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【2020年1月10日】毎日新聞夕刊:「台風19号 避難所には『行かない』 路上生活者『差別受ける』」にコメント掲載。

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2020年1月10日付け毎日新聞夕刊記事「台風19号 避難所には『行かない』 路上生活者『差別受ける』」に稲葉のコメントが掲載されました。

https://mainichi.jp/articles/20200110/dde/001/040/040000c

台風19号 避難所には「行かない」 路上生活者「差別受ける」

 

昨年10月12日の台風19号から間もなく3カ月。その際に東京都台東区が路上生活者の避難所受け入れを拒否した問題で、支援団体が路上生活者たちに、当時の行動や避難所開設を知っていたかなどの聞き取り調査を実施した。調査の中で浮かび上がってきたのは、「避難所があったとしても行かない」という声だ。なぜ避難所に入ろうとしないのか。避難所を万人に開くだけで対応は十分と言えるのか。受け入れ拒否が浮き彫りにした課題を追った。【塩田彩】

(中略)

貧困支援をする一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さんは「台東区の問題は日常の社会的排除の積み重ねによって引き起こされたものだ」と語る。

例えば東京都新宿区では、区が民間委託で運営する路上生活者向けの相談事業所1カ所にシャワーがあり、洗濯機も設置されている。誰でも無料で利用できる。稲葉さんは「(路上生活者が)こうした支援にアクセスできていれば、体を清潔に保つことができ、周囲の偏見も緩和されるだろう」と話す。「災害時の対応だけでは根本的な解決にはならない。行政はまず、当事者の声を聞くところから始めてほしい」

東京都世田谷区は台風19号の際、多摩川沿いの公園管理事務所を路上生活者向けの避難所として開放した。シャワーも設置されている。台風の時は毎回、近くの路上生活者たちに事務所の開放を知らせるチラシを配る。稲葉さんは「専用の避難所を作りつつ通常の避難所でも受け入れるという両方の対策が必要になる」と話す。

台東区は昨年12月、水害時に区役所など2カ所で路上生活者らを受け入れる方針を決定。雨風が強くなった場合は他の避難所でも受け入れる。支援団体とともに避難先を周知していくという。

路上生活者の実数を記録する活動などに携わる市民団体「ARCH(アーチ)」共同代表の河西奈緒さんは「さまざまな背景を持った人たちが暮らすのが都市の当たり前の姿。一人一人が抱える課題を公共空間の中でどう解決できるかを考えることが私たちが目指す方向のはずです」と話す。

 

関連記事:台東区の避難所問題。当事者への謝罪と検証・改善を求める要望書を提出。

【2020年1月】年越し大人食堂の活動が各メディアで報じられました。

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2019年12月31日と2020年1月4日の2回、東京・新宿で「年越し大人食堂」が開催されました。

開設の経緯については、こちらの記事をご覧ください。

[36]「無事に年が越せる」安心をすべての人に – 稲葉剛|論座 – 朝日新聞社の言論サイト https://webronza.asahi.com/national/articles/2019122200002.html

 

「年越し大人食堂」の様子は、朝日新聞、BuzzFeed、ダイヤモンド・オンラインの各メディアで報じられました。それぞれ、下記リンク先よりご覧ください。

 

所持金40円の大みそか ここがなければゴミ食べていた
https://www.asahi.com/articles/ASN143RD1N14UTIL00N.html

来年は一からやり直したい。「年越し大人食堂」に集った路上で暮らす人の思い
https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/toshikoshi-otona-shokudo

「財布には100円もなかった」ウリ専で食いつなぎ、通院もできなくなったバーテンの男性が初めて頼れた「大人食堂」
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/otonashokudou-2

「年越し大人食堂」に集まった生活困窮者の実像、光は見出せるか
https://diamond.jp/articles/-/225489

【2019年12月】映画『家族を想うとき』に関するインタビューがBuzzFeedに掲載。

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ケン・ローチ監督の新作『家族を想うとき』に関するインタビュー記事がBuzzFeedに2回にわたって掲載されました。
下記リンク先よりご覧ください。

 

イギリスよりも過酷? 「やりがい搾取」で追い込まれる日本の宅配ドライバーの現実

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/kazokuwoomoutoki-inaba-1

「働く人の側に立って考える癖をつけられたら」 人間らしい暮らしを取り戻すためにできること

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/kazokuwoomoutoki-inaba-2

 

 

【2019年10月28日】「AERA」に住まいの貧困に関する記事が掲載

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週刊誌「AERA」2019年10月28日号に、住まいの貧困に関する記事が掲載され、稲葉のコメントも出ました。

ネット版は下記でご覧になれます。

若者に「住まいの貧困」が急増中 家をなくす背景には何が… (1/3) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

漫画喫茶で一人で出産…漂流する妊婦も 「住まいの貧困」対策が急務 (1/3) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット) 

【2019年10月25日】東京新聞特報面記事「『命を守る行動を』って何? 逃げられない人も」にコメント掲載

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2019年10月25日付け東京新聞特報面記事「『命を守る行動を』って何? 逃げられない人も」に、稲葉のコメントが掲載されました。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2019102502000147.html

「命を守る行動を」って何? 逃げられない人も

今回の台風19号でも、テレビから何度も聞こえてきた「命を守る行動を取ってください」という言葉。人々を緊急に避難に駆り立てるには、これぐらい強い口調も必要だという声もあるのだが、違和感も拭えない。「命を守る行動」は各人によって違うし、行動できない災害弱者も多いはず。「自分の身は自分で守れ」と突き放すなら、災害から国民を守るという政府の責務はどうなるのか。「命を守る行動を」という言葉の裏側を探った。 (安藤恭子、中山岳)

(中略)

生活困窮者を支援する立教大学大学院の稲葉剛・特任准教授は、東京都台東区が避難所に来た野宿者二人の利用を拒んだケースを挙げ「社会的弱者に対する人権意識が乏しい自治体で問題があらわになった。野宿者だけでなく高齢者や障害者などにも、日ごろからきめ細かく支援する意識がなければ、災害時に対応できない」と指摘する。

(後略)

 

 

【2019年10月19日】毎日新聞「多摩川のホームレス 都内唯一の死者に 救えなかったか」にコメント掲載

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2019年10月19日付け毎日新聞記事「多摩川のホームレス 都内唯一の死者に 救えなかったか」に、稲葉のコメントが掲載されました。

亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。

https://mainichi.jp/articles/20191019/k00/00m/040/075000c

多摩川のホームレス 都内唯一の死者に 救えなかったか

台風19号通過後の14日、東京都日野市の多摩川河川敷で路上生活者とみられる男性の遺体が見つかった。18日現在、今回の台風災害で都内唯一の死者とみられる。同市や日野署はこの男性とみられる人を含めて河川敷で生活する人の存在を把握していたという。救いの手は届かなかったのか。
日野署によると、14日午後、日野市日野の河川敷で通行人の男性から「男の人が木に引っかかっている」と110番通報があった。署員が駆け付けると、中州の木に体が引っかかっている状態の男性が見つかり、その場で死亡が確認された。

ズボンをはいていたが上半身裸で、身元の分かる所持品はなかった。同署は市、国土交通省京浜河川事務所(横浜市)と共同で7月に河川敷周辺の路上生活者を調査、その際に確認した70代の男性とひげや容姿が似ていたという。目立った外傷はなく、解剖の結果、溺死と分かった。12日午後以降に増水した川に流されたとみられる。

河川事務所は9、10の両日、多摩川河川敷を回り路上生活者に増水が予想されるので川の外に出るように呼びかけるビラを配ったという。市は防災無線で避難を呼びかけていたと説明する。

立川市で路上生活者を支援するNPO法人「さんきゅうハウス」の大沢豊理事長は「穏やかで、知識豊富な人だった。いつも中州にいたので、逃げようとした時には増水していたのかもしれない。台風前に避難を呼びかけていたら」と悔やむ。

路上生活者に食料を届ける活動をしている有賀精一・日野市議によると、男性は数年前から河川敷で生活し、3年ほど前に増水した時に流されたことがあると話していたという。「知的好奇心が高く、顔を合わせる度に選挙や社会問題について尋ねられた」と振り返る。今月4日に訪ねた際も元気そうな様子で、いつも通り世間話をして別れたという。

生活困窮者支援に詳しい稲葉剛・立教大大学院特任准教授は「日野市の状況が分からないが、男性の存在を把握していたはずで、台風が来る前に声を掛けていればよかった。本来、生活保護などの公的支援につなげるべき対象であり、行政には時間をかけた継続的な関わりが求められる」と話す。【安達恒太郎、和田浩明】

【2019年10月13日】台東区避難所「路上生活者拒否」問題で各メディアにコメント掲載

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2019年10月13日、台東区の自主避難所が路上生活者を拒否した問題で、各メディアに稲葉のコメントが掲載されました。

【毎日新聞】

https://mainichi.jp/articles/20191013/k00/00m/040/266000c

路上生活者の避難拒否 自治体の意識の差が浮き彫りに

専門家「究極の差別だ」

台風19号に伴って開設した避難所で、東京都台東区は路上生活者など区内の住所を提示できない人を受け入れなかった。生活困窮者支援の専門家からは「究極の差別だ」などとの批判が上がる。東京都内では住所の区別なく受け入れた区もあり、「災害弱者」への意識の差が浮き彫りになった。【塩田彩、江畑佳明/統合デジタル取材センター】
受け入れを断られた北海道出身の男性(64)は12日午前、支援団体の案内を受けて忍岡小の避難所を訪れたが、受付で北海道内の現住所を記載したところ、区の担当者から受け入れられないと言われたという。

男性は脳梗塞(こうそく)を患い、会話が不自由な状態だ。約1カ月前に上京し、路上生活を続けていたという。屋内に避難できなかったため、12日夜はJR上野駅周辺の建物の陰で傘を差して風雨をしのいだ。取材に対し男性は「避難所に受け入れてくれたら助かったのにという思いはある」と語った。

今回の台東区の対応について、生活困窮者支援に詳しい立教大大学院特任准教授の稲葉剛さんは「行政による究極の社会的排除であり差別と言わざるを得ない。緊急時に路上生活者が命の危機にさらされる、という意識が薄いのではないか」と批判する。

(後略)

【BuzzFeed ニュース】

https://www.buzzfeed.com/jp/sumirekotomita/typhoon-evacuation-center-taito

台東区が路上生活者の避難所利用を拒否。「来るという観点なく援助の対象から漏れた」と担当者 

(前略)

「明らかな差別で命に格差をつけている」

NPO法人ビッグイシュー基金理事、一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事を務める稲葉剛さんは、「人命に関わることであるのに、明らかな差別。命に格差をつけているということになる」と台東区の対応を批判する。

「そもそも現実として、気象庁も『命を守ることを最優先にした行動を』と呼びかけているのに、路上生活者は排除された。人々の命を守ることが行政に課せられた義務のはずです」

稲葉さんは立教大学大学院で貧困・社会的排除、居住福祉論などを教え、1994年から東京を拠点に路上生活者支援をしている。

風雨から身を守る家がない路上生活者は災害時にもっとも被害を受けやすく、これまでにも台風が来た際に、増水した多摩川で小屋が流されて路上生活者が亡くなったこともあったという。「住民票がない路上生活者は、亡くなっていても分からないというのが現実です」と稲葉さんは話す。

20年以上前から発生していた問題

ホームレス状態の人が路上で雑誌販売をするビッグイシューで現金収入を得ている方などは「台風が来るという情報を得ると、少しずつ現金を貯めて、台風の日はネットカフェなどに泊まる」という。

しかし、現金収入などもなく行き場がない路上生活者は台風の際、「ビルの隙間など、より安全な場所を求めて過ごしている」と、稲葉さんは説明する。

稲葉さんによると、路上生活者の避難所利用の問題は、1995年の阪神・淡路大震災の際に発生し、抗議の声があがった。そこからは行政の対応も整ってきていたという。

今回、台東区の対応で、その問題がまた再燃している形だ。稲葉さんはこう指摘する。

「山谷や上野公園がある台東区はそもそも都内でも1、2を争う路上生活者が多い区だが、福祉事務所の対応は普段から厳しい。今回の件はそれが露骨に浮き彫りになったのだと思います」

【2019年9月17日】毎日新聞「低所得者・高齢者住宅 物件登録6%止まり 居住支援、態勢整わず」にコメント掲載

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2019年9月17日付け毎日新聞朝刊の記事「低所得者・高齢者住宅 物件登録6%止まり 居住支援、態勢整わず」に、稲葉のコメントが掲載されました。

https://mainichi.jp/articles/20190917/ddm/012/040/040000c

低所得者・高齢者住宅 物件登録6%止まり 居住支援、態勢整わず

賃貸住宅への入居を断られやすい低所得者や高齢者ら向けの住宅を確保するため、空き住宅を活用する国の「新たな住宅セーフティーネット制度」がほとんど機能していない。空き家・空き部屋を活用し、2020年度末までに17万5000戸を確保するのが目標だが、今月4日現在で制度への登録は約6%の1万723戸にとどまる。住宅オーナーが不払いリスクを避けていることなどから、登録が進んでいない。【牧野宏美】

(中略)
稲葉剛・立教大特任准教授(居住福祉論)も「オーナーの善意を前提とした登録制度には無理がある。本当のセーフティネットとなるには、みなし仮設のように賃貸物件を自治体が借り上げる公的支援にするか、現制度を続けるなら家賃補助をもっと拡充させる必要がある」と提言する。

(後略)

関連記事:【2019年7月15日】東京新聞「低所得者らを拒まぬ物件『登録住宅』目標の5%止まり」にコメント掲載

【2019年7月10日】東京新聞「LGBT 行き場失い生活困窮 差別や偏見なくす法整備進めて」にコメント掲載

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2019年7月10日付け東京新聞「<参院選ルポ>LGBT 行き場失い生活困窮 差別や偏見なくす法整備進めて」という記事に、稲葉のコメントが掲載されました。

 

<参院選ルポ>LGBT 行き場失い生活困窮 差別や偏見なくす法整備進めて

梅雨空が広がる日曜午後。埼玉県の派遣社員の男性(47)は、東京・新宿二丁目で毎月開かれる同性愛者の交流イベントに参加した。十数人が集まったビル三階の会場。男性が三十代のゲイの友人に声をかけると、「元気そうじゃん」。長野に出掛けたことや、よく行く飲食店などたわいのない話をしながら一時間余を過ごした。

男性は二十代半ばでゲイと自覚した。「同性愛を隠さずにいられる居場所。自分が生きていると実感し、世の中とつながっていると確認できる」と話す。だが、そんな場所は多くはない。

男性は今年一月、派遣先の神奈川県内の工場を辞めた。親しい同僚にだけ、ゲイと打ち明けた直後、その同僚から仕事中に何回も後ろからズボンに手を入れられた。股間を触られそうになり、本人や派遣元の担当者に「セクハラだ」と訴えたが、対応してもらえず職場に居づらくなった。「ばかにされた感じがした」

退職して会社の寮を出たため、家を失った。男性は大手鉄道会社の正社員を辞めてから転職を繰り返し、蓄えもなかった。中野区のマンションの一室でNPO法人などが運営するシェルター「LGBT支援ハウス」を頼るしかなかった。

参院選では、与野党ともに多様性ある社会の実現やLGBT理解を掲げる。自民は選挙公約に「理解の増進を目的とした議員立法の速やかな制定」と明記する。先の国会で法案提出を目指していたが、見送っている。党内事情に詳しい関係者は「当事者が何に困っているか、まだ見えていない。党内の法整備の優先度は低い」と明かす。昨年十二月に野党六党派が共同提出した「LGBT差別解消法案」も審議されぬままだ。

男性は二月末に再就職してシェルターを出た。今は埼玉県内の工場で働く。新しい職場ではまだ誰にもゲイと打ち明けてはいない。

男性は「日本では同性間のセクハラを訴えても聞いてもらえない。同性カップルは結婚できないし、パートナーの死に際に会えなかったり、財産を相続できなかったりするのもおかしい。皆が生きやすい世の中へのルールを作ってほしい」と願う。

一人で苦しんでいるのは男性だけではない。シェルターの運営メンバーで、エイズに関する啓発や支援をしてきたNPO法人「ぷれいす東京」代表の生島嗣さん(60)は「LGBTには、セクシュアリティーの問題があるために家族と疎遠で、周囲に『助けて』と言えない人が少なくない」と説明する。

学校や職場で、いじめやハラスメントの被害を受けやすく、心身の不調から退職などに追い込まれ、住まいを失う場合もある。昨冬の開設以来、シェルターには男性を含め三人が入居した。運営に携わる立教大大学院特任准教授の稲葉剛さん(50)は「LGBT困窮者への支援ニーズが高いことが確認できた。背景には根強い差別や偏見がある」と話し、差別をなくす取り組みや支援の重要性を訴えた。 (奥野斐)

<LGBTと法整備> LGBTはレズビアン(女性同性愛者=L)、ゲイ(男性同性愛者=G)、バイセクシュアル(両性愛者=B)、トランスジェンダー(出生時の性別と異なる性を自認する人=T)を指し、性的少数者の総称としても使われる。世界では70超の国で性的指向に関する差別を禁じた法制度があるが、日本にはない。先進7カ国(G7)で同性婚やパートナーシップが法的に認められないのは日本のみ。同性カップルを自治体が認める「パートナーシップ制度」は全国24自治体(7月1日現在)に広がったが、法的効力はない。

 

※「LGBT支援ハウス」は、LGBTハウジングファーストを考える会・東京が運営をしています。同会のウェブサイトはこちらですので、ぜひご覧ください(下の画像をクリックしてください)。

【2019年7月23日】朝日新聞「耕論:選挙戦で見えたものは」にインタビュー記事掲載

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2019年7月23日付け朝日新聞「耕論:選挙戦で見えたものは」に、稲葉のインタビュー記事が掲載されました。

https://www.asahi.com/articles/DA3S14108684.html

(耕論)選挙戦で見えたものは

■2019参院選

令和最初の参院選が終わった。衆参ダブル選挙を回避した与党の判断は功を奏したのか。野党の「共闘」はうまくいったのか。消費増税や年金の「2千万円」問題はどう影響したのか。「3分の2」を与えなかった民意に「改憲勢力」の次の動きは。この選挙を通じて、私たちに「希望」は見えたのだろうか。

社会運動からの課題提起、ようやく光 

稲葉剛さん(つくろい東京ファンド代表理事)  

今回の参院選では、野党が「2千万円問題」で与党を攻め立てる構図が見られました。年金だけでは老後の生活を支えられないのではないか、という有権者の深刻な不安を背景にした批判です。

2千万円問題があぶり出したのは、日本社会の「中間層」にあたる人々が経済的にやせ細り、その地盤沈下がいよいよ隠せなくなってきているという実態でしょう。実際、この十数年間に日本では、貧困の問題が拡大してきています。

選挙戦で示された野党の主張を見ていて以前と変わりつつあるなと感じたのは、住まいの問題に光が当てられ始めたことです。賃貸住宅で暮らす世帯への「家賃補助」が掲げられたり、低家賃の「公的住宅」を拡大する政策が訴えられたりしていました。持ち家を奨励する政策が中心で、賃貸住宅での暮らしを充実・安定させる政策が手薄だと言われてきた日本にあって、ようやく住宅政策の見直しが意識され始めているのです。

個々人の収入を増やす政策や生活保護などの福祉政策だけではもはや足りないことが明らかになり、生活の根幹である「居住」のありようを見直すことも必要だという認識が広がっている構図です。

振り返れば、日本社会で貧困の存在が可視化されたのは今から10年ほど前のことでした。派遣切りに遭った人たちを支援する派遣村が設けられ、注目を集めたことが契機になっています。

この10年間に起きた変化の一つは、絶対的貧困と呼ばれる問題の改善です。貧困に苦しむ人への支援が広がり、路上生活者がこの時期に約5分の1に減っていることが象徴的です。もう一つ起きたのが、相対的貧困の増大です。生活が苦しいと感じる人が増えてきたのです。相対的貧困の問題が深刻化したのは、政府の政策によって非正規労働が拡大されたことが要因だと私は見ます。目的は、企業の人件費負担を圧縮するためでした。

中間層に持ち家を持たせることを支援する従来の住宅政策は、正規労働者を中心とする「日本型雇用システム」の存在を前提にしていました。30年以上もの長期間にわたって住宅ローンを支払い続けられる労働者が必要であり、終身雇用と年功序列を特徴とする旧来の雇用システムが、それを支えていました。また住宅費と並ぶ重い負担である子どもの教育費についても、年功序列の賃金上昇でカバーできました。かつて老後が安定していたとすればそれは、ローンを払い終えた持ち家と、夫婦2人分の生活を支えられる年金があったからだと思います。

この旧システムの特徴は、住宅や教育への重い出費を各世帯が「賃金収入から払う」ことでした。しかし、それが成り立つ前提は2000年代を通じて崩れました。非正規労働が広がり、住宅費も教育費も賃金収入で担う方式の無理があらわになった。家賃負担にあえぐ世帯のために公的な家賃補助や公共住宅の充実といった政策が提示され始めたのは、そうした社会の変化を映したものです。

非正規労働の拡大によって従来の日本型雇用システムは崩壊しました。にもかかわらず、政治は人々の生活を支える新しい仕組みを提示できず、従来のシステムの手直しにとどまっています。こうした現状が、いま日本を覆っている行き詰まり感の根っこにあると思います。

社会をより良くしようと活動する人々と多く出会っていて少し不安を感じるのは、NPOや社会的起業による民間の創意工夫には高い関心を向ける半面、政府の政策を変えようとする動きが低調な傾向です。政治へのあきらめがあるのかもしれませんが、民間だけでは貧困は解決できません。貧困のような構造的な問題を解決するには、政府の巨大な力を活用して普遍的な支援の体制を築きあげていく作業がやはり欠かせないのです。

生活への公的な支援を充実させる方向に政府の役割を変えるべきだという異議申し立ては、参院選での議論にも表れたと思います。ただ、それが旧システムの終わりの始まりになるかは未知数です。投票率は低く、日本では自己責任論が広がり、社会としての連帯感は10年前より後退している印象さえあるからです。

先日、元ハンセン病患者の家族を支援する方向に政府が政策を転換しました。参院選を意識したものだと言われましたが、長年にわたる当事者や支援者の地道な活動があっての転換だった事実を忘れるべきではありません。日本では社会運動が弱いと指摘されますが、今回の転換から見えたのは、この社会にも「課題を設定する力」はあるという事実です。

問題は山積みですが、社会運動による課題提起の力を、野党の公約だけでなく現実政治の転換にまでつなげていければと考えています。(聞き手 編集委員・塩倉裕)

いなばつよし 1969年生まれ。つくろい東京ファンドなどを拠点に貧困解消の活動に取り組む。立教大学特任准教授(居住福祉論)。

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