ギャンブル依存症問題を悪化させるカジノ法案は通してはならない。
12月6日、衆議院本会議において、カジノを中心とした統合型リゾート(IR)を推進する法案(カジノ法案)が自民党や日本維新の会などの賛成多数で可決されました。内部に反対意見の多い公明党は自主投票となり、自民党内にも異論の声があると報じられていますが、自民党の執行部は今国会での成立をめざしています。
推進派は、カジノ法案が地方の経済活性化につながると主張していますが、治安悪化やマネーロンダリング(資金洗浄)への悪用など、カジノ解禁に伴う懸念点は払拭されていません。
生活困窮者支援を行なってきた者として、私が最も懸念するのは、ただでさえ深刻な国内のギャンブル依存症問題がカジノの開設によって悪化するという問題です。
厚生労働省の研究班は2014年に発表した調査結果において、日本人の成人人口のうち約536万人が国際的に使われる指標でギャンブル依存の状態にあると推計しています。これは成人人口の4.8%にあたり、海外の同様の調査と比べても突出して多い数字です。536万人の内訳は、438万人(成人男性の8.7%)、女性が98万人(成人1.8%)で圧倒的に男性が多いことがわかっています。ちなみに、依存症の代表格として言及されることの多いアルコール依存は、同じ調査で109万人と推計されています。
こうした状況は国内のホームレス問題にも影響しています。NPO法人ビッグイシュー基金が2010年に発表した『若者ホームレス白書』では、聞き取りを行なった20代、30代のホームレス男性50人のうち、依存症傾向にある人は18人おり、そのうち、アルコール依存は4人、ギャンブル依存が14人という結果が出ています。
私がこれまで行なってきた路上生活者への相談活動の中でも、パチンコや公営ギャンブルに毎日のように通ってしまい、生活が破綻したという話は何度も聞いたことがあります。
欧米では薬物依存とホームレス問題の関連がよく知られていますが、日本では薬物でもアルコールでもなく、ギャンブル依存が最もホームレス問題に直結している依存症だと言えます。
本人の自己責任で片付けられることの多いギャンブル依存症ですが、精神科医で作家の帚木蓬生さんは、「ギャンブル障害には誰でも陥る可能性がある」、「陥るか陥らないかの差は、ほぼ環境要因で決まる」と指摘しています。
ギャンブル依存症の実態については、ビッグイシュー基金が作成した2冊の報告書がよくまとまっているので、ぜひご参考にしてください。
新レポート『疑似カジノ化している日本:ギャンブル依存症はどういうかたちの社会問題か?』完成しました!
依存症の実態に迫る!『ギャンブル依存症からの生還―回復者12人の記録』が完成
帚木蓬生さんは「環境そのものにギャンブルしやすさが整っていると、ギャンブル症者は確実に増えます」とも指摘しています。このことを踏まえると、カジノ解禁がギャンブル依存症問題の悪化に直結するのは確実だと言えます。
韓国では、外国人のみがカジノに出入りできる時代が長く続いていましたが、2000年に韓国人も利用できる「江原ランドカジノ」がオープンして以降、カジノで全財産を失った人がホームレス化するという問題が深刻化したという報道がなされています。
こうした依存症問題について、推進派はカジノ開設とともに依存症対策を強化するから問題ないと主張しています。
確かに自助グループへの支援など依存症対策の強化は必要ですが、依存症が完治しない病気である(回復はするが、いったん依存症になったら脳の状態は戻らない)ことを踏まえると、依存症対策をすればカジノを作っていい、という主張は「消防車を増やすから火事を出してもいい」といったレベルの論理であり、まさにマッチポンプでしかありません。
現在でも深刻な日本のギャンブル依存症問題に対する最も有効な対策は、新たなギャンブルを作らないことです。また同時に、パチンコへの規制強化も必要です。
カジノ法案には、最近にしては珍しく、全国紙5紙の社説が反対で一致しました。参議院が「良識の府」として、この法案にストップをかけることを心から望みます。
2016年12月6日