小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題、各地の福祉事務所職員は何を思ったのか?(上)

提言・オピニオン

1月17日(火)に記者会見が行われて以来、大問題となった小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題。

本日20日、全国の法律家、研究者、NPO関係者らでつくる生活保護問題対策全国会議は、小田原市長宛の公開質問状を提出。
ジャンパー作成の経緯や生活保護行政の現状、今後の改革の方向性について回答を求めています。
24日(火)には、同会議のメンバーとして小田原市役所に行き、担当者との話し合いを行なう予定ですので、ご注目ください。

生活保護問題対策全国会議ブログ:小田原市長宛てに公開質問状を提出しました

また、ジャンパーだけでなく、小田原市の公式ホームページにも生活保護制度に関する誤った説明が掲載されていることがわかり、SNSでも大きな話題になりました(現在は修正されています)。

関連記事:【改善させました!】「保護なめんなジャンパー」の小田原市ホームページは制度を利用させない「仕掛け」が満載だった。 

私がこのニュースを知って考えたことの一つに、「小田原市以外の福祉事務所で働く職員は、この問題をどう感じたのだろう?」ということでした。

そこで、知り合いの職員にこの問題に関する意見を聞いてみました。匿名を条件に送っていただいたコメントを2回に分けてご紹介します。

 

誰か一人でも「おかしいんじゃないか」と言えれば、違っていたのでは?

まずは、東京都内の福祉事務所で働く現役ケースワーカーの方からのコメント。この方の職場でも、ジャンパー問題は大きな話題になったと言います。

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私の職場ではネットのニュースが流れた時点で、すぐ広まりました。
日頃、受給者ヘイトや保護ヘイトも耳にする私の職場ですが、幸いにして今回の報道では、ジャンパー問題を擁護する論調は聞きませんでした。

もっぱら「ダセっ」「センス悪すぎ」「あんなジャンパーを4000円でなんか買いたくない」と言うセンスにまつわる非難か、「キモ〜」などの揃いのジャンパーを着る気持ちワルさなどの発言しか聞きませんでした。

小田原では過去に刺傷事件があったことがジャンパー製作のきっかけだそうですが、この職場の団結力というのか密集力を、どの方向性に使うのかという問題なのでしょうね。

同調圧力に抗するのが苦手な国民性に加え、地方都市の役所ならば、私のような変わり者が一人もいない(ないし「生息」できない)可能性があります。誰か一人でも「オレは着ないから買わない」「おかしいんじゃないか」とかでも言えれば違ってたんじゃないか、と思います。

ただし希望のひとすじ的に深読みすれば、10年かかってジャンパー嫌悪派・反対派の少数派が勝負をかけたリーク作戦にでた!とは言えまいか。

今回の小田原のみならず、これだけ不正受給の問題がクローズアップされる職場は、どんな援助が行なわれ、どんな雰囲気か、想像できます。これに良しとしない人が内部にいたからこそ表沙汰になったのではないでしょうか?(と、問題がヒドイだけに思いたい)

アト、そもそも論ですが、援助と取締りを同じ職員がしなければならないというのが、矛盾の大きな一つです。究極の感情労働です。

私としては昔から夢見てますが、金銭給付とケースワークの分離、そして限りなく社会手当化すること、最終的にはベーシックインカムを実現することしか、感情労働の問題は克服しえないと思っています。(了)

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普段から、この方が職場で孤軍奮闘されているのがうかがえるコメントです。
ジャンパー問題が発覚した背景に、職場内の少数派がリークをしたのでは?という推測を述べられていますが、確かにこの点は気になるところです。

 

「お揃いのジャンパーを着て家庭訪問」そのものがありえない。

次に大阪市内の福祉事務所でケースワーカーとして働く、ペンネーム「ぴょん吉」さんのご意見です。
「お揃いのジャンパーを着て、家庭訪問をしていた」という事実そのものの問題点を指摘されています。

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生保の現場の感覚から言うと、「お揃いのジャンパーを着て家庭訪問」そのものがあり得ません。

生活保護制度とその利用者に対しては、まだまだ偏見が根強くあります。
貧困は個人の責任ではなく、制度の利用は権利であり、恥ずべきことではないのですが、そうは言っても利用者の方のほとんどが「まわりには知られたくない」という気持ちを強く持たれています。そのため家庭訪問に際しても、生活保護ケースワーカーが訪問していると近所の人に気づかれないように配慮します。

制服やお揃いのジャンパーなどの着用は厳禁です。乗っていく自転車にも役所の名まえは書きません。

生活保護の利用を周囲に知らしめるような行為は、受給抑制につながります。
そういう当たり前の感覚を喪失しているところが大問題だと思います。(了)

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「ぴょん吉」さんには、一昨年、大阪市の保護費プリペイドカードの試験導入についても、ご意見をうかがったことがあります。

この事業は結局、利用が65世帯にとどまり、大阪市は本格実施を取り止めましたが、「生活保護世帯のみ、プリペイドカードで家計を管理する」という発想と、「お揃いのジャンパーで家庭訪問する」という行動は、どこかでつながっていると私は考えます。

この時の「ぴょん吉」さんのご意見もぜひあわせてご覧ください。

関連記事:大阪市・生活保護費プリペイドカード導入は「ケースワーカーにもメリットなし」 現場からも異論の声

 

生活保護バッシング報道が職場に影響を与えている

3人目は、東京都内の福祉事務所で面接員として働いている方です。
ケースワーカーのストレスの原因や、日本社会に根強い自己責任論の影響を考察されています。

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2009年頃、関東のある自治体労働組合が「生活保護現場のケースワーカーにとってストレスは何ですか?」というアンケート調査を行ったことがあります。その時の結果は、約40%の人が「生活保護利用者の方に嘘をつかれること」と回答し第1位でした。

行政職員として勤務している他の部署で「住民の方から嘘をつかれる」という経験をすることはあまりないかと思いますが、なぜ生活保護利用者が嘘をついたのか?その背景に何があるのか?等、本来はそこから福祉的な援助が始まるはずなのですが多くの職員にとっては、それが多大なストレスとなっている実態があるのです。

ちなみに回答の第2位は、「生活保護の仕事に全く遣り甲斐を感じていない」で約30%の方の回答でした。 

近年の生活保護バッシング報道等による「自己責任論」も生活保護現場に大きな影響を与えており、そこから生活保護利用者に対する差別・偏見等が増幅されていると感じています。

生活保護利用者に対する差別・偏見等が強い職場では、生活保護利用者に対して敬称を使わず「〇〇はさー」と利用者の方を呼び捨てにして日常の会話が行われています。今回の問題は、これらの日常が表面化した一部の事例だと思っています。(了)

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この方は、ジャンパーを作った小田原市福祉事務所の体質には、「生活保護利用者に対する差別・偏見等が強い職場」に共通の問題がある、と指摘されています。

一人目の方も「日頃、受給者ヘイトや保護ヘイトも耳にする」と書かれており、こうした差別や偏見が小田原市だけでなく、各地の福祉事務所に広がっていることが推察されます。

小田原市だけでなく、全国各地の福祉事務所のあり方が問われていると言えるでしょう。(次回に続く)

 

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