複合的な障害・疾病を抱える生活困窮者をどう支えるのか

提言・オピニオン

「役所は銭湯やコンビニじゃない!今日はあっち、明日はあっちってその日の気分で生活保護受けるとこじゃないんだ!」

2013年年末、東京都内の某区に生活保護の申請に行った阿部さん(仮名・60代男性)に対して、福祉事務所の相談員は、声を荒げて叱責を始めました。

相談員が怒り出したきっかけは、阿部さんがわずか2年の間に首都圏の5つの自治体で生活保護の開始と廃止を繰り返していたことを知ったことでした。

路上生活をしていた阿部さんは、各地の福祉の窓口で相談をして、民間の宿泊所に入れられ、そこでの環境になじめずに、数か月後には自己退所をするということを繰り返していました。

その背景には、阿部さんが知的障害や精神疾患を抱えているという事情があった(後に認知症もあることが判明)のですが、どこの福祉事務所もその点を配慮することはありませんでした。

そして某区の相談員も、阿部さんを「福祉をコンビニのように使う困った人」として扱ったのです。

その場に同席をしていたNPO法人もやいのスタッフが抗議をして、無事に生活保護の申請はできましたが、身体的な疾患もあり、複合的な障害や疾病を抱える阿部さんへの支援は、私たちにとっても試行錯誤の連続でした。

残念ながら、生活保護申請から約1年後、阿部さんは病死されました。

阿部さんが亡くなった後、阿部さんに中心的に関わったスタッフが支援の記録をまとめ、その文章が『賃金と社会保障』2016年2月下旬号に掲載されました。

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阿部さんのように多重に困難を抱える生活困窮者をどう支えていけばいいのか、という点についての問題提起になっています。

約2万字に及ぶ長文ですが、生活保護行政や生活困窮者支援に関わる方にはぜひ読んでいただき、今後の支援のあり方に関する議論の素材にしていただければと思います。

『賃金と社会保障』は、専門誌で入手しにくいので、ネットで購入されるか、図書館などで見つけてお読みください。

また、この号の特集は「日本と英国における生活困窮者自立支援制度」です。あわせてご覧ください。

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『賃金と社会保障』2016年2月下旬号(1652号)

「こんなバカでしいません」- ある生活困窮者支援の記録

小林美穂子(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいスタッフ)

【目次】

まえがき
初来所
路上と施設間のヘビーローテーション
生活保護が続かない
「たしけてください」
兄の死、故郷へ
故郷の拒絶
希死念慮
再び上野、そしてC区へ
生い立ち
〜おしんとしての幼少時代
〜働きづめの日々から路上へ
クリスマスイブのSOS
これが最後のチャンス
検査結果
綱渡りの入院生活
カッパ現る
使える制度を利用するために
まるでパンドラの箱
増える問題行動
最後の晩餐
無言の対面
故郷の土に帰る
お姉さんと幼なじみに見守られ
阿部さんの足取りをたどる
支援者の悩み
福祉事務所の悩み
シェルター事業から見えたこと

※関連記事:「路上からは抜け出したい。でも、劣悪な施設には入りたくない」は贅沢か? 

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