「改正」生活保護法の問題点と施行後の課題~札幌講演録④
札幌講演要旨の4回目。1~3回はこちらです。
「孤独死」から「孤立死」へ、そして貧困拡大を見過ごした日本社会~札幌講演録①
健康で文化的な最低限度の生活を保障する生活保護制度
本来、生活保護は、どんな方であっても、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するというもので、その利用に当たっては、生活を困窮した理由を問わない、というのが一つの特徴になっています。親族の扶養についても、それを「要件」とするのではなくて、実際に家族が仕送りをしてくれれば、その分だけ生活保護を減額しましょう、家族からの仕送りが生活保護の基準を上回れば、そっちを優先して下さい、というような規定になっています。これは、一般的には知られていない規定だと思うのですが、そこを悪用して、ああいう「バッシング」がおこなった。その結果、多くの方が具合を悪くしてしまった、そして同時に多くの方が、自分が困っても、この制度を使えないのはないかと思ってしまったです。
申請手続きの簡素化とスティグマの解消を!
スティグマについては、国連の社会権規約委員会からも指摘を受けています。
昨年(2013年)5月に、国連の社会権規約委員会が、日本政府に対して様々な勧告をおこなっています。
その中で、生活保護の申請手続きを簡素化しなさい、または、申請した人がもっと尊厳を持って扱われるように政府は必要な措置をとりなさい、と求めています。
そして、「スティグマ」についても、生活保護につきまとうスティグマを解消するように、政府は国民に対して教育を行いなさい、とかなり強い調子で勧告をしています。
ところが、政府はこの国連の勧告が出たのと全く同じ日に生活保護法の「改正」案を閣議決定しました。それに対して、このかん抵抗、反対運動をおこなってきたのですが、昨年の12月、ちょうど、秘密保護法が通ったのと同じ日に、国会を通過してしまいました。
生活保護法「改正」の問題点
「改正」法には、様々な問題があります。
今まで特に規定がなかった生活保護の申請手続きについても、第24条であえて申請書や添付書類を提出するということを明記しています。厚生労働省はこれにより窓口対応が変わることはないと言っていますが、「改正」法が施行される今年7月以降、申請時の手続きが厳格化され、「水際作戦」が激化する危険性があります。
また、親族の扶養義務は以前よりも強調されています。
「改正」法をめぐる国会の審議では、「マイナンバー制」(社会保障番号制度)との兼ね合いも議論されました。
今でも福祉事務所は、生活保護を申請した人の親族に仕送りが可能かどうかを問い合わせる扶養照会を行なっていますが、「改正」法では、親族が援助できないと回答した場合、援助できない理由について報告を求める権限が福祉事務所に付与されています。
国会で厚労省は親族の収入や資産を調査する際、「マイナンバー制」を活用することを否定しませんでした。これは生活保護を申請する人の立場に立つと、自分が申請することによって、家族の収入や資産が丸裸にされてしまうことを意味します。そのため、自分が困っても「家族に迷惑をかけるぐらいなら、申請するのを止めておこう」という意識が働き、申請抑制につながりません。
これは捕捉率をさらに下げて、餓死、孤立死を拡大しかねない、本当に危険な条文だと思っています。
「改正」生活保護法施行後の課題
厚労省は、申請手続きについて「今までと全く運用は変わりません」、扶養義務についても、「家族に説明を求めるなんて言うのは、よっぽどお金持ちの場合、本当に限定的な場合に限ります」と説明しています。
しかし、現場はすでに暴走を始めています。大阪市では、市の職員で家族が生活保護を受けている人に対して、「あなたの年収はこれくらいだから、その場合の仕送り額はこの程度が目安になります」という一覧表を示すということを始めています。今は、市の職員だけにやっていますけれども、7月に「改正」法が施行されると、一般の生活保護利用者の親族にも実施する、と言っています。
大阪市は、これはあくまで「目安」であって「基準」ではないのだから強制ではないと言っています。けれども、家族にとってみれば、「あなたの家族が生活保護を受けているから、あなたの年収に応じてこの程度の額を仕送りしなさい」という紙が来ると、本当に脅威になってしまうわけです。それによって、「おまえ、生活保護を受けるのを止めろ」と、生活保護を利用している人に取り下げさせるという動きも家族の中で起こってきかねません。
そのため、こうした地方自治体の暴走をきちんと止めさせる、ということが非常に重要だと思っています。
そして、「水際作戦」をなくすために、例えば、窓口の手に取れる場所に生活保護の申請書を置かせるとか、各自治体に、「水際作戦」が起こったときの苦情窓口を設置させるとか、そういったような様々な働きかけが大切になってくると思っています。
そして何より重要なのは、私たち自身が、生活保護に対する正しい知識を持って、「生活保護を利用するのは恥ずかしいことではない」という意識を周りに広げていくということです。自分たちの周りに、生活に困っている方がいたときに、「私たちの社会には生活保護という仕組みがあって、これを使うことは何ら、『恥』ではない」ということを伝えていく。そうした積み重ねによって、2割~3割しかない捕捉率を上げていく。それが、餓死や孤立死を無くしていく力になっていくのだと思っています。
2014年6月6日