【2017年6月4日】信濃毎日新聞社説「住まいの貧困 人間の尊厳守るために」にコメント掲載

メディア掲載

2017年6月4日付け信濃毎日新聞の社説に稲葉のコメントが掲載されました。

 

http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170604/KT170603ETI090001000.php

あすへのとびら 住まいの貧困 人間の尊厳守るために

生活に困窮した高齢者が行き場を失い、劣悪な居住環境の下で暮らすことを余儀なくされる―。北九州の古い木造アパートが燃え、6人が死亡した先月の火災は、“住まいの貧困”の現実をあらためて映し出した。

一昨年、川崎の簡易宿泊所で起きた火災では、11人が死亡している。日雇い労働者が集まる「寄せ場」に建てられた宿泊所が、生活保護を受けて暮らす高齢者の受け皿になっていた。

北九州のアパートも、実態は簡易宿泊所に近かったようだ。敷金も保証人も要らず、日割りの家賃で入居できた。住んでいた人の多くは生活保護受給者や日雇い仕事の収入で暮らす人だった。

惨事はほかにも相次いでいる。2011年には東京・大久保の木造アパートが燃え、単身の高齢者ら5人が亡くなった。09年、群馬の老人施設の火災では10人が死亡した。ずさんな運営の無届け施設に、東京の自治体が生活保護受給者を送り込んでいた。

<若者の状況も厳しく>

身寄りのない高齢者が住まいを探すのは難しい。家賃の滞納や孤独死を嫌って、入居を拒む家主や業者は多い。一方で、家賃が安い公営住宅は不足し、介護施設にも空きがない。

それが“貧困ビジネス”をはびこらせる土壌になっている。狭い部屋に押し込めて生活保護費を巻き上げる悪質な無料・低額宿泊所は典型だ。貧しい人たちが、宿泊所や無届けの施設に吹き寄せられている構造的な問題がある。

高齢者だけではない。「路上生活一歩手前の若者が少なくない」。困窮者を支援する「つくろい東京ファンド」の代表理事を務める稲葉剛さんは話す。

アパートの家賃が払えず、24時間営業のインターネットカフェなどで寝泊まりする人が非正規雇用の拡大とともに増えた。ブラック企業で過酷な労働を強いられて心身を病み、働けなくなって住む場所をなくす人もいる。

住まいを失うと、困窮から抜け出すのはなおさら難しくなる。人間関係が途切れて孤立しがちで、支援にもつながりにくい。

〈すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する〉―。憲法25条が定める生存権の保障には、人が暮らすにふさわしい住まいの確保が何よりも欠かせないはずだ。

けれども、そのための制度や政策は乏しい。最後の安全網である生活保護の住宅扶助さえ、政府は15年から基準額を引き下げた。生活困窮者自立支援制度の住居確保給付金は、対象が離職者に限られ、低賃金で働く若者や、働けない高齢者は利用できない。

より根本的な問題として、住宅政策が福祉政策として位置づけられてこなかったことがある。住宅は国土交通省、福祉は厚生労働省という縦割りの弊害も大きい。

<社会の土台が崩れる>

この国会で成立した「改正住宅セーフティーネット法」は、現状を変える一歩になるかもしれない。空き家や空き室を都道府県ごとに登録する制度を新たに設け、高齢者や低所得者、子育て世帯などの入居につなげる。

ただ、課題は多い。家賃負担を軽減する補助制度は条文に明記されなかった。住まいの貧困に陥った人を広く助ける仕組みにできるかは心もとない。自治体が主体的に取り組むかにもかかる。

住居は、人間の尊厳を守る基礎であり、社会の基盤である―。神戸大名誉教授の早川和男さんは著書「居住福祉」で述べている。

住居が劣悪では、高齢化社会を支える在宅福祉の充実はおぼつかない。安心して暮らせる住まいという土台なしに社会保障や福祉は成り立たない。地域社会の人のつながりも住居が核になる。

住まいの貧困は大都市圏だけのの問題ではない。地方でも住宅費の負担は重い。年老いて維持費用が賄えなくなり、壁がはがれ落ちた家に住み続ける人もいる。少ない年金の大半がアパート代に消える単身の高齢者の嘆きも聞く。

非正規雇用は拡大し、未婚率も上がり続けている。このままだと、単身で低年金、無年金の高齢者は大幅に増えていく。それに伴って、住まいの貧困は一層深刻な問題になるだろう。

一人一人の生きる権利を守ると同時に、社会を成り立たせていく基盤として、誰もが住む場所に困らないよう支える確かな仕組みをつくらなくてはならない。

福祉の観点から住宅政策を抜本的に組み直す必要がある。欧州各国は、住宅手当や家賃補助制度によって高齢者や低所得の人を支えてきた。学ぶことは多い。

国の制度や政策とともに、住民に近い自治体に何ができるか。貧困の実態をまずはつぶさに捉え、具体的な手だてを考えたい。

 

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