提言・オピニオン

3月29日(水)生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟の第4回口頭弁論に集まろう!

提言・オピニオン

※当初、チラシに3月29日(木)と記載されていました。正しくは3月29日(水)です。お詫びして、訂正いたします。

私も応援している生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟の第4回口頭弁論が、3月29日(水)11時から、東京地裁1階の103号法廷で開かれます。

傍聴をご希望の方は、早めに東京地裁の正門前に(地下鉄「霞ヶ関」駅A1出口すぐ)にお集まりください。

口頭弁論終了後は、報告集会も予定されています。ぜひご注目ください!

http://blog.goo.ne.jp/seihohassaku/e/4feb4808ccd62d14b1dceb80024c384b

2013年8月1日以降3回にわたって実施された生活保護基準の引下げは憲法25条違反だとして、都内の生活保護受給者の皆さんが、国などに対し、国家賠償と保護費減額の取消しを求めています。

「健康で文化的な最低限度の生活」の保障をないがしろにさせないためにも、ぜひ傍聴に来ていただきたいと思います。

閉廷後、11時40分ころから、弁護士会館5階502ABC室で報告集会を行いますので、こちらにもご参加をお願いします。

近く、市民による「支える会」の結成も予定しており、会場で入会を受け付けます。

【弁護団・原告団・支える会連絡先】
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1丁目17番10号 エキニア池袋6階 城北法律事務所内
生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟弁護団
電話03-3988-4866(担当=平松・木下)

フェイスブックもよろしくお願いします。https://www.facebook.com/hassakusosho/

関連記事:「生活保護利用者の人権は制限してもよい」の先には、どのような社会があるのか?

住宅セーフティネット法改正案は「住まいの貧困」解決の切り札となるのか?

提言・オピニオン

住宅セーフティネット法改正案が閣議決定

今年2月3日、政府は住宅セーフティネット法の改正案を閣議決定しました。

国土交通省:「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定

2007年に制定された住宅セーフティネット法は、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」という長い正式名称を持ちますが、条文は12条しかない短い法律です。しかし、改正案は5倍以上の64条まで膨らみ、ほとんどの条文が新設されることになりました。

改正案では、高齢者、障害者、子育て世帯、被災者、低額所得者などを「住宅の確保に特に配慮を要する者」(以下、「要配慮者」とする)と定義し、これらの人たちが民間の賃貸住宅市場で住宅を借りにくくなっている状況を踏まえ、空き家を活用した要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度を創設するとしています。
具体的には、都道府県が一定の基準を満たした空き家を登録する制度を作り、登録住宅の情報開示と賃貸人の監督をおこなうこと、登録住宅の改修費を住宅金融支援機構の融資対象に追加すること、都道府県が指定した「居住支援法人」が入居相談や家賃債務保証等をおこなうこと、生活保護世帯が登録住宅に入居する際の家賃の代理納付をおこなうこと等が改正案に盛り込まれています。

法案から抜け落ちた「家賃低廉化」

増え続ける空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度の創設は、私自身も提言してきたことであり、国が本腰をあげたことは大いに歓迎したいと思います。

しかし、国土交通省がこれまでプレスリリースしてきた新事業の案と今回の改正法案を比較すると、一部の項目が抜け落ちてしまっていることに気付きます。

最も問題なのは、家賃低廉化に関する条文がどこにも見当たらないことです。家賃低廉化とは、登録住宅の家賃を下げるために、国と地方自治体が月2万ずつ、合計4万円を家主に補助する仕組みで、当初、国土交通省は公的な補助をおこなうことで低家賃の住宅を供給するという点を強調していました。ですが、出来上がった法案の中には家賃低廉化に関する条文が抜け落ち、家賃低廉化は予算措置によって実施するとしています。

 

昨年12月22日の国土交通省資料では、低額所得者への支援が強調されていた(赤線は引用者)

 

改正法案の資料では、家賃低廉化は目立たないように記載(赤線は引用者)

同様に、家賃債務保証料の補助や改修費の補助についても、来年度予算案には盛り込まれているものの、法案の中には書き込まれていません。

法律に明記されず、予算措置にとどまるということは、家賃低廉化等の補助は「いつでもやめられる」ということを意味します。おそらく、予算が膨らむことを恐れた財務省サイドの意向もあり、法案には書き込まないということになったのでしょう。

このことは、新たな住宅セーフティネット事業の将来に暗雲をもたらしかねないと私は懸念しています。

家賃が安くなるのは全体の1割だけ?

政府は要配慮者向けの空き家登録制度は公営住宅を補完するものだと説明しています。そして、2017年度の下半期から事業をスタートさせ、毎年5万戸のペースで新規に住宅を登録し、2020年度末までに17・5万戸まで登録戸数を増やすとしています。

登録住宅の供給目標をきちんと掲げたことは評価すべきことですが、他方で、登録住宅のうち、家賃低廉化の補助が実施される住宅の戸数目標は出ていません。

2017年度予算で家賃低廉化のために概算要求されている予算は約3億円ですから、これを単純に割ると、最初の半年間(2017年10月~2018年3月)で家賃低廉化がなされるのは約2500戸ということになります。年間ベースで5000戸ですから、登録住宅全体の1割しか家賃は安くならないという設計です。

この程度の規模では、「住宅セーフティネット」という名前にふさわしいとは言えないでしょう。

一部の地方自治体では、「空き家バンク」等の名称で空き家の登録制度をすでに設けているところもあります。しかし、実際に各地の「空き家バンク」のホームページを見ると、低家賃帯の住宅は少なく、低所得者のニーズに応えられる物件はほとんどない場合が多いと私は感じています。

「住宅確保要配慮者」の定義は非常に広く、低所得ではない高齢者や子育て世帯等も「要配慮者」として位置づけられています。昨今の賃貸住宅市場ではこれらの人たちも住宅を借りにくくなっているので、その点では効果のある事業になるのかもしれません。

しかし、住宅セーフティネット機能を強化すると言うのであれば、低家賃の住宅がふんだんに供給されるようにならなければ、「看板倒れ」と言われても仕方ないでしょう。

法案の修正を求めて、集会を開催します!

この改正案の国会での審議は4月頃に始めると言われていますが、私が世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」では、家賃低廉化補助の明記など、法案の修正を求めて各政党に働きかけることにしました。

【住まいの貧困に取り組むネットワーク】住宅セーフティネット法改正案について各党に要請書を提出しました!

3月21日(火)には集会も開催いたしますので、ぜひご注目ください。

◎住宅セーフティネット法改正案を考える院内集会
日時:2017年3月21日(火)12時30分~15時30分
場所:参議院議員会館地下1階B107会議室    
内容:国会議員各氏のあいさつ、基調報告、講演、当事者・各界からの報告・発言など
主催:住まいの貧困に取り組むネットワークなど

 

「他人事ではない」「構造的な問題」~お揃いジャンパー問題に各地の福祉事務所職員は何を思ったのか?(下)

提言・オピニオン

小田原市の福祉事務所職員が「保護なめんな」と書かれたお揃いのジャンパーを作り、生活保護世帯の訪問をしていた問題。

全国の法律家、研究者、NPO関係者らでつくる生活保護問題対策全国会議が小田原市長に提出した「公開質問状」では、ジャンパーに書かれた内容は「『利用者のウェル・ビーイング を支援する』というソーシャルワーク共通の価値観にも真っ向から反するもの」であると批判しています。

他地域の福祉事務所で働いている公務員の皆さんは、この問題をどのように考えているのかを知りたく、6人の方(現役5人、元職員1人)にコメントを寄せてもらいました。

前半の3人のご意見はこちらをご覧ください。

小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題、各地の福祉事務所職員は何を思ったのか?(上)

背景には構造的な問題がある。

4人目の方は、東京都内の福祉事務所で働くベテラン職員で、保護係長も務めたことのある人です。

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大変残念な事件です。自治体職員といえども、全員が福祉に詳しい訳ではありません。社会福祉法では、福祉事務所職員(ケースワーカー等)は社会福祉主事の任用資格が必要としています。

しかしながら、保護担当職員の4分の1は任用資格が無いというのが現実です。さらに、国家資格であり、専門家ともいえる社会福祉士は50人にひとりしかいません。

生活保護の仕事には専門性が求められ、他の法律や制度にも精通していることが必要です。なにより社会福祉や貧困問題についての正確な理解も必要です。それなのに、充実した研修も受けられず、正確な法の理解を欠いたまま仕事をさせられている自治体があります。

さらに、受け持ち世帯数が標準の80世帯どころか、100世帯以上を担当している職員も多く、仕事に追われ余裕が全く無いのが実情です。あってはならないのですが、そのストレスを利用者にぶつける者も出てきます。

全国各地で利用者を劣った人間として扱う「劣等処遇」や、「水際作戦」などの違法な運用が後を絶たないのは、このような構造的な問題があるからです。専門性ある職員配置にするなど、改善を求める声をさらに上げたいと考えています。(了)

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公務員であることさえ忘れなければ

5人目の方は、都内の別の福祉事務所で長年勤め、すでに定年退職されている元職員です。この方もケースワーカーの専門性が欠けていることを問題にされています。

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ケースワーカーである前に公務員であることさえ忘れなければ、ジャンパーがあったとしても、それを着て家庭訪問などしないだろう。これは人権感覚の問題である。個人というより組織の問題と捉えるべきだと思う。

このような事態が起きるたび、いつも思うのは、なぜ、ケースワーカーの専門性を問題にしないのか、ということだ。福祉の「業界」では社会福祉士、精神保健福祉士、ケアマネなどの資格要件が必要とされているのに、利用者の生活全般を支援するケースワーカーは公務員でありさえすればいい、という程度でしか考えられていない。そもそもそこがおかしい。

生活保護が発足した戦後間もない時期には、経済給付さえすれば、自ずと自立する環境があったのかもしれない。しかし、ここ10年近く、利用者は増加を続け、十分な支援ができないばかりでなく、ケースワーカーにとっても心身ともに相当な負担になっている。その結果、福祉事務所は行きたくない職場の筆頭格になった。大卒の新人を配置しなければ組織が成り立たない所もある。

ではどうすればいいのか。微かな希望かもしれないが、当面できることとして、ケースワーカーの専門職採用(人件費は事務職と同じ)や福祉職の経験者採用、そして志のある職員を配置すること。利用者ひとりひとりに合った自立支援を共有し合う風土をつくること。

専門性だけでは解決できない問題もある。ケースワーカーの負担軽減のため、国が80世帯(標準数)としている担当世帯数を減らし、業務の大半を占める事務処理(各種調査、収入認定等)を簡素化し、支援業務に振り向けること等が必要だ。そのためには、生活保護の国庫負担(現在75%)を増やし、自治体の負担を軽減するなど、ケースワーカーを増員できるような環境を作ることが欠かせない。さらに、生活保護の手前のセーフテイネット(年金、住宅等)を強化することも必要だと思う。(了)

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現場に広がる「監視・管理」の雰囲気

最後の方は、都内の福祉事務所で働く現役ケースワーカー、ペンネーム「なべ」さんです。2013年の生活保護法「改正」後に職場の雰囲気が変わった、ということを指摘されています。

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「これは、他人事ではないな」、記事を目にした時に正直に思った感想である。

たまたま、私は、比較的規模の大きい自治体の、それもゆる~い雰囲気の福祉事務所で働いているのでこの「事件」と無関係でいられたのだと思う。

小田原市の福祉事務所で働いていたら、あのひどく悪趣味なジャンパーの着用を拒否できていたどうかは自信がない。

ゴリゴリの活動家ならともかく、「良心的」で秩序に従順な公務員がこうした作風の職場に身を置いていたら、はたして「自分たちは被害者で、悪いのは受給者だ!」といった倒錯した同調圧力に抗することができたどうか、はなはだ心許ない。

福祉事務所の作風を変えていくには、自分たちの人権意識を問い直すことはもちろんだが、外からの批判を受け入れていく開かれた姿勢が必要になってくるはずだ。

考えさせられたのは、人権意識は自然に存在しないという事実である。厚労省を頂点とする生活保護行政の中だけでものを考えていくと、あっというまに人権意識は擦り切れてしまうと思う。

とりわけ、生活保護法「改正」の後は、福祉事務所の現場に援助ではなく監視・管理の雰囲気が強く覆っているように感じている。こうした流れに抗うためにも、ひとりひとりが自分の人権意識を問い直し育んでいく必要があると思う。それは、圧倒的な力関係の中で自分たちの言動が受給者へどのように受け止められるかを想像したり、そのことを同僚のケースワーカーと意識的に話し合ってみることから始まるのだと思う。

私たちは、ひとを監視するのではなく、よりよく生きるための援助をする仕事に従事していることを思い返す必要がある。そのためにも、職場に閉じこもらず外に開いていく姿勢が必要だ。

それにしても、現行での生活保護の運用の仕組みはそろそろ限界を迎えつつあるのではないか?そのことも考えさせる「事件」だと思った。(了)

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現場の心ある職員たちと共に声をあげていきます

今回、急なお願いにもかかわらず、東京と大阪の6人の職員の方(現役5人、元職員1人)からコメントをいただくことができました。ありがとうございました。

普段から、生活保護行政のあり方を厳しく批判している私の依頼に応えてくださった方々なので、皆さん、それぞれ職場では少数派として肩身の狭い思いをされている人が多いのではないかと推察します。

しかし、「監視・管理」の雰囲気が広がる各福祉事務所において、同調圧力に屈せず、本来あるべき福祉行政のあり方を追求している人たちがいる、ということは大きな希望です。

1月24日(火)には、生活保護問題対策全国会議として、小田原市の担当者との話し合いを行ないますが、小田原市役所の職員の中からも改善に向けた自主的な動きが出てくることを期待したいと思っています。

福祉事務所職員による人権侵害は小田原市だけではなく、全国各地の生活保護行政に共通する根深い「構造的な問題」として存在しています。

職員・元職員の方々が指摘されている「ケースワーカーの専門性(資格要件や研修)」、「職員配置」、「生活保護バッシングや法改悪」、「不正受給対策のあり方」等の問題について、内部の心ある人々とともに、引き続き、声をあげていきたいと考えています。

 

関連記事:ネットから無料で入手可能!知っておきたい生活保護のしくみ

 

小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題、各地の福祉事務所職員は何を思ったのか?(上)

提言・オピニオン

1月17日(火)に記者会見が行われて以来、大問題となった小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題。

本日20日、全国の法律家、研究者、NPO関係者らでつくる生活保護問題対策全国会議は、小田原市長宛の公開質問状を提出。
ジャンパー作成の経緯や生活保護行政の現状、今後の改革の方向性について回答を求めています。
24日(火)には、同会議のメンバーとして小田原市役所に行き、担当者との話し合いを行なう予定ですので、ご注目ください。

生活保護問題対策全国会議ブログ:小田原市長宛てに公開質問状を提出しました

また、ジャンパーだけでなく、小田原市の公式ホームページにも生活保護制度に関する誤った説明が掲載されていることがわかり、SNSでも大きな話題になりました(現在は修正されています)。

関連記事:【改善させました!】「保護なめんなジャンパー」の小田原市ホームページは制度を利用させない「仕掛け」が満載だった。 

私がこのニュースを知って考えたことの一つに、「小田原市以外の福祉事務所で働く職員は、この問題をどう感じたのだろう?」ということでした。

そこで、知り合いの職員にこの問題に関する意見を聞いてみました。匿名を条件に送っていただいたコメントを2回に分けてご紹介します。

 

誰か一人でも「おかしいんじゃないか」と言えれば、違っていたのでは?

まずは、東京都内の福祉事務所で働く現役ケースワーカーの方からのコメント。この方の職場でも、ジャンパー問題は大きな話題になったと言います。

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私の職場ではネットのニュースが流れた時点で、すぐ広まりました。
日頃、受給者ヘイトや保護ヘイトも耳にする私の職場ですが、幸いにして今回の報道では、ジャンパー問題を擁護する論調は聞きませんでした。

もっぱら「ダセっ」「センス悪すぎ」「あんなジャンパーを4000円でなんか買いたくない」と言うセンスにまつわる非難か、「キモ〜」などの揃いのジャンパーを着る気持ちワルさなどの発言しか聞きませんでした。

小田原では過去に刺傷事件があったことがジャンパー製作のきっかけだそうですが、この職場の団結力というのか密集力を、どの方向性に使うのかという問題なのでしょうね。

同調圧力に抗するのが苦手な国民性に加え、地方都市の役所ならば、私のような変わり者が一人もいない(ないし「生息」できない)可能性があります。誰か一人でも「オレは着ないから買わない」「おかしいんじゃないか」とかでも言えれば違ってたんじゃないか、と思います。

ただし希望のひとすじ的に深読みすれば、10年かかってジャンパー嫌悪派・反対派の少数派が勝負をかけたリーク作戦にでた!とは言えまいか。

今回の小田原のみならず、これだけ不正受給の問題がクローズアップされる職場は、どんな援助が行なわれ、どんな雰囲気か、想像できます。これに良しとしない人が内部にいたからこそ表沙汰になったのではないでしょうか?(と、問題がヒドイだけに思いたい)

アト、そもそも論ですが、援助と取締りを同じ職員がしなければならないというのが、矛盾の大きな一つです。究極の感情労働です。

私としては昔から夢見てますが、金銭給付とケースワークの分離、そして限りなく社会手当化すること、最終的にはベーシックインカムを実現することしか、感情労働の問題は克服しえないと思っています。(了)

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普段から、この方が職場で孤軍奮闘されているのがうかがえるコメントです。
ジャンパー問題が発覚した背景に、職場内の少数派がリークをしたのでは?という推測を述べられていますが、確かにこの点は気になるところです。

 

「お揃いのジャンパーを着て家庭訪問」そのものがありえない。

次に大阪市内の福祉事務所でケースワーカーとして働く、ペンネーム「ぴょん吉」さんのご意見です。
「お揃いのジャンパーを着て、家庭訪問をしていた」という事実そのものの問題点を指摘されています。

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生保の現場の感覚から言うと、「お揃いのジャンパーを着て家庭訪問」そのものがあり得ません。

生活保護制度とその利用者に対しては、まだまだ偏見が根強くあります。
貧困は個人の責任ではなく、制度の利用は権利であり、恥ずべきことではないのですが、そうは言っても利用者の方のほとんどが「まわりには知られたくない」という気持ちを強く持たれています。そのため家庭訪問に際しても、生活保護ケースワーカーが訪問していると近所の人に気づかれないように配慮します。

制服やお揃いのジャンパーなどの着用は厳禁です。乗っていく自転車にも役所の名まえは書きません。

生活保護の利用を周囲に知らしめるような行為は、受給抑制につながります。
そういう当たり前の感覚を喪失しているところが大問題だと思います。(了)

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「ぴょん吉」さんには、一昨年、大阪市の保護費プリペイドカードの試験導入についても、ご意見をうかがったことがあります。

この事業は結局、利用が65世帯にとどまり、大阪市は本格実施を取り止めましたが、「生活保護世帯のみ、プリペイドカードで家計を管理する」という発想と、「お揃いのジャンパーで家庭訪問する」という行動は、どこかでつながっていると私は考えます。

この時の「ぴょん吉」さんのご意見もぜひあわせてご覧ください。

関連記事:大阪市・生活保護費プリペイドカード導入は「ケースワーカーにもメリットなし」 現場からも異論の声

 

生活保護バッシング報道が職場に影響を与えている

3人目は、東京都内の福祉事務所で面接員として働いている方です。
ケースワーカーのストレスの原因や、日本社会に根強い自己責任論の影響を考察されています。

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2009年頃、関東のある自治体労働組合が「生活保護現場のケースワーカーにとってストレスは何ですか?」というアンケート調査を行ったことがあります。その時の結果は、約40%の人が「生活保護利用者の方に嘘をつかれること」と回答し第1位でした。

行政職員として勤務している他の部署で「住民の方から嘘をつかれる」という経験をすることはあまりないかと思いますが、なぜ生活保護利用者が嘘をついたのか?その背景に何があるのか?等、本来はそこから福祉的な援助が始まるはずなのですが多くの職員にとっては、それが多大なストレスとなっている実態があるのです。

ちなみに回答の第2位は、「生活保護の仕事に全く遣り甲斐を感じていない」で約30%の方の回答でした。 

近年の生活保護バッシング報道等による「自己責任論」も生活保護現場に大きな影響を与えており、そこから生活保護利用者に対する差別・偏見等が増幅されていると感じています。

生活保護利用者に対する差別・偏見等が強い職場では、生活保護利用者に対して敬称を使わず「〇〇はさー」と利用者の方を呼び捨てにして日常の会話が行われています。今回の問題は、これらの日常が表面化した一部の事例だと思っています。(了)

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この方は、ジャンパーを作った小田原市福祉事務所の体質には、「生活保護利用者に対する差別・偏見等が強い職場」に共通の問題がある、と指摘されています。

一人目の方も「日頃、受給者ヘイトや保護ヘイトも耳にする」と書かれており、こうした差別や偏見が小田原市だけでなく、各地の福祉事務所に広がっていることが推察されます。

小田原市だけでなく、全国各地の福祉事務所のあり方が問われていると言えるでしょう。(次回に続く)

 

【改善させました!】「保護なめんなジャンパー」の小田原市ホームページは制度を利用させない「仕掛け」が満載だった。

提言・オピニオン

※皆様がこの記事を拡散してくれたおかげで、その後、小田原市ホームページの内容は改善されました。詳細は末尾の「追記」をご覧ください。

昨日(1月17日)、神奈川県小田原市の生活保護担当職員が「保護なめんな」等と書かれたお揃いのジャンパーを作り、それを着用して生活保護世帯の家庭訪問を行なっていた、というニュースが飛び込んできました。

この問題は各メディアによって取り上げられましたが、特にTBSと東京新聞が詳しく報じています(一定期間が過ぎるとリンクが切れる可能性があります)。

小田原市 生活保護担当職員、ジャンパーに「なめんな」 News i – TBSの動画ニュースサイト

東京新聞:小田原市職員の上着に「不正受給はクズ」 生活保護担当が市民訪問に着用も:社会(TOKYO Web) 

問題のジャンパーは2007年に当時の係長らの発案によって作られ、これまで64人もの職員が購入したと言います。

記者会見の場で、小田原市の福祉健康部長は「着ていることは承知していた」と認めながらも、「受給者に対する差別意識をもっている職員はいません。そう言い切りたい」と述べましたが、福祉事務所において生活保護利用者を支援の対象ではなく、監視・管理の対象として見る目線が支配的であったのは間違いないと思います。

小田原市の生活保護行政は、生活に困窮している人たちに対して、ふだんどのような対応を行なってきたのでしょうか。

社会学者の岸政彦さんがTwitterで以下のようにつぶやかれているのを見て、私も小田原市の公式ホームページをチェックしてみることにしました。

岸さん

 

こちらが小田原市公式ホームページのトップです(画像をクリックするとリンク先に飛びます。以下、同じ)。

小田原1

 

生活保護に関する情報は、「暮らし」をクリックして、「福祉/健康」というコーナーで見ることができます。

こちらが「生活保護」関連ページのトップ。4つの項目が並べられています。

小田原2

 

もしあなたが小田原市在住で、生活に困窮していたら、このページにアクセスし、一番上にある「生活保護制度について」という項目をクリックするでしょう。

ところが、それは罠なのです。「生活保護について」という項目をクリックすると、出てくるのはこのページになります。

小田原3

 

このページは「生活保護について」というタイトルにもかかわらず、生活保護制度そのものに関する説明はありません。

その代わりに書かれているのは、以下のような内容です。一番問題のある部分を太字にしました。

生活保護よりも民法上の扶養義務(特に親子・兄弟間)の方が優先されますので、ご親族でどの程度の援助ができるか話し合ってください。また、生活保護以外にも生活を支えるための様々な公的な制度(年金・傷病手当・失業保険・労災・児童扶養手当・児童手当など)があります。生活保護は、これらの制度を利用しても最低生活を維持することができない方のための制度です。なお、働く能力のある方は、その能力を最大限活用していただくことが必要です。

生活保護制度には確かに親族の扶養が優先するという規定がありますが、それは保護の申請を受け付けた福祉事務所が親族に連絡を取るという意味であり、生活に困窮する本人が親族に自分で連絡をとることを義務づけるものではありません。

また、DVや親族間での虐待などの問題があれば、扶養できるかどうかの問い合わせは行わないことになっています。

この点について、厚生労働省のホームページでは、以下のように書かれています。

扶養義務者の扶養とは
親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けてください。

そのうえで、世帯の収入と厚生労働大臣の定める基準で計算される最低生活費を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、保護が適用されます。

「援助を受けることができる場合は、援助を受けてください」(厚労省)と、「ご親族でどの程度の援助ができるか話し合ってください」(小田原市)では、大違いです。

もしあなたがDVや家庭内の虐待の被害者であれば、「ご親族で~話し合ってください」という文言を見て、絶望し、生活保護の利用をあきらめるでしょう。

小田原市ホームページの記載は、生活保護制度に関する間違った説明をしており、違法性が極めて高いものです。

この他にも、このページには「資産との関係」など、「こういう場合は生活保護を利用できない」という情報ばかり書かれています。

「生活保護制度について」というタイトルでありながら、制度そのものに関する説明は一切なく、「制度が利用できない場合」の説明ばかりが書かれているのです。

では、生活保護制度そのものの説明はどこにあるのでしょうか。

皆さんは、先ほどの「生活保護」に関する「4つの項目」の一番下に「生活保護とは」という項目がひっそりとあるのに気づかれたでしょうか。

小田原2

ここをクリックすると、以下のページが出てきます。

小田原4

 

このホームページの構成からも、小田原市の生活保護行政が意図していることは明確だと思います。

生活に困窮した市民がホームページの「生活保護」コーナーにアクセスしても、まず最初に「こういう場合は受けられない」という情報ばかりを提供する。そこには制度に関する誤った説明も盛り込まれている。

生活保護制度そのものに関する説明は、アクセスしにくいように4つ並べた項目の一番下に置く。

こうしたことからも、今回の「なめんなジャンパー」問題は一部職員の暴走ではなく、組織全体の問題であるとわかります。

公式ホームページの記載は、小田原市で日常的に「水際作戦」や生活保護利用者への人権侵害が行われていたことを疑わせるに充分なものです。

今後、さらに追及していきたいと思います。

ブログ発表後に改善されました!

【1月18日(水)13:30追記】

上記の記事を本日10:45にアップしましたが、その後、小田原市がホームページの一部を改善しました。

改善されたのは、生活保護コーナーの項目の順番です。

問題のある記述が含まれる「生活保護制度について」が一番上から一番下に下がり、制度の趣旨を説明した「生活保護とは」が上に来ました。

しかし、問題の記述自体は改善されていません。引き続き、改善を求めていきます。

改善後のホームページ

改善後のホームページ

 

【1月18日(水)16:00追記】

先ほどまた小田原市ホームページを見たら、問題の箇所が修正されていました。

改善後のホームページ

改善後のホームページ

 

【修正前】生活保護よりも民法上の扶養義務(特に親子・兄弟間)の方が優先されますので、ご親族でどの程度の援助ができるか話し合ってください。

【修正後】生活保護よりも民法上の扶養義務(特に親子・兄弟間)の方が優先されますので、ご親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けてください。

修正後は、厚生労働省の説明に沿った内容に変更されています。違法性が高いという指摘を受けて修正したものと思われます。

他にも生命保険の解約返戻金の扱い等、改善をすべき箇所はありますが、これで一つ問題が解決しました。

多くの方がSNSなどで声をあげていただいたおかげです。ありがとうございました。

ただ、こうしたホームページを作って放置していた小田原市の生活保護行政の責任は大きいと言わざるをえません。

発端となったジャンパー問題も含め、引き続き、追及をしていくので、よろしくお願いします。

 

2017年を「居住福祉元年」に!~新たな住宅セーフティネットの構築に向けて

提言・オピニオン

福祉行政と住宅行政の連携強化

昨年12月22日、「第一回福祉・住宅行政の連携強化のための連絡協議会」が開催されました。この連絡協議会には、厚生労働省の社会・援護局長や国土交通省の住宅局長を筆頭に関係局の職員が揃って参加し、今後、生活困窮者や高齢者、障害者、ひとり親家庭などを支えるセーフティネット機能の強化に向けて、福祉行政と住宅行政の連携を深めていく、という方向性が確認されました。

世間ではほとんど注目されていませんが、霞ヶ関で始まったこの動きは、この国の福祉政策や住宅政策のあり方を大きく変える可能性があるのではないか、と私は期待しています。

連絡協議会の開催要綱には、「住まいは生活の拠点である。そして、その住まいに医療・介護・生活支援等のサービスを包括的に提供する体制を地域ごとに構築することが生活を支えるために不可欠である。」という文言が掲げられました。これはまさに、神戸大学名誉教授の早川和男さんが提唱してきた「居住福祉」の理念そのものです。

行政の縦割りが貧困問題の解決を阻んでいる

私は、安定した住まいを失った生活困窮者を支援する活動を23年間続けてきましたが、その取り組みを通して痛感してきたのは、「行政の縦割りが貧困問題の解決を阻んでいる」という実態でした。生活に困窮している「ヒト」を支える福祉を厚生労働省が管轄し、その人たちが暮らす住宅という「ハコ」は国土交通省が管轄する、という行政の縦割り構造は、中央省庁だけでなく地方行政のレベルでも貫徹しており、その弊害は様々な場面で現れています。

一例を挙げると、2015年に始まった生活困窮者自立支援制度において恒久化された住居確保給付という制度の問題があります。

もともとこの制度は、「派遣切り」問題が深刻だった2009年に「住宅手当」という名称で始まったものですが、「対象は離職者に限る」、「家賃補助は原則3ヶ月」、「アパートの家賃は補助するが、入居する際に必要な初期費用は支給しない(別枠の制度で審査が通った人のみ貸付)」等といった使い勝手の悪さから、利用者が年々減少し、2015年度の新規利用決定件数は月平均で551人と、かつての6分の1程度まで落ち込んでいます(図の緑の線を参照)。

厚生労働省資料より http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000137286.pdf

厚生労働省資料より
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000137286.pdf

 

関連記事:仕事さえあれば、貧困から抜け出せるのか?~生活困窮者自立支援制度の問題点

こうした現状について、生活困窮者自立支援制度を行政とともに進めてきたNPOの関係者からも疑問の声が出ています。
NPO法人抱樸の理事長である奥田知志さんは、西日本新聞のインタビュー記事において、以下のように指摘しています。

制度は生活保護に至る前に自立を促すという狙いがあるため就労支援に偏りがちで、支援メニューが高齢者にはそぐわないケースが少なくない。居住支援も弱い。離職などで住まいをなくした人には家賃相当額を支給する仕組みがあるが、対象年齢は65歳未満。年齢や状況を問わず、総合的に住まいの確保を支援する策がいるはずだ。

生活困窮者自立支援制度における住宅支援がなぜ弱いのかという問題を突き詰めると、この制度が厚生労働省の管轄であり、国土交通省が関与していないという問題が浮かび上がります。

そのため、厚生労働省は「ヒト」に対して家賃を補助する際も、あくまでそれは再就職支援の一環としての短期的なプログラムという位置づけにとどまります。住まいという「ハコ」に直接関わる分野は、国土交通省の協力がなければ、手を出せないのです。

こうした各省庁の縄張り意識が問題の解決を遠ざけているのは、火を見るよりも明らかです。

一度、頓挫した住宅セーフティネットの整備

この縦割りの問題に国レベルで初めて取り組んだのは、鳩山政権時に内閣の緊急雇用対策本部に設置された「セーフティ・ネットワーク実現チーム」でした。同チームは2010年5月、「離職などによる貧困・困窮者の『居住の権利』を支え(中略)諸外国でとられている家賃補助政策等の状況や課題も踏まえつつ、『居住セーフティネット』の整備に向けた検討を進める。」とする中間とりまとめを発表しましたが、その直後に鳩山首相が退陣した影響もあり、その提言が生かされる機会は失われてしまいました。

しかしその後、国内における貧困拡大にどう対処すべきなのか、という議論が民間レベルで広がるにつれて、福祉政策と住宅政策を一体的に展開する「居住福祉」政策を実現すべきだという私たちの主張は徐々に支持を広げていきました。

近年は、貧困問題に取り組む人々のソーシャルアクションにより、「下流老人」問題(藤田孝典さんによる造語)が深刻化していることや、若年層の貧困が少子化にも影響を与えていることなど、世代を越えて貧困が広がっていることが社会に知られるようになり、これらの問題を解決するためにも生活保護の手前で、住宅セーフティネットを強化すべきである、という主張が広く受け入れられるようになっていきました。

そうした中、国土交通省は来年度から空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度を創設することを決めました。これは、高齢者や障害者、子育て世代の入居を促進するため、空き家の登録制を作り、改修費や家賃軽減化の補助を行うというもので、2017年度予算において27億円が計上されました。

しかし、この事業も国土交通省が単独で実施してしまえば、福祉的な視点を欠くものになりかねません。
そこで、どちらから働きかけたのかはわかりませんが、厚生労働省と国土交通省の連携強化という動きが出てきたのです。

2017年を「居住福祉元年」に!

長年の課題である福祉行政と住宅行政の縦割りは克服できるのでしょうか。不安がないわけではありませんが、ここは大きく、「2017年を『居住福祉元年』に!」と新年の目標を掲げておきたいと思います。

世代を越えて広がる住まいの貧困を解消するためには、新たな住宅セーフティネットの整備が「待ったなし」です。今年を後世から見て、「福祉政策・住宅政策の転換点になった年」と言われるようになるよう、働きかけを強めていきます。

ぜひ皆様からも、厚生労働省・国土交通省の双方に「つまらない縦割り意識を捨てて、居住福祉政策を推進せよ」という声をぶつけていただければと願っています。また、地方行政のレベルでも、福祉行政と住宅行政の連携が進んでいるのか、目を光らせていただければと思います。

ご協力よろしくお願いします。

 

ホームレス問題が解決していないのに、国の文書から「ホームレス」が消える?

提言・オピニオン

「ホームレス」の数が減少しています。厚生労働省の概数調査によると、2016年1月時点での全国の「ホームレス」数は6235人。過去最多だった2003年には25296人を記録していたので、13年間で4分の1まで減った計算になります。この数字の変化は、官民双方による支援策が広がった結果だと評価できると思います。

全国と東京23区の「ホームレス」の人数(厚生労働省と東京都の発表に基づく)

全国と東京23区の「ホームレス」の人数(厚生労働省と東京都の発表に基づく)

しかし、以前から指摘しているように、この概数調査には2つの大きな問題点があります。

一つ目は、昼間の目視調査であるため、ターミナル駅周辺などで夜間のみ野宿をしている人がカウントから漏れる傾向にある点です。
東京工業大学の研究者らで作る市民団体ARCHが今年の冬と夏、都内の複数の区で深夜に独自調査を実施したところ、行政の発表より約2.8倍の人数を確認していました。
「東京ストリートカウント」という名称のこの調査報告は下記のサイトでご覧になれます。

Tokyo Street Count ~東京ストリートカウント~

もう一つの問題点は、「ホームレス」の定義が路上・公園・河川敷など屋外で生活をしている人のみに限定されており、ネットカフェや友人宅など、不安定な居所を転々としている人を含んでいない点です。

これらの問題点は、行政による調査の法的根拠となっているホームレス自立支援法が2002年に施行された当初から指摘されていたのですが、改善がなされることはありませんでした。

ただ、そうした問題はあるものの、行政が「ホームレス」への支援策を実施しながら、その効果を測定するため、定期的に概数調査を行なってきたことは、一定の意義があることだと私は考えています。

2017年、ホームレス自立支援法が消滅?

ホームレス自立支援法は10年間の時限立法であり、2012年には5年間の延長措置が取られていますが、その期限も来年(2017年)には終了になります。

政府は、2015年に施行された生活困窮者自立支援法の枠内でホームレス対策も対応できる、という考えで、ホームレス自立支援法の再延長には消極的だと伝えられています。

この方針に対し、長年、ホームレスの人たちを支援してきた各地の団体の関係者から疑問の声があがっています。

ホームレス自立支援法が「消滅」することの問題点はいくつもあります。
最も深刻なのは、ホームレス対策の効果測定として実施されてきた概数調査が実施されなくなる可能性がある、という問題です。生活困窮者自立支援法には調査に関する規定が盛り込まれていないからです。

全国の支援団体でつくる「ホームレス支援全国ネットワーク」は、「なぜこれからもホームレス自立支援法が必要か―ホームレス自立支援法の政策効果を持続させるために」というリーフレットを制作し、同法の延長を求めています。

私も、従来の調査手法や「ホームレス」の定義の改善を求めながらも、ホームレス問題における国や自治体の責任を明記したホームレス自立支援法が消滅してしまえば、ホームレス問題が見えないものにさせられてしまうのではないか、という懸念を拭えないでいます。

改善しつつあるとは言え、この国のホームレス問題はまだ解決していません。
問題自体は無くなっていないのに、「ホームレス」という名前のついた法律が消えてしまえば、国の文書から「ホームレス」という単語がなくなってしまいかねません。

ホームレス自立支援法の再延長を求める動きにぜひご注目をお願いいたします。

 

関連記事:【2016年11月18日】 「『まず住まい』のホームレス支援 民間団体が試み」 ハウジングファーストの紹介記事が朝日新聞に掲載 

 

「誰が貧困を拡大させているのか」という議論を恐れてはならない。

提言・オピニオン

昨日12月13日、参議院内閣委員会で統合型リゾート施設(IR)整備推進法案(カジノ法案)が自民党、日本維新の会などの賛成多数で可決されました。

また同日、年金支給額を抑制する新ルールを盛り込んだ年金制度改革関連法案(年金カット法案)も、自民党、公明党、日本維新の会などの賛成多数で参議院厚生労働委員会で可決されました。

両法案は、本日14日の参議院本会議で可決・成立する見込みです。

国会議事堂

私はカジノ法案について、現在でも深刻な国内のギャンブル依存症問題を悪化させ、ホームレス問題などの貧困問題を深刻化させるものだとして、反対の論陣を張ってきました。

関連記事:ギャンブル依存症問題を悪化させるカジノ法案は通してはならない。

こうした主張をすると、必ずと言っていいほど、「パチンコはいいのか?」という意見が飛んでくるのですが、私はパチンコへの規制も強化すべきだと考えています。少なくとも、駅前などアクセスしやすい場所での出店は規制すべきです。

参議院内閣委員会では、ギャンブル依存症対策を明示することなどの法案修正が行われましたが、生活困窮者支援の現場においてギャンブル依存症に苦しむ人たちを何人も見てきた者として、「対策をすれば、カジノを解禁してもよい」という主張はギャンブル依存症の怖さを全く理解していない言説だと言わざるをえません。

もう一方の年金カット法案も、将来にわたって高齢者の貧困を拡大させかねません。

今年3月に生活保護世帯に占める高齢者世帯の割合が初めて半数を超えました。その背景には、増え続ける低年金・無年金の高齢者が生活保護に頼らざるをえないという状況があります。

その後も生活保護を申請する高齢者世帯は増え続け、全体の生活保護世帯数も過去最多を更新し続けています。

生活保護世帯の増加に対して、厚生労働省の担当者は「依然として、1人暮らしを中心に高齢者世帯の増加に歯止めがかかっていない。高齢者が貧困に陥らないよう対策を検討していく必要がある」とNHKの取材(今年12月7日のNHKニュース。ネットはリンク切れ)に答えていますが、今回の年金カット法案は全く逆の方向を向いており、生活保護世帯の更なる増加を助長するものだと言えます。

このように、今国会における与党や日本維新の会の動きは、「政治が貧困問題の解決を遠ざけている」と言わざるを得ないものでした。

 

 「左派と見られるのが怖い」症候群?

私が気になるのは、こうした政治の動きに対して、生活困窮者支援に関わっている人たちからの問題提起が少なくなっているのではないか、ということです。

拙著『貧困の現場から社会を変える』でも書きましたが、今年2016年は日本国内で貧困問題が「再発見」されてから10年という節目の年になります。

関連記事:日本社会で貧困が「再発見」されてから10年。貧困対策は進んだのか? 

この10年間に、子どもの貧困対策法や生活困窮者自立支援法が制定され、貧困対策は徐々に制度化されつつあります(後者に対しては私は批判的ですが)。

民間レベルでも、「子ども食堂」や貧困家庭の子どもへの学習支援が広がるなど、10年前に比べると、広い意味で生活困窮者支援に関わる人の数は増えてきています。そのこと自体は歓迎すべきことだと思います。

私自身も、つくろい東京ファンドという団体で、「子ども食堂」や自前での住宅支援事業を展開しており、目の前で困っている人たちを支える活動の重要性は充分に理解しているつもりです。

そうした民間レベルでの支援活動を広げるためには、時には行政機関と連携する必要もあり、また企業も含めた幅広い人たちに活動を支持をしてもらう必要もあります。

しかし、貧困問題に関わる団体や個人が「幅広い支持」を求めるあまり、今の政治の動きに対して「まずい」と思っていても沈黙をしてしまう、という傾向が生まれてはいないでしょうか。

カジノ法案や年金カット法案、生活保護基準の引き下げといった「政治的」な課題に対して意見を述べると、自分たちの活動が色メガネで見られるようになり、支持が広がらなくなってしまうのではないか、と恐れてしまう。「左派と見られるのが怖い」症候群とでも言うべき現象が広がりつつあるように、私には思えます。

政治が良くも悪くも貧困に対して現状維持の立場を取っているのであれば、国政の課題にはタッチせず、目の前のことに集中する、という姿勢も有効かもしれません。

しかし残念ながら、今の政治が貧困を拡大させ続けているのは明白です。一人ひとりの生活困窮者を支えていく現場の努力を踏みにじるがごとき政治の動きに対して、内心、憤りを感じている関係者は多いのではないかと思います。

そうであれば、貧困の現場を知っている者として、社会に発信をしていくべきではないでしょうか。団体での発信は難しい場合もあるかもしれませんが、個々人がSNSなどで意見を述べるのは自由なはずです。

貧困問題を本気で解決したいのであれば、「誰が貧困を拡大させているのか」という議論を避けて通ることはできないのです。

現場レベルで貧困対策を少しでも進めることと、将来にわたる貧困の拡大を防ぐために政治に物を申していくことは決して矛盾していません。

その両方に取り組んでいくことの重要性を改めて強調しておきたいと思います。

 

生活保護引下げ違憲 東京国賠訴訟が進行中!12月19日(月)、傍聴に集まろう!

提言・オピニオン

私も応援している生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟の第3回口頭弁論が、12月19日(月)11時より東京地裁103号法廷で開かれます。

傍聴をご希望の方は、早めに東京地裁の正門前に(地下鉄「霞ヶ関」駅A1出口すぐ)にお集まりください。

口頭弁論終了後は、報告集会も予定されています。ぜひご注目ください!

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以下は、弁護団のブログより。

【拡散お願い】
生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟(はっさく訴訟)の第3回口頭弁論期日が2016年12月19日(月曜)11時から、東京地裁1階の103号法廷で開かれます。
2013年8月1日以降3回にわたって実施された生活保護基準の引下げは憲法25条違反だとして、都内の生活保護受給者の皆さんが、国などに対し、国家賠償と保護費減額の取消しを求めています。
原告のなかには、障害を抱えている方も多いです。「健康で文化的な最低限度の生活」の保障をないがしろにさせないためにも、ぜひ傍聴に来ていただきたいと思います。
閉廷後、11時40分ころから、TKP新橋内幸町ビジネスセンター601で報告集会も予定しています。
こちらにもご参加をお願いします。

※2013年8月1日以降1年8か月の間に3回にわたって生活保護費の引下げがありました。保護費は生活困窮者の命をつなぐもの。引下げは死活問題です。このため、全国の受給者850人以上が集団訴訟で国家賠償などを求めています。
東京地裁で行われている「生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟」の略称は、引下げの日を忘れないため「はっさく訴訟」としました。
市民による「支える会」の結成も予定しております。

弁護団・原告団・支える会連絡先:〒171-0021 東京都豊島区西池袋1丁目17番10号 エキニア池袋6階 城北法律事務所内 生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟弁護団/
電話03-3988-4866(担当=平松・木下)
Facebookページ:https://www.facebook.com/hassakusosho も見て下さい。

関連記事:生活保護基準引下げは違憲!東京国賠訴訟がスタートします! 

 

ギャンブル依存症問題を悪化させるカジノ法案は通してはならない。

提言・オピニオン

12月6日、衆議院本会議において、カジノを中心とした統合型リゾート(IR)を推進する法案(カジノ法案)が自民党や日本維新の会などの賛成多数で可決されました。内部に反対意見の多い公明党は自主投票となり、自民党内にも異論の声があると報じられていますが、自民党の執行部は今国会での成立をめざしています。

推進派は、カジノ法案が地方の経済活性化につながると主張していますが、治安悪化やマネーロンダリング(資金洗浄)への悪用など、カジノ解禁に伴う懸念点は払拭されていません。

生活困窮者支援を行なってきた者として、私が最も懸念するのは、ただでさえ深刻な国内のギャンブル依存症問題がカジノの開設によって悪化するという問題です。

厚生労働省の研究班は2014年に発表した調査結果において、日本人の成人人口のうち約536万人が国際的に使われる指標でギャンブル依存の状態にあると推計しています。これは成人人口の4.8%にあたり、海外の同様の調査と比べても突出して多い数字です。536万人の内訳は、438万人(成人男性の8.7%)、女性が98万人(成人1.8%)で圧倒的に男性が多いことがわかっています。ちなみに、依存症の代表格として言及されることの多いアルコール依存は、同じ調査で109万人と推計されています。

こうした状況は国内のホームレス問題にも影響しています。NPO法人ビッグイシュー基金が2010年に発表した『若者ホームレス白書』では、聞き取りを行なった20代、30代のホームレス男性50人のうち、依存症傾向にある人は18人おり、そのうち、アルコール依存は4人、ギャンブル依存が14人という結果が出ています。

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私がこれまで行なってきた路上生活者への相談活動の中でも、パチンコや公営ギャンブルに毎日のように通ってしまい、生活が破綻したという話は何度も聞いたことがあります。

欧米では薬物依存とホームレス問題の関連がよく知られていますが、日本では薬物でもアルコールでもなく、ギャンブル依存が最もホームレス問題に直結している依存症だと言えます。

本人の自己責任で片付けられることの多いギャンブル依存症ですが、精神科医で作家の帚木蓬生さんは、「ギャンブル障害には誰でも陥る可能性がある」、「陥るか陥らないかの差は、ほぼ環境要因で決まる」と指摘しています。

ギャンブル依存症の実態については、ビッグイシュー基金が作成した2冊の報告書がよくまとまっているので、ぜひご参考にしてください。

新レポート『疑似カジノ化している日本:ギャンブル依存症はどういうかたちの社会問題か?』完成しました!

依存症の実態に迫る!『ギャンブル依存症からの生還―回復者12人の記録』が完成

帚木蓬生さんは「環境そのものにギャンブルしやすさが整っていると、ギャンブル症者は確実に増えます」とも指摘しています。このことを踏まえると、カジノ解禁がギャンブル依存症問題の悪化に直結するのは確実だと言えます。

韓国では、外国人のみがカジノに出入りできる時代が長く続いていましたが、2000年に韓国人も利用できる「江原ランドカジノ」がオープンして以降、カジノで全財産を失った人がホームレス化するという問題が深刻化したという報道がなされています。

こうした依存症問題について、推進派はカジノ開設とともに依存症対策を強化するから問題ないと主張しています。

確かに自助グループへの支援など依存症対策の強化は必要ですが、依存症が完治しない病気である(回復はするが、いったん依存症になったら脳の状態は戻らない)ことを踏まえると、依存症対策をすればカジノを作っていい、という主張は「消防車を増やすから火事を出してもいい」といったレベルの論理であり、まさにマッチポンプでしかありません。

現在でも深刻な日本のギャンブル依存症問題に対する最も有効な対策は、新たなギャンブルを作らないことです。また同時に、パチンコへの規制強化も必要です。

カジノ法案には、最近にしては珍しく、全国紙5紙の社説が反対で一致しました。参議院が「良識の府」として、この法案にストップをかけることを心から望みます。

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