【東京都ホームレス対策計画】排除ではなくハウジングファーストを!パブコメにご協力を!

提言・オピニオン

東京都が「ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画(第4次)」素案を取りまとめ、3月19日(火)までパブコメを募集しています。

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東京では来年の東京オリンピック・パラリンピックを口実とした野宿者排除が進むことが懸念されており、第4次計画(計画期間は2019~2023年)の内容がどうなるかは、排除をめぐる今後の動きにも影響が出るものと思われます。

私が代表理事を務める一般社団法人つくろい東京ファンドでは、NPO法人TENOHASIなど都内の他団体とともに、民間によるハウジングファースト型の支援事業である「ハウジングファースト東京プロジェクト」を進めています。

これまで私たちは行政もハウジングファースト型の支援を取り入れてほしいと要望してきましたが、東京都はなかなか動きませんでした。

ところが、今回の計画素案には「支援付地域生活移行事業」というハウジングファースト型と見られる支援事業を2019年度から23区全域で実施するとの内容が盛り込まれています。

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これは歓迎すべき動きとも言えますが、この事業の説明が本文ではなく「コラム」という形で掲載されており、具体的な支援の中身についてほとんど触れられていないこと、2024年度末までに「自立の意思を持つ全てのホームレスが地域生活へ移行する」という大風呂敷の目標を掲げているにもかかわらず、支援対象者の人数の数値目標が書かれていないこと等、不可解な点が少なくありません。

また、ハウジングファースト型の支援が実施されたとしても、それが排除とセットになれば、当事者からの信頼を得ることはできません。

そこで、私は下記の内容のパブリックコメントを送りました。

ぜひ多くの皆様に「排除ではなく、ハウジングファースト型の支援の拡充を!」という意見を都に寄せていただければと願っています。

ホームレス自立支援等に関する計画(第4次)への意見募集|東京都

下記の私の意見も参考にしてください。ご協力よろしくお願いします。

 

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ホームレスの自立の支援等に関する東京都実施計画(第4次)素案に関する意見

稲葉剛(一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事、立教大学大学院特任准教授)

【「Ⅰホームレスの現状」について】

・P3では、東京都におけるホームレスの概数について、「平成30年1月の調査では1,242人で、調査開始以来最も少なくなっています。」とありますが、これまで多くの識者や支援関係者が指摘してきた通り、昼間の目視調査を中心とする現在の手法では正確な人数を把握することはできません。同一の手法の調査を継続して、経年変化を把握することは重要ですが、現行の調査手法の限界を補うため、独自の調査を実施している民間団体の協力を得て、深夜の調査も実施すべきだと考えます。

・P5~9では、ホームレスの生活実態について、高齢化と路上生活の長期化が進んでいること、健康状態が悪いと回答した人が3割を超えること、これまで生活保護を受けたことのある人が3人に1人の割合でいること、今後の生活について「今のままでいい」という回答が4割を超え、以前より増加していること等が指摘されています。これらの現状は、就労支援中心のこれまでの対策の限界と施設保護中心の生活保護の運用の問題が放置されてきた結果であると考えます。データを示すだけでなく、なぜこのような現状が生じているのかという点に関する分析を追加することが必要です。

【「Ⅱホームレス対策の現状」及び「Ⅲホームレス問題の解決に向けて」について】

・P13では、平成29年度から「支援付地域生活移行支援事業」が試験実施されたことが述べられ、P19では同事業がコラムで紹介されています。同事業は「既存の自立支援システムでは対応が難しい、路上生活が長期化し、高齢化したホームレスに対する取り組み」として位置づけられており、前述のホームレスの生活実態を踏まえると、今後のホームレス対策の中軸となるべき事業だと考えられます。それにもかかわらず、計画本文ではなくコラムという形で言及されているのは不可解であり、本文中に位置づけるべきです。

・P19のコラムでは、支援付地域生活移行支援事業について「平成36年年度末(2024年度末)までに自立の意思を持つすべてのホームレスが地域生活へ移行するという目標のもと実施していく」とあります。目標を達成するためには、毎年数百人を支援できる規模が必要になりますが、計画には今後の事業規模についての言及がありません。同事業によって地域生活に移行できる人の数値目標を年度ごとに設定し、計画に明記すべきです。

・支援付地域生活移行支援事業の本格実施にあたっては、アメリカ、カナダ、フランス、フィンランド等で実施されているハウジングファースト型事業で蓄積された知見を踏まえることを求めます。また、排除とセットに事業を実施しないこと、徹底した情報公開をおこなうこと、民間でハウジングファースト型の支援事業を実施している団体との定期的な意見交換の場を設置することを求めます。

・P16では、自立支援センターの若年の利用者の中に「就労経験の乏しい者や、不安定な就労を繰り返す者もおり、途中退所や安定した就労に結びつかない事例」があることが記述されています。P18では、こうした事例の増加に対して「効果的なアセスメントや支援方法を検討し、実施していきます」とありますが、具体策は盛り込まれていません。またP24でも、ホームレスの中に「健康状態が悪化している者が多く、その中にアルコール依存症や精神に疾患を有する者等も含まれています」との記述があります。これらの記述から、年齢にかかわらず、ホームレスの中に様々な疾患や障害を抱えている人が多いことがうかがえます。ホームレスの健康状態を踏まえた適切な支援を実施するため、精神医療の専門家や民間支援団体の関係者も交えた大規模な調査研究を実施することを求めます。

・P28では、「ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者への対応」として、「TOKYOチャレンジネット」事業が紹介されていますが、同事業の成果に関する記述がほとんどありません。同事業によって安定した居宅を確保できた人の人数等、同事業の成果とその評価を記述してください。

・P28では、「住居喪失不安定就労者の実態に関する調査」の結果が示されていますが、その調査結果を踏まえた今後の取り組み方針については、「支援内容の見直しや関係機関との連携強化」といった抽象的な表現にとどまっています。ネットカフェ等で居住する住居喪失者に対しては、都が率先して安定した住まいを確保できるための居住支援を強化する必要があると考えます。

・P32では、生活保護の適用に関して「直ちにアパート等の居宅生活をすることが困難な場合が多いという現状があります」と記述されていますが、保護施設や宿泊所がほとんどない一部の地方都市では、ホームレスに対して保護開始時からアパート設定がなされていることを踏まえると、主たる問題は一方的に「困難」とレッテルを貼っている都内の区市福祉事務所のマインドセットにあると考えます。根拠なく、「困難な場合が多い」とする記述は削除してください。

・P33では、宿泊所の「取組内容には事業者において大きな差が見られます」とありますが、一部の宿泊所において東京都が2016年に定めた「宿泊所設置運営指導指針」が守られていない現状があります。宿泊所の居住環境や契約内容、サービス内容に関する指導を強化する旨を盛り込んでください。

・宿泊所の入所期間について、P34では「1年以上の利用者が50.3%」いるとの調査結果が示されています。ホームレス状態から生活保護を申請して居宅に移るまでの期間については、区市によって対応のばらつきがあることが知られています。都内の区市において、ホームレス状態からの生活保護の申請件数、決定件数と、そのうち居宅生活に移行できた人の人数、移行までの平均日数を調査した上で、特に居宅移行に消極的な区市において、「本人の意思を確認しながら、援助方針を検討」(P32)しているのかどうか、確認をしてください。

・P37において、ホームレスに対する偏見や差別をなくすための教育や広報・啓発を推進していくことが書かれているのは評価できますが、これまでの実践例は必ずしも多くはありません。今後、どのように実践例を増やしていくのか、具体的に記述してください。

・P38では、「相談時やホームレスの入所施設」における人権尊重が述べられていますが、区市の福祉事務所窓口における「水際作戦」や職員による暴言、宿泊所等における職員の差別的言動は依然として散見されます。ホームレスの当事者や支援者がこれらの人権侵害行為に直面した際に通報できる専用の窓口を都に設置してください。

・P39の「地域における生活環境の改善」では、「公共施設の適正な利用が妨げられることのないよう対策が必要」とありますが、近年、ホームレス自立支援法第11条に定められた「ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携」が一切ないまま、ホームレスが公園等から排除される事案が散見されます。来年開催される東京オリンピック・パラリンピックを口実とした排除を行なわないことを強く求めます。

・P40では「地域住民に与える不安感の除去等」という言葉が二度出てきますが、「不安感」の中にはホームレスへの偏見や差別、誤解に基づくものも少なくないと推察されます。住民の「不安感」を前提とするのではなく、前述の広報・啓発も合わせたアプローチを求めます。

【「Ⅳ計画の推進及び見直し」について】

・P42に記述されている「民間団体の役割」については従前の計画にも盛り込まれていましたが、これまで東京都と民間団体による意見交換はほとんど実施されてきませんでした。民間団体に一方的に「期待」するだけでなく、支援のあり方について民間団体が都と率直に意見交換できる場を定期的に設定してください。

以上

 

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