レオパレス問題の背後にある住宅政策の歪みにメスを入れよ

提言・オピニオン

今年2月、賃貸アパート大手のレオパレス21が施工した1324棟(入居者計約1万4千人)の物件で、壁や天井に施工不良が発見されました。同社はそのうち耐火性能が不足している641棟の7782人に対して3月末を目安に転居するよう要請。入居者の間に不安と戸惑いが広がっています。

国土交通省は2月7日、同社に対し、オーナー等関係者への丁寧な説明、特定行政庁への報告、改修等の迅速な実施、原因究明及び再発防止策の報告、相談窓口の設置を指示しました。

※国土交通省プレスリリースより(画像をクリックすると、PDFのリンクに移ります)

居住者の立場から賃貸住宅の問題に取り組んできた関西の法律家がつくる「賃貸住宅トラブル阪神ネットワーク」は、2月16日、17日に「レオパレス居住者110番」という電話相談を緊急に実施。立ち退きを迫られている入居者らから40件以上の相談があったと言います。同様の相談会は仙台や福岡でも開催されました。

「敷金・礼金ゼロ」「家電・家具付き」をうたい文句に近年、急成長したレオパレスは、住宅の初期費用を捻出できない低所得者を主なターゲットとしていましたが、以前から「壁が薄くて、隣の部屋の物音が聞こえる」といった苦情が絶えませんでした。

DV被害者や外国人入居者等への転宅支援が必要

同社は転居費用を負担するとしていますが、3月は引っ越しシーズンにあたるため運送業者の手配が難しく、さまざまな事情を抱えた入居者の中にはすぐに転居できない人も少なくありません。

法律家による電話相談でも、初期費用が安く、家電・家具付きで借りられるため、DVの被害を受けて逃げる際に借りたという人が複数いたと言います。

また私自身、今回の件が発覚する前に、アジアからの複数の留学生から「レオパレスの物件に住んでいるのですが、大丈夫ですか」という相談を受けたことがあり、近年、国内で増加している外国人が暮らしているケースも少なくないと思われます。
転宅にあたっては、外国語対応も含め、個々の事情に応じた丁寧な支援が求められています。

レオパレスは土地の所有者からアパートの建設施工を請け負い、長期間のサブリース契約を結ぶことを特徴としていました。
物件オーナーなどで構成される「レオパレス違法建築被害者の会」は、違法建築を見逃した国土交通省にも責任があるとして、国交省と金融庁に対して修繕工事が完了するまで同社を支援することを要請しています。

3月9日には、レオパレス本社でオーナー向けの説明会が開催され、社長が謝罪しました。

レオパレスだけの問題ではない

同様のサブリース契約をめぐっては、昨年、女性向けシェアハウスを運営するスマートデイズ社がオーナーへのサブリース家賃を支払わないというトラブルが発生。その過程でスルガ銀行による不正融資が発覚したという問題もありました。
賃貸アパート大手の大東建託でも、アパートのオーナー契約でトラブルが起きているとして、特定適格消費者団体の消費者機構日本が情報提供を受け付けています。

私はこれらの問題の背景に、日本における民間賃貸住宅市場が不動産投資によって歪められているという構造的な問題があると考えています。

2015年の相続税法改正以降は、税対策でアパートを建てる資産家が増え、さらにその傾向が強まりました。
その結果、欠陥住宅や入居者のニーズに合わない住宅が大量に供給されてしまいました。

国土交通省は、民間賃貸住宅市場を野放しにしてきたことを反省し、公的住宅の拡充、空き家を活用した住宅セーフティネット制度の強化などを通して、賃貸住宅への公的介入を強めるべきだと考えます。

賃貸住宅が投機の対象として悪用されている現状そのものを見直し、居住者の立場に基づく賃貸住宅政策を再構築していくことが求められています。

【東京都ホームレス対策計画】排除ではなくハウジングファーストを!パブコメにご協力を!

提言・オピニオン

東京都が「ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画(第4次)」素案を取りまとめ、3月19日(火)までパブコメを募集しています。

※画像をクリックすると、東京都のページに移ります。

 

東京では来年の東京オリンピック・パラリンピックを口実とした野宿者排除が進むことが懸念されており、第4次計画(計画期間は2019~2023年)の内容がどうなるかは、排除をめぐる今後の動きにも影響が出るものと思われます。

私が代表理事を務める一般社団法人つくろい東京ファンドでは、NPO法人TENOHASIなど都内の他団体とともに、民間によるハウジングファースト型の支援事業である「ハウジングファースト東京プロジェクト」を進めています。

これまで私たちは行政もハウジングファースト型の支援を取り入れてほしいと要望してきましたが、東京都はなかなか動きませんでした。

ところが、今回の計画素案には「支援付地域生活移行事業」というハウジングファースト型と見られる支援事業を2019年度から23区全域で実施するとの内容が盛り込まれています。

※画像をクリックすると、実施計画素案のPDFのリンクに移ります。

これは歓迎すべき動きとも言えますが、この事業の説明が本文ではなく「コラム」という形で掲載されており、具体的な支援の中身についてほとんど触れられていないこと、2024年度末までに「自立の意思を持つ全てのホームレスが地域生活へ移行する」という大風呂敷の目標を掲げているにもかかわらず、支援対象者の人数の数値目標が書かれていないこと等、不可解な点が少なくありません。

また、ハウジングファースト型の支援が実施されたとしても、それが排除とセットになれば、当事者からの信頼を得ることはできません。

そこで、私は下記の内容のパブリックコメントを送りました。

ぜひ多くの皆様に「排除ではなく、ハウジングファースト型の支援の拡充を!」という意見を都に寄せていただければと願っています。

ホームレス自立支援等に関する計画(第4次)への意見募集|東京都

下記の私の意見も参考にしてください。ご協力よろしくお願いします。

 

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ホームレスの自立の支援等に関する東京都実施計画(第4次)素案に関する意見

稲葉剛(一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事、立教大学大学院特任准教授)

【「Ⅰホームレスの現状」について】

・P3では、東京都におけるホームレスの概数について、「平成30年1月の調査では1,242人で、調査開始以来最も少なくなっています。」とありますが、これまで多くの識者や支援関係者が指摘してきた通り、昼間の目視調査を中心とする現在の手法では正確な人数を把握することはできません。同一の手法の調査を継続して、経年変化を把握することは重要ですが、現行の調査手法の限界を補うため、独自の調査を実施している民間団体の協力を得て、深夜の調査も実施すべきだと考えます。

・P5~9では、ホームレスの生活実態について、高齢化と路上生活の長期化が進んでいること、健康状態が悪いと回答した人が3割を超えること、これまで生活保護を受けたことのある人が3人に1人の割合でいること、今後の生活について「今のままでいい」という回答が4割を超え、以前より増加していること等が指摘されています。これらの現状は、就労支援中心のこれまでの対策の限界と施設保護中心の生活保護の運用の問題が放置されてきた結果であると考えます。データを示すだけでなく、なぜこのような現状が生じているのかという点に関する分析を追加することが必要です。

【「Ⅱホームレス対策の現状」及び「Ⅲホームレス問題の解決に向けて」について】

・P13では、平成29年度から「支援付地域生活移行支援事業」が試験実施されたことが述べられ、P19では同事業がコラムで紹介されています。同事業は「既存の自立支援システムでは対応が難しい、路上生活が長期化し、高齢化したホームレスに対する取り組み」として位置づけられており、前述のホームレスの生活実態を踏まえると、今後のホームレス対策の中軸となるべき事業だと考えられます。それにもかかわらず、計画本文ではなくコラムという形で言及されているのは不可解であり、本文中に位置づけるべきです。

・P19のコラムでは、支援付地域生活移行支援事業について「平成36年年度末(2024年度末)までに自立の意思を持つすべてのホームレスが地域生活へ移行するという目標のもと実施していく」とあります。目標を達成するためには、毎年数百人を支援できる規模が必要になりますが、計画には今後の事業規模についての言及がありません。同事業によって地域生活に移行できる人の数値目標を年度ごとに設定し、計画に明記すべきです。

・支援付地域生活移行支援事業の本格実施にあたっては、アメリカ、カナダ、フランス、フィンランド等で実施されているハウジングファースト型事業で蓄積された知見を踏まえることを求めます。また、排除とセットに事業を実施しないこと、徹底した情報公開をおこなうこと、民間でハウジングファースト型の支援事業を実施している団体との定期的な意見交換の場を設置することを求めます。

・P16では、自立支援センターの若年の利用者の中に「就労経験の乏しい者や、不安定な就労を繰り返す者もおり、途中退所や安定した就労に結びつかない事例」があることが記述されています。P18では、こうした事例の増加に対して「効果的なアセスメントや支援方法を検討し、実施していきます」とありますが、具体策は盛り込まれていません。またP24でも、ホームレスの中に「健康状態が悪化している者が多く、その中にアルコール依存症や精神に疾患を有する者等も含まれています」との記述があります。これらの記述から、年齢にかかわらず、ホームレスの中に様々な疾患や障害を抱えている人が多いことがうかがえます。ホームレスの健康状態を踏まえた適切な支援を実施するため、精神医療の専門家や民間支援団体の関係者も交えた大規模な調査研究を実施することを求めます。

・P28では、「ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者への対応」として、「TOKYOチャレンジネット」事業が紹介されていますが、同事業の成果に関する記述がほとんどありません。同事業によって安定した居宅を確保できた人の人数等、同事業の成果とその評価を記述してください。

・P28では、「住居喪失不安定就労者の実態に関する調査」の結果が示されていますが、その調査結果を踏まえた今後の取り組み方針については、「支援内容の見直しや関係機関との連携強化」といった抽象的な表現にとどまっています。ネットカフェ等で居住する住居喪失者に対しては、都が率先して安定した住まいを確保できるための居住支援を強化する必要があると考えます。

・P32では、生活保護の適用に関して「直ちにアパート等の居宅生活をすることが困難な場合が多いという現状があります」と記述されていますが、保護施設や宿泊所がほとんどない一部の地方都市では、ホームレスに対して保護開始時からアパート設定がなされていることを踏まえると、主たる問題は一方的に「困難」とレッテルを貼っている都内の区市福祉事務所のマインドセットにあると考えます。根拠なく、「困難な場合が多い」とする記述は削除してください。

・P33では、宿泊所の「取組内容には事業者において大きな差が見られます」とありますが、一部の宿泊所において東京都が2016年に定めた「宿泊所設置運営指導指針」が守られていない現状があります。宿泊所の居住環境や契約内容、サービス内容に関する指導を強化する旨を盛り込んでください。

・宿泊所の入所期間について、P34では「1年以上の利用者が50.3%」いるとの調査結果が示されています。ホームレス状態から生活保護を申請して居宅に移るまでの期間については、区市によって対応のばらつきがあることが知られています。都内の区市において、ホームレス状態からの生活保護の申請件数、決定件数と、そのうち居宅生活に移行できた人の人数、移行までの平均日数を調査した上で、特に居宅移行に消極的な区市において、「本人の意思を確認しながら、援助方針を検討」(P32)しているのかどうか、確認をしてください。

・P37において、ホームレスに対する偏見や差別をなくすための教育や広報・啓発を推進していくことが書かれているのは評価できますが、これまでの実践例は必ずしも多くはありません。今後、どのように実践例を増やしていくのか、具体的に記述してください。

・P38では、「相談時やホームレスの入所施設」における人権尊重が述べられていますが、区市の福祉事務所窓口における「水際作戦」や職員による暴言、宿泊所等における職員の差別的言動は依然として散見されます。ホームレスの当事者や支援者がこれらの人権侵害行為に直面した際に通報できる専用の窓口を都に設置してください。

・P39の「地域における生活環境の改善」では、「公共施設の適正な利用が妨げられることのないよう対策が必要」とありますが、近年、ホームレス自立支援法第11条に定められた「ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携」が一切ないまま、ホームレスが公園等から排除される事案が散見されます。来年開催される東京オリンピック・パラリンピックを口実とした排除を行なわないことを強く求めます。

・P40では「地域住民に与える不安感の除去等」という言葉が二度出てきますが、「不安感」の中にはホームレスへの偏見や差別、誤解に基づくものも少なくないと推察されます。住民の「不安感」を前提とするのではなく、前述の広報・啓発も合わせたアプローチを求めます。

【「Ⅳ計画の推進及び見直し」について】

・P42に記述されている「民間団体の役割」については従前の計画にも盛り込まれていましたが、これまで東京都と民間団体による意見交換はほとんど実施されてきませんでした。民間団体に一方的に「期待」するだけでなく、支援のあり方について民間団体が都と率直に意見交換できる場を定期的に設定してください。

以上

 

【2019年2月28日】東京新聞「厚労省の物価下落率『偽装』」にコメント掲載

メディア掲載

2019年2月28日東京新聞特報面の記事「厚労省の物価下落率『偽装』/生活保護以外にも被害」に稲葉のコメントが掲載されました。

この記事は、2月27日に厚生労働記者会で開かれた「厚生労働省の『物価偽装』による生活保護基準引下げの撤回等を求める研究者共同声明」発表の記者会見を取材したものです。

声明の内容をこちらをご覧ください。

厚生労働省の「物価偽装」による生活保護基準引下げの撤回等を求める研究者共同声明

稲葉のコメント部分は以下の通りです。

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会見に参加した、低所得者支援事業を担う一般社団法人「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事は、受給者のうち単身の高齢者で減額割合が大きく、エアコンを付けられない受給者も少なくないと指摘し、「健康に深刻な影響が出る」と危ぶんだ。さらに、「生活保護の基準が下がり、ギリギリで受給できない人の生活も苦しい。対応に苦慮している」と訴えた。

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物価偽装問題については、こちらのQ&Aもご覧ください。

物価偽装問題 徹底解説Q&A

2013年からの生活保護基準引き下げについては、全国29都道府県でその違憲性を問う「いのちのとりで裁判」が行われています。ぜひ応援をお願いいたします。

【2019年2月8日】朝日新聞「無料低額宿泊所『法的位置づけ』効果は」にコメント掲載

メディア掲載

2019年2月8日付け朝日新聞「無料低額宿泊所 『法的位置づけ』効果は」に、稲葉のコメントが掲載されました。

https://www.asahi.com/articles/CMTW1902180100004.html

 

無料低額宿泊所 「法的位置づけ」効果は

同様の施設「無料低額宿泊所」へ

昨年1月31日の火災で入居者11人が死亡した生活困窮者向け共同住宅「そしあるハイム」(札幌市東区)は、法的な位置づけがない施設だった。国は同様の施設を無料低額宿泊所に位置づけ、規制を強める方針だ。札幌市は防火対策のため、火災後に独自の補助制度を設けたが、困窮者支援の現場に行き届くには、課題が多い。

来年春、安全確保の規制強化

ハイムは社会福祉法が定める「無料低額宿泊所」(無低)にも、老人福祉法上の「有料老人ホーム」にも当てはまらない、法的位置づけのない施設だった。行政による安全確保のための規制が及びにくく、補助の対象にもならなかった。

厚生労働省の調査によると、ハイムのような施設は2015年時点で全国に1236施設あった。このうち道内には307施設あり、3868人が入居していた。国は火災を受け、こうした施設を無低として位置づけようとしている。

来年4月に改正社会福祉法が施行されると、その無低に対する規制が強化される。設置するには、都道府県への事前の届け出が必要になる。施設の床面積や職員数、災害時の安全確保に関する基準を省令で定め、基準を満たさない施設には、都道府県が改善命令を出せるようにする。

さらに国は、ハイムのような施設を無低と位置づけることで規制を強める。時期は未定だが、省令や通知などで無低の定義を改め、来年4月の改正法施行に間に合わせたい考えだ。

一方、無低と位置づけられることで、補助を受けられるようにもなる。国は来年度、無低を対象に、スプリンクラーの設置といった防火対策工事の費用の補助を始め、国と都道府県で費用の4分の3を負担する。

立教大大学院の稲葉剛特任准教授(居住福祉論)は「首都圏を中心に貧困ビジネスが深刻な問題になる中、規制を設けて住宅の質を底上げすることには賛成だ」と話し、スプリンクラーの設置補助も評価する。その一方で、「規制のやり方次第では、これまで困窮者を幅広く受け入れてきた小規模な事業者などが運営しづらくなる可能性があり、注意を払う必要がある」とも指摘している。

消火装置、補助申請にも「壁」

札幌市は昨年11月、「自動消火装置」の設置費の補助を独自に始めた。火災時に熱を感知し、天井などから消火剤をまく装置で、価格は数万円。2万8700円を上限に、費用の9割を補助する。今月15日までに、すでに補助されたものも含め72世帯89台の補助が決まっている。65歳以上だけで暮らす高齢世帯が対象だ。

しかし、生活困窮者は高齢者に限らない。ハイムを運営していた「合同会社なんもさサポート」は現在、同市内のアパート22棟で一部の部屋を借り、入居者約220人を支援している。年齢は20代から70代まで幅広く、藤本典良代表は「補助の対象年齢ではない人の方が多い」と話す。

補助の対象になっていても課題はある。入居者が暮らすアパートはなんもさの所有物件ではない。自動消火装置の設置には大家の許可が必要で、補助申請のハードルになっている。

実際、高齢の入居者で補助を受けている人はいないという。藤本代表は「生活保護を受け、ギリギリの状態で暮らしている人にとって、数千円の自己負担はかなり厳しい」と話す。

ハイムの火災を受け、生活困窮者の支援団体も独自の取り組みをしているが、限界があるという。

NPO法人「ほっとらんど」(北広島市)は昨年6月、初めて避難訓練をした。消防から避難時の心構えについて助言を受け、消火器の使い方も学んだ。ただ、スプリンクラーの設置は、業者の見積もりで900万円以上かかることが分かり、断念したという。

なんもさは、入居者に灯油ストーブではなく、ガスストーブをできるだけ使うようお願いしている。ただ、避難訓練は一般の入居者の協力が必要で、実現していない。「制度が使えなければ、自分たちで最低限の防火対策をしていくしかない。お金をかけずに済む対策などほとんどないと思うが……」。藤本代表は、こう漏らした。(平賀拓史、遠藤美波、布田一樹)

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