機能不全に陥っているセーフティネット~札幌講演録③

提言・オピニオン

※札幌講演要旨の3回目です。前回はこちら。

住まいの貧困はどのように拡大したのか~札幌講演録②

 

セーフティネットの機能不全

私は〈もやい〉で、様々な困窮状態になる方とお話をして、面接をして、ふと思うのですが、「自分の前に座っているこの人が、どういう行政の支援策を活用できるか、どういう制度なら利用できるか」ということを考えてみると、事実上、生活保護しかないという場合が、9割以上あります。この社会には、様々な支援策、様々なセーフティネットがあるはずなのですけれども、事実上、生活に困っている方が生活保護しか使えない、という状況が広がりつつある、と感じています。

「生活保護」というのは、よく、「最後のセーフティネット」、様々な他の制度を利用して、それでも生活が立ちゆかなくなったときに使える「最後のセーフティネット」と言われています。しかしながら、実際は、相談の現場で感じているのは、事実上、「生活保護が、最初で最後のセーフティネットになっている」ということです。

 

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具体的に説明してみましょう。生活に困窮している人の多くは失業状態にあります。ですから、真っ先に活用を考えるのが、雇用保険の失業手当です。

ところが、1970年代には、全失業者のうち約7割の方が失業手当を使えていたのですけれども、その後、失業手当の要件がどんどん厳しくなってしまった、あるいは、先にもお話ししたように、非正規の人たちが広がってしまった。その結果、今では、全失業者のうち、雇用保険の失業手当を受け取れる失業者は2割程度しかいません。カバー率が2割ぐらいまで低下しているという状況があるのです。

これは、5人失業者がいたとして、1人しか失業手当を受け取れないということを意味します。もらえない人は失業と同時に現金収入が無くなってしまうわけです。ですから、真っ先に生活に困窮してしまう。

そして、他にも病気になったときには、医療保険がありますけれども、今、国民保険でも未納者がどんどん増えてきて、そのために、病気になっても病院にかかれない、いよいよ体が悪くなって、ようやく救急車で運ばれるという方も増えてきています。

 

住宅政策の貧困

一方で、私は、ずっと住宅政策の重要性を指摘してきているのですけれども、低所得者向けの公営住宅の数というのは、どこの自治体でも削減されようとしています。日本には、もともと公的性格を持った住宅が少なく、公営住宅、UR住宅(旧公団住宅)、住宅公社の住宅などを全部ひっくるめてみても、全体の6~7%ぐらいしかない。これではセーフティネットとして機能していません。ただでさえ少ないのに、財政難を理由にどこの自治体でも公営住宅を削減しようと動いています。

ですから、本来であれば、「ハウジングプア」状態の方、「脱法ハウス」に住んでいるような人たちも、公営住宅に入れればそこで何とか生活できるわけなのですけれども、そうした支援策も活用できない。このように、様々な支援策が名目上はあるのだけれども活用できない。そうため、生活保護が、「最初で最後のセーフティネット」になってしまっている、という現状があると思っています。

 

生活保護の捕捉率の低さ

ただ、それでも、生活保護がきちんと機能していれば、最悪、餓死や凍死というような事は起こらないはずなのですけれども、残念ながら、生活保護の捕捉率、生活保護を利用できる要件を持った人のうち、実際に利用できている人の割合は、2割~3割と、研究者が推計しています。ここでも、5人のうち1人ということになってしまうわけです。つまり、5人、生活に困窮している人がいたとしても、1人しか生活保護を使えない、そうすると、4人は、セーフティネットに開いた大きな穴に落ちていってしまうという状況が生まれているわけです。

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では、その「穴に落ちた人」はどこに行くのかということなのですが、一つは、先ほどお話ししたように、生活に困窮しながら、生活保護以下の生活を強いられて、「ワーキングプア」や「ハウジングプア」になってしまう。そして更に、困窮の度合いが高まってくると路上生活になってしまったり、最悪の場合、路上で亡くなったり、餓死したり、孤立死したり、自殺に追い詰められることになってしまいます。

 

諸外国よりも低い日本の公的扶助

生活保護については、とにかく最近、マスメディアでは、「生活保護受給者が増えている。けしからん。」という論調が多いわけですが、全体の人口比、全体の利用率をみると、わずか1,8%にしか過ぎません。これは、諸外国に比べて、決して多いとは言えない、むしろ、何分の1という数になります。ドイツやフランスは、10%近くになっています。

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このグラフを見て、「スウエーデンがなぜ低いのだろう」と思われた方もいらっしゃるかもしれません(低いといっても日本の3倍くらいですけれども)。スウエーデンは高福祉国家であり、高齢者には最低保障年金が整備されています。ですから、高齢者の方が生活保護のような公的扶助制度を利用するということが、そもそも存在しない。そのために、公的扶助の利用率が比較的低くなっています。

それに比べて、日本の場合は、生活保護世帯の5割近くを占めるのが高齢世帯です。低年金、無年金のまま高齢を迎えた方々が、生活に困窮して、生活保護を利用している、という実態があって、この傾向というのは、おそらく、今後も続いていくだろうと思っています。

今、ずっと非正規で働いてこられて、40代、50代になっている人が増えてきています。その方々が、60代、70代になったとき、おそらく年金は少ししか受け取れない。国民年金は満額が6万数千円ですから、足りない分を生活保護で補てんせざるを得ないという方々が、今後ますます増えてくるだろうと思っています。マスメディアでは、まるで怠けている人が増えてきているかのようなイメージが垂れ流されていますけれども、こうした背景にある社会構造をきちんと見ていく必要があると思います。

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