住まいの貧困はどのように拡大したのか~札幌講演録②

提言・オピニオン

※2月1日に札幌で行なった講演要旨の2回目。初回はこちらです。

「孤独死」から「孤立死」へ、そして貧困拡大を見過ごした日本社会~札幌講演録①

 

「ネットカフェ難民」、そして「派遣切り」

私たちは94年から、最初は、野宿の人たちの支援を始めまして、その後、2000年代に入ってからは、路上生活の方だけではなく、路上生活の「一歩手前」の状況にある方々、ネットカフェや24時間営業のファーストフード店などに寝泊まりしていたり、友達の家を転々としている若者たちが増えているということに気づきました。

〈もやい〉は、最初にメールで相談があった、ネットカフェに住んでいる若者からメールで相談が来たのは、2003年の秋のことです。
当時は本当にびっくりしました。路上生活の人たちは夜回り(パトロール)や炊き出しなど、こちらから会いに行かなければ会えない人たちなのですけれども、ネットカフェに暮らしている若者はネットカフェでインターネットを使えるのです。自分でネット検索で〈もやい〉を探し出して、アプローチをしてくるというのは非常に驚きで、そうした新しい形の貧困が広がっているということに徐々に気づきました。

2004~05年には、20代、30代の若者たちが、生活に困窮して相談に来るという状況は珍しくなくなり、2007年には、「ネットカフェ難民」という言葉が、テレビのドキュメンタリー番組を通して、流行語にもなる状況が生まれてきました。
そして、2008年の年末、「派遣切り」の嵐が吹き荒れ、日比谷公園では、「年越し派遣村」が行われたことを覚えている方も多いかと思います。

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リーマンショックの前後は、本当に、てんてこ舞いの状況があり、多いときに月に200人の方が、全国から、まさに、「駆け込み寺」のように駆け込んでいらっしゃる状況がありました。

例えば、栃木県のキャノンの工場で派遣切りされた方や愛知県豊田市のトヨタの工場で派遣切りされた人などが相談に来ました。その人たちの多くは派遣会社が用意していた寮に暮らしていた。そのために、仕事と住まいを同時に失って、東京に行けば何とか次の仕事が見つかるのではないかということで、東京を目指して来られる。しかし、結局、所持金も尽き、ホームレス状態になって、私たちの事務所に相談に訪れるという方がたくさんいました。

一時期、私たちはスタッフの間で「野戦病院のようだ」と言っていたのですが、一番多い時で一日に50人以上の方が相談に来られたこともありました。

その後、若干、相談件数は落ち着きましたけれども、ここ2,3年は、年間900件から1千件くらいの相談を受けています。
これは、面談、実際にお会いして相談するだけでして、メールでの相談や、電話で相談を含めますと、一年間で3000件くらいの相談を受けているということになります。

 

若者たちの貧困の実態

年間約1千件の相談のうち、約3割の方々が30代以下です。なかには18才、19才の方が相談に見えるという状況もあります。18、19、あるいは20代前半で、ホームレス状態になるほど生活に困窮することは、なかなか、皆さん、ご想像がつかないかもしれませんが、実はこうした若者たちの多くが児童養護施設の出身者です。

親から虐待を受けてきた、あるいは、親が貧困状態にあって養うことが出来ない、そのために、施設で暮らせざるを得ない子どもたちがたくさんいます。ところが、日本の児童福祉では、18歳までは施設で保護してくれるのですが、基本的には、そこから先は、自分で自立しなければなりません。

また、日本は公的な給付型奨学金がないために、こうした子どもたちはなかなか大学に行けない。そのために、高校中退や高卒で社会に出ないといけない人がたくさんいます。
今、大学を出ても就職が厳しいという状況の中で、施設出身の若者たちが、高校中退、高卒で働こうとしても、なかなか安定した仕事に就くことができません。

多くの場合、工場の住み込みのような仕事に就くわけですけれども、そこの工場がつぶれてしまえば、もう、戻るところがありません。親が、経済的に余裕があれば、生活に困窮したら親元に戻るという選択肢を選ぶことが出来るわけですけれども、こうした施設出身の子供たち、あるいは、貧困家庭の子どもたちは、親に余裕がない、あるいは親から虐待を受けてきたという背景があるために戻る場所がないわけです。そのため、住み込みの仕事がなくなって住むところもなくなると、一気に、ホームレス状態になってしまいます。そうした若者たちも、たくさん私たちの所にたくさん来ています。

女性の相談もじわじわと増えてきており、以前は、全体の1割以下だったのですが、最近では、15%から2割くらいまで増えてきています。なかには、お一人ではなくて、二人世帯、ご夫婦でネットカフェで生活しているとか、親子で、車中生活をしているという状況もあり、貧困が様々な年齢層、様々な世帯の方々に広がってきているということを日々痛感しています。

私たちは、お一人ずつお話をうかがって、その方の生活状況の聞き取りを行います。そして、必要に応じて、生活保護の申請同行、一緒に窓口までついて行く活動も行なっており、年間200件ぐらい申請の同行をしています。

 

脱法ハウスの実態

若者たちの貧困については「ネットカフェ難民」という言葉が広く知られていますが、昨年から知られるようになった問題として、「脱法ハウス」という問題があります。これは特に、東京などの大都市圏で広がってきている問題です。

都市部ではアパートの入る際の初期費用(敷金、礼金、不動産手数料、火災保険料、保証料等)が高額で、東京では一般のアパートに入ろうとすると、20万から30万円くらい用意しないとアパートに入れない状況があります。アパートの入る際の最初のハードルが非常に高いのです。

それをクリアできない人たちがネットカフェで寝泊まりしたり、最近では、「脱法ハウス」といわれるような物件に暮らしています。

何が「脱法」なのかと申しますと、こうした業者の多くは、「共同住宅」ではなくて、「貸し倉庫」とか、「レンタルオフィス」という名前で人を集めています。というのも、「住宅」というふうに名付けてしまうと、住宅に課せられる建築基準法や消防法による様々な規制があります。窓をきちんと作らなければいけないとか、あるいは、部屋と部家の間の壁を、いざ火事が起こったときに耐えられるような素材にしないといけないといった規制がかかってしまう。その規制をのがれるために、「脱法」するために、「ここは住まいではなくて貸倉庫です。レンタルオフィスです」という名目で人を集めて、事実上、そこに人を住まわせる、という形態を取っています。

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ちなみに、東京でこの写真の物件、おいくらだと思いますか。この物件、一人で暮らした場合、月5万5千円です。右に2段ベッドがありますけれども、2段ベッドで上下で暮らすと、一人あたり2万8千円、二人で5万6千円。決して家賃自体は安くはないのです。

むしろ、こうした「脱法ハウス」というのは、床面積あたりの家賃では、一般の3倍くらいになっています。ですが、アパートの初期費用が払えない人たちがたくさんいるために、こうした人々をターゲットにした「貧困ビジネス」が広がってきているという状況があります。

 

ハウジングプアの全体像

これらの問題は、「ネットカフェ難民」とか「脱法ハウス」とか、色々な名前がつけられていますけれども、私は、全てをひっくるめて、住まいの貧困、「ハウジングプア」と呼んでいます。日本では残念ながら、「ホームレス」という言葉が、屋外にいる人たち、路上とか公園とか河川敷にいる人たちだけが「ホームレス」と呼ばれています。そのため、屋内のネットカフェや24時間営業のファストフード店にいる方、脱法ハウスにいる方は、行政の定義上、「ホームレス」ではないと定義されてしまいました。

 

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これがボタンの掛け違いの始まりでして、実際は、ネットカフェにいる方も、お金が無くなれば路上に行くし、路上で、例えば、ビッグイシューを売っている方も、その日売り上げが得られれば、ネットカフェに泊まります。この図の逆三角形の上と下を行ったり来たりしているのです。ですから、屋外にいる人たち、「見えやすいホームレス」、「見えるホームレス」だけを見ていても、問題の全体像はわかりません。ご本人の視点にたって、不安定な居住形態の全体をとらえる必要があると考えています。

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この問題を私は、「『ワーキングプア』であると同時に、『ハウジングプア』でもある。」と、表現しています。「ワーキングプア」という言葉は、皆さんよくご存じかと思いますが、日本の場合、最低賃金が非常に安い、そのために、なかなか働いていても、年収が200万円以下という方々が、全国で1000万人以上いらっしゃいます。

しかも、今、非正規で働いている人が働いている人全体の35.2%にまで増えています。この背景には、1999年と2003年に、二度にわたり労働者派遣法を改正して、派遣労働を広げてしまったという問題があります。今また、安倍政権下で、派遣労働を広げようというような動きが出てきていますけれども、そうなってしまうと、益々、「ワーキングプア」の人たちが増えてしまいかねないと思います。

「仕事」と「住まい」というのは、親からの仕送りを当てに出来ない低所得者にとっては、毎月働いてお金を稼いでそこから家賃を払う、「仕事」を得ることで「住まい」を確保するという車輪両輪のような関係になると思います。

しかし、この20年間に、日本の社会で起こってきた変化は、いくら仕事をしても生計を維持できない。そのために、安心して暮らせる住まいを確保することすらできない。つまり、「『ワーキングプア』であるが故に、『ハウジングプア』でもある。」という状況が、本当に多くの人たちに広がってしまったのだと思います。

そうした状況は、90年代には日雇いの建築現場で働いている50代、60代の「ホームレス」の人たちだけの問題だったかもしれないけれども、それが今は、20代、30代の人たちも含めて、多くの人たちの状況になってきました。

次に、そうした貧困状態にある方々に対してどのような支援策があるのかを、考えてみたいと思います。

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