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【2017年11月3日】 毎日新聞「生活保護、等級見直し 「安全網」損なう恐れ 各地の水準、統計不足」にコメント掲載

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2017年11月3日付け毎日新聞朝刊「生活保護、等級見直し 『安全網』損なう恐れ 各地の水準、統計不足」に、稲葉のコメントが掲載されました。

https://mainichi.jp/articles/20171103/ddm/003/040/030000c

クローズアップ2017 生活保護、等級見直し 「安全網」損なう恐れ 各地の水準、統計不足

生活保護制度の等級見直しは、受給額を各市区町村の生活水準に合わせるもので、一見、合理的に思える。ただ、背景には、国・地方合わせて約3・8兆円に上る生活保護費を抑制したいとの国の思惑がある。ここ数年、受給額引き下げが続いており、新たな切り下げは生活保護制度の「最後の安全網」としての機能を損ないかねない。【熊谷豪、西田真季子】

「格下げ」が想定される大阪市。受給者は14万3800人と全国最多で、見直されれば象徴的意味を持つ。
同市港区のアパートで生活保護を受給しながら暮らす女性(68)は「どこをどうやって削ればいいのやろか」と、ため息を漏らす。

持病のため夫婦とも働けなくなり、住宅ローンを返済できず約5年前から生活保護を受給している。1年前に亡くなった夫の遺族年金は月約1万5000円。生活保護費(生活費分)と合わせ月約8万3000円で暮らす。食費の節約はもちろん、洋服も人から譲り受けて着ている。

大阪の夏は暑い。熱中症予防のためクーラーは必需品で、光熱費は月5000~6000円。ランクが下がれば重みは増す。女性は首を切る仕草をしながら声を絞り出した。「もう生きていかれへん」

夫を10年前に亡くし、同じ港区で生活保護を受けて1人で暮らす女性(66)も「1000円、2000円でも下がったら影響は大きい」とうつむく。持病で働けず、古紙や空き缶を集めているが、数カ月で1000円程度。引き下げへの不安で眠れない日が続く。

政府は2013年度以降、段階的に生活費分を平均6・5%削減した。この引き下げについては、生存権を保障した憲法25条に反するとして29都道府県の計955人が国を相手に提訴している。ランクが下がれば「ダブルパンチ」となる。

東京都内で貧困問題に取り組む一般社団法人「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事は「あの時と同じことが起きるのではないか」と話す。

稲葉氏が懸念するのは、15年7月の「家賃見直し」の経緯だ。「全国各地の実態に合わせる」として生活保護費の家賃分を引き下げたところ、そのまま住み続けることができなくなり、厚生労働省の調査では約2万世帯が転居を余儀なくされた。

稲葉氏は「『実態に合わせる』といえばもっともらしいが、事実上の保護費削減だ」と警戒し、こう指摘する。「現状でも最低限度の生活水準を維持しているとはいえないのが実感だ。さらなるカットで受給者を追い詰めていいのか」

一方、等級見直しが30年も手つかずだったのは、全市区町村の生活水準の実態を十分に示す統計がないという事情がある。

厚労省は生活水準の指標として、地域の消費支出を5年ごとに調べる総務省の「全国消費実態調査」を主に使う意向だが、同調査のサンプルは人口2000人につき1。20万都市でも100サンプルにしかならず、全国の市区町村を公平に比較するのは難しい。厚労省は、前回見直した1987年の時と同様、同調査を補足するためにさまざまなデータを収集し始めている。

ただ、複数の統計で理論的な数字をはじき出したとして、実態に即したものになるかどうかは疑問だ。貧困問題の専門家らは「研究の蓄積がなく、難しい作業になるだろう」と口をそろえる。全国生活と健康を守る会連合会の安形(あがた)義弘会長は「地方は物価が安いというが、商店街はさびれ、都市部と値段が同じコンビニエンスストアで買うことが増えた。政府は、実情に即して丁寧に調査し、決めてほしい」と話す。

◆医療費抑制が焦点

生活保護は、収入が国の定めた最低生活水準に満たない場合に不足分を受給できる仕組みだ。世帯構成に応じて生活費や住宅費などが支給され、医療や介護は無料で受けられる。

厚労省によると、生活保護を受ける世帯数はバブル崩壊以降、一貫して増加を続け、この10年だけで1・5倍に増えた。8月時点で163万3541世帯に達し、過去最多を更新し続けている。

増加の主な要因は高齢化だ。65歳以上の高齢者の世帯の伸びが大きく、2016年度に初めて過半数を占めた。高齢者世帯の中では単身者が9割だ。支え合う家族がなく、低年金や無年金のため、生活保護に頼らざるを得ない実態がある。

これに伴い生活保護費も増え続け、今年度予算では3・8兆円。国が4分の3、自治体が4分の1を負担するため、国・地方双方の財政に影響する。

厚労省は景気動向の変化に合わせて5年ごとに受給水準を見直す。来年度が見直し時期に当たり、厚労省が制度全体の見直しも併せて検討している。焦点は保護費の半分を占める医療費の扱いだ。

厚労省の調査では、同じ病気で月15日以上の通院治療を続ける「頻回受診」は14年度に約1万5000人に上る。このうち約3800人について「医学的に過剰な受診」と判断し、受診を控えるよう指導した。

自己負担がないため安易に通院しているのではないかとの見方がある。厚労省は、医学的な必要性のない診察を受けた受給者に自己負担を求めることも含め見直しを検討している。約200万人の受給者全体からみれば一握りだが、厳しい姿勢を示すことで安易な受診を減らす狙いだ。

ただし、病気なのに受診を控えれば病状が悪化したり、命にかかわったりする恐れもある。厚労省幹部は「やり方は慎重に考えないといけない」と話す。

 

関連記事:厚労省の審議会で扶養照会の段階的廃止を直言しました。

関連のイベント:11月15日(水) 院内集会「ガマンくらべを終わらせよう。~生活保護でも大学に! 下げるな! 上げろ! 生活保護基準」

【2017年10月20日】 神奈川新聞「時代の正体」欄でロングインタビュー掲載

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2017年10月20日付け神奈川新聞「時代の正体」欄に、稲葉のロングインタビューが掲載されました。

記事は下記リンク先で読むことができます。全文を読むには登録が必要です。

 

時代の正体〈541〉ヘイトに点火し助長 安倍政治を問う
http://www.kanaloco.jp/article/285367

時代の正体〈542〉 権利の主張が未来開く 安倍政治を問う http://www.kanaloco.jp/article/285493

 

【2017年10月16日】 東京新聞「高齢者住居、空き家活用 家賃補助 入居拒否に対応」にコメント掲載

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2017年10月16日付け東京新聞朝刊「高齢者住居、空き家活用 家賃補助 入居拒否に対応」に稲葉のコメントが掲載されました。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201710/CK2017101602000114.html

 

賃貸住宅への入居を断られやすい単身高齢者や低所得者向けに、空き家や空き部屋を活用する新たな制度が二十五日から始まる。所有者に物件を登録してもらい、自治体が改修費用や家賃の一部を補助するなどして、住まい確保につなげるのが狙い。政府は二〇二〇年度末までに全国で十七万五千戸の登録を目指す。

(中略)

<生活困窮者を支援する「つくろい東京ファンド」代表理事稲葉剛さんの話>

空き家活用によって、民間の住宅市場で入居差別をされがちな高齢者らが賃貸物件にアクセスできるよう、一定の改善は進むだろう。近年、家賃を賄うことそのものが難しい低所得者が増えている。新制度では家賃を補助する仕組みも導入されるが、対象規模が分からず、貧困対策としての有効性は疑問だ。地域で孤立しやすい単身高齢者には住宅だけでなく、見守りサービスなど入居後の暮らしを支える仕組みも不可欠だ。

 

関連記事:改正住宅セーフティネット法が成立!まずはハウジングプアの全体像に迫る調査の実施を!

【2017年9月29日】 朝日新聞「安倍流5年見極め 政権の軌跡、識者の見方」にコメント掲載

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2017年9月29日付け朝日新聞朝刊「安倍流5年見極め 政権の軌跡、識者の見方」に、稲葉のコメントが掲載されました。

衆議院解散を受けて、安倍政権の評価について取材を受け、コメントをしたものです。字数の都合上、舌足らずになっている点が多いので、別な形で補足をしていきたいと思います。

http://www.asahi.com/articles/DA3S13156620.html

安倍流5年見極め 政権の軌跡、識者の見方

第2次安倍内閣が誕生してから約5年。首相は何を語り、何を実現してきたのか。異なる視点を持つ3人の話から振り返る。

■排外的風潮を助長 貧困問題に取り組む立教大特任准教授・稲葉剛さん

5年前に安倍政権が真っ先に行ったのが、生活保護基準の引き下げでした。以来、社会保障のベースが沈下してきています。

アベノミクスで雇用は増えましたが、非正規の不安定な仕事も増えました。生活困窮者の支援に取り組んできて、バイトをしながらネットカフェで暮らすような「見えにくい貧困」が広がっていると実感します。

安倍政権は排外主義的な風潮を利用してきたと感じます。生活が苦しくなった中間層が、より弱者の貧困層をたたくバッシングも起きました。障害者や外国人への差別も目立つ。本来はこうした動きにストップをかけるべき政治家が、黙認・助長しているように見えます。「私たち」という意識が壊されているのが問題です。誰もが「私たち」の社会の一員として尊重されるべきだと発信する政治家が増えることを望みます。

(聞き手・高野遼)

 

【2017年9月2日】東京新聞特報面に秋田・横手のアパート火災に関するコメント掲載

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2017年9月2日付け東京新聞朝刊の特報面記事「秋田・横手のアパート火災 生活困窮者の受け皿失う 住宅確保『国が責任を』に稲葉のコメントが掲載されました。

 

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2017090202000146.html

秋田・横手のアパート火災 生活困窮者の受け皿失う 住宅確保「国が責任を」

秋田県横手市のアパートで5人が死亡し、10人が重軽傷を負った火災は、生活困窮者の住まいのあり方を問いかけている。アパートには、精神障害者や生活保護受給者が多く入居していたからだ。政府が「施設から地域へ」と旗を振る中、自立を目指す障害者らの受け皿になっていた。発生から約10日が過ぎたが、焼け出された入居者の行き場は確保されておらず、アパート再建のめども立っていない。火災現場や関係者を訪ね歩き、今後の課題を検証した。 (白名正和、佐藤大)

(中略)

生活困窮者の住宅支援に取り組む一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事で、立教大特任准教授(居住福祉論)の稲葉剛氏は、横手での「民間の善意」を評価する傍ら、その限界も指摘する。「背景には、精神障害者や単身の高齢者、元ホームレスが部屋を借りようとする時、入居差別に遭うことが多いという現状がある。各地で民間の方々が創意工夫をして物件を確保しているが、どうしても古い木造住宅になってしまう。防火対策を施したとしても、火事が起きれば拡大しやすい」

「施設から地域へ」の理念はもっともらしく聞こえるが、ともすれば地域任せになりかねない。稲葉氏は「住宅確保は自己責任という考え方はいまだに根強い」と危惧する。

「本来なら、国が公営住宅を確保することなどが求められている。国の責任ですべての人が安心で安全な住宅を確保できる、という政策に変えていくべきだ」

 

関連記事:【2017年6月4日】信濃毎日新聞社説「住まいの貧困 人間の尊厳守るために」にコメント掲載

【2017年9月1日】朝日新聞「平成とは プロローグ:5」にコメント掲載

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2017年9月1日付け朝日新聞朝刊「(平成とは プロローグ:5)郵便受けの500円、細いつながり」(名古屋報道センター・斉藤佑介記者)に、稲葉のコメントが掲載されました。平成の30年を貧困という視点から振り返ったコメントになっています。

稲葉のコメント部分は以下のとおりです。

http://www.asahi.com/articles/DA3S13112033.html

■「自己責任」が定着、声あげづらく

「つくろい東京ファンド」代表理事で、立教大特任准教授の稲葉剛さん(48)の話

平成は日本が貧困に正面から向き合わざるを得なくなった時代だ。ホームレスの餓死など1990年代の絶対的な貧困は減ったが、相対的な貧困は増えている。2015年の年収122万円の貧困線以下の人は15・6%で、6~7人に1人が貧困だ。政策的に非正規雇用が増やされ、貧困は若年世代にも広がった。昭和は一定の支え合いが機能したが、平成は自己責任論が広がり、生活保護バッシングなどでますます内面化されたため、声をあげづらくなった。

ただし貧困が問題だという認識は共有されつつあり、前向きに捉えたい。子どもの貧困や高等教育の無償化が政治で議論されるようになったのは隔世の感がある。経済的な貧困は国が対応すべきだ。人間関係の貧困は各地で広がる「こども食堂」のように、市民で担う方が豊かな関係を育むだろう。

【2017年8月27日】読売新聞にカフェ潮の路の紹介記事が掲載

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2017年8月27日付け読売新聞のコラム「医療、介護ー現場から」に、カフェ潮の路に取材した記事が掲載されました。

医療、介護ー現場から 記者メモ

ホームレス経験者が働くカフェが都内にできたと聞き、訪れた。連絡をくれたのは、住まいを中心に生活困窮者の支援を行う一般社団法人「つくろい東京ファンド」の稲葉剛さん。「女性の貧困とシェアハウス」をテーマにした2月の取材でお世話になった。

取材では、貧困対策に安心な住まいの確保が大切だと感じた一方、「それで十分だろうか?」との問いが残った。カフェを訪れたのは、それに対するヒントがあるかもしれないと思ったからだ。

4月にオープンした「カフェ潮の路」(東京都練馬区)は、西武新宿線沼袋駅から歩いて10分ほどの住宅街にある。改装した民家の1階はコーヒースタンド、2階がカフェ。かつて路上生活をしていた20~70歳代の6人が週1~2回、働く。時給は1000円だ。

7月から働く藤田貴洋さん(36)もその1人。
4年前、工場で派遣切りに遭った。貯金も尽き、2年ほど路上生活を続けた後、別な団体の支援を受けた。今はアパートで一人暮らし。「もう一度、フルタイムの仕事に就きたい」。カフェの客や仲間と接することは、そのためのリハビリになっているようだ。

稲葉さんは、「住まいの確保は大前提だが、それだけでは引きこもってしまう人もいる。働くことは、社会とのつながりを取り戻すことでもある」と話す。カフェは彼らの職場であると同時に、心を休める居場所でもある。

お金を持ち合わせない人のため、「お福わけ券」を設けた。財布に余裕のある人が「次に来る誰か」のために券を購入しておき、お金がない人はそれを使って飲食する。券は200円と700円の2種類。これまでに計約19万円分が売れ、地域の人たちがホームレスを理解する機会にもなっている。

始まったばかりの取り組みだが、「住まいの次」について、一つの答えを教えてもらった気がした。(板垣茂良)

※文中にある「お福わけ券」は、つくろい東京ファンドのオンラインショップでも購入できます。下記をクリックしてみてください。

http://www.tsukuroishop.tokyo/

 

 

【2017年6月14日】毎日新聞に夜回り活動に関する記事が掲載

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2017年6月14日付け毎日新聞に、つくろい東京ファンドの夜回り活動に取材した記事が掲載されました。稲葉のコメントも出ています。

https://mainichi.jp/articles/20170614/org/00m/010/006000c

Listening

<ホームレス自立支援法>延長へ 困窮、路上で屋内で ネットカフェの若者SOS

 

路上生活者の雇用や住居確保、全国的な実態調査を定めたホームレス自立支援法について、期限の2027年までの延長を定める改正案が13日、参院厚生労働委員会で可決され、14日の参院本会議で成立する見通しとなった。【西田真季子】

同法に基づき国が調べて確認した路上生活者は5534人(17年1月現在)。初調査(03年)の2万5296人から大幅に減少したが、依然として路上で厳しい生活を送っている人たちがいる。

12日夜、生活困窮者への支援やシェルター事業を行う一般社団法人「つくろい東京ファンド」(東京都中野区)の夜回り活動に同行した。同ファンドの代表理事、稲葉剛さん(47)は1994年から新宿区を中心に野宿者の支援活動に携わってきた。

午後8時前、稲葉さんはボランティア約20人と事務所を出発した。この日は、月1回行っている中野区での活動日。近くの公園に着くと、暗闇の中で大きな荷物を抱えて歩き回る初老の男性や、空き缶を集めたゴミ袋を手にベンチに座る60代ぐらいの男性などの姿が見えた。稲葉さんらはレトルト米やお菓子、支援先を書いたチラシなどが入った袋を、1人ずつ手渡して歩く。広場に横たわっていた30代前後の男性は「このところ、ずっと外で寝ている」と疲れた様子で話した。この日、稲葉さんらは6人に物資を配り、同9時過ぎ、夜回りを終えた。

稲葉さんは「20年の東京五輪の影響もあり、公園や道路の管理が厳しくなってホームレスの排除が進み、支援のアプローチも難しくなっている」と言い、実態調査やホームレスの人権への配慮を国の責務とする同法の延長を歓迎する。

一方で、同法はホームレスの定義を屋外生活者に限定しているが、路上以外にもホームレス状態の人は増えている。この日、ボランティアで参加した男性(30)は以前、ネットカフェなどで生活しており、所持金が数千円になった3カ月前に都内の炊き出しで同法人とつながった。現在は自立へ向けて、同ファンドのシェルターで暮らしている。稲葉さんは「路上生活の手前であるネットカフェや脱法ハウスなどに暮らす『ハウジングプア』状態の若年者の調査も必要だ」と指摘する。

■ことば

ホームレス自立支援法
2002年に10年間の時限立法として施行され、12年に5年間延長された。路上や公園、河川敷などで屋外生活をする人を「ホームレス」と定義し、全国調査と基本方針の策定を国に義務づけた。一時宿泊や巡回相談、アフターフォロー、自立支援センターなどを国の責務で実施してきた。施策の一部は15年4月施行の生活困窮者自立支援法に盛り込まれた。

 

※関連記事:【2017年4月12日】 毎日新聞「論点」欄にホームレス自立支援法に関する意見が掲載 

※関連記事:夜回りボランティア募集のお知らせ(2017年6月、7月) 

【2017年6月4日】信濃毎日新聞社説「住まいの貧困 人間の尊厳守るために」にコメント掲載

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2017年6月4日付け信濃毎日新聞の社説に稲葉のコメントが掲載されました。

 

http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170604/KT170603ETI090001000.php

あすへのとびら 住まいの貧困 人間の尊厳守るために

生活に困窮した高齢者が行き場を失い、劣悪な居住環境の下で暮らすことを余儀なくされる―。北九州の古い木造アパートが燃え、6人が死亡した先月の火災は、“住まいの貧困”の現実をあらためて映し出した。

一昨年、川崎の簡易宿泊所で起きた火災では、11人が死亡している。日雇い労働者が集まる「寄せ場」に建てられた宿泊所が、生活保護を受けて暮らす高齢者の受け皿になっていた。

北九州のアパートも、実態は簡易宿泊所に近かったようだ。敷金も保証人も要らず、日割りの家賃で入居できた。住んでいた人の多くは生活保護受給者や日雇い仕事の収入で暮らす人だった。

惨事はほかにも相次いでいる。2011年には東京・大久保の木造アパートが燃え、単身の高齢者ら5人が亡くなった。09年、群馬の老人施設の火災では10人が死亡した。ずさんな運営の無届け施設に、東京の自治体が生活保護受給者を送り込んでいた。

<若者の状況も厳しく>

身寄りのない高齢者が住まいを探すのは難しい。家賃の滞納や孤独死を嫌って、入居を拒む家主や業者は多い。一方で、家賃が安い公営住宅は不足し、介護施設にも空きがない。

それが“貧困ビジネス”をはびこらせる土壌になっている。狭い部屋に押し込めて生活保護費を巻き上げる悪質な無料・低額宿泊所は典型だ。貧しい人たちが、宿泊所や無届けの施設に吹き寄せられている構造的な問題がある。

高齢者だけではない。「路上生活一歩手前の若者が少なくない」。困窮者を支援する「つくろい東京ファンド」の代表理事を務める稲葉剛さんは話す。

アパートの家賃が払えず、24時間営業のインターネットカフェなどで寝泊まりする人が非正規雇用の拡大とともに増えた。ブラック企業で過酷な労働を強いられて心身を病み、働けなくなって住む場所をなくす人もいる。

住まいを失うと、困窮から抜け出すのはなおさら難しくなる。人間関係が途切れて孤立しがちで、支援にもつながりにくい。

〈すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する〉―。憲法25条が定める生存権の保障には、人が暮らすにふさわしい住まいの確保が何よりも欠かせないはずだ。

けれども、そのための制度や政策は乏しい。最後の安全網である生活保護の住宅扶助さえ、政府は15年から基準額を引き下げた。生活困窮者自立支援制度の住居確保給付金は、対象が離職者に限られ、低賃金で働く若者や、働けない高齢者は利用できない。

より根本的な問題として、住宅政策が福祉政策として位置づけられてこなかったことがある。住宅は国土交通省、福祉は厚生労働省という縦割りの弊害も大きい。

<社会の土台が崩れる>

この国会で成立した「改正住宅セーフティーネット法」は、現状を変える一歩になるかもしれない。空き家や空き室を都道府県ごとに登録する制度を新たに設け、高齢者や低所得者、子育て世帯などの入居につなげる。

ただ、課題は多い。家賃負担を軽減する補助制度は条文に明記されなかった。住まいの貧困に陥った人を広く助ける仕組みにできるかは心もとない。自治体が主体的に取り組むかにもかかる。

住居は、人間の尊厳を守る基礎であり、社会の基盤である―。神戸大名誉教授の早川和男さんは著書「居住福祉」で述べている。

住居が劣悪では、高齢化社会を支える在宅福祉の充実はおぼつかない。安心して暮らせる住まいという土台なしに社会保障や福祉は成り立たない。地域社会の人のつながりも住居が核になる。

住まいの貧困は大都市圏だけのの問題ではない。地方でも住宅費の負担は重い。年老いて維持費用が賄えなくなり、壁がはがれ落ちた家に住み続ける人もいる。少ない年金の大半がアパート代に消える単身の高齢者の嘆きも聞く。

非正規雇用は拡大し、未婚率も上がり続けている。このままだと、単身で低年金、無年金の高齢者は大幅に増えていく。それに伴って、住まいの貧困は一層深刻な問題になるだろう。

一人一人の生きる権利を守ると同時に、社会を成り立たせていく基盤として、誰もが住む場所に困らないよう支える確かな仕組みをつくらなくてはならない。

福祉の観点から住宅政策を抜本的に組み直す必要がある。欧州各国は、住宅手当や家賃補助制度によって高齢者や低所得の人を支えてきた。学ぶことは多い。

国の制度や政策とともに、住民に近い自治体に何ができるか。貧困の実態をまずはつぶさに捉え、具体的な手だてを考えたい。

 

※関連記事:改正住宅セーフティネット法が成立!まずはハウジングプアの全体像に迫る調査の実施を!

【2017年4月21日】 朝日新聞に「カフェ潮の路」開店に関する記事が掲載

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2017年4月21日付け朝日新聞に、稲葉が代表理事を務める一般社団法人つくろい東京ファンドが開設した「カフェ潮の路」に関する記事が掲載されました。

http://www.asahi.com/articles/ASK4N6VR1K4NUBQU010.html

ホームレス経験者が働くカフェがオープン

清川卓史 2017年4月21日06時00分

ホームレスを経験した人が働き、地域の人と交流できる場所をつくりたい――。そんな願いを込めた小さなカフェが東京都練馬区に18日、オープンした。フェアトレードの豆を自家焙煎(ばいせん)したコーヒーや本格カレーが味わえる。
名前は「カフェ潮(しお)の路(みち)」。一般社団法人「つくろい東京ファンド」(稲葉剛・代表理事)が、クラウドファンディングなどで集めた寄付金で開設した。民家を改修し、2階がカフェ、1階がコーヒースタンドになっている。

つくろい東京ファンドは2014年7月、空き家を利用した生活困窮者のための個室シェルター「つくろいハウス」を東京都中野区に開設し、住まいの確保や生活支援をしている。いまは都内4区に22部屋を用意。これまでに約50人が生活保護を利用するなどして一般のアパートに移った。

ただ、アパート入居後も地域で孤立しがちで、仕事を探そうにも高齢や障害のためフルタイム勤務は難しい人が多い。稲葉さんは「『住まい』の次は『仕事』と『居場所』が必要。それなら自分たちでつくろうという思いでカフェを立ち上げました。地域の方も高齢者もお子さんも集まれる、みんなの居場所にしていきたい」と話す。

カフェでは20~70代のホームレス経験者5人がスタッフとして働く。時給は1千円。その人の事情や体調に応じて柔軟な働き方ができる。さらに多くの人に呼びかけていくという。将来的には子ども食堂や学習支援にもカフェを活用していきたいとしている。

コーヒーは200円、日替わりランチ500円、カレー700円。シェフを務める同ファンドの小林美穂子さんは「カレーは3時間かけてつくっています。おいしいですよ」。お金がない人も足を運べるよう、余裕のある人が「次に来店する誰か」のために飲食代を前払いする仕組みも採用し、「お福わけ券」と名付けた。200円と700円の2種類がある。

見学会やプレオープン日には、かつて新宿駅の段ボールハウスで暮らしていたホームレス経験者も含め、稲葉さんの長年の知人が集まった。かつて日雇いで建築の仕事をしていたという男性(64)は「顔見知りが多いから、またコーヒー飲みに来ます。お店がはやるといいな」と話していた。

カフェは火、木の12~17時、コーヒースタンドは火~金の12~15時。今後営業日を増やしていきたいとしている。詳細は同ファンドのウェブサイト(http://tsukuroi.tokyo 別ウインドウで開きます)で。

【関連記事】ホームレス経験者が働く「カフェ潮の路」が沼袋にオープン!朝日新聞に紹介記事が掲載されました。

 

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