「ホームレス問題」の授業が墨田区教育委員会の主導で始まりました

提言・オピニオン

昨日(7月30日)、日本経済新聞に「路上生活者の姿知ろう 東京・墨田、全区立小中で『特別授業』」という記事が掲載されました(共同通信配信記事)。

若者が路上生活者(ホームレス)を襲う事件をなくそうと、東京都墨田区は全ての区立小中学校で、路上生活者について学ぶ取り組みを6月に始めた。野宿生活を送る人を「ゲスト教師」として招いた学校もある。

記事では、墨田区立曳舟小学校の6年生の授業で、山谷労働者福祉会館活動委員会の向井宏一郎さんと野宿の当事者お二人が話をした様子が描かれています。

こうした授業が実現した背景には、支援者と当事者による粘り強い働きかけがあります。

中高生らが路上生活者を襲撃する事件は東京都内各地で発生していますが、墨田区では加害者が区内の中学生であると判明したケースが複数ありました。

そのため、山谷労働者福祉会館と当事者の有志が中心となり、2年以上にわたって墨田区教育委員会や墨田区の人権課に働きかけを行なってきました。

2012年の夏には、『墨田区で暮らす若者のみんなへ』へというチラシを配布して、地域への若者への訴えもおこなっています。以下はそのチラシからの引用です。

小屋や人に石を投げたり花火を打つことについて、やった人は軽いいたずらのつもりだったかも知れない。でも、テントは私たちの家だし、石が当たればケガもします。そんなことをした少年たちに、私たちは怒っているし、自分や仲間の身は守らなければなりません。みんなも、自分の家に石を投げられたらどんな気持ちがするか、考えてみてほしい。

こうした働きかけがあって、今年春、墨田区教育委員会は重い腰を上げ、区として「人権課題『路上生活者』に対する指導方針を作成し、襲撃の再発を防止する指導プログラムを開発する」という方針を決めました。

その方針に基づいて、襲撃が多発する夏休み前に区立の全ての小中学校で「ホームレス問題の授業」を実施することが決まったのです。

「ホームレス問題を子どもたちにどう教えるのか」という点については、私も理事を務める「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」で実践を積み重ねてきました。同ネットでは、教材として活用できるDVDや書籍も制作・販売しています。

墨田区の小中学校で授業を実施するにあたり、墨田区教育委員会から私に依頼があり、5月以降、3回にわたって教職員研修の場でホームレス問題の授業実践についてレクチャーを行なってきました。

教職員研修ではDVDや書籍の紹介もしたのですが、私が一番強調したのは「差別や偏見をなくすために一番重要なのは直接、顔を見て話をすること。子どもたちと路上生活の当事者が直接出会える機会を作ってほしい」ということでした。

今回、曳舟小学校が当事者を授業に呼んで、子どもたちと直接対話する、という授業をおこなったのは、とても良かったと思います。

共同通信の記事では、墨田区教育委員会の担当者にもインタビューをしています。

墨田区教委指導室の岡本賢二・統括指導主事は「これまでは近づくな、かかわるなと『遠ざける』指導をしてきたが、襲撃事件が起きた。路上生活をしている人たちを正しく理解することが大切だと考え、方向転換した」と説明する。ただ効果が生まれるかどうか、「検証はこれから」(岡本さん)という。

北村年子さんの『「ホームレス」襲撃事件と子どもたち』という本に詳述されていますが、川崎市では90年代半ばに教育委員会主導で同様の授業実践をおこない、襲撃件数を激減させた、という実績もあります。

ぜひ墨田区でも実践と検証を積み重ねてもらいたい、そして他の地域でもこうした取り組みが広がってほしいと願っています。

 

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