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【2021年6月25日】外国人を医療や福祉から排除する日本の公的制度~コロナ禍で困窮に拍車

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※初出:朝日新聞社「論座」サイト 連載「貧困の現場から」 2021年6月25日   人権ふみにじる入管法「改悪」、市民社会の力で政府が断念 2021年5月18日、政府・与党は人権上のさまざまな問題点が指摘されて…

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【2020年7月14日】朝日新聞「私の視点」欄に「コロナ禍の困窮者対策/災害時と同様の住宅支援を」が掲載。

メディア掲載 提言・オピニオン

2020年7月14日付け朝日新聞朝刊「私の視点」欄に、「コロナ禍の困窮者対策 災害時と同様の住宅支援を」が掲載されました。

コロナ禍の困窮者対策/災害時と同様の住宅支援を

 

今年3月以降、不動産の賃貸契約を結ぶため、印鑑を押印するのが日課のようになっている。コロナ禍の影響で、仕事と住まいを失った人たちを受け入れる個室シェルターの増設を進めているからだ。

個人や企業からの寄付金をもとに、新たに借り上げた都内の民間アパートの部屋は、まもなく30室に達する。各部屋には、着の身着のままの状態の人がすぐに入居できるように、購入した家電製品と布団を搬入しているが、搬入の数時間後には入居者を迎え入れている部屋も少なくない。以前から借り上げている25室も活用しながら、連日、行き場を失った10代から70代の男女を受け入れているが、シェルターの整備は追いつかない状況だ。最近はペットの犬や猫と一緒に路頭に迷う人も出てきているので、ペットとともに暮らせるシェルターも整備する予定だ。

民間の私たちが個室シェルターの整備に奔走しなければならないのは、行政の支援からこぼれ落ちる人が続出しているからだ。東京都は今年4月、ネットカフェへの休業要請により寝泊まりをする場を失った生活困窮者に対してビジネスホテルの提供を開始したが、都内に約4000人いるネットカフェ生活者のうち、支援を受けられた人は約3割にとどまった。私たちのもとには、「都の窓口で相談したが、対象外と言われたので、野宿をせざるをえなくなった」「都と区の窓口をたらい回しにされた」「所持金がなくなり、生活保護を申請したら、ネットカフェより居住環境の悪い相部屋の民間施設に連れて行かれた」といった相談が相次いだ。また、ホテルの後に移れる一時的な住宅の提供も一部の人に限定されたため、6月以降、ネットカフェに戻らざるをえなくなった人も少なくない。

私たちは都に支援策の改善を求める一方、国に対しても災害時と同様の大規模な住宅支援の実施を求めてきた。近年、災害時には、行政が民間賃貸住宅の空き家を借り上げて、被災者に提供する「みなし仮設」方式の住宅支援が実施されているが、コロナ禍も「災害」と認定すれば、住まいを失った人に住宅を直接提供することは可能なはずだ。この提言は4月の国会審議で野党の提起で議論されたが、国の2次補正予算に盛り込まれることはなかった。

感染症の終息が見通せない中、経済危機は長期化の様相を呈している。今後、さらに住まいを喪失する生活困窮者が急増しかねない状況だ。私たち民間支援団体の努力も限界に達しつつある。「ステイホーム」をするべき「ホーム」を失った人をどう支えるのか。国の存在意義が問われている。

 

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事 稲葉剛

住居喪失者への支援において「個室対応」が原則化されました!

提言・オピニオン

東京都に緊急事態宣言が発令されて以降、ネットカフェ休業により行き場をなくした人たちへの緊急支援を連日、行なっています。

つくろい東京ファンド等の民間団体による支援の情報、行政による支援の情報は、こちらの記事にまとまっているので、ご参考にしてください。

コロナ禍で住まいを失う人が相談できる窓口紹介(東京)随時更新中|北畠拓也 #note 

ネットカフェへの休業要請にあわせて、東京都はビジネスホテルを活用した緊急の宿泊支援を始めていますが、生活保護を申請した人に対して、各区・市があいかわらず、相部屋の民間施設への誘導を行なっていました。

詳しい状況については、下記の記事をご参照ください。

ネットカフェ追われた人々…ビジネスホテルに入れず、劣悪な「三密施設」に移る可能性も|弁護士ドットコムニュース

新型コロナ福祉のダークサイド、ネットカフェ難民が追いやられた「本当の行き先」 

 

厚生労働省が新たな事務連絡を発出!

私たちの抗議、そして様々な立場の方からの働きかけにより、4月17日(金)、厚生労働省は、「新たに居住が不安定な方の居所の提供、紹介等が必要となった場合には、やむを得ない場合を除き個室の利用を促すこと、また、当該者の健康状態等に応じて衛生管理体制が整った居所を案内する等の配慮をお願いしたい」‬という内容の事務連絡を各自治体に発出しました。

これにより、少なくとも新規の相談者については、個室対応とするという原則が確立しました。

 

4月17日厚生労働省保護課・自立支援室の事務連絡(PDF)

 

東京都も「原則、個室対応」へと方針転換!

これまで私たちの抗議に対して、「従来の制度の運用は変えられない」と頑なな姿勢を崩さなかった東京都の保護課も、厚労省の事務連絡を受けて、方針転換。17日夕方、各区・市に「原則、個室対応」を伝える新たな事務連絡を出しました。

4月17日東京都保護課の事務連絡(PDF)

 

多くの方々が声をあげてくださったおかげで、「新型コロナウィルスの感染が拡大する中、相部屋の施設に誘導するのをやめさせる」という当たり前の原則をようやく確立させることができました。ありがとうございます。

ただ、厚労省から事務連絡が出たからと言って、ひと安心というわけではありません。これまでも自治体の職員が厚労省の事務連絡の内容を知らない、知っていても守らないということは、よくありました。

住まいがない状態で役所に相談に行かれる方は、ぜひ「原則、個室対応」という事務連絡が4月17日に出ていることを担当者に伝えてください。

各地で生活困窮者の相談支援をしている方々も、ぜひこの事務連絡を活用していただければと思います。

 

残された課題に取り組みます。

また、依然として下記の課題が残っています。

東京都では、民間の施設(無料低額宿泊所)がビジネスホテルに優先されるという点は変わっていません。

せっかくビジネスホテルを確保したにもかかわらず、出し惜しみをする都の姿勢を変えさせなくてはなりません。

コロナ危機以前から、相部屋の施設に入れられていた生活保護利用者の環境を改善させるという課題も残っています。

少なくとも、希望する人については早期の居宅移行か、ビジネスホテルへの転居を進めるべきです。

引き続き、残された課題にも取り組んでいきたいと思います。

つくろい東京ファンドでは、空き家・空き室を活用した独自の住宅支援も進めています。

新型コロナの影響で住まいを失った方を支えるため、個室シェルターを増設します!|つくろい東京ファンド

私たちの活動へのご支援、ご協力を引き続き、よろしくお願いします。

 

家賃が払えない!生活費が尽きた!そんなあなたにできることは?(2)生活再建編

提言・オピニオン

(1)住宅維持編は、こちら。
http://inabatsuyoshi.net/2020/03/29/3725

 

生活を再建するために制度の活用を!

部屋から追い出されないためにできることを説明してきましたが、もちろん、家賃の滞納が続くのは、誰にとっても望ましいことではないので、同時に生活の再建を進める必要があります。

すでに全国各地の社会福祉協議会で、緊急小口貸付の特例措置が始まっています。貸付ですが、状況によっては償還が免除され、「返さなくてもよい」となることもあります。

生活福祉資金の特例貸付が本日から開始ー状況次第で10〜80万円がもらえる償還免除もありー(藤田孝典) – Y!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/fujitatakanori/20200325-00169705/

「新型コロナウイルス感染症を踏まえた⽣活福祉資⾦制度による緊急⼩⼝貸付等の特例貸付が⾏われます」(全国社会福祉協議会)
https://www.shakyo.or.jp/coronavirus/shikin20200324.pdf

 

失業によって家賃の支払いが困難になった人(まだ一定の貯金がある方)は、生活困窮者自立支援法に基づく「住居確保給付金」制度の活用を考えましょう。再就職までの間(3~9ヶ月間)、住宅の家賃を補助してくれる制度です。
相談は、各自治体の生活困窮者自立支援制度の窓口になります。

生活困窮者自立支援制度(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000073432.html

住居確保給付金は、従来、65歳未満しか使うことができませんでしたが、4月1日支給分から年齢制限が撤廃されました。

新型コロナウイルスに関連した生活困窮者自立支援法に基づく住居確保給付金の活用について
https://www.mhlw.go.jp/content/000605807.pdf

 

貯金も尽きてきた方は、最後のセーフティネットである生活保護の申請をお勧めします。
生活保護に関しては誤解やデマが多いので、躊躇する方が多いのですが、以下の資料を読んで、正しい知識を得ていただければと思います。

「生活保護」は、働いていても、若くても、持ち家があっても、車があっても申請可能です – BIG ISSUE ONLINE
http://bigissue-online.jp/archives/1017549370.html

生活保護に関するQ&A
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-3.html

 

生活保護の申請は、各自治体の福祉事務所(生活福祉課等の名称)でできますが、適切に対応してくれない場合は、各支援団体や法律家にご相談ください。

 

生活保護のことで相談したい場合は、こちらへどうぞ(相談先リスト)
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-category-22.html

 

厚生労働省は、3月10日に「新型コロナウイルス感染防止等に関連した生活保護業務及び生活困窮者自立支援制度における留意点について」という事務連絡を各地方自治体に発出しています。

新型コロナウイルス感染防止等に関連した生活保護業務及び生活困窮者自立支援制度
における留意点について
https://www.mhlw.go.jp/content/000609561.pdf

 

この中で厚労省は、リーマンショック時に発出した通知を再掲した上で、各自治体に以下のことを求めています。

・庁内の各部局が連携しながら生活困窮者に適切な支援を実施すること。

・特に住まいに困窮している人には様々な制度や社会資源を活用して一時的な居所の確保に努めること。

・福祉事務所は生活保護制度について十分な説明を行い、保護申請の意思を確認すること。

・生活に困窮する方が、所持金がなく、日々の食費や求職のための交通費等も欠く場合には、生活福祉資金貸付を活用したり、可能な限り速やかに保護を決定すること。

特に3点目については、「保護の申請書類が整っていないことをもって申請を受け付けない等、法律上認められた保護の申請権が侵害されないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべきであることに留意願いたい」と各自治体に「水際作戦」(生活保護を必要としている人を窓口で追い返すこと)を実施しないよう、改めて釘を刺しています。

生活保護の申請に行く時に、この事務連絡をプリントアウトして持っていくのも効果的でしょう。

 

政府に対して、現金給付を求めよう!

すでにある制度について、正しく理解し、フルに活用するのと同時に、今回のような非常事態には政府に対して特別な支援策を求めていくことも大事です。

残念ながら、私たちが黙っていると、「和牛券」、「お魚券」のような生活再建に全く役立たない制度に予算がつけられてしまいます。

すでに家賃の支払いに困っている人が出ている状況を踏まえると、対象者を限定せずに、一律に現金を配るのが一番早いと私は考えます。

政府は、日本社会に暮らしている人全員に対して、思い切った額の現金給付を「大胆」に「躊躇なく」行なうべきです。

すでに困っている人も、まだ困っていない人も、SNS等を通して、「家賃を払えるように、早く現金をよこせ」という声をあげていきましょう。

 

家賃が払えない!生活費が尽きた!そんなあなたにできることは?(1)住宅維持編

提言・オピニオン

コロナ危機の影響で、収入が減少し、アパートやマンションの家賃を払うのが難しくなっている人が増えつつあります。

家賃が払えなくなったら、誰でも慌てると思います。でも、「もうダメだ」と思い、荷物をまとめて夜逃げをするのは、最悪の手段です。

一度、住まいを失ってしまうと、仕事を探す上でも不利になり、「住まいがないから仕事が見つからない」→「仕事がないから住まいを確保できない」という貧困のスパイラルにおちいってしまうことがあるからです。

もちろん、ホームレス状態になってからもそこから抜け出す手段はありますが、せっかく今ある部屋や家電製品などをみすみす失う必要はありません。

家賃を払えなくなった時にすべきことは2つあります。それは「部屋から追い出されないようにすること」と「生活を建て直していくこと」です。

以下にそれぞれ、どんな方法があるか、見ていきましょう。

あなたには「居住権」がある!

家賃を払えなくなったら、すぐに部屋を出ないといけないと思い込んでいる人は多いのですが、借家人には借地借家法に基づく「居住権」があります。

私が世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」では、コロナ危機を踏まえて、「すべての家主、不動産業者、家賃保証会社への緊急アピール」を発表しました。

すべての家主、不動産業者、家賃保証会社への緊急アピール ~家賃滞納者への立ち退き要求を止め、共に公的支援を求めましょう~
http://housingpoor.blog53.fc2.com/blog-entry-328.html

その中にも書きましたが、家賃を滞納した借家人(借主)に対して、家主や不動産業者、家賃保証会社などが裁判を経ずに、強制的に立ち退かせるのは違法行為です。こうした行為をした家主や業者は、民事上の責任だけでなく刑事上の責任も問われることがあります。

また、「緊急アピール」では、政府が充分な支援策を行なっていないから家賃を滞納せざるをえない人が増えているので、家賃滞納問題を解決するためにも、「大家さんも一緒に政府に公的支援の拡充を要求しましょう」と呼びかけています。

もし家主や不動産業者が家賃の滞納について問い合わせてきたら、この「緊急アピール」をプリントアウトして、渡してみてください。

もし「出ていけ」と言われたら

そうは言っても、強硬な手段に出てくる家主や業者もいることでしょう。

過去には2007年頃から数年間、賃貸住宅からの「追い出し屋」被害が社会問題になった時期がありました。
一部の家主や不動産屋、家賃保証会社が、家賃を滞納した人に対して、執拗に電話で督促する、訪問してきて玄関先で大声で取り立てる、ドアに貼り紙を貼る、強制的に鍵を交換する、荷物を撤去したりするなどの行為を行ない、「追い出し屋」として恐れられました。

「追い出し屋」への社会的批判が広がり、被害者への損害賠償を認める判決が相次いだため、近年は露骨な追い出し行為は少なくなってきていますが、今でも被害が根絶されたわけではありません。

これらの行為は違法行為ですので、もし被害を受けたら、まずは冷静になって、記録に残しましょう。

・電話であれば、かかってきた回数や時間、相手の名前、なにを言っているか、といったことをメモに残しましょう。
・貼り紙を張られていたとしたら、写真撮影をして記録しましょう。
・書面が送られてきて、違約金を支払えと要求されたら、その書面を捨てずに記録として残しましょう。

きちんと記録を取っていれば、後日、被害を訴えたり、損害賠償を求めることができるからです。

また、家主や業者が家に来て、支払いを約束させた上で、「支払えなければ部屋を出て行きます」という旨の「合意書」や「念書」を書くように求めてくるかもしれません。

その場合は、すぐにその場でサインをせず、「専門家に相談します」と言って、その場はお引き取り願いましょう。

賃貸住宅からの追い出しに関する相談は、全国の消費生活センター、借地借家人組合、法律家などが行なっています。立ち退きを要求されたら、早めに相談をしてください。

*追い出し屋に関する相談窓口

消費者ホットライン(全国共通188)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/local_cooperation/local_consumer_administration/hotline/

全国借地借家人組合連合会
http://www.zensyakuren.jp/kakuchi/kakuchi.html

住まいの貧困に取り組むネットワーク 
メール:sumainohinkon@gmail.com

全国追い出し屋対策会議
http://sikikinmondai.life.coocan.jp/oidasiya/zenkokugaigi.htm

家賃保証会社への規制は強化されている

過去に悪質な追い出しを行なった業者の中には、多くの家賃保証会社が含まれていました。

家賃保証会社は保証人の代わりをしてくれる業者ですが、家賃滞納が発生すると、家主に家賃を立て替えなければならなくなるため、入居者を追い出そうとする傾向があります。

この問題に対して、国土交通省は2009年2月、日本賃貸住宅管理協会に対して、「家賃債務保証業務の適正な実施の確保について」という要請文を送付しています。

この中で、国交省は「物件への立入り」や「物件の使用の阻害」(ロックアウト)、「家賃債務保証会社による賃借契約の解除」、「物件内の動産の搬出、処分」等は不法行為に該当する可能性があるので、実施しないようにと諫めています。

「家賃債務保証業務の適正な実施の確保について」
https://www.mlit.go.jp/common/000033066.pdf

2017年には民間賃貸住宅の空き家を住宅に困っている人のために活用する「新たな住宅セーフティネット制度」が始まりました。

この制度の中には、登録されている住宅に入居する人に対して、行政が家賃保証会社の保証料を補助する仕組みも作られたのですが、違法行為をする家賃保証会社に補助金が流れるのはおかしいという批判を踏まえ、国交省はこの制度に登録をする家賃保証会社に対する規制を導入しました。

もし登録をしている家賃保証会社が「賃貸住宅の賃借人その他の者に著しい損害を与え、又は与えるおそれがあると認められる違反行為」をした場合、登録を取り消されることになります。

家賃債務保証業者に対する登録の取消し等の措置基準
https://www.mlit.go.jp/common/001283718.pdf

今年3月12日時点で、この制度に登録をしている家賃保証会社は71社です。もしこれらの会社が違法行為をした場合、国土交通省に通報をして、登録取り消しを求めることができます。

登録家賃債務保証業者一覧
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr7_000028.html

家賃保証会社が入っている賃貸借契約を結んでいる人は、その保証会社がこの登録リストに入っているかどうか、確認をしておきましょう。

リストに入っていれば、「下手なことをすると、国交省に通報しますよ」と言うことができます(リストに入っていない業者でも国交省への通報は有効です)。

万が一、部屋から追い出されたら

専門家に相談をして、部屋から出されないに越したことはありませんが、万が一、追い出されたとしても、被害の救済を求めることもできます。
これまで30件を越える民事訴訟が提訴され、そのほとんど全部で原告(被害者)側が勝訴(または勝訴的な和解)しています。

家賃を滞納したら勝手にカギを変えられた! 「追い出し屋」の手法は許されるのか?|弁護士ドットコムニュース
https://www.bengo4.com/c_1012/c_10/n_1445/

「母の形見も捨てられた」家賃滞納で「追い出し屋」が家財道具処分…被害実態を聞く|弁護士ドットコムニュース
https://www.bengo4.com/c_5/n_4621/

鍵穴ふさいで家賃滞納の住民「追い出し」、家財道具処分…大家に慰謝料支払い命令|弁護士ドットコムニュース
https://www.bengo4.com/c_1012/n_7609/

 

裁判所も、「追い出し屋」被害を深刻に受け止めており、2012年3月9日の東京地裁判決では、部屋をロックアウトし、荷物を無断で廃棄した管理業者と仲介業者に対して、計220万円(財産的損害100万円、慰謝料100万円、弁護士費用20万円)の損害賠償を求める判決が言い渡されています。

日本では、行政でも、司法でも「賃貸住宅からの追い出し行為は違法で、許されない」ということは争いようのないルールとなっています。

ぜひそのことを知っておいていただければと思います。(2「生活再建編」につづく)

台東区の避難所問題。当事者への謝罪と検証・改善を求める要望書を提出。

提言・オピニオン

台風19号が関東地方に襲来した10月12日、東京都台東区の自主避難所で路上生活者が受け入れを拒否されるという事件が発生しました。

東京の東部地域で生活困窮者支援活動を展開している一般社団法人「あじいる」は、本日(21日)、台東区に要望書を提出しました。

要望書には多数の団体や個人が賛同をしています。

私は要望書の作成段階から「あじいる」に協力し、賛同者として本日の要望書提出にも同行させていただきました。

その後、開催された台東区議会決算特別委員会の冒頭、台東区長は改めて「台風19号の際に、路上生活者の方に対する対応が不十分であり、避難できず、不安な夜を過ごされた方がおられたことにつきましては、大変申し訳ありませんでした」と陳謝しました。

しかし、要望書にもあるように、住まいのない人を拒否するという判断は「不十分」というレベルで済む話ではなく、台東区災害対策本部によって組織的に決定されたものです。このような決定が行われたプロセスを明らかにし、排除された当事者に届く形で謝罪をしていただきたいと願っています。

また、再発防止のため、今後の災害対策において災害対策基本法の理念を遵守し、当事者・支援団体の意見を聞くこと、生活保護を含めた日常業務を検証・改善し、職員への人権研修を実施すること等も求めています。詳しくは下記の要望書全文をご覧ください。

「あじいる」は、10月末までの回答を求めています。引き続き、この問題へのご注目をお願いします。

******************************************

台東区への要望書
災害対策からホームレスの人々を排除した件について

台東区長 服部征夫 殿

2019年10月21日
一般社団法人あじいる
代表 今川篤子
(事務局)
〒116-0014
東京都荒川区東日暮里1-36-10

日頃、大変お世話になっております。このたび、上記の件につき、申し入れをさせていただきたく、お願い申し上げます。

台風19号が接近し、メディアではさかんに「命を守る行動を!」と呼び掛けている中、台東区災害対策本部は、ホームレスの人々(路上生活だけでなく、ネットカフェ生活など広い意味でホームレス状態にある人)を避難所には入れないという決定をしました。
ホームレスの人々を、災害対策の対象から除外するということは、行政として命を守らないということを宣言したことになります。災害対策基本法は、その目的(第1条)として「国民の生命、身体及び財産を災害から保護する」と掲げ、基本理念(第2条の2)として、「人の生命及び身体を最も優先して保護すること」と定めていますが、この目的・理念を逸脱しています。
家がないという状態が、災害に対して最も弱い存在になるということは、言うまでもありません。

台東区は拒否をした理由として「事実として、住所不定者の方が来るという観点がなく、援助の対象から漏れてしまいました」と報道関係者に説明しています。台東区は、山谷を抱える地域であり、ホームレスの人々が多く住んでいる地域であるにもかかわらず、住所がない人たちの存在を想定していなかったというのは、日常の業務の中でも、その人たちの命や人権を守るという意識が欠如していたからではないでしょうか。
私たちは、災害対策だけでなく、台東区が住所のない人たちへの日常的な対応を全庁的に検証し、改善することを求めます。

今回の台東区の決定は、ホームレスの人々に対する差別、排除に基づく決定であり、行政が人の命に優劣をつけ、切り捨てていくという絶対許されない行為です。私たちは、今回の台東区の決定に、強く抗議するとともに、以下の要望をします。

1.台東区は、避難所にホームレスの人々を入れないという今回の決定について、被害者に届くように、謝罪をしてください。10月15日付の台東区長の出した謝罪とコメントには「避難できなかった方がおられた事」とありますが、謝罪すべきはホームレスの人たちを拒否すると決定し、受け入れなかったことです。改めて謝罪することを求めます。

2.台東区は、命にかかわる緊急時においては、災害対策基本法の基本理念「人の生命及び身体を最も優先して保護すること」に遺漏がないようその責任を果たしてください。

3.これからの災害対策において、当事者並びに支援団体の声を聞いてください。

災害大国日本と言われている中で、これまでにない事態に遭遇した時どう対処していくのか、これは今後の大きな課題です。特に都市部においては、多様な立場の人々がより多く存在していることを考えると、行政のみで対策を考えることには到底無理があります。ホームレス状態の人々のみではなく、社会的弱者と言われる人々の人権をしっかり守っていくためにも、当事者からの生の声を聞くことは不可欠です。

4.ホームレスの人たちに関わる生活保護行政、教育行政(ホームレスの人たちへの襲撃事件をなくすための授業の実施を含む)、人権行政などの日常業務が適切であったかどうかを全庁的に検証し、改善策を講じてください。また、ホームレスの人たちの人権に関する職員研修を定期的に実施し、幹部職員の参加を義務付けてください。

5.以上の点について、私たちとの話し合いの場を持つことを求めます。

以上、2019年10月31日(木)までに文書での回答をお願いします。

<10月12日の事実経過>

「一般社団法人あじいる」※1のメンバー5人が、12日の午後1時過ぎ、上野駅周辺(上野駅構内、文化会館周辺)のホームレスの人々に、非常食やタオル等を配ることと共に、台東区の自主避難場所で上野駅から最も近い忍岡小学校に避難するよう勧めるチラシを配布しました。
しかし、もうすぐ全員に配り終えるという時、1人の男性が、「午前9時ごろに行ってみたが、ことわられた。住民票が北海道にあるからといったら、ここは都民のための避難所ですと言われた」と言われました。
小学校に出向いて区職員に確認し、その場で台東区の災害対策本部に電話をつないでもらい、真意を確かめました。すると、「台東区として、ホームレスの避難所利用は断るという決定がなされている」と明確な返答が返ってきました。
私たちは、上野駅に戻りチラシの情報は誤りだったと告げて回ると、上野駅の入り口に座っていた一人が「今さっき行ってみたけれど駄目だと言われて帰ってきた」と話されました。
その後、再度台東区災害対策本部に「今後避難準備や避難勧告が出た場合も避難所は利用できないのか」と問い合わせたところ、「ホームレス(住所不定者)については、避難所は利用できないことを対策本部で決定している」との返答でした。

※1 一般社団法人あじいるとは

2000年から活動している生活困窮者への食の支援をする「フードバンク」と、2001年からホームレスの人々の生活・医療相談活動を行ってきた「隅田川医療相談会」が統合して、2019年に発足した市民団体です。

【賛同団体】
一般社団法人 つくろい東京ファンド
蒲田・大森野宿者夜回りの会
きょうと夜まわりの会
ささしまサポートセンター
社会事業委員会ひとさじの会
新宿ごはんプラス
水族館劇場
住まいの貧困に取り組むネットワーク
特定非営利活動法人 神戸の冬を支える会
特定非営利活動法人 ジョイフルさつき
特定非営利活動法人 TENOHASI
特定非営利活動法人 長居公園元気ネット
特定非営利活動法人 みんないっしょ
日本寄せ場学会
認定特定非営利活動法人 こどもの里
認定特定非営利活動法人 自立生活サポートセンター・もやい
認定特定非営利活動法人 メドゥサン・デュ・モンド ジャポン(世界の医療団)
ねる会議
ハウジングファースト東京プロジェクト
反貧困ネットワーク
部落解放同盟東京都連合会荒川支部
平和憲法を守る荒川の会
べてぶくろ
訪問看護ステーションKAZOC
ホームレス総合相談ネットワーク
ホームレス問題の授業づくり全国ネット
ゆうりんクリニック
夜まわり三鷹

【賛同個人】
浅井直美(江戸川区立松江第五中学校)
荒川茂子(企業組合あうん 代表理事)
石黒文子(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
石崎卓(東京路上鍼灸チーム)
泉博子(平和憲法を守る荒川の会)
泉みどり(こどものごはん委員会・東村山)
板橋敬(つながるネット)
伊東永子(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
稲垣絹代(沖縄県名護市 名桜大学)
稲葉剛(立教大学大学院特任准教授)
稲葉奈々子(上智大学)
瓜谷眞理(ユニオン出版ネットワーク:出版ネッツ)
遠藤美咲
大澤優真(一般社団法人つくろい東京ファンド)
岡本祥浩(中京大学)
奥山たえこ(杉並区議会議員・いんくるーしぶ杉並)
尾澤邦子(平和憲法を守る荒川の会)
尾澤孝司(平和憲法を守る荒川の会)
小野崎篤(部落解放同盟東京都連合会荒川支部)
小野崎佳代(部落解放同盟東京都連合会荒川支部)
甲斐田万智子(国際子ども権利センター:シーライツ)
片山文惠(きょうりゅうや)
加藤孝(東京都世田谷区)
川田正美(出版労連ネットワーク)
岸田直子(元TENOHASI・フリー編集者)
北川由紀彦(放送大学)
北嶋ゆりや(社会福祉士 精神保健福祉士)
北村慈郎(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
北村年子(ノンフィクションライター・ホームレス問題の授業づくり全国ネット代表理事)
木下友子(ユニオン出版ネットワーク:出版ネッツ)
沓澤則子(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
久保清隆(平和憲法を守る荒川の会)
倉林浩(郵政産業労働者ユニオン)
栗林佐知
小林美穂子(カフェ潮の路)
坂井康史(ユニオン出版ネットワーク:出版ネッツ)
坂本繁夫(平和憲法を守る荒川の会)
佐久間真弓(ユニオン出版ネットワーク:出版ネッツ)
佐々木雅子(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
佐藤和宏(東京大学社会科学研究所)
佐藤修三
佐藤正子
澤田裕(ユニオン出版ネットワーク・出版ネッツ)
芝田淳(司法書士)
荘保共子(認定NPO法人 こどもの里理事長)
白井裕子(愛知県 愛知医科大学)
白桃敏司(特定非営利活動法人 みんないっしょ)
杉村和美(ユニオン出版ネットワーク:出版ネッツ)
高沢幸男(寿支援者交流会・事務局長)
竹内すなお(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
田村義彦(ユニオン出版ネットワーク:出版ネッツ)
辻浩司(埼玉県議会議員)
土田綾子
鄭芝永(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
汀なるみ(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
Tom Gill(明治学院大学国際学部教授)
中桐康介(長居公園仲間の会)
中村訓子(ほしのいえ)
中山亜弓(タコシェ)
なすび(山谷労働者福祉会館活動委員会、被ばく労働を考えるネットワーク)
西村仁美(ルポライター)
野々村耀(神戸YWCA夜回り準備会)
野元弘幸(首都大学東京・教授)
橋立啓子(平和憲法を守る荒川の会)
橋本圭子(広島文教大学 人間科学部人間福祉学科)
原宝(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
平山隆浩
廣岡一昭(旅と思索社)
藤井克彦(ささしまサポートセンター)
堀江有里(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
本田次男(きょうと夜まわりの会)
牧野美登里(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
三上一雄(ほしのいえ)
三上悠佳 (ユニオン出版ネットワーク:出版ネッツ)
三森妃佐子(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
宮田真理子
三好義仁
三輪保夫(日本基督教団神奈川教区寿地区センター)
毛利一平(医療法人社団 ひらの亀戸ひまわり診療所)
森本孝子(平和憲法を守る荒川の会)
やじまあきこ
箭内良成(平和憲法を守る荒川の会)
結城翼(特定非営利活動法人社会理論・動態研究所)
横山晋(山谷労働者福祉会館活動委員会)
吉沢公良(平和憲法を守る荒川の会)
吉澤千枝子(平和憲法を守る荒川の会)
吉水岳彦(社会事業委員会ひとさじの会事務局長)
渡辺つむぎ(墨田区在住)
渡辺裕一(NPO法人地球対話ラボ)
渡邉由紀子(希望のまち東京をつくる会事務局長)

(五十音順・敬称略)

 

五輪を契機とする野宿者排除問題で「蒲田・大森野宿者夜回りの会」が都・大田区等に申入れ

提言・オピニオン

東京都大田区で野宿者支援活動を続けてきた「蒲田・大森野宿者夜回りの会」の越智祥太医師からの情報提供です。

東京五輪を契機に各地で野宿者排除の動きが見られ、生活保護行政においても野宿者への対応が適切に行われていないことを踏まえ、「蒲田・大森野宿者夜回りの会」は、特に大田区の事例を以て、国交省、東京都法務局(法務省)、東京都庁(福祉部、人権局)、大田区(区長、健康政策局、福祉管理課、生活福祉課、総務課、人権・男女平等推進課)に申し入れを行いました。
申し入れ内容は下記のとおりです。

************
2019 年 9 月 30 日

国土交通大臣殿
法務大臣殿/法務省人権擁護局長殿
東京都知事殿/東京都総務局長殿/東京都総務局人権部長殿/東京都福祉保健局長殿
大田区長殿/大田区人権・男女平等推進課長殿/大田区地域基盤整備課長殿/大田区生活福祉課長殿
公益財団法人 人権教育啓発推進センター長殿
公益財団法人 東京都人権啓発センター長殿

以下を申入れます。

貴職のご活動に敬意を表します。
東京五輪が近付き、都内各地で、野宿者排除が、国土交通省や東京都・大田区はじめ各区によって行われることが増えてきております。
河原や、道路や、公園や、役所の前までも、認められます。

長い野宿生活で老化や病弱が認められる野宿者に対し、今後の生活や住居や医療福祉等について、本人とよくよく話し合い相談に乗る対応もなされぬまま、ただ排除されることが横行してきております。
特に最近は、委託業者に依頼し、公的職員の対応もないままの排除まで認められます。

東京五輪・パラリンピックで、本来は国際的に人権が尊重されるべきとされながら、足元での人権の軽視が許されてよいはずがありません。
誰もが人として権利が尊重され、軽率な排除をされず、本人と十分な対話の上で、本人の状態に応じた生活や医療福祉が保障される対応が行われることを確認していただきたく、申し入れます。
よろしくお願い申し上げます。

日本国憲法第 25 条には、
1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に
努めなければならない。
と、規定されています。

日本も批准している国際人権規約(社会権規約)では、
第 1 条 1 で自決の権利としての、経済的、社会的、文化的発展の追求権、2 で生存のための手段を奪われない権利、が保障され、
第 2 条 1 で締約国は、権利の実現のため、援助及び協力の行動を約束しており、2 で権利はいかなる差別もなく保障することを約束しています。
第 5 条 2 で基本的人権、
第 9 条 で社会保険その他の社会保障についての権利、
第 11 条 1 で食糧、衣類、住居の生活水準・生活条件の権利、 2 で飢餓から免れる権利、
第 12 条 1 で到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利、2 (d) で病気の場合にすべての者に医療及び看護を確保するような条件の創出、
第 15 条 1 (a) で文化的な生活に参加する権利、を保障しています。

ましてや、東京五輪にあたり制定された、東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例では、 「一人一人に着目し、誰もが明日に夢をもって活躍できる都市、多様性が尊重され、温かく、優しさにあふれる都市の実現」を東京は目指してきたことが述べられ、「 人権尊重に関して、日本国憲法その他の法令等を遵守」し、 「いかなる種類の差別も許されないというオリンピック憲章にうたわれる理念が、広く都民に浸透した都市を実現しなければならない」とされています。

「東京に集う多様な人々の人権が、誰一人取り残されることなく尊重され、東京が、持続可能なより良い未来のために人権尊重の理念が実現した都市」として、 「誰もが認め合う共生社会を実現し、多様性を尊重する都市をつくりあげるとともに、様々な人権に関する不当な差別を許さない」「 人権が尊重された都市であることを世界に向けて発信」すると、前文で明確に規定しています。

第 1 条 では、いかなる差別も許されない、オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念が広く都民等に一層浸透した都市となることを目的とし、
第 2 条 では、都は、人権尊重の理念や多様性を尊重する都市をつくりあげる取組を、2  で国や区市町村と、4 で事業者と、協力して推進することが謳われています。
第 10 条 では、都は不当な差別的言動を解消する啓発等を推進するものとしています。

現在、東京五輪を契機に都下において行われている野宿者排除は、日本国憲法にも、国際人権規約にも、そしてそもそも五輪憲章人権条例にも、違背するものです。

可及的速やかな野宿者への差別解消と、人権尊重を反映した対応を、お願い申し上げます。

1.多摩川河川敷
・野宿者の住まう所に河道拡幅工事ということで、10月から強制排除しようとしています。
・現実に、大人しい野宿生活者には、強制排除の話を国交省職員はしています。
・排除で困る野宿者が出ることが分かっているので、蒲田生活福祉課を紹介しています。

2.蒲田 
(1)大田区役所入口の野宿者を、事前の福祉相談なく、大きな三角コーンを置き強制排除。
・窓ガラスにも、黄色い貼紙で、冷たく排除通告だけしています。


(2)蒲田庁舎前の野宿者も、事前の福祉相談なく、三角コーンとバーを置き強制排除。

(3)多摩川近くの路上
・警察の名を利用した役所の警告書。威丈高な命令口調です。


(4)JR 蒲田駅西口駅前広場
・元の樹木周囲の円形ベンチは野宿者が寝るということで排除され、工事後、樹木を取り巻く金属製の柵のみに変えられ、地域の高齢者が座れる場所もなくなってしまいました。

(5)蒲田庁舎などの生活保護窓口
・野宿者排除と軌を一にして、野宿者が単独で相談に訪れた際、生活保護を受け付けられず路上に戻る他なかったり、対人関係が苦手な人で本来は単身で住めるアパートやせめてドヤ( 簡易宿泊所)の方が適切であるのに特定の無料低額宿泊施設法人に優先的に紹介されて結局いじめられて路上に戻ってしまったり、ドヤに紹介されても週末金曜日に相談に行くと月曜日までドヤ代と食費合わせ 3 日間で少額金銭 7 千円しか支給されなかったり、という対応が多く、福祉相談をしても良い記憶がなくなり、二度と相談したくなくなり路上生活を継続せざるを得ないという選択に至る野宿者が多いことは、非常に残念なことです。最初の福祉相談での対応が非常に重要で、福祉事務所の皆様には、柔軟な受容的なご対応をお願いしたいと思います。

3.大森
・大森駅前の東口駅前広場の工事に関し、下記の様な発言まで出ています。

(2018 年 7 月 13 日まちづくり環境委員会から)
都市開発課長「……路上で住まれている方が憩える場になるのかというところにつきましては、……そういった方々が居座らないように、何ができるかというところを一緒に考えていきたいとは思います」( 答弁後に区議から質問され、その後に慌ててごまかしましたが。 )
・東口駅前広場の再工事は、下記のように野宿者が休むことができないように、そのために地域高齢者も休む場所がないように、設計されてしまっています。

※上記は提出時の情報であり、省庁・都庁・大田区役所との交渉の中で、不十分な把握が更に明らかになったこともあることを、ご承知置き下さい。

蒲田・大森野宿者夜回りの会 医師 越智祥太

************

「蒲田・大森野宿者夜回りの会」は今後も継続して、この問題に取り組んでいくとのことです。

引き続き、ご注目ください。

関連記事:五輪まで1年、路上生活者はどこへ? – 稲葉剛|論座 – 朝日新聞社の言論サイト

 

【追記あり】山本太郎さんは「ホームレス」ではない~システムの内側から変革するために

提言・オピニオン

※山本太郎さんから返信をいただいたので、末尾に追記しました。合わせてご覧ください。

路上生活者を支援するための夜回りをしていると、時折、路上のゴミ箱に手を突っ込んで、食べられる食料を探している人に出会う。そんな時、私はいつも声をかけていいものかどうか迷ってしまう。

こうした行為を、当事者は「エサ取り」、「エサ拾い」と呼んでいる。
自らの生命をつなぐための食べ物を「メシ」ではなく、「エサ」と自嘲的に呼ぶこの言葉を聞くたびに、私は野宿をせざるをえない人たちの傷つけられた自尊心を垣間見るような気がしている。

ファストフード店などでは、食料を廃棄する際、わざとタバコの吸い殻を混ぜて食べられない状態にして出す店が少なくない。
以前、新宿の路上で話をした70代の男性は、ハンバーガーショップが廃棄したタバコの灰まみれのバンズを水に浸していた。なぜそういうことをするのかと聞くと、水でふやかした後で、灰に汚れた皮の部分を丁寧にはがして、段ボールの上に置いて乾かし、そのあと、口に入れるのだと教えてくれた。

最近も、20年以上、路上生活を経験した高齢者から「お恥ずかしい話ですが、ひもじい時は猫のエサを食べてましたよ」という話を聞いたばかりだ。何日も食事ができない時は、猫のボランティアをしている人が墓地や公園に置いていったキャットフードに手をつけざるをえない時もあったという。

ホームレス状態にある人の全てがこのような極限の貧困状態にあるわけではないが、ホームレス支援の活動をしていると、こうした「絶対的貧困」とも言えるエピソードを聞くことは珍しくない。

だが、こうした貧困の実態は世間の人々にはほとんど知られていない。
私がホームレス支援活動を始めた1990年代に比べると、人々の理解も進んできたものの、未だに「ホームレス」を「好きでやっている」、「気楽でいい」とレッテル貼りをしたり、ジョークのネタとして使う風潮はなくなっていない。

山本太郎さんへのメール

なぜこういうことを書いているかと言うと、山本太郎さんが参議院選挙後の7月23日にSNS(Twitter、Facebook)で以下のようなコメントをしたからだ。

私はこれまでホームレス支援の現場で、何人もの国会議員の視察やボランティア参加を受け入れてきたが、歴代の国会議員の中で最もホームレス支援に熱心であったのは山本太郎さんであると断言できる。
その山本太郎さんが軽口のように「ホームレス」を自称するのは、大きなショックであった。

そこで、私は山本太郎さんに以下のメールを送った。

 

山本太郎様

6年間の議員活動お疲れさまでした。
生活保護や住宅政策の分野では私も質問作りに協力させていただきましたが、貧困現場を踏まえ、政府に対策を迫る質問は大変心強かったです。
また、今回の選挙戦も、この社会で肩身の狭い思いを強いられてきた人たちに希望を与えるものでした。

それだけに、Twitterでの「44歳、無職、ホームレス、頑張るぞ!」という発言は残念でなりません。
「議員をやめれば、ホームレス」は自民党議員の鉄板のネタで、私はホームレス対策について真剣な議論をしている時に、彼らがそう言って笑うのを何度も見てきました。

この言葉は、路上生活の過酷な現場を知っている人は言えないはずの言葉だと思います。
政治的な影響力が大きくなっても、山谷や渋谷などでの炊き出し、「つくろいハウス」での緊急支援の現場で見てきたことを忘れないほしいと願います。
 
よろしくお願いいたします。

2019年7月24日
稲葉剛

 

この原稿を書いている時点(7月27日午後)で、山本太郎さんからの返信は来ていない。

このコメントはジョークではなく、彼自身、今回は落選をしたために議員事務所を片づけたり、議員宿舎から退去しなければならなくなり、今後の自分の住まいの確保を含め、大変な状況なのではないか、と言っている人もいた。

そうかもしれないと私も思う。しかし、そうであったとしても、経済的に困窮し、人間関係においても頼れる人がおらず、路上やネットカフェで寝ざるをえない状態からは、ほど遠いであろうと私は推察する。

ホームレス状態にある人のほとんどは、住所だけでなく住民票も失っている。選挙の投票権は住民票にひもづいているため、ホームレスの人たちは投票権を実質的に剥奪されている。

ホームレスの人の中には山本太郎さんたちの演説を路上で聞いて共感をした人もいたかもしれないが、その人たちは投票に行くことができない。その意味を受け止めていれば、こうした軽はずみな発言はできないはずだ。

お忙しい時期だと思うが、山本太郎さんからの返信を心待ちにしている。

システムから排除されている者という自己認識

ここから先は私の邪推かもしれないが、メールを出した後、山本太郎さんが自らを「ホームレス」になぞらえるのは、自民党議員のように自分は絶対にそうならないとわかっていて発するジョークなのではなく、自らを「システムから排除されている者」と位置付けているからなのではないだろうか、と思うようになった。

私が企画した貧困問題に関する院内集会に彼は何度も参加してくださっている。
今年6月に開催した住まいの貧困に関する院内集会でも、彼は最後まで熱心にメモを取りながら参加してくれた。
そういう場で発言をする際、山本太郎さんはよく「野良犬」を自称していた。
「ホームレス」発言はその延長線上にあるように思える。

その関連で興味深いのは、れいわ新選組の候補者であった安冨歩さんが書いた以下の記事である。

内側から見た「れいわ新選組」

ここで安冨さんは、「人間同士の関係、すなわち『縁』が腐れ縁になってしまったとき、その縁を断ち切って離れるのは当然だ、という人類普遍の感覚」を「無縁の原理」を呼び、「この無縁の原理こそが、現代社会の抑圧を打ち破る力を我々に与える、と私は考える。山本太郎氏は、自らを『野良犬』『永田町のはぐれ者』といったように表現することがあるが、これは自らの無縁性を自覚しているからだと考える。」と述べている。

その上で安冨さんは、れいわ新選組は、「政党」でも「左派」でも「ポピュリスト」でもなく、「無縁の原理を体現しており、山本太郎氏や私を含めた候補者は、無縁者の集まりであった」と表現している(※)

記事の中で、安冨さんは「これは私自身の見解であり、山本太郎氏の見解とも異なっているはずであり、ましてや、れいわ新選組を代表するものでは決してない。そもそも、この文書は、れいわ新選組関係者の誰にも見せずに、公開している。」と言っているので、その点は留保したいが、この「無縁者の集まり」という表現は、外から今回の選挙戦を見ていた者としてもしっくりする言葉である。

この記事を読んだ私の感想は、「これは新撰組というより、梁山泊だなあ」というものであった。自分が参加してきた数々の社会運動の立ち上げ段階において、「無縁者の集まり」が力を発揮してきたことも思い出し、「無縁の原理を体現した無縁者が集まって、事をなす」という考え方に、懐かしさに似たシンパシーを感じた。

だが、こうした社会運動としての魅力が、政党として求められる責任や持続可能性と両立しうるのか、という点に疑問を持ったのも事実である。

安冨さんご自身は、今後、政党となったれいわ新選組に参加するのかどうか、存じ上げないが、れいわ新選組が政党要件を満たし、政党助成金を受領する政党となってからも、こうした原理を維持することができるのか、維持することが良いことなのかは、議論に値するだろう。

政党でも社会運動団体でも、財政規模が大きくなり、雇用する人が増えれば、組織としてのコンプライアンスを求められることになり、対外的な責任も増していく。そうなれば、無縁の原理とは異質な組織原理を持ち込まざるをえなくなるのではないだろうか。

障害者運動の経験に学んでほしい

同じことは代表である山本太郎さんについても、言えることだろう。
「野良犬」や「ホームレス」に自らをたとえながらも、今や山本さん自身は6年の実績を持つ政治家であり、政党要件を満たす政党の代表である。
選挙権を行使できない実際のホームレスの人たちとは、全く違う立ち位置にいることを自覚してほしい。

山本太郎さんはこれまで自らをシステムの外側にいる存在だと位置づけ、外側からシステムを告発するというスタイルの運動を展開してきたと、私は理解している。
しかし、今回の選挙戦でシステムの厚い壁に穴を開け、システムを内側から変えうる存在になったと私は考えている。

その変化を踏まえるのならば、自らはシステムの外側にいる存在であるという自己認識を変えなければならない。
内側にいるのに、外から石を投げているポーズを取れば、人気は取れるかもしれないが、それは欺瞞である。

ヒントになるのは、今回、山本さんが共闘した障害者運動の経験であろう。
システムの外側からの告発に始まった障害者運動は、当事者主体の自立生活運動へと発展し、国のシステム変更にも大きな力を持つ存在となっている。
今回、当選した舩後靖彦さんと木村英子さんが早速、参議院をバリアフリー化させたのは、当事者運動の長年の成果である。

私が言うまでもないのかもしれないが、障害者運動の経験に学んだ上で、システムを内側から変えていくには、どのような言葉と戦略が必要なのか、ぜひ考えていただきたいと願っている。

※れいわ新選組が「左派ポピュリズム」なのかどうかについては、この間、様々な人が議論をしている。「ポピュリズム」の定義もさまざまあるようなので、ここではその議論には立ち入らない。

【7月28日追記】山本太郎さんから返信をいただきました。

7月28日、山本太郎さんよりメールの返信がありました。
実際に住まいの確保の問題で困っているというご事情とともに、「稲葉さんのご指摘、ごもっともです。今日を生きることも厳しい人々と、国会議員として落選したばかりの私を、同列で語るかのような言葉選びには配慮がなかった、と反省いたします。申し訳ありませんでした」とのことでした。「住まいは権利」について今後も深めていきたいという言葉もいただきました。

真摯な対応に感謝いたします‬。今後とも意見交換を続けていきたいと思います。

 

立教カジノイベントの「一部変更」に関する見解 ~学内開催の中止は歓迎するが、数々の問題点は解消していない

提言・オピニオン

本日(6月28日)、立教大学がカジノ推進イベントについて内容の「一部変更」を発表しました。

【6/28 14:50追記:内容変更】グローバル・リーダーシップ育成プログラム第7回東京オープンフォーラム『日本統合型リゾート~健全社会のIRを目指して』

本日の発表は、以下のようにまとめられます。

・7月6日に学内で開催する予定であった公開シンポジウムは学外に会場を変更する。
会場変更の理由は「主催のマカオ大学が、よりアクセスの良いコンパクトな会場で、皆様と近しく知見や課題を共有できる形で開催したいとの主旨で判断した」からである。

・マカオ大学主催の3日間のIR人材研修プログラムへの共催は取り消さない。一部のプログラムは予定通り、学内で開催する。

・当初の予定から登壇者が変更になったこと、豊島区が後援を取り消したこと、イベント内容が立教にふさわしいものなのか等、この間、指摘されてきた問題点には全く言及していない。

 

カジノ経営者3人が講演する学生無料の公開シンポジウムの学内開催がなくなったことは歓迎すべきことだと思います。

しかし、学内外からの批判が強まったこと、豊島区が「中立性がない」と判断をして後援を取り消したことが学内開催の中止に影響したことは明らかであるにもかかわらず、そのことに全く触れていないのは不可解でしかありません。

立教大学は豊島区が中立性がないと判断したイベントを強行するのでしょうか。

私は個人サイトの記事において、今回のイベントの問題点を以下のようにまとめていました。

立教カジノイベントの何が問題なのか?

1.7月6日(土)に予定されている公開シンポジウムは、カジノ業界のPRイベントでしかなく、学術研究の要素はない。そもそも立教に限らず、教育機関で開催するのは不適切である。

2.公開シンポジウムの登壇者が大学の部長会で承認された内容から変更になっているという指摘があり、立教大学当局は説明をする責任がある。

3.公開シンポジウムは、3日間のプログラムの一部だが、カジノ業界の人材育成を目的とするプログラムに協力をすることが立教大学の教育理念とどう合致するのか、大学当局は説明をする責任がある。

このうち、1については学内での開催はなくなりましたが、立教大学が共催して同じような内容のイベントが学外で開催されるならば、カジノPRに協力するという点では変わりありません。

また、本日の大学当局の発表は、2、3の疑問についても全く答えていません。

立教大学当局は学内外からの批判をどう受け止めているのか。

なぜ登壇者が変更になり、豊島区が後援を取り消すという前代未聞の事態を招いたのか。

受講料15万円を徴収して、カジノ業界の人材を育成するプログラムに協力することが、立教の教育理念や建学の精神とどのように整合性がとれるのか。

引き続き、説明を求めていきたいと思います。
#立教はカジノに魂を売るなキャンペーンに引き続き、ご注目ください。

2019年6月28日

立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授
一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事

稲葉剛

【追記】後日、確認をしたところ、主催のマカオ大学の意向により、立教大学は7月6日の公開シンポジウムの共催から外れたとのことです。そのため、上記の「1」の問題点は解消されました。しかし、他の問題点はまだ残っています。

立教カジノイベントの何が問題なのか?

提言・オピニオン

私は2015年度より立教大学の社会人向け大学院(21世紀社会デザイン研究科)で特任准教授を務めています。

立教大学には大変お世話になっているのですが、今年6月16日、やむにやまれぬ思いで「#立教はカジノに魂を売るな」というSNSでのキャンペーンを一人で始めました。

私はこれまで25年間、ホームレスの人たちを支援する中で、ギャンブル依存症に苦しむ多くの人たちに関わってきました。

そのため、カジノ法案に反対の立場から声をあげてきました。

関連記事:ギャンブル依存症問題を悪化させるカジノ法案は通してはならない。

カジノ法案は残念ながら成立してしまいましたが、カジノに対する世論の反対は強く、開設の準備は足踏みしていると言われています。

そんな中、カジノ業界が世論工作の突破口として注目したのが大学だったのでしょう。立教大学というキリスト教系の大学の協力を得て、カジノ推進イベントを開催することで、カジノのイメージアップにつなげたいという戦略があったのだと思われます。

「#立教はカジノに魂を売るな」のキャンペーンは大きな反響を呼び、今日(6月25日)の段階で、最初のツイートは1290回以上、リツイートされました。

この問題の概要と経緯については、BuzzFeed Newsの記事によくまとまっているので、そちらをご一読ください。

大学がカジノ推進のシンポジウム? 「#立教はカジノに魂を売るな」と学内外から批判の声

ここではSNSでの反応も踏まえて、改めて問題点を整理したいと思います。

私の主張のポイントは、以下の3点です。

1.7月6日(土)に予定されている公開シンポジウムは、カジノ業界のPRイベントでしかなく、学術研究の要素はない。そもそも立教に限らず、教育機関で開催するのは不適切である。

2.公開シンポジウムの登壇者が大学の部長会で承認された内容から変更になっているという指摘があり、立教大学当局は説明をする責任がある。

3.公開シンポジウムは、3日間のプログラムの一部だが、カジノ業界の人材育成を目的とするプログラムに協力をすることが立教大学の教育理念とどう合致するのか、大学当局は説明をする責任がある。

では、順番に見ていきましょう。

 

カジノ経営者ばかりが登壇するシンポジウム

問題のイベントは、マカオ大学主催、立教大学共催で開催される「グローバルリーダーシップ育成プログラム 国際統合型リゾート経営管理学 第7回:『日本統合型リゾート~健全社会のIRを目指して』」(7月5日~7日)の一環として開催されるものです。

このプログラムには豊島区が後援しており、豊島区長の高野之夫氏による挨拶も予定されています。ちなみに、高野区長は立教大学の出身です。

プログラムの全体(3日間)の受講料は15万円という高額になっており、対象者は、「管理職またはホスピタリティ&ゲイミング産業での企業経験を有する者が望ましい。」とされています。事前申し込み制で定員は40名となっていましたが、当初の締め切り日までに定員まで達しなかったようで、募集期間が6月25日まで延長になっています。

3日間のプログラムを見ると、4人のマカオ大学の教員が講義をおこない、グループ討議も行なうという内容になっています。いちおう全体では、学術的な体裁を整えているようです。

マカオ側参加者は東京ディズニーリゾートでの「実地研修」も予定されています。

マカオ大学が立教大学と連携する理由は以下のように書かれています。

さてGLDP第 7 回は 2019 年 7 月 5 日~7 日に東京で開催します。今回は、日本で始めて観光学部を導入し、日本のホスピタリティ産業発展において、長年先駆的役割を果たしてきた立教大学と共催することに相成りました。立教大学は観光学士課程を有する他、大學院ビジネス研究科において観光学、ホスピタリティ学、観光施設開発学など多岐に亘り観光学の研究・教育に優れており、IR教育に特化するマカオ大学と観光学に力発揮する立教大学が協力することにより、日本IR産業発展へ高度人材育成を実現していけると確信しております。

 

プログラムでは、2日目の午後のシンポジウムのみ一般を対象としており、こちらのみの参加は「2,000円(ただし学生は学生証提示で無料。本学以外の学生も可)」となっています。

このシンポジウムには、講演者4人、討論会のパネラー3人の計7人がメインのスピーカーになっていますが、この中には研究者が一人もいません。

講演をする4人のうち、観光庁審議官の秡川直也氏以外の3人は、マカオやラスベガスのカジノ経営者で、ポスターで最も写真が大きいローレンス・ホー氏は「マカオのカジノ王」と呼ばれる人物です。

登壇者から判断しても、このシンポジウムは、あからさまな業界PRイベントであり、学術研究の名に値するとは思えません。

このシンポジウムのみ、学生無料としているのは、特にカジノ経営者の講演を学生に聞いてもらいたいという意図があるのだと思われます。

私がこれまで相談にのった生活困窮者の中にも、学生時代にパチンコ等のギャンブルにはまった結果、依存症になって生活が破綻したという方が何人もいました。若者にカジノの魅力を伝えようというイベントは、若者たちをギャンブル依存症へと誘導しかねないものだと言えます。

 

登壇者がいつの間にか変更に

BuzzFeedの記事では、私以外の別の教員の証言として、シンポジウムの登壇者が大学の部長会で承認された内容から変更になっているという指摘がありました。

別の同大学教授によると、このシンポジウムは4月25日に開かれた大学の意思決定組織である学部長会で承認されたが、その学部長会ではかられた提案書に書かれた人とは別の登壇者になっているというのだ。

「部長会にかけられた提案書では、登壇者はマカオ大学の教授3人とカジノコンサルタントとなっていたのです。大学が学内で行う学術シンポジウムは、多様な論点に目を配る学問のルールに則って行わなければならないはずです」

「研究者が登壇するのであれば、『学術的な側面を中心に議論する』という趣旨にも合っていたでしょう。けれども、承認されそうな研究者の名前を並べておいて、承認後に、カジノ運営者ばかりという偏った登壇者に変えたなら問題です。カジノ推進のプロパガンダと批判されても仕方ない内容です。大学は然るべき手続きを踏んで、この差し替えを承認したのでしょうか?」

学部長会では一部の学部長から、ギャンブル依存症問題などの指摘があり、デメリットも慎重に精査するよう求める発言もあったという。

 

私自身は特任教員という立場であり、学内の会議体に参加したり、議事録を読む資格がありません。

この教員の方が勇気を出して証言をされたことに感謝したいと思います。

なぜPR色を強める登壇者変更になったのか、立教大学当局は説明をする責任があります。

 

立教大学の建学の精神に反する

仮に大学で開催しても問題のない学術研究イベントだとしても、立教大学が共催するからには、立教の教育理念との整合性は問われるべきです。

立教大学の建学の精神や教育理念について、現総長の郭洋春教授は大学のホームページで以下のように語っています。

立教大学の物語は、1874年 聖書と英学を教える私塾「立教学校」から始まります。当時の日本は実利主義の傾向が強く、物質的な繁栄を目指す風潮にありました。このような時代の流れに危機意識を抱き、西洋の伝統的なリベラルアーツカレッジをモデルとして、心の豊かさとリーダーシップをあわせもち、世の中に自ら貢献できる人間を育むべく、立教は今日まで歩んできました。

現代のグローバリズムは、より便利に、ライフスタイルの多様化を促す一方、過剰な競争にさらされる面もあります。立教で学ぶ人は、そこでためらうことなく、他者に手を差し伸べられる人に育ってほしい。

 

私塾「立教学校」は、アメリカ聖公会の宣教師チャニング・ムーア・ウィリアムズ主教が設立しました。

「実利主義」や「物質的な繁栄を目指す風潮」に「危機意識」を抱いて学校を開いた創設者が、145年後、その学校がカジノ人材の育成に力を入れていると知ったら、何と言うでしょうか。

また、郭洋春教授自身も昨年、読売新聞への寄稿の中で、大阪のIR構想について「カジノはマカオなど各地にある。カジノは果たして、日本でしかできない体験だろうか。周辺の飲食店などの需要を奪うマイナス面も出てくるだろう。」と懸念を表明しています。

独自の観光資源 発掘を(郭洋春 立教大総長)

郭教授には、経済学者としての見解との整合性についても語っていただきたいと思います。

問題のシンポジウムの開催まで、あと2週間を切りました。

ぜひ学内外から立教大学当局に対して、声をあげていただけるとありがたいです。

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