提言・オピニオン

改正住宅セーフティネット法が成立!まずはハウジングプアの全体像に迫る調査の実施を!

提言・オピニオン

4月19日、参議院本会議で改正住宅セーフティネット法が可決、成立しました。本サイトでも何度が取り上げていますが、この法律は高齢者、障害者、子育て世帯、低所得者など、賃貸住宅市場で住宅の確保に困難を抱えている人たちを「住宅確保要配慮者」と位置づけ、都道府県ごとに空き家の登録制度を新設して、オーナーが登録に応じた空き家を活用することで「住宅確保要配慮者」の入居を促進しようとするものです。

これはいわば、全国各地で増え続ける空き家問題と、深刻化する高齢者などへの入居差別の問題を「一石二鳥」で解決しようとする施策であり、「住まいの貧困」(ハウジングプア)を解決するために私がこれまで行なってきた提言とも合致する内容になっています。

増え続ける空き家を貧困対策に活用することを提言してきました。

 

国土交通省は2020年度末までに全国で計17万5000戸の登録住宅を確保したいとしています。しかし、若年層にも増えている低所得者の入居を促進するためには、空き家の登録制度を作るだけでは不充分で、貸し出される際の家賃を下げる施策が必要になります。そのため、政府は空き家のオーナーに月最大4万円の補助(国から2万円、地方自治体から2万円)を出すことで、家賃を低く抑えてもらう事業を実施するのですが、なぜかこの部分は法律の条文には盛り込まれず、予算措置にとどまっていました。

条文に明記されない事業は、その時々の財政状況によって縮小されたり、停止されたりする可能性が高まります。また、この家賃低廉化以外にも、支援の対象とされる「被災者」が災害発生三年以内に限られるという記述がある等、法案にはいくつか不充分と思える点がありました。

そこで、私が世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」では、この間、「家賃低廉化も条文に盛り込むこと」などを求めて、各政党に対する働きかけを行なってきました。4月7日には衆議院国土交通委員会における審議に私も参考人として呼んでいただき、意見陳述と委員との質疑を行ないました。

【関連記事】衆議院国土交通委員会で参考人招致。住宅セーフティネットの強化を提言しました。 

その結果、残念ながら条文の修正は行われませんでしたが、衆議院及び参議院の国土交通委員会での採決の際、それぞれ私たちが懸念している点についての「附帯決議」が採択されることになりました。

附帯決議に何が盛り込まれたのか

参議院国土交通委員会での附帯決議は下記のような内容になりました。重要な部分は太字にしています。

◆参議院国土交通委員会:住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議

政府は、本法の施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講じ、その運用に万全を期すべきである。

一 本法に住宅セーフティネット機能の強化と併せ、公営住宅を始めとする公的賃貸住宅政策についても、引き続き着実な推進に努めること。

二 低額所得者の入居負担軽減及び安定的な住宅確保を図るため、政府は予算措置を含め必要な支援措置を講ずること。

三 高齢者、障害者、低額所得者、ホームレス、子育て世帯等の住宅確保要配慮者の入居が拒まれている実態について、国土交通省と厚生労働省とが十分に連携し、住宅政策のみならず生活困窮者支援等の分野にも精通した有識者や現場関係者の意見を聞きながら、本法律の趣旨を踏まえ、適宜調査を行うなど、各々の特性に十分配慮した対策を講ずること。

四 住宅確保要配慮者が違法な取立て行為や追い出し行為等にあわないよう、政府は適正な家賃債務保証業者の利用に向けた措置を速やかに講ずること。

五 地方公共団体による賃貸住宅供給計画について、その策定の促進を図るとともに、地域の住宅確保要配慮者の実情に即し、かつ空き家対策にも資する実効性のあるものとなるよう、必要な支援を行うこと。

六 住宅セーフティネット機能の強化のためには、住宅確保要配慮者居住支援協議会の設立の促進とその活動の充実等を図ることが重要であり、また、地方公共団体の住宅部局及び福祉部局の取組と連携を強化することが不可欠であることに鑑み、各地域の実態を踏まえ、必要な支援を行うこと。

七 災害が発生した日から起算して三年を経過した被災者についても、必要が認められるときには、住宅確保要配慮者として支援措置を講ずること。

 

このうち、「三」に盛り込まれた「調査」の実施については、私が参考人陳述において最も強調した点でした。ハウジングプア(住まいの貧困)問題については、国土交通省と厚生労働省という行政の縦割りの壁に阻まれ、これまで包括的な実態調査が実施されたことがありません。法改正を機に本格的な調査をぜひ実施してほしいと願っています。

4月7日(金)に衆議院国土交通委員会で参考人として意見陳述をした際の資料より

 

空き家を活用した住宅セーフティネット事業は、今年の秋に開始される予定です。法律が中身を伴ったものになるよう、事業の実施状況をチェックし、適宜、国や地方自治体に働きかけを行なっていきたいと考えています。

5月25日には、今回の法改正に至る経緯を振り返り、今後の課題について考えるための報告集会を開催いたします。私と一緒に衆議院の国土交通委員会で参考人として意見陳述をした坂庭国晴さん(国民の住まいを守る全国連絡会代表幹事)、参議院の国土交通委員会で意見陳述をした塩崎賢明さん(立命館大学特別招聘教授)も登壇されます。

報告集会の詳細はこちらで。ぜひご参加ください。

5月25日(木)「住宅セーフティネット法改正」の報告集会 ―国会審議の特徴と今後の課題を考える

立川市生活保護廃止自殺事件調査団が結成され、東京都に申し入れを行ないました。

提言・オピニオン

2015年12月10日、東京都立川市で生活保護を利用していた一人暮らしの40代男性(Aさん)が自宅のアパートの部屋で自殺しました。

立川市福祉事務所は、同年11月21日付けでAさんを就労指導に従わないという理由で保護廃止にしており、その通知書を12月9日にAさん宛に送っていました。この経緯から、Aさんは保護廃止の通知書を受け取った直後、絶望して自殺に至ったのではないかと考えられます。

この事件は、同年12月31日、立川市の日本共産党市議団控え室にAさんの知人と名乗る人より匿名のFAXが送られたことにより発覚しました。

共産党市議団に送られたFAX

その後、立川市議会の上條彰一議員(日本共産党)が立川市に対して事実関係を明らかにするように求めましたが、市側は個人情報の保護を理由に応じませんでした。

以下は上條市議による市への質問とその回答です。

そこで、弁護士や研究者らが中心となり、この事件の真相究明と再発防止を目的とする調査団を結成することになりました。

本日(4月11日)、立川市生活保護廃止自殺事件調査団(共同代表:宇都宮健児弁護士、後藤道夫都留文科大学名誉教授)が結成され、立川市の生活保護行政を監督する立場にある東京都に対する申し入れと記者会見を行ないました。

東京都に対しては、「質問状」と「要請書」の2つの文書を提出しました。それぞれ、下記で内容をご確認ください。

東京都の保護課長は申し入れの席上、「昨年、立川市から事故報告を受け、ヒヤリングを行なった。自分もケース記録などの書類を見た。(保護廃止に至る)手続き的なものについては、指導・助言すべきことはなかった。」と発言しました。

申し入れにも参加した上條市議によると、事件発覚直後、立川市の担当者と話し合いを行なった際、「懲らしめの意味で保護を切ったんですか?」と聞いたところ、「そうなんです」と認めたと言います。

また、Aさんに路上生活歴があることに関連して、「保護を切っても何らかの形で生きていけるのではないかと思った」という発言もあったと言います。

このような認識のもとに生活保護を打ち切ったのであれば、生活保護行政の責任を放棄した人権侵害以外の何物でもないと考えます。

申し入れ後の記者会見の場で、調査団の事務局を務める田所良平弁護士(三多摩法律事務所)は、「行方不明になり、連絡が取れないというような場合に保護廃止にするのはやむをえないが、そこにいる人の保護を廃止するのは、命綱を断ち切る行為であり、するべきでない」と指摘しました。

私も今回の事件の背景に、生活保護の利用世帯数を抑制しようとする政府の政策があることを見る必要があると発言しました。

また、過去にAさんの相談にのった民間団体の支援者が「Aさんから『死にたい』という発言を聞いたことがあり、うつ症状と思われる言動が認められた」と証言していることに関連して、「生活保護世帯の中で、Aさんのような人は『その他の世帯』と分類されるが、『その他の世帯』がみんな働ける状態にあるというわけではなく、中には隠れた障害や疾病が発見されていないだけの人もいる。隠れた障害や病気を見つけるために福祉事務所職員の専門性を高める必要性がある」と指摘しました。

調査団は東京都に「質問状」への文書回答を求めています。ぜひ多くの方のご注目をお願いします。

***************

【調査団による質問状の文面】

2017年4月11日

質問状

東京都知事 殿
東京都福祉保健局生活福祉部保護課長 殿

立川市生活保護廃止自殺事件調査団
共同代表 宇都宮 健児
同  後藤 道夫

去る2015年12月、立川市内で生活保護を受けていた方が、就労指導違反を理由とする生活保護廃止処分を受け、処分の翌日に自殺をするという事件(以下「本件自殺事件」といいます)が発生しました。我々は、この事件を受け、就労指導や保護の停止・廃止の在るべき運用を今一度確認すると共に、2度とこのような痛ましい事件が起こることのないよう、特定の職員に責任に矮小化することなく、構造的な要因も含めた原因の究明とこれを踏まえた再発防止策を講ずることが喫緊の課題であると考えております。

つきましては、下記のとおり、就労指導や保護の停止・廃止処分の運用の在り方(第1)並びに、立川市福祉事務所の人員体制と本件(第2)に関して質問いたしますので、後日文書にてご回答いただきますようお願い致します。

第1 就労指導及び保護の停止・廃止の在り方について

(1) 就労指導の前提となる稼働能力の有無・程度及びその把握について

① 就労指導の前提となる稼働能力の有無・程度は、年齢や医学的な面のみならず、職歴や、ホームレス経験の有無・期間などの生活歴なども考慮して、客観的かつ具体的に判断されるべきであると考えますが、いかがでしょうか。

② 精神疾患、依存症、軽度知的障害や発達障害の疑い、既往症など(以下、「精神疾患等」といいます。)、稼働能力の存在・程度を慎重に検討すべき生活保護利用者について稼働能力の有無・程度を判断するにあたっては、対象者に医療機関等の診断を促し、その診断結果を参照しつつ慎重に行われるべきであると考えますが、いかがでしょうか。

③ 上記の稼働能力の存在・程度を慎重に検討すべき生活保護利用者については、ケース診断会議等の組織的検討を経て判断すべきと考えますが、いかがでしょうか。

(2) 就労指導の内容について

① 就労指導は、稼働能力が存在することを前提に、具体的な稼働能力の程度に応じた内容でなくてはならず、同人の稼働能力を超える労働条件や職種への求職活動を指導してはならないと考えますが、いかがでしょうか。

② 就労指導は、対象者の職業選択の自由を尊重するものでなければならず、対象者の職歴やその有する知識、技能、経験等のみならず、同人の希望についても考慮した上でなされるべきと考えますが、いかがでしょうか。

(3) 指導指示違反を理由とする保護の停止・廃止について

① 保護の停止・廃止により対象者の衣食住が維持できなくなり、あるいは、必要とする治療や支援を打ち切られる等、その生存が脅かされるおそれがある場合には、指導指示違反(就労指導に限らない)を理由とする保護の停止・廃止をするべきではないと考えますが、いかがでしょうか。

② 指導指示違反を理由とする保護の停止・廃止が行われた場合、要保護状態が解消されるわけではないため、放置すれば心身の健康を害し、ひいては生命の危機に瀕する蓋然性があることから、福祉事務所は引き続き対象者の生活状況を把握し、必要に応じ職権で保護を再開すべきであると考えますが、いかがでしょうか。

③ 就労指導による保護の停止・廃止の目標値の設定は、個々の事情を無視した、不適切な就労指導を誘発する危険があるため、妥当ではないと考えますが、いかがでしょうか。

第2 本件自殺事件の原因究明について

構造的要因も含めた本件の原因究明のため、下記事項について立川市から事情聴取等を行ない、後日書面でご回答下さい。

1 前提事情
(1) 担当職員の人員体制等について
①配置職員の人数(生活保護担当全体、各係の人数、役職、正規職員と非正規職員の各人数、元警察、職安職員等の人数)
②各職員の経験年数、各職員の担当件数、
③生活福祉課の人事配置の方針、研修体制と研修内容
④上記①~③について改善が必要と考える点

(2) 国の生活保護行政、社会保障行政の姿勢に対する意見
2 本件事件について

(1) 稼働能力の有無・程度について

書面・口頭を問わず、就労指導を行う前の時点における次の各項目の事情をご説明下さい。

① A氏の健康状態、とりわけ精神疾患の有無、既往症、その他疾病の有無をどのようなものとして把握していたのでしょうか。

② A氏を支援した経験のある者によれば、A氏は対人関係を築くことが苦手で、「死にたい」等の発言もみられ、うつ症状と思われる言動が認められたとのことです。担当ケースワーカーはAのこのような言動を確認していなかったのでしょうか。

③ A氏の稼働能力の判断に際して、医療機関受診の促しや、医師の意見聴取等は行なわれていたのでしょうか。

④ A氏の稼働能力の有無・程度の判断に際して、ケース診断会議等の組織的検討が行われていたのでしょうか。

⑤ A氏の稼働能力の有無・程度に関する立川市福祉事務所の認識はいかなるものだったのでしょうか。

(2) 就労指導について

① A氏に対する就労指導(口頭、書面問わず)の時期と具体的な内容はいかなるものだったのでしょうか。
ⅰ 口頭の就労指導は該当部分のケース記録も開示してください。
ⅱ 書面による就労指導は指導指示書も開示して下さい。
② A氏に対する書面による就労指導の内容に関して、ケース診断会議等の組織的検討が行われたのでしょうか。
*ケース診断会議記録も開示して下さい。

(3) 保護停止・廃止処分について

ア 保護停止処分について

① 保護停止処分を行なう前提として、告知聴聞の機会は、いつ、どのようにして付与され、A氏はいかなる弁明を行ったのでしょうか。
*この点に関するケース記録も開示して下さい。
② 保護停止処分を行う前提として、ケース診断会議等の組織的検討は、いつ、誰が参加して行われ、どのような理由で停止の結論に至ったのでしょうか。
*ケース診断会議録に基づいてご説明下さい。同記録も開示して下さい。

イ 保護廃止処分について

① 保護廃止処分を行なう前提として、告知聴聞の機会は、いつ、どのようにして付与され、A氏はいかなる弁明を行ったのでしょうか。
*ケース記録も開示してください。

② 保護廃止処分を行う前提として、ケース診断会議等の組織的検討は、いつ、誰が参加して行われ、どのような理由で廃止の結論に至ったのでしょうか。
*ケース診断会議録も開示して下さい。

③ 保護停止処分から保護廃止処分までの間に、自宅訪問は実施されましたか。

④ 立川市福祉事務所は、保護廃止処分にあたり、廃止後の生活がどのようにして維持されていくものと認識していたのでしょうか。

⑤ 立川市福祉事務所は、保護廃止後、A氏の生活状況を把握するための何らかの措置を講じていたのでしょうか。
以上

***************

【調査団による要請書の文面】

2017年4月11日

要請書

東京都知事 殿
東京都福祉保健局生活福祉部保護課長 殿

立川市生活保護廃止自殺事件調査団
代表 宇都宮 健児
同 後藤 道夫

2015年12月、立川市内で生活保護を受けていた方が、就労指導違反を理由とする生活保護廃止処分を受け、その翌日に自殺する事件が発生しました。二度と同様の事件が繰り返されないよう、立川市福祉事務所を含む都内各福祉事務所を指導監督すべき立場にある貴庁において、全都の福祉事務所で下記事項を実現することを強く求めます。

1. 就労指導、指導違反に対する停止・廃止の在り方について

(1) 就労指導のあり方について

① 就労指導ないし就労による保護廃止数の目標値設定を直ちに中止すること。

② 精神疾患歴がある方やホームレス経験のある方など就労指導の前提となる稼働能力の制限ないし喪失が疑われる場合、稼働能力の有無・程度の判断は、ケースワーカーの独断にまかせることなく、精神疾患や軽度知的障害、発達障害の有無等に関する医師等の専門家の意見を踏まえて、ケース診断会議等の組織的検討の上で行うこと。

③ 就労指導は、形式的・画一的に行うことなく、当該保護利用者の稼働能力、家族の状況等の個別の事情を十分に踏まえて行うこと。

④ 就職活動が芳しくない人については、その原因の把握に努め、精神疾患、依存症、知的障害、あるいは同居家族の状況等、稼働能力を阻害ないし喪失させる事情の存在が疑われる場合には、上記②と同様に稼働能力の有無・程度を改めて把握すること。

⑤ 就労は、経済的な自立のために必要なだけでなく、社会参加や自己実現の機会でもあることを踏まえ、保護利用者の意思を尊重した就労指導を行うこと。また、様々な事情により稼働能力が喪失された場合でも、個人として尊重し、無理のない範囲で社会参加や自己実現を保障すること。

(2) 指導・違反に対する停止・廃止について

① 弁明の機会を付与する際は、形式的な質問と回答確認に留まることなく、十分な時間を確保し、本人の言い分を聴取し、これを記録に残すこと。とりわけ、知的能力の障害や精神疾患等により本人の言い分を独力で説明することに困難が伴う方については、聴取する職員の側において積極的に発問する等して、本人の言い分を丁寧に聴取するよう努めること。

② 保護の停止・廃止は、当該保護利用者の生存を危機的状況に追い込む具体的現実的危険性のあることに鑑み、就労指導違反のみを理由とする保護の停止・廃止は行わないこと。

③ 保護の停止・廃止を行った場合には、その後もその者の最低限度の生活が確保されているかを確認し、要保護状態に陥る場合には、再度の生活保護申請を促し、必要に応じて職権で保護を再開すること

2.保護の実施機関として適切に職務を遂行するための組織・人員体制について

(1) 職員研修の実施について

国民の人権、とりわけ憲法及び生活保護法に基づく国民の生存権保障と社会保障制度の意義を職員が充分に理解するための研修・教育に徹底すること。

(3) 人員体制の充実について

①  社会福祉専門資格有資格者を増員すること。
②  ケースワーカーを増員し、ケースワーカー一人当たり80件を実現すること

以上

関連記事:「生活保護利用者の人権は制限してもよい」の先には、どのような社会があるのか?

衆議院国土交通委員会で参考人招致。住宅セーフティネットの強化を提言しました。

提言・オピニオン

空き家活用型住宅セーフティネット事業の新設を盛り込んだ住宅セーフティネット法改正案の国会審議が始まりました。

この改正法案について、私が世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」は、「法案の趣旨には賛同するが、不充分な点が多く、一部修正が必要」という意見を表明し、この間、各党の担当者への働きかけを行なってきました。

【関連記事】住宅セーフティネット法改正案は「住まいの貧困」解決の切り札となるのか?

【住まいの貧困に取り組むネットワークブログ】住宅セーフティネット法改正案について各党に要請書を提出しました!

このたび、法案が衆議院国土交通委員会で審議されるのにあたり、参考人として招致されることになりました。

本日4月7日(金)午前9時から、坂庭国晴さん(国民の住まいを守る全国連絡会代表幹事)、浅見泰司さん(東京大学大学院工学系研究科教授)とともに、参考人として10分間の意見陳述を行ない、その後、各議員からの質疑を受けました。

坂庭さんは、「住まいの貧困」の解消に向けた社会運動を一緒に進めている仲間でもあるので、二人で役割分担を行ない、私は若年の低所得者層の「住まいの貧困」の実情と住宅支援の必要性を中心に発言しました。

委員会の場で配布したパワーポイント資料をもとに、発言の要旨をお知らせします。

 

・1990年代半ばから路上生活者など住まいを失った生活困窮者の相談支援を行なってきたが、活動の中で日本の福祉政策・住宅政策の縦割りの弊害を常に感じてきた。

・ヨーロッパでは「福祉は住宅に始まり、住宅に終わる」と言われてきた。日本でも「居住福祉」の理念に基づく政策が必要とされている。

・2007年に住宅セーフティネット法が施行されたが、生活困窮者支援の現場で、この法律に基づく仕組みはほとんど機能していない。


・2009年に『ハウジングプア』という書籍を出し、世代を越えて「住まいの貧困」が広がっていることを問題提起した。

・「ハウジングプア」とは、「貧困ゆえに居住権が侵害されやすい場所で起居せざるをえない状態」を指し、狭い意味での「ホームレス」だけでなく、ネットカフェや脱法ハウス、派遣会社の寮などにいる人たちも含んでいる。

・「住まいの貧困」の全体像を明らかにする調査を行ない、その上で対策を行なうべきだと提言してきた。

・だが、こうした「住まいの貧困」の全体像に迫る調査は未だ行われていない。

・2007年の厚生労働省による「ネットカフェ難民」調査も一度だけで、しかも対象は「ネットカフェに週3、4日以上寝泊まりしている不安定就労者」に限定されている。

・新たな住宅セーフティネット事業を実施する前提として、「住まいの貧困」の全体像に迫る実態調査は不可欠。国土交通省だけでなく、生活困窮者支援を管轄する厚生労働省と合同で調査を実施するべき。

・定期的に調査を実施することで、住宅セーフティネット事業の効果測定も可能になる。


・行政が調査をしないので、民間で実施した調査として「若者の住宅問題」調査がある。

・首都圏・関西圏の低所得の若者を対象に住宅状況を聞いたところ、全体の6.6%がネットカフェ生活や友人宅での居候など「広い意味でのホームレス」を経験していることが判明。親と別居して、自分でアパートやマンションなどを確保している層では、13.5%が「ホームレス経験あり」と回答した。


・同じ調査では、結婚に関する意向も質問したが、約7割が結婚に消極的・悲観的な回答。住まいの確保もままならない中、将来の見通しが立たない若者が多いと見られる。これは日本社会の持続可能性が危機にさらされていると言っていい状況。

・先日発表された国立社会保障・人口問題研究所の調査でも「生涯未婚率」が過去最高(男性約23%、女性約14%)になっていたが、その背景には住宅問題もある。

・欧米では家族政策、少子化対策として、若年層への住宅支援が行なわれており、日本でも若年単身者に対して低家賃の住宅を供給する政策が必要。


・厚生労働省は2015年度より生活困窮者自立支援制度を新設し、その中には住宅支援のメニューもあるが、実績は右肩下がり。その背景には、事業の使い勝手が悪く、住宅政策を管轄する国土交通省との連携が進んでいないという問題がある。


・世代を越えて広がる「住まいの貧困」を解消するためには、貧困対策としての住宅政策が必要である。


・その観点から住宅セーフティネット法改正案を見ると、不充分な点がいくつかある。

・特に家賃低廉化措置が法の条文に盛り込まれず、予算措置にとどまっているという問題は大きい。2017年度に家賃低廉化にあてられる予算は約3億円と聞いているが、これだと家賃が下がるのは2500戸程度(登録住宅全体の約1割)にとどまり、「住宅セーフティネット」と呼べる規模にならないのではないかと懸念している。

・若年層への住宅支援がどこまで進むのかも疑問であり、家賃保証会社が「追い出し屋」化しているという問題もある。

・また支援対象となる「被災者」の定義が災害発生3年以内に限定されているのも問題である。

・改正法の趣旨には賛成だが、これらの点の修正を求めていきたい。

 

参考人による意見陳述と質疑が終了した後、委員による質疑が行われ、住宅セーフティネット法改正案は全会一致で可決されました。
法案が修正されなかったのは残念ですが、私たちの懸念している点を踏まえた附帯決議も全会一致で採決されました。

************

衆議院国土交通委員会:住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議

政府は、本法の施行に当たっては、次の諸点に留意し、その運用について遺漏なきを期すべきである。

一 本法による住宅セーフティネット機能の強化とあわせ、公営住宅をはじめとする公的賃貸住宅政策についても、引き続き着実な推進に努めること。

二 低額所得者の入居負担軽減を図るため、政府は必要な支援措置を講ずること。

三 高齢者、低額所得者、ホームレス、子育て世帯等の住宅確保要配慮者について、入居が拒まれている理由など各々の特性に十分配慮した対策を講ずること。

四 住宅確保要配慮者が違法な取立て行為や追い出し行為等にあわないよう、政府は適正な家賃債務保証業者の利用に向けた措置を速やかに講ずること。

五 住宅セーフティネット機能の強化のためには、地方公共団体の住宅部局及び福祉部局の取組と連携の強化が不可欠であることから、政府はそのために必要な支援措置を講ずること。

六 災害が発生した日から起算して三年を経過した被災者についても、必要が認められるときには、住宅確保要配慮者として支援措置を講ずること。

************

今後、議論は参議院に移っていきますが、住宅セーフティネット機能の強化に向けて、さらに議論が深まることを願っています。

※附帯決議の文面を追加しました(4月7日14:37)

3月29日(水)生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟の第4回口頭弁論に集まろう!

提言・オピニオン

※当初、チラシに3月29日(木)と記載されていました。正しくは3月29日(水)です。お詫びして、訂正いたします。

私も応援している生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟の第4回口頭弁論が、3月29日(水)11時から、東京地裁1階の103号法廷で開かれます。

傍聴をご希望の方は、早めに東京地裁の正門前に(地下鉄「霞ヶ関」駅A1出口すぐ)にお集まりください。

口頭弁論終了後は、報告集会も予定されています。ぜひご注目ください!

http://blog.goo.ne.jp/seihohassaku/e/4feb4808ccd62d14b1dceb80024c384b

2013年8月1日以降3回にわたって実施された生活保護基準の引下げは憲法25条違反だとして、都内の生活保護受給者の皆さんが、国などに対し、国家賠償と保護費減額の取消しを求めています。

「健康で文化的な最低限度の生活」の保障をないがしろにさせないためにも、ぜひ傍聴に来ていただきたいと思います。

閉廷後、11時40分ころから、弁護士会館5階502ABC室で報告集会を行いますので、こちらにもご参加をお願いします。

近く、市民による「支える会」の結成も予定しており、会場で入会を受け付けます。

【弁護団・原告団・支える会連絡先】
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1丁目17番10号 エキニア池袋6階 城北法律事務所内
生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟弁護団
電話03-3988-4866(担当=平松・木下)

フェイスブックもよろしくお願いします。https://www.facebook.com/hassakusosho/

関連記事:「生活保護利用者の人権は制限してもよい」の先には、どのような社会があるのか?

住宅セーフティネット法改正案は「住まいの貧困」解決の切り札となるのか?

提言・オピニオン

住宅セーフティネット法改正案が閣議決定

今年2月3日、政府は住宅セーフティネット法の改正案を閣議決定しました。

国土交通省:「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定

2007年に制定された住宅セーフティネット法は、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」という長い正式名称を持ちますが、条文は12条しかない短い法律です。しかし、改正案は5倍以上の64条まで膨らみ、ほとんどの条文が新設されることになりました。

改正案では、高齢者、障害者、子育て世帯、被災者、低額所得者などを「住宅の確保に特に配慮を要する者」(以下、「要配慮者」とする)と定義し、これらの人たちが民間の賃貸住宅市場で住宅を借りにくくなっている状況を踏まえ、空き家を活用した要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度を創設するとしています。
具体的には、都道府県が一定の基準を満たした空き家を登録する制度を作り、登録住宅の情報開示と賃貸人の監督をおこなうこと、登録住宅の改修費を住宅金融支援機構の融資対象に追加すること、都道府県が指定した「居住支援法人」が入居相談や家賃債務保証等をおこなうこと、生活保護世帯が登録住宅に入居する際の家賃の代理納付をおこなうこと等が改正案に盛り込まれています。

法案から抜け落ちた「家賃低廉化」

増え続ける空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度の創設は、私自身も提言してきたことであり、国が本腰をあげたことは大いに歓迎したいと思います。

しかし、国土交通省がこれまでプレスリリースしてきた新事業の案と今回の改正法案を比較すると、一部の項目が抜け落ちてしまっていることに気付きます。

最も問題なのは、家賃低廉化に関する条文がどこにも見当たらないことです。家賃低廉化とは、登録住宅の家賃を下げるために、国と地方自治体が月2万ずつ、合計4万円を家主に補助する仕組みで、当初、国土交通省は公的な補助をおこなうことで低家賃の住宅を供給するという点を強調していました。ですが、出来上がった法案の中には家賃低廉化に関する条文が抜け落ち、家賃低廉化は予算措置によって実施するとしています。

 

昨年12月22日の国土交通省資料では、低額所得者への支援が強調されていた(赤線は引用者)

 

改正法案の資料では、家賃低廉化は目立たないように記載(赤線は引用者)

同様に、家賃債務保証料の補助や改修費の補助についても、来年度予算案には盛り込まれているものの、法案の中には書き込まれていません。

法律に明記されず、予算措置にとどまるということは、家賃低廉化等の補助は「いつでもやめられる」ということを意味します。おそらく、予算が膨らむことを恐れた財務省サイドの意向もあり、法案には書き込まないということになったのでしょう。

このことは、新たな住宅セーフティネット事業の将来に暗雲をもたらしかねないと私は懸念しています。

家賃が安くなるのは全体の1割だけ?

政府は要配慮者向けの空き家登録制度は公営住宅を補完するものだと説明しています。そして、2017年度の下半期から事業をスタートさせ、毎年5万戸のペースで新規に住宅を登録し、2020年度末までに17・5万戸まで登録戸数を増やすとしています。

登録住宅の供給目標をきちんと掲げたことは評価すべきことですが、他方で、登録住宅のうち、家賃低廉化の補助が実施される住宅の戸数目標は出ていません。

2017年度予算で家賃低廉化のために概算要求されている予算は約3億円ですから、これを単純に割ると、最初の半年間(2017年10月~2018年3月)で家賃低廉化がなされるのは約2500戸ということになります。年間ベースで5000戸ですから、登録住宅全体の1割しか家賃は安くならないという設計です。

この程度の規模では、「住宅セーフティネット」という名前にふさわしいとは言えないでしょう。

一部の地方自治体では、「空き家バンク」等の名称で空き家の登録制度をすでに設けているところもあります。しかし、実際に各地の「空き家バンク」のホームページを見ると、低家賃帯の住宅は少なく、低所得者のニーズに応えられる物件はほとんどない場合が多いと私は感じています。

「住宅確保要配慮者」の定義は非常に広く、低所得ではない高齢者や子育て世帯等も「要配慮者」として位置づけられています。昨今の賃貸住宅市場ではこれらの人たちも住宅を借りにくくなっているので、その点では効果のある事業になるのかもしれません。

しかし、住宅セーフティネット機能を強化すると言うのであれば、低家賃の住宅がふんだんに供給されるようにならなければ、「看板倒れ」と言われても仕方ないでしょう。

法案の修正を求めて、集会を開催します!

この改正案の国会での審議は4月頃に始めると言われていますが、私が世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」では、家賃低廉化補助の明記など、法案の修正を求めて各政党に働きかけることにしました。

【住まいの貧困に取り組むネットワーク】住宅セーフティネット法改正案について各党に要請書を提出しました!

3月21日(火)には集会も開催いたしますので、ぜひご注目ください。

◎住宅セーフティネット法改正案を考える院内集会
日時:2017年3月21日(火)12時30分~15時30分
場所:参議院議員会館地下1階B107会議室    
内容:国会議員各氏のあいさつ、基調報告、講演、当事者・各界からの報告・発言など
主催:住まいの貧困に取り組むネットワークなど

 

「他人事ではない」「構造的な問題」~お揃いジャンパー問題に各地の福祉事務所職員は何を思ったのか?(下)

提言・オピニオン

小田原市の福祉事務所職員が「保護なめんな」と書かれたお揃いのジャンパーを作り、生活保護世帯の訪問をしていた問題。

全国の法律家、研究者、NPO関係者らでつくる生活保護問題対策全国会議が小田原市長に提出した「公開質問状」では、ジャンパーに書かれた内容は「『利用者のウェル・ビーイング を支援する』というソーシャルワーク共通の価値観にも真っ向から反するもの」であると批判しています。

他地域の福祉事務所で働いている公務員の皆さんは、この問題をどのように考えているのかを知りたく、6人の方(現役5人、元職員1人)にコメントを寄せてもらいました。

前半の3人のご意見はこちらをご覧ください。

小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題、各地の福祉事務所職員は何を思ったのか?(上)

背景には構造的な問題がある。

4人目の方は、東京都内の福祉事務所で働くベテラン職員で、保護係長も務めたことのある人です。

————

大変残念な事件です。自治体職員といえども、全員が福祉に詳しい訳ではありません。社会福祉法では、福祉事務所職員(ケースワーカー等)は社会福祉主事の任用資格が必要としています。

しかしながら、保護担当職員の4分の1は任用資格が無いというのが現実です。さらに、国家資格であり、専門家ともいえる社会福祉士は50人にひとりしかいません。

生活保護の仕事には専門性が求められ、他の法律や制度にも精通していることが必要です。なにより社会福祉や貧困問題についての正確な理解も必要です。それなのに、充実した研修も受けられず、正確な法の理解を欠いたまま仕事をさせられている自治体があります。

さらに、受け持ち世帯数が標準の80世帯どころか、100世帯以上を担当している職員も多く、仕事に追われ余裕が全く無いのが実情です。あってはならないのですが、そのストレスを利用者にぶつける者も出てきます。

全国各地で利用者を劣った人間として扱う「劣等処遇」や、「水際作戦」などの違法な運用が後を絶たないのは、このような構造的な問題があるからです。専門性ある職員配置にするなど、改善を求める声をさらに上げたいと考えています。(了)

————

公務員であることさえ忘れなければ

5人目の方は、都内の別の福祉事務所で長年勤め、すでに定年退職されている元職員です。この方もケースワーカーの専門性が欠けていることを問題にされています。

————

ケースワーカーである前に公務員であることさえ忘れなければ、ジャンパーがあったとしても、それを着て家庭訪問などしないだろう。これは人権感覚の問題である。個人というより組織の問題と捉えるべきだと思う。

このような事態が起きるたび、いつも思うのは、なぜ、ケースワーカーの専門性を問題にしないのか、ということだ。福祉の「業界」では社会福祉士、精神保健福祉士、ケアマネなどの資格要件が必要とされているのに、利用者の生活全般を支援するケースワーカーは公務員でありさえすればいい、という程度でしか考えられていない。そもそもそこがおかしい。

生活保護が発足した戦後間もない時期には、経済給付さえすれば、自ずと自立する環境があったのかもしれない。しかし、ここ10年近く、利用者は増加を続け、十分な支援ができないばかりでなく、ケースワーカーにとっても心身ともに相当な負担になっている。その結果、福祉事務所は行きたくない職場の筆頭格になった。大卒の新人を配置しなければ組織が成り立たない所もある。

ではどうすればいいのか。微かな希望かもしれないが、当面できることとして、ケースワーカーの専門職採用(人件費は事務職と同じ)や福祉職の経験者採用、そして志のある職員を配置すること。利用者ひとりひとりに合った自立支援を共有し合う風土をつくること。

専門性だけでは解決できない問題もある。ケースワーカーの負担軽減のため、国が80世帯(標準数)としている担当世帯数を減らし、業務の大半を占める事務処理(各種調査、収入認定等)を簡素化し、支援業務に振り向けること等が必要だ。そのためには、生活保護の国庫負担(現在75%)を増やし、自治体の負担を軽減するなど、ケースワーカーを増員できるような環境を作ることが欠かせない。さらに、生活保護の手前のセーフテイネット(年金、住宅等)を強化することも必要だと思う。(了)

————

現場に広がる「監視・管理」の雰囲気

最後の方は、都内の福祉事務所で働く現役ケースワーカー、ペンネーム「なべ」さんです。2013年の生活保護法「改正」後に職場の雰囲気が変わった、ということを指摘されています。

————

「これは、他人事ではないな」、記事を目にした時に正直に思った感想である。

たまたま、私は、比較的規模の大きい自治体の、それもゆる~い雰囲気の福祉事務所で働いているのでこの「事件」と無関係でいられたのだと思う。

小田原市の福祉事務所で働いていたら、あのひどく悪趣味なジャンパーの着用を拒否できていたどうかは自信がない。

ゴリゴリの活動家ならともかく、「良心的」で秩序に従順な公務員がこうした作風の職場に身を置いていたら、はたして「自分たちは被害者で、悪いのは受給者だ!」といった倒錯した同調圧力に抗することができたどうか、はなはだ心許ない。

福祉事務所の作風を変えていくには、自分たちの人権意識を問い直すことはもちろんだが、外からの批判を受け入れていく開かれた姿勢が必要になってくるはずだ。

考えさせられたのは、人権意識は自然に存在しないという事実である。厚労省を頂点とする生活保護行政の中だけでものを考えていくと、あっというまに人権意識は擦り切れてしまうと思う。

とりわけ、生活保護法「改正」の後は、福祉事務所の現場に援助ではなく監視・管理の雰囲気が強く覆っているように感じている。こうした流れに抗うためにも、ひとりひとりが自分の人権意識を問い直し育んでいく必要があると思う。それは、圧倒的な力関係の中で自分たちの言動が受給者へどのように受け止められるかを想像したり、そのことを同僚のケースワーカーと意識的に話し合ってみることから始まるのだと思う。

私たちは、ひとを監視するのではなく、よりよく生きるための援助をする仕事に従事していることを思い返す必要がある。そのためにも、職場に閉じこもらず外に開いていく姿勢が必要だ。

それにしても、現行での生活保護の運用の仕組みはそろそろ限界を迎えつつあるのではないか?そのことも考えさせる「事件」だと思った。(了)

————

現場の心ある職員たちと共に声をあげていきます

今回、急なお願いにもかかわらず、東京と大阪の6人の職員の方(現役5人、元職員1人)からコメントをいただくことができました。ありがとうございました。

普段から、生活保護行政のあり方を厳しく批判している私の依頼に応えてくださった方々なので、皆さん、それぞれ職場では少数派として肩身の狭い思いをされている人が多いのではないかと推察します。

しかし、「監視・管理」の雰囲気が広がる各福祉事務所において、同調圧力に屈せず、本来あるべき福祉行政のあり方を追求している人たちがいる、ということは大きな希望です。

1月24日(火)には、生活保護問題対策全国会議として、小田原市の担当者との話し合いを行ないますが、小田原市役所の職員の中からも改善に向けた自主的な動きが出てくることを期待したいと思っています。

福祉事務所職員による人権侵害は小田原市だけではなく、全国各地の生活保護行政に共通する根深い「構造的な問題」として存在しています。

職員・元職員の方々が指摘されている「ケースワーカーの専門性(資格要件や研修)」、「職員配置」、「生活保護バッシングや法改悪」、「不正受給対策のあり方」等の問題について、内部の心ある人々とともに、引き続き、声をあげていきたいと考えています。

 

関連記事:ネットから無料で入手可能!知っておきたい生活保護のしくみ

 

小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題、各地の福祉事務所職員は何を思ったのか?(上)

提言・オピニオン

1月17日(火)に記者会見が行われて以来、大問題となった小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題。

本日20日、全国の法律家、研究者、NPO関係者らでつくる生活保護問題対策全国会議は、小田原市長宛の公開質問状を提出。
ジャンパー作成の経緯や生活保護行政の現状、今後の改革の方向性について回答を求めています。
24日(火)には、同会議のメンバーとして小田原市役所に行き、担当者との話し合いを行なう予定ですので、ご注目ください。

生活保護問題対策全国会議ブログ:小田原市長宛てに公開質問状を提出しました

また、ジャンパーだけでなく、小田原市の公式ホームページにも生活保護制度に関する誤った説明が掲載されていることがわかり、SNSでも大きな話題になりました(現在は修正されています)。

関連記事:【改善させました!】「保護なめんなジャンパー」の小田原市ホームページは制度を利用させない「仕掛け」が満載だった。 

私がこのニュースを知って考えたことの一つに、「小田原市以外の福祉事務所で働く職員は、この問題をどう感じたのだろう?」ということでした。

そこで、知り合いの職員にこの問題に関する意見を聞いてみました。匿名を条件に送っていただいたコメントを2回に分けてご紹介します。

 

誰か一人でも「おかしいんじゃないか」と言えれば、違っていたのでは?

まずは、東京都内の福祉事務所で働く現役ケースワーカーの方からのコメント。この方の職場でも、ジャンパー問題は大きな話題になったと言います。

—————-

私の職場ではネットのニュースが流れた時点で、すぐ広まりました。
日頃、受給者ヘイトや保護ヘイトも耳にする私の職場ですが、幸いにして今回の報道では、ジャンパー問題を擁護する論調は聞きませんでした。

もっぱら「ダセっ」「センス悪すぎ」「あんなジャンパーを4000円でなんか買いたくない」と言うセンスにまつわる非難か、「キモ〜」などの揃いのジャンパーを着る気持ちワルさなどの発言しか聞きませんでした。

小田原では過去に刺傷事件があったことがジャンパー製作のきっかけだそうですが、この職場の団結力というのか密集力を、どの方向性に使うのかという問題なのでしょうね。

同調圧力に抗するのが苦手な国民性に加え、地方都市の役所ならば、私のような変わり者が一人もいない(ないし「生息」できない)可能性があります。誰か一人でも「オレは着ないから買わない」「おかしいんじゃないか」とかでも言えれば違ってたんじゃないか、と思います。

ただし希望のひとすじ的に深読みすれば、10年かかってジャンパー嫌悪派・反対派の少数派が勝負をかけたリーク作戦にでた!とは言えまいか。

今回の小田原のみならず、これだけ不正受給の問題がクローズアップされる職場は、どんな援助が行なわれ、どんな雰囲気か、想像できます。これに良しとしない人が内部にいたからこそ表沙汰になったのではないでしょうか?(と、問題がヒドイだけに思いたい)

アト、そもそも論ですが、援助と取締りを同じ職員がしなければならないというのが、矛盾の大きな一つです。究極の感情労働です。

私としては昔から夢見てますが、金銭給付とケースワークの分離、そして限りなく社会手当化すること、最終的にはベーシックインカムを実現することしか、感情労働の問題は克服しえないと思っています。(了)

—————-

普段から、この方が職場で孤軍奮闘されているのがうかがえるコメントです。
ジャンパー問題が発覚した背景に、職場内の少数派がリークをしたのでは?という推測を述べられていますが、確かにこの点は気になるところです。

 

「お揃いのジャンパーを着て家庭訪問」そのものがありえない。

次に大阪市内の福祉事務所でケースワーカーとして働く、ペンネーム「ぴょん吉」さんのご意見です。
「お揃いのジャンパーを着て、家庭訪問をしていた」という事実そのものの問題点を指摘されています。

—————-

生保の現場の感覚から言うと、「お揃いのジャンパーを着て家庭訪問」そのものがあり得ません。

生活保護制度とその利用者に対しては、まだまだ偏見が根強くあります。
貧困は個人の責任ではなく、制度の利用は権利であり、恥ずべきことではないのですが、そうは言っても利用者の方のほとんどが「まわりには知られたくない」という気持ちを強く持たれています。そのため家庭訪問に際しても、生活保護ケースワーカーが訪問していると近所の人に気づかれないように配慮します。

制服やお揃いのジャンパーなどの着用は厳禁です。乗っていく自転車にも役所の名まえは書きません。

生活保護の利用を周囲に知らしめるような行為は、受給抑制につながります。
そういう当たり前の感覚を喪失しているところが大問題だと思います。(了)

—————-

「ぴょん吉」さんには、一昨年、大阪市の保護費プリペイドカードの試験導入についても、ご意見をうかがったことがあります。

この事業は結局、利用が65世帯にとどまり、大阪市は本格実施を取り止めましたが、「生活保護世帯のみ、プリペイドカードで家計を管理する」という発想と、「お揃いのジャンパーで家庭訪問する」という行動は、どこかでつながっていると私は考えます。

この時の「ぴょん吉」さんのご意見もぜひあわせてご覧ください。

関連記事:大阪市・生活保護費プリペイドカード導入は「ケースワーカーにもメリットなし」 現場からも異論の声

 

生活保護バッシング報道が職場に影響を与えている

3人目は、東京都内の福祉事務所で面接員として働いている方です。
ケースワーカーのストレスの原因や、日本社会に根強い自己責任論の影響を考察されています。

—————-

2009年頃、関東のある自治体労働組合が「生活保護現場のケースワーカーにとってストレスは何ですか?」というアンケート調査を行ったことがあります。その時の結果は、約40%の人が「生活保護利用者の方に嘘をつかれること」と回答し第1位でした。

行政職員として勤務している他の部署で「住民の方から嘘をつかれる」という経験をすることはあまりないかと思いますが、なぜ生活保護利用者が嘘をついたのか?その背景に何があるのか?等、本来はそこから福祉的な援助が始まるはずなのですが多くの職員にとっては、それが多大なストレスとなっている実態があるのです。

ちなみに回答の第2位は、「生活保護の仕事に全く遣り甲斐を感じていない」で約30%の方の回答でした。 

近年の生活保護バッシング報道等による「自己責任論」も生活保護現場に大きな影響を与えており、そこから生活保護利用者に対する差別・偏見等が増幅されていると感じています。

生活保護利用者に対する差別・偏見等が強い職場では、生活保護利用者に対して敬称を使わず「〇〇はさー」と利用者の方を呼び捨てにして日常の会話が行われています。今回の問題は、これらの日常が表面化した一部の事例だと思っています。(了)

—————-

この方は、ジャンパーを作った小田原市福祉事務所の体質には、「生活保護利用者に対する差別・偏見等が強い職場」に共通の問題がある、と指摘されています。

一人目の方も「日頃、受給者ヘイトや保護ヘイトも耳にする」と書かれており、こうした差別や偏見が小田原市だけでなく、各地の福祉事務所に広がっていることが推察されます。

小田原市だけでなく、全国各地の福祉事務所のあり方が問われていると言えるでしょう。(次回に続く)

 

【改善させました!】「保護なめんなジャンパー」の小田原市ホームページは制度を利用させない「仕掛け」が満載だった。

提言・オピニオン

※皆様がこの記事を拡散してくれたおかげで、その後、小田原市ホームページの内容は改善されました。詳細は末尾の「追記」をご覧ください。

昨日(1月17日)、神奈川県小田原市の生活保護担当職員が「保護なめんな」等と書かれたお揃いのジャンパーを作り、それを着用して生活保護世帯の家庭訪問を行なっていた、というニュースが飛び込んできました。

この問題は各メディアによって取り上げられましたが、特にTBSと東京新聞が詳しく報じています(一定期間が過ぎるとリンクが切れる可能性があります)。

小田原市 生活保護担当職員、ジャンパーに「なめんな」 News i – TBSの動画ニュースサイト

東京新聞:小田原市職員の上着に「不正受給はクズ」 生活保護担当が市民訪問に着用も:社会(TOKYO Web) 

問題のジャンパーは2007年に当時の係長らの発案によって作られ、これまで64人もの職員が購入したと言います。

記者会見の場で、小田原市の福祉健康部長は「着ていることは承知していた」と認めながらも、「受給者に対する差別意識をもっている職員はいません。そう言い切りたい」と述べましたが、福祉事務所において生活保護利用者を支援の対象ではなく、監視・管理の対象として見る目線が支配的であったのは間違いないと思います。

小田原市の生活保護行政は、生活に困窮している人たちに対して、ふだんどのような対応を行なってきたのでしょうか。

社会学者の岸政彦さんがTwitterで以下のようにつぶやかれているのを見て、私も小田原市の公式ホームページをチェックしてみることにしました。

岸さん

 

こちらが小田原市公式ホームページのトップです(画像をクリックするとリンク先に飛びます。以下、同じ)。

小田原1

 

生活保護に関する情報は、「暮らし」をクリックして、「福祉/健康」というコーナーで見ることができます。

こちらが「生活保護」関連ページのトップ。4つの項目が並べられています。

小田原2

 

もしあなたが小田原市在住で、生活に困窮していたら、このページにアクセスし、一番上にある「生活保護制度について」という項目をクリックするでしょう。

ところが、それは罠なのです。「生活保護について」という項目をクリックすると、出てくるのはこのページになります。

小田原3

 

このページは「生活保護について」というタイトルにもかかわらず、生活保護制度そのものに関する説明はありません。

その代わりに書かれているのは、以下のような内容です。一番問題のある部分を太字にしました。

生活保護よりも民法上の扶養義務(特に親子・兄弟間)の方が優先されますので、ご親族でどの程度の援助ができるか話し合ってください。また、生活保護以外にも生活を支えるための様々な公的な制度(年金・傷病手当・失業保険・労災・児童扶養手当・児童手当など)があります。生活保護は、これらの制度を利用しても最低生活を維持することができない方のための制度です。なお、働く能力のある方は、その能力を最大限活用していただくことが必要です。

生活保護制度には確かに親族の扶養が優先するという規定がありますが、それは保護の申請を受け付けた福祉事務所が親族に連絡を取るという意味であり、生活に困窮する本人が親族に自分で連絡をとることを義務づけるものではありません。

また、DVや親族間での虐待などの問題があれば、扶養できるかどうかの問い合わせは行わないことになっています。

この点について、厚生労働省のホームページでは、以下のように書かれています。

扶養義務者の扶養とは
親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けてください。

そのうえで、世帯の収入と厚生労働大臣の定める基準で計算される最低生活費を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、保護が適用されます。

「援助を受けることができる場合は、援助を受けてください」(厚労省)と、「ご親族でどの程度の援助ができるか話し合ってください」(小田原市)では、大違いです。

もしあなたがDVや家庭内の虐待の被害者であれば、「ご親族で~話し合ってください」という文言を見て、絶望し、生活保護の利用をあきらめるでしょう。

小田原市ホームページの記載は、生活保護制度に関する間違った説明をしており、違法性が極めて高いものです。

この他にも、このページには「資産との関係」など、「こういう場合は生活保護を利用できない」という情報ばかり書かれています。

「生活保護制度について」というタイトルでありながら、制度そのものに関する説明は一切なく、「制度が利用できない場合」の説明ばかりが書かれているのです。

では、生活保護制度そのものの説明はどこにあるのでしょうか。

皆さんは、先ほどの「生活保護」に関する「4つの項目」の一番下に「生活保護とは」という項目がひっそりとあるのに気づかれたでしょうか。

小田原2

ここをクリックすると、以下のページが出てきます。

小田原4

 

このホームページの構成からも、小田原市の生活保護行政が意図していることは明確だと思います。

生活に困窮した市民がホームページの「生活保護」コーナーにアクセスしても、まず最初に「こういう場合は受けられない」という情報ばかりを提供する。そこには制度に関する誤った説明も盛り込まれている。

生活保護制度そのものに関する説明は、アクセスしにくいように4つ並べた項目の一番下に置く。

こうしたことからも、今回の「なめんなジャンパー」問題は一部職員の暴走ではなく、組織全体の問題であるとわかります。

公式ホームページの記載は、小田原市で日常的に「水際作戦」や生活保護利用者への人権侵害が行われていたことを疑わせるに充分なものです。

今後、さらに追及していきたいと思います。

ブログ発表後に改善されました!

【1月18日(水)13:30追記】

上記の記事を本日10:45にアップしましたが、その後、小田原市がホームページの一部を改善しました。

改善されたのは、生活保護コーナーの項目の順番です。

問題のある記述が含まれる「生活保護制度について」が一番上から一番下に下がり、制度の趣旨を説明した「生活保護とは」が上に来ました。

しかし、問題の記述自体は改善されていません。引き続き、改善を求めていきます。

改善後のホームページ

改善後のホームページ

 

【1月18日(水)16:00追記】

先ほどまた小田原市ホームページを見たら、問題の箇所が修正されていました。

改善後のホームページ

改善後のホームページ

 

【修正前】生活保護よりも民法上の扶養義務(特に親子・兄弟間)の方が優先されますので、ご親族でどの程度の援助ができるか話し合ってください。

【修正後】生活保護よりも民法上の扶養義務(特に親子・兄弟間)の方が優先されますので、ご親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けてください。

修正後は、厚生労働省の説明に沿った内容に変更されています。違法性が高いという指摘を受けて修正したものと思われます。

他にも生命保険の解約返戻金の扱い等、改善をすべき箇所はありますが、これで一つ問題が解決しました。

多くの方がSNSなどで声をあげていただいたおかげです。ありがとうございました。

ただ、こうしたホームページを作って放置していた小田原市の生活保護行政の責任は大きいと言わざるをえません。

発端となったジャンパー問題も含め、引き続き、追及をしていくので、よろしくお願いします。

 

2017年を「居住福祉元年」に!~新たな住宅セーフティネットの構築に向けて

提言・オピニオン

福祉行政と住宅行政の連携強化

昨年12月22日、「第一回福祉・住宅行政の連携強化のための連絡協議会」が開催されました。この連絡協議会には、厚生労働省の社会・援護局長や国土交通省の住宅局長を筆頭に関係局の職員が揃って参加し、今後、生活困窮者や高齢者、障害者、ひとり親家庭などを支えるセーフティネット機能の強化に向けて、福祉行政と住宅行政の連携を深めていく、という方向性が確認されました。

世間ではほとんど注目されていませんが、霞ヶ関で始まったこの動きは、この国の福祉政策や住宅政策のあり方を大きく変える可能性があるのではないか、と私は期待しています。

連絡協議会の開催要綱には、「住まいは生活の拠点である。そして、その住まいに医療・介護・生活支援等のサービスを包括的に提供する体制を地域ごとに構築することが生活を支えるために不可欠である。」という文言が掲げられました。これはまさに、神戸大学名誉教授の早川和男さんが提唱してきた「居住福祉」の理念そのものです。

行政の縦割りが貧困問題の解決を阻んでいる

私は、安定した住まいを失った生活困窮者を支援する活動を23年間続けてきましたが、その取り組みを通して痛感してきたのは、「行政の縦割りが貧困問題の解決を阻んでいる」という実態でした。生活に困窮している「ヒト」を支える福祉を厚生労働省が管轄し、その人たちが暮らす住宅という「ハコ」は国土交通省が管轄する、という行政の縦割り構造は、中央省庁だけでなく地方行政のレベルでも貫徹しており、その弊害は様々な場面で現れています。

一例を挙げると、2015年に始まった生活困窮者自立支援制度において恒久化された住居確保給付という制度の問題があります。

もともとこの制度は、「派遣切り」問題が深刻だった2009年に「住宅手当」という名称で始まったものですが、「対象は離職者に限る」、「家賃補助は原則3ヶ月」、「アパートの家賃は補助するが、入居する際に必要な初期費用は支給しない(別枠の制度で審査が通った人のみ貸付)」等といった使い勝手の悪さから、利用者が年々減少し、2015年度の新規利用決定件数は月平均で551人と、かつての6分の1程度まで落ち込んでいます(図の緑の線を参照)。

厚生労働省資料より http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000137286.pdf

厚生労働省資料より
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000137286.pdf

 

関連記事:仕事さえあれば、貧困から抜け出せるのか?~生活困窮者自立支援制度の問題点

こうした現状について、生活困窮者自立支援制度を行政とともに進めてきたNPOの関係者からも疑問の声が出ています。
NPO法人抱樸の理事長である奥田知志さんは、西日本新聞のインタビュー記事において、以下のように指摘しています。

制度は生活保護に至る前に自立を促すという狙いがあるため就労支援に偏りがちで、支援メニューが高齢者にはそぐわないケースが少なくない。居住支援も弱い。離職などで住まいをなくした人には家賃相当額を支給する仕組みがあるが、対象年齢は65歳未満。年齢や状況を問わず、総合的に住まいの確保を支援する策がいるはずだ。

生活困窮者自立支援制度における住宅支援がなぜ弱いのかという問題を突き詰めると、この制度が厚生労働省の管轄であり、国土交通省が関与していないという問題が浮かび上がります。

そのため、厚生労働省は「ヒト」に対して家賃を補助する際も、あくまでそれは再就職支援の一環としての短期的なプログラムという位置づけにとどまります。住まいという「ハコ」に直接関わる分野は、国土交通省の協力がなければ、手を出せないのです。

こうした各省庁の縄張り意識が問題の解決を遠ざけているのは、火を見るよりも明らかです。

一度、頓挫した住宅セーフティネットの整備

この縦割りの問題に国レベルで初めて取り組んだのは、鳩山政権時に内閣の緊急雇用対策本部に設置された「セーフティ・ネットワーク実現チーム」でした。同チームは2010年5月、「離職などによる貧困・困窮者の『居住の権利』を支え(中略)諸外国でとられている家賃補助政策等の状況や課題も踏まえつつ、『居住セーフティネット』の整備に向けた検討を進める。」とする中間とりまとめを発表しましたが、その直後に鳩山首相が退陣した影響もあり、その提言が生かされる機会は失われてしまいました。

しかしその後、国内における貧困拡大にどう対処すべきなのか、という議論が民間レベルで広がるにつれて、福祉政策と住宅政策を一体的に展開する「居住福祉」政策を実現すべきだという私たちの主張は徐々に支持を広げていきました。

近年は、貧困問題に取り組む人々のソーシャルアクションにより、「下流老人」問題(藤田孝典さんによる造語)が深刻化していることや、若年層の貧困が少子化にも影響を与えていることなど、世代を越えて貧困が広がっていることが社会に知られるようになり、これらの問題を解決するためにも生活保護の手前で、住宅セーフティネットを強化すべきである、という主張が広く受け入れられるようになっていきました。

そうした中、国土交通省は来年度から空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度を創設することを決めました。これは、高齢者や障害者、子育て世代の入居を促進するため、空き家の登録制を作り、改修費や家賃軽減化の補助を行うというもので、2017年度予算において27億円が計上されました。

しかし、この事業も国土交通省が単独で実施してしまえば、福祉的な視点を欠くものになりかねません。
そこで、どちらから働きかけたのかはわかりませんが、厚生労働省と国土交通省の連携強化という動きが出てきたのです。

2017年を「居住福祉元年」に!

長年の課題である福祉行政と住宅行政の縦割りは克服できるのでしょうか。不安がないわけではありませんが、ここは大きく、「2017年を『居住福祉元年』に!」と新年の目標を掲げておきたいと思います。

世代を越えて広がる住まいの貧困を解消するためには、新たな住宅セーフティネットの整備が「待ったなし」です。今年を後世から見て、「福祉政策・住宅政策の転換点になった年」と言われるようになるよう、働きかけを強めていきます。

ぜひ皆様からも、厚生労働省・国土交通省の双方に「つまらない縦割り意識を捨てて、居住福祉政策を推進せよ」という声をぶつけていただければと願っています。また、地方行政のレベルでも、福祉行政と住宅行政の連携が進んでいるのか、目を光らせていただければと思います。

ご協力よろしくお願いします。

 

ホームレス問題が解決していないのに、国の文書から「ホームレス」が消える?

提言・オピニオン

「ホームレス」の数が減少しています。厚生労働省の概数調査によると、2016年1月時点での全国の「ホームレス」数は6235人。過去最多だった2003年には25296人を記録していたので、13年間で4分の1まで減った計算になります。この数字の変化は、官民双方による支援策が広がった結果だと評価できると思います。

全国と東京23区の「ホームレス」の人数(厚生労働省と東京都の発表に基づく)

全国と東京23区の「ホームレス」の人数(厚生労働省と東京都の発表に基づく)

しかし、以前から指摘しているように、この概数調査には2つの大きな問題点があります。

一つ目は、昼間の目視調査であるため、ターミナル駅周辺などで夜間のみ野宿をしている人がカウントから漏れる傾向にある点です。
東京工業大学の研究者らで作る市民団体ARCHが今年の冬と夏、都内の複数の区で深夜に独自調査を実施したところ、行政の発表より約2.8倍の人数を確認していました。
「東京ストリートカウント」という名称のこの調査報告は下記のサイトでご覧になれます。

Tokyo Street Count ~東京ストリートカウント~

もう一つの問題点は、「ホームレス」の定義が路上・公園・河川敷など屋外で生活をしている人のみに限定されており、ネットカフェや友人宅など、不安定な居所を転々としている人を含んでいない点です。

これらの問題点は、行政による調査の法的根拠となっているホームレス自立支援法が2002年に施行された当初から指摘されていたのですが、改善がなされることはありませんでした。

ただ、そうした問題はあるものの、行政が「ホームレス」への支援策を実施しながら、その効果を測定するため、定期的に概数調査を行なってきたことは、一定の意義があることだと私は考えています。

2017年、ホームレス自立支援法が消滅?

ホームレス自立支援法は10年間の時限立法であり、2012年には5年間の延長措置が取られていますが、その期限も来年(2017年)には終了になります。

政府は、2015年に施行された生活困窮者自立支援法の枠内でホームレス対策も対応できる、という考えで、ホームレス自立支援法の再延長には消極的だと伝えられています。

この方針に対し、長年、ホームレスの人たちを支援してきた各地の団体の関係者から疑問の声があがっています。

ホームレス自立支援法が「消滅」することの問題点はいくつもあります。
最も深刻なのは、ホームレス対策の効果測定として実施されてきた概数調査が実施されなくなる可能性がある、という問題です。生活困窮者自立支援法には調査に関する規定が盛り込まれていないからです。

全国の支援団体でつくる「ホームレス支援全国ネットワーク」は、「なぜこれからもホームレス自立支援法が必要か―ホームレス自立支援法の政策効果を持続させるために」というリーフレットを制作し、同法の延長を求めています。

私も、従来の調査手法や「ホームレス」の定義の改善を求めながらも、ホームレス問題における国や自治体の責任を明記したホームレス自立支援法が消滅してしまえば、ホームレス問題が見えないものにさせられてしまうのではないか、という懸念を拭えないでいます。

改善しつつあるとは言え、この国のホームレス問題はまだ解決していません。
問題自体は無くなっていないのに、「ホームレス」という名前のついた法律が消えてしまえば、国の文書から「ホームレス」という単語がなくなってしまいかねません。

ホームレス自立支援法の再延長を求める動きにぜひご注目をお願いいたします。

 

関連記事:【2016年11月18日】 「『まず住まい』のホームレス支援 民間団体が試み」 ハウジングファーストの紹介記事が朝日新聞に掲載 

 

1 2 3 4 5 6 7 8 >