貧困ビジネス規制のはずが、ハウジングファースト潰しに?パブコメにご協力を!

提言・オピニオン

厚生労働省は昨年11月から、「無料低額宿泊所」の規制強化などに関する検討会を開催し、検討を重ねてきました。

社会福祉住居施設及び生活保護受給者の日常生活支援の在り方に関する検討会

 

「無料低額宿泊所」(無低)とは、社会福祉法に基づく民間の宿泊施設です。無低に登録している施設は玉石混淆で、ホームレス支援NPO等が運営する良心的な施設も一部にあるのですが、高額な利用料を徴収しながら劣悪な居住環境やサービスしか提供しない「貧困ビジネス」施設も多く含まれているとして、ホームレス支援の現場では20年前から問題になっていました。

無低をめぐる問題については、東洋経済オンラインのこちらの記事がよくまとまっているので、ご参考にしてください。

生活保護費を搾取する「大規模無低」の正体 厚労省がお墨付き?貧困ビジネス拡大の懸念 | 政策 – 東洋経済オンライン

 

「施設」に対する規制に「住宅」も含まれる?

このたび、この検討会で無低規制の方向性が固まり、省令案が出されました。

省令案のPDFは、こちら。

ところが、その省令案の中身を見て、私は驚きました。無低という民間の「施設」を規制するはずの網が、NPO等が借り上げている「住宅」も規制対象とする、という内容になっていたからです。

この省令案の第二条の一(イ)には、無低の範囲として「入居の対象者を生計困難者に限定していること(明示的に限定していない場合であっても、生計困難者に限定して入居を勧誘していると認められる場合を含む。)」という定義があります。

規制をするにあたり、無低の範囲を広くして、全体に網をかけるという方向性だと思いますが、この定義だと、賃貸借契約を結び、家賃・共益費のみを徴収している住宅であったとしても、5人以上を受け入れていて、入居対象者を事実上、「生計困難者」に限定していれば、無低としての規制を受けるということになってしまいます。

そこで、改めて検討会で厚労省が提出していた資料を確認したところ、「無料低額宿泊事業の範囲」には、「生計困難者」を対象とする「住居貸付」も含むという説明があることがわかりました。

 

厚労省資料より。9つの区分の中で、「住居貸付」の一番上も無低という扱いになっている。

「無料低額宿泊事業の範囲」の資料(PDF)は、こちら。

 

このままだと、各地のNPOが運営している借り上げ住宅や、東京都が進めるハウジングファースト型のホームレス支援事業(今年度から本格実施される「支援付地域生活移行事業」)、国土交通省の進める「セーフティネット住宅」の一部も、無低としての規制を受けるという奇妙なことになってしまうのではないかと危惧しています。

ホームレスの人や生活保護利用者を積極的に受け入れている「善意の大家さん」も規制対象ということになってしまいます。

貧困ビジネス施設が規制されるのは歓迎すべきことですが、この規制の網がハウジングファースト型の事業にもかけられてしまうと、結果的に「ハウジングファースト潰し」につながりかねません。

現実的な判断として、ハウジングファースト型の「住宅」も無低としての届け出を出せばよいのではないか、という意見もあるかと思います。

しかし、その場合、入居者に対して「一日一回以上の状況確認を実施する」等、「施設」として入居者を管理することが求められます。

「住宅」と「施設」の違いとは何でしょうか。

それは「住宅」では「時間と空間が自由に使える」のに対して、「施設」では制約を受けるという違いだと私は考えています。

「住宅」という器を「時間と空間を自由に使える場」として提供する、というのがハウジングファーストの原則です。同じ器であったとしても、入居者の自由が制限されれば、「住宅」としての意味が失われます。その意味で、省令案はハウジングファーストの理念を否定していると言えます。

そこで私は厚生労働省に対して、下記のパブリックコメントを提出しました。

 随所に見られるパターナリズム

パブコメにも書きましたが、省令案には他にも、ホームレス経験のある入居者が「独立して日常生活を営むことができるか」という「能力」を、施設の管理者や行政が「判定」をして、誰がいつ地域生活に移行できるかを「決定」する、というパターナリズムに基づく記述が随所に見られます。

こうした発想は、生活保護法の居宅保護の原則をないがしろにするものです。

また、入居者の中にはさまざまな障害や生きづらさを抱えている人も少なくありませんが、これらの規定は、居住の選択に関して当事者の自己決定権を保障した障害者権利条約にも反するものだと私は考えます。

 

 パブコメ提出にご協力ください

パブコメは7月6日が募集の締め切りになっています。

「住宅まで無低の範囲に含めるな」、「居宅保護の原則に従い、入居者の自己決定権を尊重しろ」という意見をぜひ多くの方に寄せていただきたいと思います。

※パブコメはこちらから提出できます(下記をクリックしてください)。

無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準案に関する意見の募集について

ご協力よろしくお願いいたします。

 

【稲葉が提出したパブリックコメント】

私が代表理事を務める一般社団法人つくろい東京ファンドは、東京都内の6団体とともに「ハウジングファースト(HF)東京プロジェクト」というコンソーシアムを組み、世界的にも広がりつつあるHF型の路上生活者支援事業を都内で展開しています。つくろい東京ファンドは同プロジェクトの住宅支援部門を担当しており、都内で計26室の空き室を借り上げて個室シェルターや支援住宅として活用しています。

今回、厚生労働省が重い腰を上げ、貧困ビジネスの規制に乗り出したことは歓迎しておりますが、示された省令案には以下の点で問題があるため、修正を求めます。

第二条では無料低額宿泊所(以下、無低と略す)の範囲が示されていますが、「一のイ」では、賃貸借契約を締結して家賃・共益費以外を徴収していない住宅であったとしても、入居者の状況によっては無低の範囲とされると読み取ることができます。これは、「簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他施設を利用させる」という社会福祉法における無低の定義を逸脱しています。

このままでは、民間団体や地方自治体が実施するHF型の住宅支援事業や、善意の大家さんが路上生活者に声をかけて入居させているアパート、国土交通省が進めるセーフティネット住宅の一部も、無低としての登録を求められることになり、現場の混乱は必至です。国土交通省とも協議の上、家賃・共益費以外を徴収していない住宅は無低の範囲から外すことを明確にしてください。

また、無低の入居者の自己決定権やプライバシーを保障し、生活保護法30条(居宅保護の原則)及び障害者権利条約19条(居住選択の自由)に示された原則を徹底するため、以下の条文の変更も求めます。

第三条「その有する能力に応じ」を削除。

第三条3「基本的に一時的な居住の場であることに鑑み」から「基本的に」を削除。「独立して日常生活を営むことができるか」を「~を希望しているか」に変更。

第三条4「独立して日常生活を営むことができると認められる入居者」を「~を希望する入居者」に変更。

第二〇条を全文削除。

附則第2条及び第3条の「居室に関する経過措置」を全文削除。

厚生労働省がこれまでの生活保護行政、ホームレス支援策を蝕んできたパターナリズムと決別し、国土交通省とも協議の上、「住まいは基本的人権である」との理念に基づき、福祉政策、住宅政策の再編を行なうことを求めます。

2019年6月25日

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事

立教大学大学院特任准教授(居住福祉論)

稲葉剛


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