【2017年4月12日】 毎日新聞「論点」欄にホームレス自立支援法に関する意見が掲載

メディア掲載

2017年4月12日付け毎日新聞「論点」欄で、今年8月で期限切れを迎えるホームレス自立支援法の延長問題に関する特集記事が掲載されました。
NPO法人抱樸理事長の奥田知志さん、生活保護問題対策全国会議事務局長の小久保哲郎さんとともに、稲葉の意見も掲載されました。

https://mainichi.jp/articles/20170412/ddm/004/070/027000c

新たな住居喪失者に対応を

稲葉剛・一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事

ホームレス自立支援法で言う「ホームレス」の定義は、屋外生活をしていて、路上、公園、河川敷などで寝ている人たち、外で寝ている人たちだ。だが、ホームレスをめぐる状況は、2000年代に入って大きく変化した。ネットカフェや友達の家にいるといった、広い意味での「ホームレス状態」にある人たちが生まれたのだ。ホームレス自立支援法は、こうした人たちに対処できていない。

1994年からホームレスの人たちの支援活動をしてきたが、03年秋、ネットカフェで暮らす若者から初めて相談を受けた。さらに、年収200万円以下の貧困層の若者から「アパートを失い、ネットカフェや友人宅で漂流しながら生活している」という相談が日常的に来るようになった。

ネットカフェ難民が問題になった時、厚生労働省はホームレス対策の枠内で動くことはできなかった。ホームレスの定義を拡大するのではなく、新たに「住居喪失不安定就労者」という定義を作って調査を始めた。しかし、調査を実施する根拠となる法律が存在しないため、調査が継続的に実施されないという問題が生じた。

東京都はネットカフェを規制する条例を作り、入場時の本人確認を義務づけたため、身分証を持てない人たちはネットカフェを利用できなくなった。ネットカフェにも泊まれなくなった人は「脱法ハウス」に移り、状況はさらに悪化した。

NPO法人「ビッグイシュー基金」が14年に行った調査によると、首都圏・関西圏に暮らす20代、30代の未婚で年収200万円未満の若者の6・6%が、ホームレスを経験していた。親と同居していないグループに限ると、13・5%にまで跳ね上がる。「住まいの貧困」は若年層に広がっている。

若者が貧困に陥る理由には、いくつかのパターンがある。一つは貧困の世代間連鎖だ。親が生活保護を受けている場合や、児童養護施設の出身で大学に進学できず、高校を中退したり、高卒で非正規の仕事に就きながら職を転々としたりして、最終的にホームレス状態になってしまう。もう一つは、最近だとブラック企業だ。大学を出て正社員として就職しても、長時間労働やパワハラなどが横行するブラック企業でうつを発症して働けなくなり、生活に困窮する人も出てきている。

住まいの貧困に陥る若年層は、収入や待遇が不安定な非正規雇用の人が多い。08年のリーマン・ショックでは「派遣切り」で仕事とともに住居を失った若者が多く生まれ、年越し派遣村も作られた。非正規雇用が雇用者の約4割に達し、社会状況は変化している。

若者はアルバイトや派遣社員として働けるうちは路上生活には陥らないが、安定した住まいを失う可能性は誰にでもある。だが、それに対応する法律や恒久的制度が存在しないのが問題だ。広い意味でのホームレス状態にある人たちを支援するには、現行法の定義を拡大して大幅に改定するか、生活困窮者自立支援法の中の居住支援を強化する制度改正が必要だ。

 

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