【2017年11月3日】 毎日新聞「生活保護、等級見直し 「安全網」損なう恐れ 各地の水準、統計不足」にコメント掲載

メディア掲載

2017年11月3日付け毎日新聞朝刊「生活保護、等級見直し 『安全網』損なう恐れ 各地の水準、統計不足」に、稲葉のコメントが掲載されました。

https://mainichi.jp/articles/20171103/ddm/003/040/030000c

クローズアップ2017 生活保護、等級見直し 「安全網」損なう恐れ 各地の水準、統計不足

生活保護制度の等級見直しは、受給額を各市区町村の生活水準に合わせるもので、一見、合理的に思える。ただ、背景には、国・地方合わせて約3・8兆円に上る生活保護費を抑制したいとの国の思惑がある。ここ数年、受給額引き下げが続いており、新たな切り下げは生活保護制度の「最後の安全網」としての機能を損ないかねない。【熊谷豪、西田真季子】

「格下げ」が想定される大阪市。受給者は14万3800人と全国最多で、見直されれば象徴的意味を持つ。
同市港区のアパートで生活保護を受給しながら暮らす女性(68)は「どこをどうやって削ればいいのやろか」と、ため息を漏らす。

持病のため夫婦とも働けなくなり、住宅ローンを返済できず約5年前から生活保護を受給している。1年前に亡くなった夫の遺族年金は月約1万5000円。生活保護費(生活費分)と合わせ月約8万3000円で暮らす。食費の節約はもちろん、洋服も人から譲り受けて着ている。

大阪の夏は暑い。熱中症予防のためクーラーは必需品で、光熱費は月5000~6000円。ランクが下がれば重みは増す。女性は首を切る仕草をしながら声を絞り出した。「もう生きていかれへん」

夫を10年前に亡くし、同じ港区で生活保護を受けて1人で暮らす女性(66)も「1000円、2000円でも下がったら影響は大きい」とうつむく。持病で働けず、古紙や空き缶を集めているが、数カ月で1000円程度。引き下げへの不安で眠れない日が続く。

政府は2013年度以降、段階的に生活費分を平均6・5%削減した。この引き下げについては、生存権を保障した憲法25条に反するとして29都道府県の計955人が国を相手に提訴している。ランクが下がれば「ダブルパンチ」となる。

東京都内で貧困問題に取り組む一般社団法人「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事は「あの時と同じことが起きるのではないか」と話す。

稲葉氏が懸念するのは、15年7月の「家賃見直し」の経緯だ。「全国各地の実態に合わせる」として生活保護費の家賃分を引き下げたところ、そのまま住み続けることができなくなり、厚生労働省の調査では約2万世帯が転居を余儀なくされた。

稲葉氏は「『実態に合わせる』といえばもっともらしいが、事実上の保護費削減だ」と警戒し、こう指摘する。「現状でも最低限度の生活水準を維持しているとはいえないのが実感だ。さらなるカットで受給者を追い詰めていいのか」

一方、等級見直しが30年も手つかずだったのは、全市区町村の生活水準の実態を十分に示す統計がないという事情がある。

厚労省は生活水準の指標として、地域の消費支出を5年ごとに調べる総務省の「全国消費実態調査」を主に使う意向だが、同調査のサンプルは人口2000人につき1。20万都市でも100サンプルにしかならず、全国の市区町村を公平に比較するのは難しい。厚労省は、前回見直した1987年の時と同様、同調査を補足するためにさまざまなデータを収集し始めている。

ただ、複数の統計で理論的な数字をはじき出したとして、実態に即したものになるかどうかは疑問だ。貧困問題の専門家らは「研究の蓄積がなく、難しい作業になるだろう」と口をそろえる。全国生活と健康を守る会連合会の安形(あがた)義弘会長は「地方は物価が安いというが、商店街はさびれ、都市部と値段が同じコンビニエンスストアで買うことが増えた。政府は、実情に即して丁寧に調査し、決めてほしい」と話す。

◆医療費抑制が焦点

生活保護は、収入が国の定めた最低生活水準に満たない場合に不足分を受給できる仕組みだ。世帯構成に応じて生活費や住宅費などが支給され、医療や介護は無料で受けられる。

厚労省によると、生活保護を受ける世帯数はバブル崩壊以降、一貫して増加を続け、この10年だけで1・5倍に増えた。8月時点で163万3541世帯に達し、過去最多を更新し続けている。

増加の主な要因は高齢化だ。65歳以上の高齢者の世帯の伸びが大きく、2016年度に初めて過半数を占めた。高齢者世帯の中では単身者が9割だ。支え合う家族がなく、低年金や無年金のため、生活保護に頼らざるを得ない実態がある。

これに伴い生活保護費も増え続け、今年度予算では3・8兆円。国が4分の3、自治体が4分の1を負担するため、国・地方双方の財政に影響する。

厚労省は景気動向の変化に合わせて5年ごとに受給水準を見直す。来年度が見直し時期に当たり、厚労省が制度全体の見直しも併せて検討している。焦点は保護費の半分を占める医療費の扱いだ。

厚労省の調査では、同じ病気で月15日以上の通院治療を続ける「頻回受診」は14年度に約1万5000人に上る。このうち約3800人について「医学的に過剰な受診」と判断し、受診を控えるよう指導した。

自己負担がないため安易に通院しているのではないかとの見方がある。厚労省は、医学的な必要性のない診察を受けた受給者に自己負担を求めることも含め見直しを検討している。約200万人の受給者全体からみれば一握りだが、厳しい姿勢を示すことで安易な受診を減らす狙いだ。

ただし、病気なのに受診を控えれば病状が悪化したり、命にかかわったりする恐れもある。厚労省幹部は「やり方は慎重に考えないといけない」と話す。

 

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