2017年を「居住福祉元年」に!~新たな住宅セーフティネットの構築に向けて

提言・オピニオン

福祉行政と住宅行政の連携強化

昨年12月22日、「第一回福祉・住宅行政の連携強化のための連絡協議会」が開催されました。この連絡協議会には、厚生労働省の社会・援護局長や国土交通省の住宅局長を筆頭に関係局の職員が揃って参加し、今後、生活困窮者や高齢者、障害者、ひとり親家庭などを支えるセーフティネット機能の強化に向けて、福祉行政と住宅行政の連携を深めていく、という方向性が確認されました。

世間ではほとんど注目されていませんが、霞ヶ関で始まったこの動きは、この国の福祉政策や住宅政策のあり方を大きく変える可能性があるのではないか、と私は期待しています。

連絡協議会の開催要綱には、「住まいは生活の拠点である。そして、その住まいに医療・介護・生活支援等のサービスを包括的に提供する体制を地域ごとに構築することが生活を支えるために不可欠である。」という文言が掲げられました。これはまさに、神戸大学名誉教授の早川和男さんが提唱してきた「居住福祉」の理念そのものです。

行政の縦割りが貧困問題の解決を阻んでいる

私は、安定した住まいを失った生活困窮者を支援する活動を23年間続けてきましたが、その取り組みを通して痛感してきたのは、「行政の縦割りが貧困問題の解決を阻んでいる」という実態でした。生活に困窮している「ヒト」を支える福祉を厚生労働省が管轄し、その人たちが暮らす住宅という「ハコ」は国土交通省が管轄する、という行政の縦割り構造は、中央省庁だけでなく地方行政のレベルでも貫徹しており、その弊害は様々な場面で現れています。

一例を挙げると、2015年に始まった生活困窮者自立支援制度において恒久化された住居確保給付という制度の問題があります。

もともとこの制度は、「派遣切り」問題が深刻だった2009年に「住宅手当」という名称で始まったものですが、「対象は離職者に限る」、「家賃補助は原則3ヶ月」、「アパートの家賃は補助するが、入居する際に必要な初期費用は支給しない(別枠の制度で審査が通った人のみ貸付)」等といった使い勝手の悪さから、利用者が年々減少し、2015年度の新規利用決定件数は月平均で551人と、かつての6分の1程度まで落ち込んでいます(図の緑の線を参照)。

厚生労働省資料より http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000137286.pdf

厚生労働省資料より
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000137286.pdf

 

関連記事:仕事さえあれば、貧困から抜け出せるのか?~生活困窮者自立支援制度の問題点

こうした現状について、生活困窮者自立支援制度を行政とともに進めてきたNPOの関係者からも疑問の声が出ています。
NPO法人抱樸の理事長である奥田知志さんは、西日本新聞のインタビュー記事において、以下のように指摘しています。

制度は生活保護に至る前に自立を促すという狙いがあるため就労支援に偏りがちで、支援メニューが高齢者にはそぐわないケースが少なくない。居住支援も弱い。離職などで住まいをなくした人には家賃相当額を支給する仕組みがあるが、対象年齢は65歳未満。年齢や状況を問わず、総合的に住まいの確保を支援する策がいるはずだ。

生活困窮者自立支援制度における住宅支援がなぜ弱いのかという問題を突き詰めると、この制度が厚生労働省の管轄であり、国土交通省が関与していないという問題が浮かび上がります。

そのため、厚生労働省は「ヒト」に対して家賃を補助する際も、あくまでそれは再就職支援の一環としての短期的なプログラムという位置づけにとどまります。住まいという「ハコ」に直接関わる分野は、国土交通省の協力がなければ、手を出せないのです。

こうした各省庁の縄張り意識が問題の解決を遠ざけているのは、火を見るよりも明らかです。

一度、頓挫した住宅セーフティネットの整備

この縦割りの問題に国レベルで初めて取り組んだのは、鳩山政権時に内閣の緊急雇用対策本部に設置された「セーフティ・ネットワーク実現チーム」でした。同チームは2010年5月、「離職などによる貧困・困窮者の『居住の権利』を支え(中略)諸外国でとられている家賃補助政策等の状況や課題も踏まえつつ、『居住セーフティネット』の整備に向けた検討を進める。」とする中間とりまとめを発表しましたが、その直後に鳩山首相が退陣した影響もあり、その提言が生かされる機会は失われてしまいました。

しかしその後、国内における貧困拡大にどう対処すべきなのか、という議論が民間レベルで広がるにつれて、福祉政策と住宅政策を一体的に展開する「居住福祉」政策を実現すべきだという私たちの主張は徐々に支持を広げていきました。

近年は、貧困問題に取り組む人々のソーシャルアクションにより、「下流老人」問題(藤田孝典さんによる造語)が深刻化していることや、若年層の貧困が少子化にも影響を与えていることなど、世代を越えて貧困が広がっていることが社会に知られるようになり、これらの問題を解決するためにも生活保護の手前で、住宅セーフティネットを強化すべきである、という主張が広く受け入れられるようになっていきました。

そうした中、国土交通省は来年度から空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度を創設することを決めました。これは、高齢者や障害者、子育て世代の入居を促進するため、空き家の登録制を作り、改修費や家賃軽減化の補助を行うというもので、2017年度予算において27億円が計上されました。

しかし、この事業も国土交通省が単独で実施してしまえば、福祉的な視点を欠くものになりかねません。
そこで、どちらから働きかけたのかはわかりませんが、厚生労働省と国土交通省の連携強化という動きが出てきたのです。

2017年を「居住福祉元年」に!

長年の課題である福祉行政と住宅行政の縦割りは克服できるのでしょうか。不安がないわけではありませんが、ここは大きく、「2017年を『居住福祉元年』に!」と新年の目標を掲げておきたいと思います。

世代を越えて広がる住まいの貧困を解消するためには、新たな住宅セーフティネットの整備が「待ったなし」です。今年を後世から見て、「福祉政策・住宅政策の転換点になった年」と言われるようになるよう、働きかけを強めていきます。

ぜひ皆様からも、厚生労働省・国土交通省の双方に「つまらない縦割り意識を捨てて、居住福祉政策を推進せよ」という声をぶつけていただければと願っています。また、地方行政のレベルでも、福祉行政と住宅行政の連携が進んでいるのか、目を光らせていただければと思います。

ご協力よろしくお願いします。

 

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