4 分の 3 が親元にいるとされています。 東北・熊本で相次ぐ震災で家を失った被災者は、将来の住まいについて大きな不安を抱えています。街中でネットカフェ難民が増え脱法ハウスが蔓延する背景にも、良質・低廉な住宅の不足があります。こうした現状に住宅政策によって対応することは喫緊の課題です。

日本では、 長いあいだ「 持家重視」の住宅政策が行われてきました。 これまでの雇用・家族を前提として人生計画を立てローンを組むことを政策的に援助してきたのです。反面、このような政策は「賃貸軽視」でもありました。日本の公営住宅は少なく、国際的に見てもわずかしか供給されていません。近年、 雇用や家族のあり方が変わった結果、 個人や世帯にとって選択肢たりえる賃貸住宅がないことによって、生活の土台が掘り崩されています。

わたしたちは、 現在の住宅政策のオルタナティブとして、 住宅手当の抜本的拡充を求めます。 これによって、入居者にとって住宅の選択の幅が広がるだけでなく、住宅費の負担も軽減されます。 現在、公営住宅の倍率は数十倍にも及びます。公営住宅を抜本的に拡大しないことには、入居できる人とできない人との不公平を解消できません。 このように、賃貸住宅に公的に支援を行うことによって、 持家取得を多くの人びとにとってよりゆとりをもった選択肢とすることができます。すべての人びとが安心できる住宅市場をつくるためには、政策の重点を民間賃貸で暮らす人びとの必要に置き、住宅手当による居住の安定という「ボトムアップ型」の住宅政策からはじめるべきです。

そのためには、住宅問題に取り組むことを公的責務として捉えることが必要とされています。現在、政治の場で「住宅」が重要な争点とされることはほとんどありません。持家重視の政策の背景にある、住宅問題を「 個人の甲斐性」「 自己責任」であるという認識を転換する必要があります。 すべての人びとの必要に見合うかたちで十分な住宅を保障することは公的責務です。

第 2 回国連人間居住会議「 ハビタットⅡ」において、居住の権利は基本的人権として国際的に認められています。 これまでの住宅政策は、経済成長を優先し居住の権利を軽視してきました。 これからの住宅政策は、 憲法 25 条の精神に基づいた権利としての政策へと、その基本理念と方向性を転換する必要があります。 すべての人びとに十分で安定した居住を保障するため、わたしたちは住宅手当の拡充による民主的な住宅政策の実現を求めます。

住宅手当で家賃を下げろ、住宅保障に税金使え、 住宅にデモクラシーを!

 

若者の住宅政策に関する政党アンケートを実施!14日に発表します。

また、私が世話人を務める住まいの貧困に取り組むネットワークでは、参議院選挙に向けて各政党に「低所得の働く若者対象の住宅セーフティネット施策」に関するアンケート調査を実施しています。
若年層の住まいの貧困が広がっていることを受けて、家賃補助や準公営住宅の設置等の必要性について、主要政党の見解を求めています。

このアンケート結果は、6月14日(火)に開催される「住まいは人権デー」集会で発表されます。

6月14日(火) 「住まいは人権デー」の夕べ ―住宅セーフティネットと若者の住宅問題

こちらもぜひご注目ください。

これらの動きを通して、深刻化する住宅問題を参議院選挙の争点にしていきたいと思います。ご協力よろしくお願いします。

関連記事:障害者差別解消法施行!障害者への入居差別はなくせるのか?

 

「住まいは人権」から20年。今こそ、住宅政策の転換を!

提言・オピニオン

今から20年前の1996年6月、トルコのイスタンブールで第2回国連人間居住会議(ハビタットⅡ)が開催されました。ハビタットⅡは、20世紀の後半、世界各国で都市への人口集中が進み、住民の居住環境の悪化が深刻な社会問題となったことを踏まえ、人類が直面する居住問題の解決に向けた取り組みを促進するために開催されました。

会議には、各国の政府代表だけでなく、地方自治体、NGO、研究者、企業などが参加。6月14日に採択されたイスタンブール宣言では、「人間にふさわしい住まいは、命の安全、健康、福祉、教育や本当の豊かさ、人間としての尊厳を守る基礎であり、安心して生きる社会の基礎である」という前提のもと、「適切な居住への権利」は基本的人権であることが宣言され、各国政府は居住権の保障を自国の住宅政策の最重要課題として進めていくことを確認し合いました。

イスタンブール宣言には日本政府も署名しました。日本政府も「住まいは人権」であることを認め、住宅政策を拡充していくことを国際的にも確約したわけです。

それから20年経って、国内の住まいをめぐる状況はどうなったでしょうか。

住まいの貧困の極限形態であるホームレス問題については、2006年以降、生活保護の運用を改善させる運動が広がったことにより、路上生活をせざるをえない人は減りつつあります。
しかし、民間の賃貸住宅市場で高齢者や障害者、外国籍の住民といった人々が住宅を借りにくい状況は改善されておらず、高齢者や障害者の「入居に拒否感がある賃貸人の割合」はむしろ高まっています。

国土交通省資料「入居選別の状況」

また、国内の貧困が若年層にまで広がったことにより、若者の住宅問題も深刻化しています。2000年以降は、ワーキングプアの若者がネットカフェや脱法ハウスといった不安定な居所で暮らさざるをえない状況が大きく広がりました。

2014年に、私も参加したビッグイシュー基金・住宅政策提案・検討委員会による調査では、首都圏と関西圏に暮らす年収200万円未満の未婚の若者のうち、6.6%が広い意味のホームレス状態を経験していることが明らかになりました。親と別居している若者に限定すると、その割合は13.5%にのぼります。

*「若者の住宅問題」調査の詳細は以下の画像をクリックしてください。

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このように、まだまだ日本国内では「住まいは人権」が確立されたとは言えない状況があります。

国内の住宅問題に取り組む諸団体は、イスタンブール宣言が出された6月14日を「住まいは人権デー」と位置づけ、毎年、記念のイベントをおこなってきました。

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今年の「住まいは人権デー」では、「住宅セーフティネットと若者の住宅問題」をテーマにした集会を開催します。

6月14日(火) 「住まいは人権デー」の夕べ ―住宅セーフティネットと若者の住宅問題

また、6月12日(日)には若者を主体とするCALL for HOUSING DEMOCRACY が「家賃下げろデモ」をおこないます。

6月12日(日) CALL for HOUSING DEMOCRACY 家賃下げろデモ at 新宿

これらの一連の行動を通して、今夏の参議院選挙でも住宅政策の転換を争点に押し上げたいと考えています。

ぜひ多くの方のご参加、ご協力をお願いいたします。

関連記事:障害者差別解消法施行!障害者への入居差別はなくせるのか?

 

障害者差別解消法施行!障害者への入居差別はなくせるのか?

提言・オピニオン

今年4月に障害者差別解消法が施行されて、1ヶ月が経ちました。

この法律は、2006年に国連総会で採択された障害者権利条約を日本が批准するために制定された法律の一つで、日本社会から障害を理由とする差別をなくしていくことを目的としています。

法律は差別を解消するための措置として、民間事業者に対しても「差別的取扱いの禁止(法的義務)」と「合理的配慮の提供(努力義務)」を課しており、その具体的な対応として、それぞれの分野の担当大臣は事業者向けの対応指針を示すことになっています。

住宅の分野では昨年12月、国土交通省が宅建建物取引業者を対象とした対応指針を公表しました。指針では「差別的な取扱い」として禁止する行為として、以下のような事例が挙げられています。

・物件一覧表に「障害者不可」と記載する。
・物件広告に「障害者お断り」として入居者募集を行う。
・宅建業者が、障害者に対して、「当社は障害者向け物件は取り扱っていない」として話も聞かずに門前払いする。
・宅建業者が、賃貸物件への入居を希望する障害者に対して、障害があることを理由に、賃貸人や家賃債務保証会社への交渉等、必要な調整を行うことなく仲介を断る。
・宅建業者が、障害者に対して、「火災を起こす恐れがある」等の懸念を理由に、仲介を断る。
・宅建業者が、一人暮らしを希望する障害者に対して、一方的に一人暮らしは無理であると判断して、仲介を断る。
・宅建業者が、車いすで物件の内覧を希望する障害者に対して、車いすでの入室が可能かどうか等、賃貸人との調整を行わずに内覧を断る。
・宅建業者が、障害者に対し、障害を理由とした誓約書の提出を求める。

障害を理由に賃貸住宅への入居を断る行為は、以前から人権侵害だとして行政機関による指導の対象になっていましたが、法律が施行されたことにより、明確に「違法」だと認定できるようになったと言えます。

2010年には東証一部上場企業の大手不動産会社が、入居者と結ぶ賃貸借契約書に「入居者、同居人及び関係者で精神障害者、またはそれに類似する行為が発生し、他の入居者または関係者に対して財産的、精神的迷惑をかけた時」は契約を解除するという条項を設けていたことが判明し、大阪府が改善を指導。この会社が問題の条項を削除し、障害者団体などに謝罪する、という出来事がありました。今後、こうした「明文化された形での入居差別」はなくなっていくと思われます。

国交省が公表した対応指針では、努力義務である「合理的配慮」の事例もあげられています。例えば、「多くの事業者にとって過重な負担とならず積極的に提供を行うべきと考えられる事例」としては、「障害者が物件を探す際に、最寄り駅から物件までの道のりを一緒に歩いて確認したり、一軒ずつ中の様子を手を添えて丁寧に案内する」という行為が例示されています。

法律の施行と国交省の対応指針によって、障害者は賃貸住宅に入居しやすくなるのでしょうか。先ほど、「明文化された形での入居差別」はなくなるだろうと述べましたが、逆に言えば、「明文化されない、明示されない形での入居差別」はなかなかなくならないのではないか、と私は感じています。

大阪府と不動産に関する人権問題連絡会が2009年に、府内の全宅建業者を対象に実施した調査では、22・7%の業者が「障害者については家主から入居を断るように言われた」と回答しています。こうした家主の意識はすぐには変わらないため、明白に法律違反だと見なされるような形での入居差別は減っていくでしょうが、はっきりと理由を言わないで入居を事実上、拒否するケースはむしろ増えるのではないかと懸念しています。

昨年、日本賃貸住宅管理協会が管理会社に対して実施したアンケート調査結果でも、障害者のいる世帯の入居を「拒否している」と答えた賃貸人の割合が2・8%と、五年前の同調査から1・2ポイント減少したのに対して、「拒否感がある」と答えた賃貸人の割合は74・2%と、前回よりも21・3ポイントも増加してしまいました。「拒否している」と明言するのは不適切だという認識は広がっているものの、四人のうち三人が「なるべくなら入れたくない」と思っているのでは、部屋探しのハードルは高いままでしょう。

国土交通省資料「入居選別の状況」

昨年、全国賃貸住宅経営者協会連合会は、宅建業者、管理業者、家主向けに「障害者差別解消法について充分にご理解いただき、障害のある方々への適切なご配慮にお努めください」というタイトルのパンフレットを作成し、配布を始めました。家主の意識は一朝一夕には変わらないでしょうが、地道な啓発活動が求められています。

全国賃貸住宅経営者協会連合会パンフレット(PDF)

ちんたい協会パンフ

※関連記事:今後10年の住宅政策の指針が閣議決定!パブコメは反映されたのか?

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