稲葉剛「進行する住まいの不安定化~イラストで見る住宅問題」(下)

提言・オピニオン

前半はこちら

東京では、2010年にネットカフェ規制条例が制定されてしまい、防犯対策を名目に、ネットカフェに入店する際に免許証や住民基本台帳カードなどの身分証明を提示することが求められるようになりました。
そのため、ネットカフェに暮らしていた人の一部がネットカフェにすら泊まれない、という状況が生まれてしまいました。

2010年頃から、こうした人々をターゲットに、極端に狭い部屋を貸し出す業者が増えてきました。こうした部屋は「コンビニハウス」「押し入れハウス」などと呼ばれていましたが、2013年、毎日新聞が「脱法ハウス」という言葉で報道すると、この用語で知られるようになりました。

こうした物件の多くは名目上、「レンタルオフィス」や「貸し倉庫」という名目で人を集めて住まわせています。「ここは住居ではない」と言い逃れることで、建築基準法や消防法が住宅に対して求めている規制をすり抜けようとしているため、「脱法ハウス」と呼ばれているのです。

国土交通省ウェブサイトより「脱法ハウス」(違法貸しルーム)の例

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一部の「脱法ハウス」に対して消防庁から火災の危険性が指摘されたことを受け、2013年5月24日、東京の神田にある「脱法ハウス」で「6月30日で閉鎖する」という貼り紙が掲示されました。

入居者から相談を受けた「住まいの貧困に取り組むネットワーク」では、法律家とともに、立ち退きの停止を求める仮処分の申請を東京地裁に行い、その結果、立ち退き期限の延長と一部期間の家賃免除をかちとることができました。

この問題は国会でも取り上げられ、国土交通大臣が「脱法ハウス」であっても入居者の居住権は借地借家法で守られる、ということを明言しています。

立ち退き問題が起こった東京都千代田区の「脱法ハウス」

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2013年9月以降、国土交通省は「脱法ハウス」を「違法貸しルーム」と呼び、調査と規制に乗り出しています。
2014年2月末時点で、建築基準法違反の疑いのある全国の1801物件が調査対象になっています。そのうち、8割近い1391物件が東京都内に集中しています。

●違法貸しルームの是正指導等の状況について(平成26年3月25日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000470.html

私たちとしては、危険な物件に規制を行なうこと自体は賛成ですが、同時に入居者が適切な住まいに移れるための支援策も行なうべきだと考えています。規制だけが進めば、結果的に今住んでいる人たちが立ち退きにあい、路頭に迷うことになるからです。

「脱法ハウス」問題には、日本社会における住まいの貧困の問題が凝縮しています。
その背景には以下の要因があると考えます。

・民間賃貸住宅における高い家賃と初期費用
・ワーキングプア、失業者、外国籍住民等への入居差別
・民間賃貸住宅入居に際して、親族の連帯保証人を求める慣行の弊害
・家賃保証会社の協会が家賃滞納履歴のデータベースを作り、それが「ブラックリスト」として機能していること。
・追い出し屋被害の広がり

つまり、民間賃貸住宅が「入りにくく、出されやすい」構造になっていることが、最大の問題なのです。

また、行政による住宅セーフティネットも非常に貧弱なものです。
そもそも多くの自治体では、若年の単身者は公営住宅に入居する資格を持っていません。

2009年10月に始まった住宅手当制度(2013年度より住宅支援給付と改称)は、離職者に対して、ハローワークの指導を受けて求職活動を行なうことを条件に、一定期間、アパートの家賃分を補助する制度で、創設当初は私も大いに期待しました。
それまで民間の賃貸住宅に暮らす人びとに家賃分を補助する制度は生活保護以外になかったため、この制度が将来的に普遍的な家賃補助制度に発展することを期待したのです。

しかし、その後、使い勝手の悪さからこの制度の利用はほとんど進みませんでした。

住宅手当・住宅支援給付制度の実績

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利用者数が減少するにつれて、常用就職率が上がっているのは、窓口の段階で利用者を絞り込んでいるからだと考えられます。厚生労働省が「居住支援策」として制度を発展させることよりも、「再就職支援策」として制度を位置づけることを優先したため、就職率を上げるために入口を絞るという運用がなされてしまったのです。

こうした「住まいの貧困」の現状を一枚のイラストで示したのが、冒頭のさいきまこさんのマンガになります。もう一度、掲載します。
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このイラストでは、同心円の外側に行くほど住まいが不安定になっていきます。
一番外側にいる人たちが「中からは簡単に外にはじき出されるのに、外からは中に入れない」と叫んでいます。

住まいの不安定化を進行させる「遠心力」ばかりが働いて、内側に向かう「求心力」が存在しない。

一番外側にいる人たちにも、「ファストフード店からの排除」や「公園からの排除」という「遠心力」が働いています(以下の記事もご参照ください)。

田中龍作ジャーナル:「ホームレスお断わり」 マック難民はどこへ行くのか
田中龍作ジャーナル:渋谷区と警察、公園から野宿者を強制排除

住宅政策を根本的に転換し、外側にばかり向かうベクトルを180度変えていかないことには、住まいの貧困は解決しないと、私は考えています。

【参考資料】
住まいの貧困に取り組むネットワーク「脱法ハウス入居者生活実態調査報告書」
ビッグイシュー基金/住宅政策提案・検討委員会「住宅政策提案書」

稲葉剛「進行する住まいの不安定化~イラストで見る住宅問題」(上)

提言・オピニオン

2014年3月28日に東京弁護士会が開催したシンポジウム「不安定化する住まい-賃貸住宅の現状から」での稲葉剛の基調講演の要旨を掲載します。

さいきまこ画「不安定化する住まい」

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「追い出し屋」被害、公的住宅政策の問題、脱法ハウス問題、ホームレス問題…それぞれの問題がどのようにからみあって「住まいの貧困」を作り出しているかを描いています。

私は1994年からホームレス状態にある方々への支援活動をおこなってきました。
2001年には〈もやい〉を立ち上げ、路上生活者に限らず、幅広い生活困窮者の相談・支援を始めましたが、2004~05年から20代、30代のワーキングプアの若者の相談が増えてきました。

〈もやい〉に最初にネットカフェに暮らす若者からメールで相談が寄せられたのは、2003年の秋のことです。

「ワーキングプアの若者たちの中に、アパートに入居する際の初期費用(敷金・礼金など)を用意できず、ネットカフェで寝泊まりしている人が出てきている」という問題は、2007年、テレビ報道をきっかけに「ネットカフェ難民」という名称で知られるようになりました。
その背景には1999年と2003年の労働者派遣法改正により派遣労働が原則解禁となり、若年層を中心に非正規労働が広がったことがあります。

さいきまこ画「ワーキングプアとハウジングプア」

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このイラストは、漫画家のさいきまこさんに描いていただいたもので、「ワーキングプアであるがゆえにハウジングプア」になる、という状況を描いています。

「仕事」と「住まい」は人々の「暮らし」を支える2本の大きな柱ですが、不安定な非正規労働の広がりは、仕事をしても生活を支えきれない状況を生み出しました。

特に登録型派遣に象徴される細切れ雇用は、収入の不安定化を招きます。「ある月には15万円稼げたけど、翌月には5万円しか収入がない」というような状況になると、アパートの家賃も滞りがちになり、最終的には住まいを失ってしまうことになります。

そこに拍車をかけるのが「追い出し屋」の存在です。本来、アパートの賃借人には居住権があるので、家賃を少し滞納しただけで追い出すことは借地借家法違反になります。
しかし、近年、家賃保証会社や管理会社、大家などが部屋をロックアウトするなどして、一方的に賃借人を追い出す「追い出し屋」の被害が多発しています。

アパートを追い出された人はネットカフェなどの不安定な居住環境に移らざるをえません。アパートを退去したことが役所にわかると、住民票が消除されてしまいます。そうすると、安定した仕事に移ろうとしても、「住所がない・住民票がない」ということが求職活動の大きなネックになります。こうなると、貧困の悪循環に陥ってしまいます。

ネットカフェはアパートの家賃よりも宿泊代がかかります。また、自炊もできず、昼間に荷物をコインロッカーなどに入れておく経費もかかるため、生活費のやりくりはますます苦しくなります。
こうして、ネットカフェ生活も困難になると、24時間営業のファストフード店などに移り、さらに困窮すると、最終的に路上生活になってしまいます。

ただ、こうした不安定な居所はネットカフェばかりではありません。
「ネットカフェ難民」という言葉が流行語になったため、ネットカフェのみが注目されてしまいましたが、実際にはこうした不安定な居所はサウナ、カプセルホテル、ドヤ(簡易旅館)、個室ビデオ店など様々あります。

また、行政は路上生活者と「ネットカフェ難民」を分けた上で別々の対策を行なっていますが、この二者を分ける意味もあまりありません。住まいに困窮している人がネットカフェに泊まるか、屋外で寝るかは、「その日のフトコロ具合」によって左右されているだけだからです。

そのため、私は「ハウジングプア」という言葉を使うことで、住まいの貧困の全体像を見ていく必要がある、と訴えています。

ハウジングプアの全体概念図

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(下)に続きます。

【参考資料】
ビッグイシュー基金「若者ホームレス白書」
ビッグイシュー基金「若者ホームレス白書2」

東京都に「居住支援協議会の設置及び民間賃貸住宅施策についての要請書」を提出!

日々のできごと

写真 (1)脱法ハウス問題などを受けて、東京都は今年度、住宅セーフティネット法に基づく居住支援協議会を設立することを決めました。これは、私たちの運動の成果だと言えます。

設立される居住支援協議会が実効性のある対策を実施することを求めて、住まいの貧困に取り組むネットワークなど3団体は、本日5月20日、東京都に対して「都の居住支援協議会の設置及び民間賃貸住宅施策についての要請書」を提出しました。
要請書は6月10日までの文書回答を求めています。

東京都がどのような回答をしてくるか、ぜひご注目ください。

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東京都知事  舛 添 要 一 殿      2014年5月20日

 

都の居住支援協議会の設置及び民間賃貸住宅施策についての要請書

 

国民の住まいを守る全国連絡会
代表幹事 坂庭国晴

住まいの貧困に取り組むネットワーク
世話人  稲葉 剛

東京住宅運動連絡会
事務局長 北村勝義
日頃から都政における住宅行政の推進にご尽力いただき心からお礼を申し上げます。

さて、私たち「国民の住まいを守る全国連絡会」、「住まいの貧困に取り組むネットワーク」、「東京住宅運動連絡会」は、今日の住まいの貧困(ハウジング・プア)の解決に向けた取り組みを進めていますが、改善に向かうどころか、貧困ビジネス化する「脱法ハウス」(違法貸しルーム)や「シェアハウス」、「ゲストハウス」の居住問題など新たな事態も進行しています。こうした中で、貴職は「住宅の確保に配慮が必要な方々に対して、それぞれの地域の実情に応じたきめ細かな支援を行う」居住支援協議会(住宅セーフティネット法第10条)の設置に向けた検討を行うことを明らかにしています。

私たち居住支援協議会の設置を強く求めていた者として、賛意を表明すると共に実効性のある協議会とするために、また、関連する民間賃貸住宅施策について、以下の事項を要請しますので、6月10日までに文書で回答を下さるようお願い致します。

1.東京都設置の居住支援協議会について

「住宅セーフティネット法」は「低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを育成する家庭その他住宅の確保に特に配慮を要する者」に対する「賃貸住宅の供給の促進を図り、もって国民生活の安定向上と社会福祉の増進に寄与する」としています。この目的のもと、第10条で「居住支援協議会」(以下協議会)を定めています。検討されている都の協議会を真に実効性あるものとするために、以下の事項の実現を求めます。

(1) 協議会の構成員について

協議会は地方公共団体、宅建業者、賃貸管理業者と共に、「住宅確保要配慮者に対し居住に係る支援を行う団体、民間賃貸住宅への円滑な入居の促進に資する活動を行う者」を構成員としています。都の協議会には、これらの支援を行う団体、活動を行う者として以下を構成員とすることを強く希望いたします。
①東京借地借家人組合連合会、②NPO法人自立生活サポートセンター・もやい、③NPO法人住生活改善・住宅耐震支援センター、④小規模家主の会、⑤住まいの貧困に取り組むネットワーク

(2)協議会の活動について

「協議会の運営に関し必要な事項は、協議会が定める」とされています。都の協議会の活動、運営について以下の事項の実施をご検討頂きたいと思います。

① 低額所得者向け民間賃貸住宅の供給戸数の量と質の確保及び拡充、円滑な入居促進のための実効ある活動の実施、②「民間賃貸住宅への円滑な入居」のための入居初期費用の無利子貸出しを行うこと、③協議会が民間賃貸住宅入居の保証人の役割を果たすこと。

2.市区町村の居住支援協議会について

貴職は、「それぞれの地域の実情に応じたきめ細かな支援を行うためには、区市町村が居住支援協議会を設置して、主体的に取り組むことが重要」、「都が、広域自治体の立場として、自ら居住支援協議会を設置することは、基礎的自治体である市区町村による居住支援協議会の設置促進と活動支援を行う上で効果的であり」と表明しています。

これは極めて重要な姿勢であり、積極的に評価するものです。特に東京23区での協議会設置が急がれています。東京都としてどのように支援、指導を行い、進めようとしているのか、具体的な計画を明らかにして下さい。また、市区町村の協議会についても、上記の協議会の構成員、協議会の活動が実施されるよう、指導や要請を行って下さい。

3.当面する民間賃貸住宅施策について

(1)民間賃貸住宅の空家の利活用と対策について

東京都では46万5千戸の賃貸住宅の空家が存在(平成20年調査)しています。こうした主に民間賃貸住宅の空家の利活用と必要な対策のために、東京都として条例制定等の独自対策をとることを求めます。この中で、民間賃貸住宅を活用した借上げ公営住宅や適正なシェアハウスを供給し、単身者の居住の確保、安定を図ることを要望します。

(2)民間賃貸住宅への家賃補助制度の導入について

都営住宅への応募者は毎年20万世帯にのぼり、全国一の約30倍の高倍率となっています。応募しても都営住宅に入居できず、民間賃貸住宅に居住する世帯に対する家賃補助制度を早急に導入することを要求します。また、「脱法ハウス」(違法貸しルーム)等に入居する低額所得者が民間賃貸住宅に転居した場合の家賃補助の実施を求めます。

(3)民間賃貸住宅の耐震化と居住水準・環境の改善について

首都直下型地震等に備えるため、大きく立ち遅れている民間賃貸住宅の耐震化の支援、補助を早急に実施して下さい。また、民間賃貸住宅の居住水準、居住環境の改善のための施策を検討し、必要な支援、補助を求めます。これらの耐震化や居住改善は、家賃値上げを伴わず、従前居住者が住み続けられるよう、規制などを行うようにして下さい。

湯浅誠×稲葉剛対談(後編)

対談・インタビュー

マイノリティの声をどう伝えるか

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稲葉:はたから見てると、大学院時代の湯浅誠に戻っている気がする。政治思想史の研究をしていた湯浅誠の問題意識がここにきて出てきていて、路上やって貧困やって、という経験っていうのがどこにどう生かされているのか正直よく分からない所があるわけ。例えば、僕の場合は「反貧困」っていうより「反差別」という意識がとても強いので、野宿者差別に対する怒りというのが根本にある。この年末年始にも渋谷の宮下公園で強制排除があったりしたけど、この手の問題はなかなかマジョリティの側は分かってくれない。以前の君の話で、すごく印象的で覚えているのは、神戸の震災の時に避難所から野宿の人たちが排除されたという話に君がすごく怒って、今度東京で震災があったら…。
湯浅:野宿の人たち専用の炊き出しをしようと。言っていたね。若気の至りです。
稲葉:逆に住まいのない人だけの避難所を作って、住まいのある人は排除するんだって言っていて。まぁ、冗談だけど、マイノリティに対する差別への怒りみたいなものが原動力としてあったんだけど、今はそのむしろマジョリティ側に声を掛けていく反面、「もともとの現場で培ってきた怒りはどこへ行ったの?」って気がするわけ。
湯浅:それは、さみしい感じなの?
稲葉:寂しいっていうか、「どう思ってんのかな」と思って。
湯浅:渋谷の排除の話は、この間、ラジオの番組で取り上げたんだよね。そこで話す話は、やっぱり言い方に工夫が必要。そうでないと、結局発信することはできても伝える(届ける)ことができない。
稲葉:そういう問題自体にコミットしないっていう姿勢に見えたのね。それは生活保護の問題も含めてなんだけど。もちろん、今の世の中、テレビに出るリベラルな知識人は必要なんだけど、それを「君がやるの?今までの経験はどうなったの?」っていう気は正直あるよ。
湯浅:私は今まで、イメージで言うと、レフトのファールグラウンドにいた。それが今、できるかぎりセンターに寄ろうと努力している。それが納得できないとか、何となく合点できないとか、いろんな人がいるとは思う。でも、それは常にあるんだよね。もやいを始めたときは、路上じゃなくアパートに行ける人たちを相手にするのかと言われ、派遣村やった時にはホームレスじゃなくて派遣切りされた人を相手にするのかと言われ、参与やった時には運動でなくて政府に関わるのかと言われ、何かやれば常にそういうリアクションはある。
稲葉:ただ、派遣村の時は開村時に「ここは派遣切りされた人ばかりじゃなくて、もともと路上だった人も含めて支援するんだ」と宣言したわけでしょ。
湯浅:それは君の耳にそれが届いたってだけなんだよ。そうじゃないところで判断している人はいる。
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社会運動とソーシャルビジネス

稲葉:マジョリティの人たちにアピールをする際に、「提言型の活動や社会的な企業こそが社会を変える活動のメインだ」と、軸がそっちに寄ってしまうことに違和感がある。社会運動として抵抗するとか、反対するとかっていうのは古くて、「今やソーシャルビジネスですよ。スマートにやりましょう」という時代の潮流があるわけじゃない? 私はどちらも必要だと思っているし、ソーシャルビジネス系の人とも付き合いがある。だけれども、「こっちはダサくて新しいのはこっちだ」みたいな風潮自体に、君が乗っかっているのは「それでいいの? それが君の役割なの?」という気はするけどね。
湯浅:いま話を聞いていて、稲葉には、湯浅はこういうふうにあるべきで、そこからずれているのはおかしいんじゃないか、という違和感があるように感じた。だけど、私には私の経験とそこから出てきた問題意識があるので、こうあるべきと言われても困ってしまう。
稲葉:活動家はやっぱり現場の視点を忘れてはならないと思っている。生活保護の基準が下がれば、〈もやい〉でアパートの保証人を引き受けた人がエアコン代を払えなくなって、熱中症で倒れてしまう。そういうリアルな現場が活動の原点なわけね。僕はそこからものを言ってるわけだし、そこからものを言っていきたいと思っている。
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湯浅:それはまったく問題ないし、共感する。ただし、同じ起点を持ちながらも、どう言うかという方法論は多様にありえる。ソーシャルビジネスの手法を使う人もいるだろうし、いやそうじゃないと言う人もいるだろう。稲葉が言ったように両方必要だというのであれば、理解の広がりを追求する中でいろんな言い方とかやり方があっていいんじゃないだろうか。
稲葉:いまいち、どこに向かってるのか、わからないんだよね。
湯浅:もう少し長い目で見ていてもらえるとうれしいです(笑)。

(2014年1月14日、もやい事務所にて)

【2014年5月9日】 中日新聞:「監視社会助長」懸念も 生活保護不正通報、12市導入

メディア掲載

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2014050990085418.html

「監視社会助長」懸念も 生活保護不正通報、12市導入

2014年5月9日 08時54分

生活保護費の不正受給に関する情報を住民から募る専用電話(ホットライン)が、少なくとも全国12市で開設されている。市側は「不正受給が増え、行政だけでは発見できない事案もある」と説明するが、受給者の支援団体や有識者からは「本当に必要な人が申請しにくくなる」「監視社会を招く」との批判も出ている。

さいたま市は2月末、ホットラインを設置。「生活保護適正化」を名目に、専用電話とメールで(1)不正受給(2)生活困窮者(3)貧困ビジネス-などの情報を受け付け、保護課や各区役所の福祉課が調査する。保護課は「市民に情報提供してもらい、早期に対応することで不正件数の削減につながれば」と説明する。4月末までに47件の情報が寄せられた。内訳は不正受給関連が14件、生活に困っている人に関する情報が6件。不正があるかどうかはこれから調査する。

最も早く設置したのは大阪府寝屋川市で2011年8月。13年までに大阪府の東大阪など6市、京都府の京都市、八幡市が設置。今年に入ってから、北海道函館市が4月中旬、福岡市が今月初めに開設した。寝屋川市では13年度は252件の情報が寄せられ、うち25件で受給が止められた。

生活保護は08年のリーマン・ショック後に受給者が急増。12年に高額所得者とみられる人気芸能人の母親が受給者だったことからバッシングが激化した。改正生活保護法に盛り込まれた不正受給対策と保護費抑制策が一部を除き今年7月から実施されるのも影響し、ホットラインを設置する自治体は徐々に増えている。12年度の不正受給は約190億5千万円で過去最悪。保護費全体では0・5%程度だった。

一方、さいたま市がホットライン設置に合わせて作成したちらしに、情報提供を求める例として「財産を隠している」「世帯構成が虚偽」などと列挙したのに対し「受給者が犯罪者予備軍であるといった偏見を助長する」などと苦情が寄せられ、4日後にちらしを差し替えた。

自立生活サポートセンター・もやいの稲葉剛理事長は「行政は本来『困ったときは相談してください』と広報するべきなのに、かえって生活困窮者を窓口から遠ざけかねない。本当に不正受給を減らしたいのならば、うわさレベルの情報に人数を割くのではなく、ケースワーカーを増やすべきだ」と批判する。

【2014年5月6日】 IWJ:貧困の定義引き下げで、保護から排除される人も~憲法記念日講演会 稲葉剛氏、貧困と憲法を語る

メディア掲載

http://iwj.co.jp/wj/open/archives/137904

貧困の定義引き下げで、保護から排除される人も~憲法記念日講演会 稲葉剛氏、貧困と憲法を語る

自立生活センター「もやい」で理事長として活動する稲葉剛氏が、憲法記念日である5月3日(土)、「貧困と憲法」をテーマに北沢タウンホールで講演を行なった。稲葉氏は、自身の貧困に対する取り組みをふり返りながら、生活保護法の改悪など、弱者切り捨ての方向に進む安倍政権の政策に対し警鐘を鳴らした。

【記事目次】

20年間で3000人程の人々に生活保護
男女の賃金格差が正規・非正規の賃金格差にスライド
自民党の狙いは、国ではなく、家族に頼る仕組み作り

※続きはリンク先でご覧ください。

http://iwj.co.jp/wj/open/archives/137904

湯浅誠との対談(前編)

対談・インタビュー

〈もやい〉を創設した二人の活動家、湯浅誠と稲葉剛。稲葉は理事長として〈もやい〉を13 年間まとめ続け、湯浅は〈もやい〉を飛び出して、活動の幅を多彩に広げて今に至ります。
とはいえ、どちらも気にかけるのは、貧困問題をどう世の中に訴えていくか。『おもやい通信』通算50 号を記念して、二人の対談が実現しました。

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「イメチェン」のこと

稲葉:まずは、湯浅誠くんが昨年イメチェンした理由について教えてもらえますか。
湯浅:軽い話のようで、結構真面目な話になる。私自身、これまでいろんな活動をしてきた。〈もやい〉もあったし、本も書いたし、テレビも出たし、年越し派遣村もやったし、内閣府参与もやった。その中で、理解してくれる人は増えたと思う。でも、それは世の中全体から見ればごく一部にすぎないということに、内閣府参与として公的政策を作ると中でぶつかった。民間の活動は、基本的に賛同してくれる人たちでやるけど、政策は反対する人の税金も使うから、本当の意味で世論の全体にぶつかる。そこで限界を感じたわけです。「自分で思いつくことは結構形にしてきたけど、それではまったく足りない」と。
そこで、自分で思いつく事はやってきたので、逆に、自分に思いつかないことをやってみようと思った。それで、今までの活動では出会わなかった異分野の人たちと積極的に会うようにしたら、「あんた、いろいろ言うんだったら、まず自分の恰好から変えてみたら?」っていう人がいた。まったく考えたこともなかったので、「じゃあ、それ採用」と。
稲葉:で、眼鏡変えたの?
湯浅:そう。眼鏡も変え、服も変え、靴も変え、鞄も変え、すべて変えた。服は全部、スタイリストの人が買ってくれたのを着ている。
稲葉:でも、微妙に戻ってるでしょ。
湯浅:そうかな? 戻ってないと思うけど。
稲葉:いやいや。去年、急に変えたばかりの時のイメージから、その後また元に戻りつつある。「ああ、整いきれてないな」という感じが…。
湯浅:そうなんだ・・・。
稲葉:君、もともと毎日、お風呂入ってなかったでしょ?
湯浅:お風呂は今でも毎日は入ってません。(会場大爆笑)
稲葉:だからさ、戻ってるなっていうのは、テレビ見てて、「あー、相変わらず髪がぺったんこだな、風呂入ってないな」と。
湯浅:あー、なるほど。イメチェンが不徹底であると。それはもう大切なアドバイスとして受け止めておきます。

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「現場」はどこにあるのか?

稲葉:(眺めまわしながら)うーん。で、採用して何やるの? それが良くわからないんだよね。やっぱり現場のこだわりってあるじゃない? 君が2002 年に渋谷の「のじれん」※を辞めた時に、路上の野宿者支援の現場から離れることに対する悲壮感に陥っていて、それに対して僕がメールをしたの、覚えてる?
(※のじれん:東京都渋谷区で活動する、野宿者問題の当事者団体。炊き出し、夜回り、医療福祉相談等を行っている)
湯浅:すみません。覚えてません。
稲葉:覚えとけよ(笑)。「別に路上だけが現場じゃない。〈もやい〉だって、ある意味、現場になり得るんだ」って。当時、〈もやい〉は社会的にそんなに注目されていなかったし、
今のように生活に困っている人たちがたくさん相談に来るっていう状況は想定してなかった。でも、「路上だけが現場じゃない! 〈もやい〉だって現場になりうるんだ」とメールを送ったわけですよ。それが、結果としてそうなったわけじゃん。〈もやい〉が現場となって、それから更に派遣村や内閣府参与の話があったわけだけど、それから先の湯浅君の動きが正直よく分かんないなって感じている。イメチェンを見て、〈もやい〉のスタッフの中にも「もう貧困からこの人は遠ざかってしまったんだ」って、ある意味、象徴的な出来事のように受け止めた人もいたんだよ。

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湯浅:そういう受け止め方をした人がいるということは、知っている。
稲葉:貧困の現場から距離が離れてしまったと感じた人は多い。もちろん、貧困だけが現場じゃないんだけど。
湯浅:一つは、何をやっていても「社会の当事者」ということから離れられないということがある。その意味では社会が現場です。
あともう一つは、〈もやい〉の役割は変わりなくあっていいし、あるべきだと思う。私は「活動家は一人三役だ」と言ってきた。対個人の対人支援と、対社会的な世論形成と、政治的な打ち込みと。人によって、重点の置き方はさまざまでいい。得手不得手もあるし。ただ、どんな配分でやるにしても、3つの次元全体を意識することが大事だと思う。
私自身はいま、社会的に、たとえば活動ではなかなか出会わないビジネスセクターの人たちだとか、市民活動の外側にいる人たちにアプローチしようとしている。そのことだけが唯一重要とは思っていない。ただ、それを自分の役割として引き受けたにすぎない。だから、他のことが意味がないと思っているわけではない。
稲葉:それは分かっているんだけど、自分の中では整合性は取れてるの?
湯浅:取れているかどうかというレベルではなく、必然と感じている。政策を自分でつくることがなければ、そう思わなかった可能性が高いけど、すでに経験してしまった。経験してしまったことを「なかった」ことにはできない。

5月3日 憲法記念日講演会「貧困と憲法を語る-生活保護から考える」

講演・イベント告知

とき

2014年5月3日(憲法記念日)13:30開場、14:00~16:00

ところ

北沢タウンホール 12階 スカイサロン(定員60名)
世田谷区北沢2-8-18
https://kitazawatownhall.jp/map.html

資料代

500円

【予約受付終了】60席すべて予約で満席となりました。予約のない方は立ち見、または別室(11階らぷらす研修室4)で同時中継をご覧いただきます。

概要

リベラル日本研究会主催の憲法記念日行事、昨年の第1回「ジャン・ユンカーマン監督と憲法の今を語ろう」につづき、第2回の今年は、自立生活サポートセンター・もやい理事長の稲葉剛(いなば・つよし)さんの講演会を開催します。

日本国憲法は国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を3つの柱にしていると言われますが、その基本的人権はフランス革命などに源流のある思想信条の自由など「自由権的基本権」と、ワイマール憲法をはじめとして憲法に位置づけられるようになった「社会権的基本権」に大別されると言われます。

日本国憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」としていますが、これは政府原案においては政府の努力目標とされていたものを、衆議院の審議の過程で国民の権利とするよう修正されたものです。

それでは、この国民の権利は現在、十全に保障されているのか。芸能人の親族が生活保護を受給していたと報じられたことが引き金になり、生活保護バッシングが吹き荒れましたが、実態に即したものだったのでしょうか。20年来、ホームレスなど生活困窮者の支援に取り組んでいる稲葉剛さんから、近著『生活保護から考える』(岩波新書)の内容などを手がかりにお話しいただきます。
***
主 催 リベラル日本研究会
yanada.takayuki@gmail.com
FAX 03-3411-4071
電話 090-2163-1451 梁田(やなだ)

☆なお、4月24日(木)には同じ北沢タウンホール11F らぷらす研修室1にて、『生活保護から考える』(岩波新書)をテキストに事前勉強会を開催します。 https://www.facebook.com/events/1469054126640604/?ref_dashboard_filter=upcoming
同書を読んできて、また当日の簡単な内容紹介を聞いて意見交換します。奮ってのご参加をお願いします。

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