日々のできごと
日々のできごと
昨日(5月30日)、厚生労働省で開催された第18回生活保護基準部会を傍聴してきました。
現在、基準部会では生活保護の住宅扶助費に関する議論が進んでいます。
*第18回社会保障審議会生活保護基準部会資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000047219.html
これまでの議論をまとめた厚労省による論点まとめには、
住宅扶助特別基準額の妥当性を検証するにあたって、健康で文化的な最低限度の住生活を営むことができる住宅かどうかをみるための尺度は、住生活基本計画(全国計画)(平成23年3月閣議決定)において定められている最低居住面積水準(設備条件を含む。)でよいか。
※ 全国の民営借家では、約1/3の世帯で、最低居住面積水準(設備条件を含む。)が未達成の状況にある。
という文言があり、低所得者の住居が最低居住水準を割り込んでいる現状を前提にして、「一般低所得世帯との均衡」という論理のもとに住宅扶助基準を引き下げようという意図が明らかになっています。
これに対して、各委員から「一般低所得世帯との均衡ばかり強調すると、生活保護が劣悪さをオーソライズ(権威づけ)し、増幅させる危険性がある」、「最低居住水準は国土交通省が作った制度であり、それ以外のものをこの部会で作ることはできない」といった反論が相次ぎました。
厚労省は7月から8月にかけて、「生活保護受給者の居住実態に関する調査」をおこなうとのことですが、この調査が「生活保護世帯が一般低所得者の住居より家賃が割高のところに住んでいる」、「一般低所得者の多くが最低居住面積水準を割り込む住居に暮らしている実態がある以上、そことの均衡で住宅扶助基準を引き下げざるをえない」という結論に誘導しようとしているのは明らかです。
しかも、この調査の細目を詰める「作業部会」の議論は非公開になりました。
今回の部会でも各委員が指摘していましたが、生活保護利用者には単身の高齢者も多く、家賃の金額について大家や不動産屋と交渉する力を持っていない場合がほとんどです。
そうした中、住宅扶助基準(「家賃」分に相当)の引き下げが行なわれてしまえば、その分、収入減を防ごうとする大家や不動産業者が(住宅扶助の対象にならない)「管理費」「共益費」などを増額し、結果的にそれを生活費の中から支出せざるをえなくなる人が増えるのではないでしょうか。
今でも、車イスの障がい者の中には住宅扶助(障がい者などの特別基準は東京都内で69800円)の範囲内でバリアフリーの住宅を見つけられず、実質的に生活費からプラスして払っている人がたくさんいます。
昨年から生活扶助基準が先行して下げられる中、多くの人が「適切な居住環境を確保するために食費などを削らざるをえない」という状況に苦しんでいます。
部会は11月にも「住宅扶助に関する検討結果のとりまとめ」をおこなうと言います。
生活保護分野だけでなく、住宅問題に取り組む研究者や諸団体にも声をかけて、住宅扶助引き下げの問題点について声をあげていきたいと思います。
*住宅扶助問題については、ライターのみわよしこさんがダイヤモンドオンラインの連載「生活保護のリアル」で取り上げています(第54回、第59回、第60回、第63回など)。ご参考にしてください。
http://diamond.jp/category/s-seikatsuhogo
2014年5月31日
日々のできごと
5月20日(火)に衆議院第2議員会館で「病棟転換型居住系施設について考える院内集会」が開催されたので、参加してきました。
弁護士や精神医療関係者、障がい者団体の関係者らでつくる「病棟転換型居住系施設について考える会」の主催です。
「病棟転換型居住系施設」構想というのは、精神科病院での長期入院が問題視されているにもかかわらず、地域生活への移行があまり進んでいない状況を踏まえて、現在の精神科病院の病床を介護精神型施設、宿泊型の自立訓練施設などに転換することで、「地域移行を果たした」ことにしてしまおう、というものです。
昨年10月、厚生労働省の検討会で、この構想が一部委員から提案され、議論が始まっているとのこと。
精神医療の関係者や障がい者団体を中心に批判の声が高まっており、先日の東京新聞社説でも取り上げられました。
東京新聞社説:精神科病院 暮らしの場ではない(2014年5月19日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014051902000146.html
院内集会は正午から開始。会議室は満席で立ち見が出るほどでした。
DPI日本会議(障害者インターナショナル)事務局長の尾上浩二さんが開会あいさつ。
障がいのある人が地域で生きる権利を保障した障害者権利条約を日本政府が今年1月に批准したことに触れ、「多くの人の努力でかちとった障害者権利条約の真価が問われている課題だ」と危機感を表明されました。
その後、長谷川利夫さん(杏林大学)が基調報告。
長谷川さんは、病棟転換型居住系施設が設けられることになった場合、その資金は、現在、国会で審議中の医療・介護総合法案によって設置される「新たな財政支援制度」(904億円の基金)から拠出されることになり、その財源は消費税の増税分であることを指摘。
「これのどこが社会保障改革なのか?」と疑問を呈しました。
その後も様々な立場の方が発言をされましたが、最も印象に残ったのは精神科病院に長期入院をした経験のある方の話でした。
現在は埼玉県にあるグループホームで暮らしている76歳の男性は、22年間、精神科病院に入院をしていた経験を語り、「入院後8年したら症状も落ち着いたが、医師から『あんたは引き取り人がいないから、仕事もアパートも自分で探さないといけない。あんたの年齢と体力では無理。埼玉は民度が低いから精神病院を退院した患者を雇ってくれる人はいない』等と言われた。」と語りました。
もうお一人の男性も30年間入院した経験を語りました。この方も、医師に「退院したい」と何度も言ってもとりあってくれなかったと話していらっしゃいました。
私はこの集会に一参加者として参加をしていましたが、途中、司会からいきなり指名を受けたので、発言。
NPO法人自立生活サポートセンター・もやいでは、過去13年間に約2000世帯のアパート連帯保証人を提供してきたが、その中には路上生活の経験者だけでなく、精神科病院から退院してきた方もたくさん含まれていることを述べた上で、「住まいの権利」という視点からもこの構想を問題にしていきたいとアピールしました。
精神科病院からの地域移行が進まない背景には、アパートの入居差別や連帯保証人の問題もあると思われます。
だからと言って、病棟を宿泊施設に変えて「地域移行」だと強弁しても、そこに暮らす人々にとっては「地域で暮らしている」という実感は得られないでしょう。
このような姑息な手段ではなく、地域生活を阻んでいる社会的要因を一つずつ取り除いていくのが本筋ではないでしょうか。社会の側のハードルを撤廃していく努力が求められているのです。
ぜひ多くの方にこの問題に関心を持っていただきたいと思います。
この問題は、6月10日放映予定のNHK Eテレ「ハートネットTV」でも取り上げられる予定です。
ハートネットTVブログ「緊急取材中―精神科病院・20万人以上が1年以上の長期入院という現実―」
http://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/700/188176.html
2014年5月25日
日々のできごと
脱法ハウス問題などを受けて、東京都は今年度、住宅セーフティネット法に基づく居住支援協議会を設立することを決めました。これは、私たちの運動の成果だと言えます。
設立される居住支援協議会が実効性のある対策を実施することを求めて、住まいの貧困に取り組むネットワークなど3団体は、本日5月20日、東京都に対して「都の居住支援協議会の設置及び民間賃貸住宅施策についての要請書」を提出しました。
要請書は6月10日までの文書回答を求めています。
東京都がどのような回答をしてくるか、ぜひご注目ください。
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東京都知事 舛 添 要 一 殿 2014年5月20日
都の居住支援協議会の設置及び民間賃貸住宅施策についての要請書
国民の住まいを守る全国連絡会
代表幹事 坂庭国晴
住まいの貧困に取り組むネットワーク
世話人 稲葉 剛
東京住宅運動連絡会
事務局長 北村勝義
日頃から都政における住宅行政の推進にご尽力いただき心からお礼を申し上げます。
さて、私たち「国民の住まいを守る全国連絡会」、「住まいの貧困に取り組むネットワーク」、「東京住宅運動連絡会」は、今日の住まいの貧困(ハウジング・プア)の解決に向けた取り組みを進めていますが、改善に向かうどころか、貧困ビジネス化する「脱法ハウス」(違法貸しルーム)や「シェアハウス」、「ゲストハウス」の居住問題など新たな事態も進行しています。こうした中で、貴職は「住宅の確保に配慮が必要な方々に対して、それぞれの地域の実情に応じたきめ細かな支援を行う」居住支援協議会(住宅セーフティネット法第10条)の設置に向けた検討を行うことを明らかにしています。
私たち居住支援協議会の設置を強く求めていた者として、賛意を表明すると共に実効性のある協議会とするために、また、関連する民間賃貸住宅施策について、以下の事項を要請しますので、6月10日までに文書で回答を下さるようお願い致します。
記
1.東京都設置の居住支援協議会について
「住宅セーフティネット法」は「低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを育成する家庭その他住宅の確保に特に配慮を要する者」に対する「賃貸住宅の供給の促進を図り、もって国民生活の安定向上と社会福祉の増進に寄与する」としています。この目的のもと、第10条で「居住支援協議会」(以下協議会)を定めています。検討されている都の協議会を真に実効性あるものとするために、以下の事項の実現を求めます。
(1) 協議会の構成員について
協議会は地方公共団体、宅建業者、賃貸管理業者と共に、「住宅確保要配慮者に対し居住に係る支援を行う団体、民間賃貸住宅への円滑な入居の促進に資する活動を行う者」を構成員としています。都の協議会には、これらの支援を行う団体、活動を行う者として以下を構成員とすることを強く希望いたします。
①東京借地借家人組合連合会、②NPO法人自立生活サポートセンター・もやい、③NPO法人住生活改善・住宅耐震支援センター、④小規模家主の会、⑤住まいの貧困に取り組むネットワーク
(2)協議会の活動について
「協議会の運営に関し必要な事項は、協議会が定める」とされています。都の協議会の活動、運営について以下の事項の実施をご検討頂きたいと思います。
① 低額所得者向け民間賃貸住宅の供給戸数の量と質の確保及び拡充、円滑な入居促進のための実効ある活動の実施、②「民間賃貸住宅への円滑な入居」のための入居初期費用の無利子貸出しを行うこと、③協議会が民間賃貸住宅入居の保証人の役割を果たすこと。
2.市区町村の居住支援協議会について
貴職は、「それぞれの地域の実情に応じたきめ細かな支援を行うためには、区市町村が居住支援協議会を設置して、主体的に取り組むことが重要」、「都が、広域自治体の立場として、自ら居住支援協議会を設置することは、基礎的自治体である市区町村による居住支援協議会の設置促進と活動支援を行う上で効果的であり」と表明しています。
これは極めて重要な姿勢であり、積極的に評価するものです。特に東京23区での協議会設置が急がれています。東京都としてどのように支援、指導を行い、進めようとしているのか、具体的な計画を明らかにして下さい。また、市区町村の協議会についても、上記の協議会の構成員、協議会の活動が実施されるよう、指導や要請を行って下さい。
3.当面する民間賃貸住宅施策について
(1)民間賃貸住宅の空家の利活用と対策について
東京都では46万5千戸の賃貸住宅の空家が存在(平成20年調査)しています。こうした主に民間賃貸住宅の空家の利活用と必要な対策のために、東京都として条例制定等の独自対策をとることを求めます。この中で、民間賃貸住宅を活用した借上げ公営住宅や適正なシェアハウスを供給し、単身者の居住の確保、安定を図ることを要望します。
(2)民間賃貸住宅への家賃補助制度の導入について
都営住宅への応募者は毎年20万世帯にのぼり、全国一の約30倍の高倍率となっています。応募しても都営住宅に入居できず、民間賃貸住宅に居住する世帯に対する家賃補助制度を早急に導入することを要求します。また、「脱法ハウス」(違法貸しルーム)等に入居する低額所得者が民間賃貸住宅に転居した場合の家賃補助の実施を求めます。
(3)民間賃貸住宅の耐震化と居住水準・環境の改善について
首都直下型地震等に備えるため、大きく立ち遅れている民間賃貸住宅の耐震化の支援、補助を早急に実施して下さい。また、民間賃貸住宅の居住水準、居住環境の改善のための施策を検討し、必要な支援、補助を求めます。これらの耐震化や居住改善は、家賃値上げを伴わず、従前居住者が住み続けられるよう、規制などを行うようにして下さい。
2014年5月20日
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