ネットから無料で入手可能!知っておきたい生活保護のしくみ

提言・オピニオン

桜が咲く季節になりました。

4月から新たに、福祉に関わる仕事に就いたり、社会福祉系の学部や専門学校に進学された方もいらっしゃるかと思います。
この時期、貧困問題に関わるNPO等から、「新人スタッフ研修のため、生活保護の基礎知識について話してほしい」という依頼を受けることが多くなっています。

そこで、生活保護制度に関してネット経由で無料に入手できる情報をまとめてみました。

生活困窮者支援に関心のある方だけでなく、自分自身が生活に困窮しているという方や、「将来、生活に困るかもしれない」と感じている方にも活用していただければと思います。

生活保護制度の基礎や基準を知るには?

まずは初級編です。

生活保護制度の基礎知識について、一番コンパクトにまとまっているのは、日本弁護士連合会が制作したパンフレット(A版8ページ)です。

日弁連:「あなたも使える生活保護」(PDF)

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PDFのダウンロードが難しい方は、ビッグイシューオンラインの記事で概略を見ることができます。

BIG ISSUE ONLINE :「生活保護」は、働いていても、若くても、持ち家があっても、車があっても申請可能です

また、日弁連は生活保護基準の引き下げ問題や子どもの貧困、ワーキングプアの問題等についても、さまざまな資料を作成しています。

以下のリンク先に一覧があるので、ご参考にしてください。

日弁連:人権問題に関する資料一覧

もう少し詳しい資料としては、私が理事を務めるNPO法人自立生活サポートセンター・もやいで制作したパンフレットがあります。こちらはA4版16ページです。

NPO法人もやい:「困った時に使える最後のセーフティネット活用ガイド」(PDF)

もやいのウェブサイトでは、生活保護の申請書や「これで研修・授業・講座ができる!貧困問題レクチャーマニュアル」もダウンロードできるようになっています。あわせて、ご活用ください。

NPO法人もやい:生活支援関連資料

生活保護の基準は、地域や世帯の人数等によって変動します。また、障害加算や母子加算などの加算もあるため、保護基準の計算はなかなか複雑になっています。

この面倒くさい基準の計算を自動でやってくれるのが、山吹書店のサイトでダウンロードできる生活保護費計算シート(Excel)です。

山吹書店:生活保護費(最低生活費)計算シート

この計算シートは無料でダウンロードできますが、寄付によって成り立つドネーションウェアなので、ぜひ寄付にもご協力ください。

生活保護をめぐる様々な論点

次は中級編。

「生活保護をめぐる様々な論点をわかりやすく紹介しているなぁ」と私が感心しているのは、読売新聞の医療サイト「ヨミドクター」で原昌平記者が連載している「貧困と生活保護」のシリーズです。

1990年代から大阪で野宿者の置かれている状況を取材してきた原記者だけに、生活困窮者支援の現場で問題になっていることを的確にまとめてくれています。

2016年3月末時点で第27回まで掲載されています。

ヨミドクター:原記者の「医療・福祉のツボ」:貧困と生活保護

もっと多角的に考えてみたい方にお薦めなのは、みわよしこさんが「ダイヤモンドオンライン」に連載している「生活保護のリアル」。

2012年から生活保護を利用している当事者の声を紹介したり、生活保護基準の引き下げや法改正など近年の政策をめぐる動きを追い続けていて、書籍化もされています。

ダイヤモンドオンライン:生活保護のリアル みわよしこ

この連載は第94回(!)でいったん終わりましたが、現在は続編が連載されており、こちらもすでに40回を超えています。

ダイヤモンドオンライン:生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ

法律家による意見書と裁判例から学ぶ

最後は上級編です。

生活保護問題に関わる全国の法律家らでつくる生活保護問題対策全国会議のブログでは、同会議がこれまで出してきた意見書や要望書を読むことができます。

生活保護問題対策全国会議ブログ

最近の事例では、大分県別府市が「パチンコ店への出入り」を理由に保護の支給停止をおこなったという処分に関して、法的な問題点を指摘した意見書があります。

遊技場立ち入りを理由とした保護停止処分に対する意見書

また、全国生活保護裁判連絡会のウェブサイトには、生活保護に関する20件の裁判事例が紹介されており、それぞれの事案の内容、問題の所在、裁判所の判断がコンパクトにまとめられています。

全国生活保護裁判連絡会ウェブサイト

以上、私の知る範囲で活用できそうなリンク先をまとめました。
生活保護制度については、誤解やデマも多く流されているので、ぜひ正しい知識を広げていきたいと思います。

なお、「今、生活に困っている」、「近いうちに困りそう」という方はお早めにご相談を。下記の相談先リストをご参照ください。

生活保護のことで相談したい場合は、こちらへどうぞ(相談先リスト)

 

「ことといこども食堂」(墨田区)がオープン!空き家を活用したシェアハウスで開催しています。

日々のできごと

3月24日(木)、墨田区初のこども食堂として「ことといこども食堂」がオープンしました。
全国でも珍しい「空き家を活用したシェアハウス」で開催されるこども食堂です。

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会場設営を含めて3時間前から準備した本日のメニューは「炒り卵オムライス」「菜の花とジャガイモの和え物」「大根とえのきのスープ」。

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埼玉で野菜を栽培されている方からご提供いただいた食材も活用しながら、「出張料理教室めざめ」の坂本ゆいさんが中心となって調理をしていきました。

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食堂は18時にオープン。一番乗りされたのは近隣に住まわれている親子連れの方2組。「(他区での活動を見て)墨田区でもこども食堂があればずっといいと思っていました」とおっしゃってくださいました。

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お隣、台東区にある光照院(浄土宗)の僧侶、吉水岳彦さんも顔を見せてくださり、お得意のバルーンアートを披露。こどもたちが大はしゃぎでした。

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開催1時間半の間に、初回にもかかわらず十数名のお客様を迎えることができて、歓声が絶えない終始にぎやかな食卓となりました。

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「ことといこども食堂」は毎月第二・第四木曜日の18時〜19時半に開催していきます。
4月は14日(木)と28日(木)に開催。
詳細は、つくろい東京ファンドのウェブサイトをご覧ください(以下の画像をクリックしてください)。

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新たに豊島区で個室シェルターを開設!ハウジングファースト東京プロジェクトが本格始動します!

日々のできごと

私が代表理事を務める一般社団法人つくろい東京ファンドでは、空き家・空き室を活用した住宅支援事業を展開しています。

2014年に東京都中野区で個室シェルター「つくろいハウス」(定員7名)を開設したのを皮切りに、2015年には新宿区に個室シェルター「ふらっとハウス」(定員2名)、墨田区に若者向けシェアハウス「ハナミズキハウス」(定員3名)をオープンさせました。

そして、2016年春、新たに豊島区内に2部屋の個室シェルターを開設しました。池袋地域でホームレス支援を行なっている諸団体と連携して運営をしていく予定です。

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池袋では、ホームレス支援NPOのTENOHASIや、国際NGOの「世界の医療団」が中心となり、「東京プロジェクト(ホームレス状態の人々の精神と生活向上プロジェクト)」が行なわれてきました。

このプロジェクトは、ホームレスの人の中に知的障害や精神疾患を抱える人の割合が高く、その人たちに支援の手が届いていないことを踏まえ、障害や疾患を持つ人々が野宿から脱却し、地域で安定した生活をおくれるように医療・保健・福祉などの総合的なサポート体制を構築することを目的としています。

関連記事:ホームレスの4~6割が精神疾患、夜回り通じ医療につなぐ(あなたの健康百科) 

北海道・浦河の「べてるの家」の流れを汲む「べてぶくろ」や、「精神科訪問看護ステーションKAZOC」もこのプロジェクトに参加し、障害や疾患を抱える元ホームレスの人たちの地域生活を支えるネットワークが育まれてきました。

このたび、つくろい東京ファンドも正式にこのプロジェクトに加えていただき、プロジェクト名も「ハウジングファースト東京プロジェクト」と改称することになりました。

今後、豊島区内で徐々に部屋数を増やし、「ハウジングファースト」型の支援を実践していく予定です。

ぜひ多くの方のご支援をお願いいたします。→寄付に関するご案内

つくろい東京ファンドのウェブサイトもリニューアルしました。こちらもぜひご覧ください。

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関連記事:「路上からは抜け出したい。でも、劣悪な施設には入りたくない」は贅沢か? 

関連記事:複合的な障害・疾病を抱える生活困窮者をどう支えるのか

今後10年の住宅政策の指針が閣議決定!パブコメは反映されたのか?

提言・オピニオン

3月18日、政府は今後10年の住宅政策の指針である新たな「住生活基本計画(全国計画)」を閣議決定しました。

新たな「住生活基本計画(全国計画)」の閣議決定について

私が注目していた「住まいの貧困」への対策では、「空き家を含めた民間賃貸住宅を活用して住宅セーフティネット機能を強化」という文言が盛り込まれましたが、その具体策の詳細は盛り込まれませんでした。

一方で、安倍政権が進める「三世代同居・近居の促進」はそのまま盛り込まれました。

住生活基本計画ポイント

私はこの基本計画の案が出た時、「住宅セーフティネットの強化を求めてパブリックコメントを出そう」という呼びかけを行い、私自身もパブコメを提出しました。

関連記事:空き家を準公営住宅に!パブコメを出して住宅政策を転換させよう! 

このパブコメ募集では、住宅政策の分野としては珍しく、219件もの意見が集まったそうです。

パブコメは計画に反映されたのでしょうか。以下のページにパブコメ結果が出ているので、見てみましょう。

「住生活基本計画(全国計画)の変更(案)」に関する意見募集の結果について

 三世代同居・近居促進はライフスタイルの干渉にならない?

私が出した意見(一部)とその意見に対する国交省の回答を以下に紹介します。

【稲葉】「希望出生率1.8 の実現につなげる」ことを住宅政策の目標の中に明記するのは、個人のライフスタイルへの干渉になりかねず、不適切なので、削除すべき。「三世代同居・近居の促進」も同様の理由で不適切であり、削除すべき。

【国交省】希望出生率は、夫婦の意向や独身者の結婚希望等から算出しているものです。また、三世代同居・近居についても、望む方々が実現できるような支援を行うものであることから、個人のライフスタイルへの干渉にはならないと考えており、また、政府全体として取り組んでいる一億総活躍社会の実現に向けた取り組みとも整合しており、原案通りとさせていただきます。

【稲葉】住宅困窮者対策として、一定の基準を満たす空き家、民間アパート、戸建て住宅を「準公営住宅」として位置付けるべき。対象は、子育て世帯や高齢者ひとり親世帯、若年単身者なども含めた低所得者全般とし、「準公営住宅」が従来の「公営住宅」とあわせて住宅セーフティネットの役割を果たせるように大量に供給できる体制をつくるべき。

【国交省】目標3(基本的な施策)(1)において、「住宅確保要配慮者の増加に対応するため、空き家の活用を促進するとともに、民間賃貸住宅を活用した新たな仕組みの構築も含めた、住宅セーフティネット機能を強化」と記載しております。これを踏まえ、今後具体的な施策を検討してまいります。

【稲葉】若者の間でシェアハウスが広がっているが、「シェア居住」を定義する法制度が整備されていないことが、空き家の一戸建てをシェアハウスに転用する際のハードルとなっている現状がある。新しい住まい方としての「シェア居住」を法制度の中で位置づけるべき。

【国交省】シェアハウスについては、まずその現状・実態の把握をした上で必要な措置について検討をする必要があると考えており、原案通りとし、計画の実施にあたり適切な対応をしてまいります。

家賃補助については慎重姿勢を崩さず

また、多くの方が求めた「家賃補助制度の導入」については、パブコメへの回答の2ヶ所で「なお、家賃補助制度については、対象世帯、民間家賃への影響、財政負担等の課題があり、慎重な検討が必要であると考えております。」と書かれています。

住生活基本計画が審議された国交省の社会資本整備審議会・住宅・宅地分科会では、委員から「民間の空き家を活用した準公営住宅の創設」や「家賃補助制度の導入」といった意見も出されていたのですが、今のところ、国交省は慎重な姿勢を崩していないようです。

ただ、国交省は住宅セーフティネットの「新たな仕組みの構築」を検討するため、住宅・宅地分科会に新たに小委員会を設置しました。今後、この小委員会で具体策を検討するとのことです。

住宅セーフティネット策の具体化はこれから。さらに声をあげよう!

多くの人がパブコメを出したにもかかわらず、住生活基本計画自体はあいまいな内容になってしまいましたが、今後、住宅セーフティネットの具体策を決める過程において、さらに声をあげていきたいと思います。

7月には参議院選挙もあるので、各政党にも住宅政策の拡充を求めていく予定です。

4月27日(水)には正午から、「住生活基本計画のこれからと家賃補助の実現」と題した院内集会を衆議院第二議員会館多目的会議室で開催します(詳細は後日お知らせします)。ぜひご参加ください。

住宅政策の転換に向けて、ぜひ多くの方のご注目、ご支援をお願いいたします。

【2016年3月2日】 別府市の生活保護支給停止問題に関する朝日新聞オピニオン特集にコメントが掲載

メディア掲載

大分県別府市が、生活保護利用者がパチンコ店などにいないかどうかを調査し、一部の利用者に支給を停止していた問題に関して、1月12日付けの朝日新聞「声」欄に『生活保護者の「遊興」調査は妥当』という投稿が掲載されました。この投稿に対する様々な立場からの意見を集めたオピニオン特集で、稲葉へのインタビューに基づくコメントが掲載されました。

http://www.asahi.com/articles/DA3S12236185.html

 

(声 どう思いますか)1月12日付掲載の投稿

◆恩恵ではない生活保護
認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の稲葉剛理事

生活保護は、憲法に定められた生存権を保障するための制度で、その利用は困窮している国民の権利です。

その一方で、日本社会では福祉を「恩恵」と捉える考え方が根強くあります。それゆえ、生活保護の利用者は「清く正しく美しく」あらねばならないということになり、パチンコはダメ、生活の監視も許されると考える人が多いのでしょう。しかし、利用者を監視すると何が起こるでしょう。今でも偏見による差別や恥辱のため、権利があるのに利用していない人がいます。監視が強まれば、困っている人をますます福祉から遠ざけることになるでしょう。

道徳的に責めたくなる気持ちはわからなくもないですが、権利と道徳は切り離して考えるべきです。

※関連記事:「生活保護利用者の人権は制限してもよい」の先には、どのような社会があるのか?

 

複合的な障害・疾病を抱える生活困窮者をどう支えるのか

提言・オピニオン

「役所は銭湯やコンビニじゃない!今日はあっち、明日はあっちってその日の気分で生活保護受けるとこじゃないんだ!」

2013年年末、東京都内の某区に生活保護の申請に行った阿部さん(仮名・60代男性)に対して、福祉事務所の相談員は、声を荒げて叱責を始めました。

相談員が怒り出したきっかけは、阿部さんがわずか2年の間に首都圏の5つの自治体で生活保護の開始と廃止を繰り返していたことを知ったことでした。

路上生活をしていた阿部さんは、各地の福祉の窓口で相談をして、民間の宿泊所に入れられ、そこでの環境になじめずに、数か月後には自己退所をするということを繰り返していました。

その背景には、阿部さんが知的障害や精神疾患を抱えているという事情があった(後に認知症もあることが判明)のですが、どこの福祉事務所もその点を配慮することはありませんでした。

そして某区の相談員も、阿部さんを「福祉をコンビニのように使う困った人」として扱ったのです。

その場に同席をしていたNPO法人もやいのスタッフが抗議をして、無事に生活保護の申請はできましたが、身体的な疾患もあり、複合的な障害や疾病を抱える阿部さんへの支援は、私たちにとっても試行錯誤の連続でした。

残念ながら、生活保護申請から約1年後、阿部さんは病死されました。

阿部さんが亡くなった後、阿部さんに中心的に関わったスタッフが支援の記録をまとめ、その文章が『賃金と社会保障』2016年2月下旬号に掲載されました。

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阿部さんのように多重に困難を抱える生活困窮者をどう支えていけばいいのか、という点についての問題提起になっています。

約2万字に及ぶ長文ですが、生活保護行政や生活困窮者支援に関わる方にはぜひ読んでいただき、今後の支援のあり方に関する議論の素材にしていただければと思います。

『賃金と社会保障』は、専門誌で入手しにくいので、ネットで購入されるか、図書館などで見つけてお読みください。

また、この号の特集は「日本と英国における生活困窮者自立支援制度」です。あわせてご覧ください。

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『賃金と社会保障』2016年2月下旬号(1652号)

「こんなバカでしいません」- ある生活困窮者支援の記録

小林美穂子(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいスタッフ)

【目次】

まえがき
初来所
路上と施設間のヘビーローテーション
生活保護が続かない
「たしけてください」
兄の死、故郷へ
故郷の拒絶
希死念慮
再び上野、そしてC区へ
生い立ち
〜おしんとしての幼少時代
〜働きづめの日々から路上へ
クリスマスイブのSOS
これが最後のチャンス
検査結果
綱渡りの入院生活
カッパ現る
使える制度を利用するために
まるでパンドラの箱
増える問題行動
最後の晩餐
無言の対面
故郷の土に帰る
お姉さんと幼なじみに見守られ
阿部さんの足取りをたどる
支援者の悩み
福祉事務所の悩み
シェルター事業から見えたこと

※関連記事:「路上からは抜け出したい。でも、劣悪な施設には入りたくない」は贅沢か? 

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