2月11日(土) 学生向けイベント:日本の貧困と生活保護〜水際作戦・「不正受給」・小田原ジャンパー事件

講演・イベント告知

http://blog.goo.ne.jp/posse_blog/e/cdeddfb6ad04a96332ffd3f37b44ada3

学生向けイベント「日本の貧困と生活保護 〜水際作戦・「不正受給」・小田原ジャンパー事件〜」を開催します!

日本の貧困は深刻化しています。214万人が生活保護を受給し、国際機関の統計によれば相対的貧困率は16%と、先進国ではアメリカに次いで2番めの高さです。

しかし、生活保護を受けられるほど貧困にあるにも関わらず、実際に保護を受給している人は約2割ほどしかいません。その背景には、行政職員が相談に来た困窮者を窓口で追い返す「水際作戦」などの違法行為があります。神奈川県小田原市の職員 は「保護なめんな」とプリントされたジャンパーを着て窓口の相談業務を行っていました。

なぜこれほどにまで貧困が広がっているのか、そしてなぜ助けるはずの行政が貧困者の立場に立っていないのか。実際に現場で数百件もの生活困窮者支援に取り組んでいる立教大学大学院特任准教授の稲葉さんと『生活保護:知られざる恐怖の現場』の著者であるPOSSE代表・今野が議論します。

日時:2月11日(土曜日)18:00〜 (17:30開場)
会場:北沢タウンホール2階 集会室
   京王井の頭線 / 小田急線下北沢駅 南口徒歩5分
   (東京都世田谷区北沢 2-8-18 地図

講師:稲葉剛 立教大学大学院特任准教授
   今野晴貴 NPO法人POSSE代表

参加費:無料
事前予約不要

■お問い合わせ
NPO法人POSSE
TEL:03-6699-9375
FAX:03-6699-9374
HP:www.npoposse.jp
E-mail:info@npoposse.jp
事務所所在地:〒155-0031 東京都世田谷区北沢4-17-15ローゼンハイム下北沢201号室

【2017年1月24日】 小田原市ジャンパー問題申し入れに関する各メディアの報道

メディア掲載 日々のできごと

1月24日(火)、小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題について、私を含む生活保護問題対策全国会議のメンバーが小田原市役所を訪れ、担当者との意見交換を行ないました。

同会議は1月20日(金)付けで小田原市に公開質問状を提出しており、2月末までに書面での回答を求めています。

生活保護問題対策全国会議ブログ:小田原市長宛てに公開質問状を提出しました

意見交換の場で、小田原市の保健福祉部長は、2月末までの書面回答を約束した上で、外部の人も入れた検証委員会を設置するつもりであること、研修を強化するなど再発防止策を徹底することなどを表明しました。

その後、行われた記者会見では多数のメディアが取材に来ていました。
以下に主な報道をご紹介します。

申し入れと記者会見の内容について、詳しく報じたのはハフィントンポストと弁護士ドットコムです。

ハフィントンポスト:生活保護「なめんな」ジャンパーは「構造的な問題」 小田原市に支援者ら申し入れ

弁護士ドットコムニュース:「保護なめんな」問題、小田原市に再発防止要望「見えないジャンパー」全国拡大に懸念

NHKも報道していますが、この問題で一貫して、「保護なめんなジャンパー」を「不正受給許さないジャンパー」と表現している点に私は疑問を持っています。

NHK:“不正受給許さない”ジャンパー 調査など申し入れ

東京新聞と朝日新聞は、私が指摘した小田原市ホームページの記載の問題についても触れています。

東京新聞:生活保護ジャンパー問題 小田原市に苦情900件超

朝日新聞:「保護なめんな」問題、職員の人権研修へ 小田原市方針

また、生活保護問題対策全国会議のメンバーとして一緒に申し入れに参加した雨宮処凛さんが「マガジン9」の連載コラムで、この問題について書かれています。非常に重要な指摘をされていますので、ぜひご一読ください。

生活保護バッシングと役所バッシングの5年周期〜「保護なめんな」ジャンパー問題に思う〜の巻-雨宮処凛がゆく!

 

関連記事:【改善させました!】「保護なめんなジャンパー」の小田原市ホームページは制度を利用させない「仕掛け」が満載だった。

 

もう一度、「大人の貧困」の話をしよう!

アーカイブ

※初出:朝日新聞社「論座」サイト 連載「貧困の現場から」 2017年1月26日

 

現代の日本社会は、貧困の拡大に歯止めがかからない状況に陥っている。

国民生活基礎調査によると、2012年段階での相対的貧困率は、全体で16.1%、子どもの貧困率は16.3%まで上昇している。特に深刻なのは、母子家庭など、大人が一人の「子どもがいる現役世帯」で、この層では54.6%が相対的貧困状態にある。


相対的貧困率とは、OECDの貧困統計で用いられている指標であり、一人あたりの可処分所得の中央値の50%(このラインを貧困線と呼ぶ)を下回る所得しか得ていない者の割合を示している。2012年の国民生活基礎調査の貧困線は122万円なので、大雑把に言うと、国民の6人に1人は、「1人あたり月10万円程度しか家計に使えない」状態にあると言える。

非正規労働者の増加で相対的貧困率は上昇

1985年に10.9%(子どもは12.0%)しかなかった相対的貧困率は、若干の変動はありながらも、右肩上がりの上昇曲線を描いてきた。その要因として最も大きいのは、非正規労働者の増加である。派遣、パート、アルバイトなどの非正規労働者が全労働者に占める割合は、1985年の16.4%から2015年には37.5%にまで上昇した。

「最後のセーフティーネット」と呼ばれる生活保護を利用する世帯数も増え続けている。2016年10月時点の生活保護世帯数は163万7866世帯で、3カ月連続で過去最多を更新した。厚生労働省は、現役世代は減少傾向にあるものの、一人暮らしの高齢者世帯が貧困に陥るケースが増加していると分析している。

こうした客観データだけでなく、近年、主観的にも生活苦を感じている国民が増えている。国民生活基礎調査によると、生活が「大変苦しい」と感じている世帯の割合は20.2%(2000年)から27.4%(2015年)にまで増加。「やや苦しい」と合わせると、国民の約6割が生活苦を感じているのだ。

だが、こうした社会状況にもかかわらず、政治の場で民主党政権時代のように貧困対策の必要性が熱く語られる機会は減ってきている。市民レベルでも政府に対して貧困対策の強化を求める世論が高まっている、とは言いがたい状況だ。

高まる「子どもの貧困」問題に対する関心

唯一の例外と言っていいのは、「子どもの貧困」問題に対する関心の高まりだ。

特に昨年来、子ども食堂の取り組みは全国で急速に拡大し、首都圏だけでも百数十カ所、全国では数百の子ども食堂が開設されている。マスメディアでも「子どもの貧困」に関する報道を目にしない日はないくらいだ。

なぜ、「子どもの貧困」だけが例外的に注目を浴びるのか。それは「子どもの貧困」問題では、自己責任を問うことができないからである。裏を返せば、いったんは注目を浴びた「大人の貧困」問題に対しては、必ず自己責任を問う声が人々の間から発せられ、それが問題の社会的解決を阻む作用を果たしてきたと言える。

そのため、貧困問題に取り組んでいる人たちの間では、「子どもの貧困」対策を「貧困問題全体の牽引車」にしていこうとする主張も見られる。

“この問題は「貧困問題全体の牽引車」だと思っています。子どもの貧困は大人の貧困に比べて、いわゆる自己責任を言われにくい。子どもは親を選べない。「それまでにどうにかできただろう」「いやいや、3歳ですけど」という話ですから、どうにかできない。だからこそ、世の中の共感を得やすいので、だとしたら、共感を得られる潜在力を最大限発揮して、いわば貧困問題全体の機関車として、全体の貧困問題を引っ張っていってほしいという期待が一つあります。そのための役割を果たせるだろうと思います。”

“子どもの貧困問題は、実際は子育て世代の貧困なので、親の貧困が深く深く関わっていますが、あえてそこは切り離す。そして、まずは子どもの問題にフォーカスして考える。「子どもの問題を放置できないよね」という中で、だんだんと親の問題にも達していく。そうしたことを考えています。”

Yahoo!ニュース個人「年間アワード」を受賞した湯浅誠さんのスピーチが素晴らしかった – 亀松太郎

この発言をしているのは、かつて「反貧困」というスローガンを掲げて、貧困の社会的解決を訴えてきた社会活動家の湯浅誠である。彼は、「大人の貧困」問題解決を阻む自己責任論の壁を痛感し、迂回戦術を採ることにしたのだろう。

せっかく進み出した「子どもの貧困」対策を後退させないために、そこにフォーカスしていく取り組みは必要である。

政治の責任が捨象された首相の言葉

ただ、そこから「だんだんと親の問題にも達していく」のは至難の業だろう。そうはさせまい、という政治の側からの動きがあるからだ。

「親の問題」に到達しないようにする力は、例えば以下のようなメッセージに象徴されるものだ。

 


http://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/kokuminundou/tsudoi.html

日本の未来を担うみなさんへ

あなたは決してひとりではありません。
こども食堂でともにテーブルを囲んでくれる
おじさん、おばさん。
学校で分からなかった勉強を助けてくれる
お兄さん、お姉さん。
あなたが助けを求めて一歩ふみだせば、
そばで支え、その手を導いてくれる人が
必ずいます。
あなたの未来を決めるのはあなた自身です。
あなたが興味をもったこと、好きなことに
思い切りチャレンジしてください。
あなたが夢をかなえ、活躍することを、
応援しています。

平成28年11月8日
内閣総理大臣 安倍晋三

 

これは、「子どもの貧困」対策に寄付を募る政府の「子供の未来応援基金」の1周年の集いで発表された安倍首相のメッセージである。

SNS上で「ポエムだ」と酷評する人も多かった安倍首相のこの言葉には、「子どもの貧困」対策における政治の責任が完全に捨象されている。政治家は高みに立って、貧困家庭の子どもを応援するだけの存在なのだ。

「子どもの貧困」対策を親への支援にもつなげていくためには、社会の共感や理解を広げていくと同時に、こうした政治のあり方を変えていく必要があるだろう。

「大人の貧困」を正面から語っていく言説や社会運動が必要だ

その上で、私が強調しておきたいのは、当たり前のことだが、「子どもの貧困」によって牽引されるのは「大人の貧困」の全てではない、ということだ。

「子どもの貧困」対策が進み、親に達したとしても、それは子育て世代への支援にしかつながらない。高齢者や単身者など、子育てに直接関わらない「大人の貧困」を牽引することにはつながらないだろう。

最悪の場合、つながらないどころか、高齢者VS子育て世代という偽の世代間対立の構図が作られてしまう危険性もある。

だから、私は「子どもの貧困」から迂回していくのと同時に、「大人の貧困」を正面から語っていく言説や社会運動が必要だと思うのだ。

自己責任論の厚い壁にぶち当たろうとも、その壁に「蟻の一穴」を開けていくような言葉と行動を積み重ねていく。

効率的ではないかもしれないが、そんな試みの一端をこの連載で紹介していきたい。

「他人事ではない」「構造的な問題」~お揃いジャンパー問題に各地の福祉事務所職員は何を思ったのか?(下)

提言・オピニオン

小田原市の福祉事務所職員が「保護なめんな」と書かれたお揃いのジャンパーを作り、生活保護世帯の訪問をしていた問題。

全国の法律家、研究者、NPO関係者らでつくる生活保護問題対策全国会議が小田原市長に提出した「公開質問状」では、ジャンパーに書かれた内容は「『利用者のウェル・ビーイング を支援する』というソーシャルワーク共通の価値観にも真っ向から反するもの」であると批判しています。

他地域の福祉事務所で働いている公務員の皆さんは、この問題をどのように考えているのかを知りたく、6人の方(現役5人、元職員1人)にコメントを寄せてもらいました。

前半の3人のご意見はこちらをご覧ください。

小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題、各地の福祉事務所職員は何を思ったのか?(上)

背景には構造的な問題がある。

4人目の方は、東京都内の福祉事務所で働くベテラン職員で、保護係長も務めたことのある人です。

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大変残念な事件です。自治体職員といえども、全員が福祉に詳しい訳ではありません。社会福祉法では、福祉事務所職員(ケースワーカー等)は社会福祉主事の任用資格が必要としています。

しかしながら、保護担当職員の4分の1は任用資格が無いというのが現実です。さらに、国家資格であり、専門家ともいえる社会福祉士は50人にひとりしかいません。

生活保護の仕事には専門性が求められ、他の法律や制度にも精通していることが必要です。なにより社会福祉や貧困問題についての正確な理解も必要です。それなのに、充実した研修も受けられず、正確な法の理解を欠いたまま仕事をさせられている自治体があります。

さらに、受け持ち世帯数が標準の80世帯どころか、100世帯以上を担当している職員も多く、仕事に追われ余裕が全く無いのが実情です。あってはならないのですが、そのストレスを利用者にぶつける者も出てきます。

全国各地で利用者を劣った人間として扱う「劣等処遇」や、「水際作戦」などの違法な運用が後を絶たないのは、このような構造的な問題があるからです。専門性ある職員配置にするなど、改善を求める声をさらに上げたいと考えています。(了)

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公務員であることさえ忘れなければ

5人目の方は、都内の別の福祉事務所で長年勤め、すでに定年退職されている元職員です。この方もケースワーカーの専門性が欠けていることを問題にされています。

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ケースワーカーである前に公務員であることさえ忘れなければ、ジャンパーがあったとしても、それを着て家庭訪問などしないだろう。これは人権感覚の問題である。個人というより組織の問題と捉えるべきだと思う。

このような事態が起きるたび、いつも思うのは、なぜ、ケースワーカーの専門性を問題にしないのか、ということだ。福祉の「業界」では社会福祉士、精神保健福祉士、ケアマネなどの資格要件が必要とされているのに、利用者の生活全般を支援するケースワーカーは公務員でありさえすればいい、という程度でしか考えられていない。そもそもそこがおかしい。

生活保護が発足した戦後間もない時期には、経済給付さえすれば、自ずと自立する環境があったのかもしれない。しかし、ここ10年近く、利用者は増加を続け、十分な支援ができないばかりでなく、ケースワーカーにとっても心身ともに相当な負担になっている。その結果、福祉事務所は行きたくない職場の筆頭格になった。大卒の新人を配置しなければ組織が成り立たない所もある。

ではどうすればいいのか。微かな希望かもしれないが、当面できることとして、ケースワーカーの専門職採用(人件費は事務職と同じ)や福祉職の経験者採用、そして志のある職員を配置すること。利用者ひとりひとりに合った自立支援を共有し合う風土をつくること。

専門性だけでは解決できない問題もある。ケースワーカーの負担軽減のため、国が80世帯(標準数)としている担当世帯数を減らし、業務の大半を占める事務処理(各種調査、収入認定等)を簡素化し、支援業務に振り向けること等が必要だ。そのためには、生活保護の国庫負担(現在75%)を増やし、自治体の負担を軽減するなど、ケースワーカーを増員できるような環境を作ることが欠かせない。さらに、生活保護の手前のセーフテイネット(年金、住宅等)を強化することも必要だと思う。(了)

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現場に広がる「監視・管理」の雰囲気

最後の方は、都内の福祉事務所で働く現役ケースワーカー、ペンネーム「なべ」さんです。2013年の生活保護法「改正」後に職場の雰囲気が変わった、ということを指摘されています。

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「これは、他人事ではないな」、記事を目にした時に正直に思った感想である。

たまたま、私は、比較的規模の大きい自治体の、それもゆる~い雰囲気の福祉事務所で働いているのでこの「事件」と無関係でいられたのだと思う。

小田原市の福祉事務所で働いていたら、あのひどく悪趣味なジャンパーの着用を拒否できていたどうかは自信がない。

ゴリゴリの活動家ならともかく、「良心的」で秩序に従順な公務員がこうした作風の職場に身を置いていたら、はたして「自分たちは被害者で、悪いのは受給者だ!」といった倒錯した同調圧力に抗することができたどうか、はなはだ心許ない。

福祉事務所の作風を変えていくには、自分たちの人権意識を問い直すことはもちろんだが、外からの批判を受け入れていく開かれた姿勢が必要になってくるはずだ。

考えさせられたのは、人権意識は自然に存在しないという事実である。厚労省を頂点とする生活保護行政の中だけでものを考えていくと、あっというまに人権意識は擦り切れてしまうと思う。

とりわけ、生活保護法「改正」の後は、福祉事務所の現場に援助ではなく監視・管理の雰囲気が強く覆っているように感じている。こうした流れに抗うためにも、ひとりひとりが自分の人権意識を問い直し育んでいく必要があると思う。それは、圧倒的な力関係の中で自分たちの言動が受給者へどのように受け止められるかを想像したり、そのことを同僚のケースワーカーと意識的に話し合ってみることから始まるのだと思う。

私たちは、ひとを監視するのではなく、よりよく生きるための援助をする仕事に従事していることを思い返す必要がある。そのためにも、職場に閉じこもらず外に開いていく姿勢が必要だ。

それにしても、現行での生活保護の運用の仕組みはそろそろ限界を迎えつつあるのではないか?そのことも考えさせる「事件」だと思った。(了)

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現場の心ある職員たちと共に声をあげていきます

今回、急なお願いにもかかわらず、東京と大阪の6人の職員の方(現役5人、元職員1人)からコメントをいただくことができました。ありがとうございました。

普段から、生活保護行政のあり方を厳しく批判している私の依頼に応えてくださった方々なので、皆さん、それぞれ職場では少数派として肩身の狭い思いをされている人が多いのではないかと推察します。

しかし、「監視・管理」の雰囲気が広がる各福祉事務所において、同調圧力に屈せず、本来あるべき福祉行政のあり方を追求している人たちがいる、ということは大きな希望です。

1月24日(火)には、生活保護問題対策全国会議として、小田原市の担当者との話し合いを行ないますが、小田原市役所の職員の中からも改善に向けた自主的な動きが出てくることを期待したいと思っています。

福祉事務所職員による人権侵害は小田原市だけではなく、全国各地の生活保護行政に共通する根深い「構造的な問題」として存在しています。

職員・元職員の方々が指摘されている「ケースワーカーの専門性(資格要件や研修)」、「職員配置」、「生活保護バッシングや法改悪」、「不正受給対策のあり方」等の問題について、内部の心ある人々とともに、引き続き、声をあげていきたいと考えています。

 

関連記事:ネットから無料で入手可能!知っておきたい生活保護のしくみ

 

小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題、各地の福祉事務所職員は何を思ったのか?(上)

提言・オピニオン

1月17日(火)に記者会見が行われて以来、大問題となった小田原市の「保護なめんな」ジャンパー問題。

本日20日、全国の法律家、研究者、NPO関係者らでつくる生活保護問題対策全国会議は、小田原市長宛の公開質問状を提出。
ジャンパー作成の経緯や生活保護行政の現状、今後の改革の方向性について回答を求めています。
24日(火)には、同会議のメンバーとして小田原市役所に行き、担当者との話し合いを行なう予定ですので、ご注目ください。

生活保護問題対策全国会議ブログ:小田原市長宛てに公開質問状を提出しました

また、ジャンパーだけでなく、小田原市の公式ホームページにも生活保護制度に関する誤った説明が掲載されていることがわかり、SNSでも大きな話題になりました(現在は修正されています)。

関連記事:【改善させました!】「保護なめんなジャンパー」の小田原市ホームページは制度を利用させない「仕掛け」が満載だった。 

私がこのニュースを知って考えたことの一つに、「小田原市以外の福祉事務所で働く職員は、この問題をどう感じたのだろう?」ということでした。

そこで、知り合いの職員にこの問題に関する意見を聞いてみました。匿名を条件に送っていただいたコメントを2回に分けてご紹介します。

 

誰か一人でも「おかしいんじゃないか」と言えれば、違っていたのでは?

まずは、東京都内の福祉事務所で働く現役ケースワーカーの方からのコメント。この方の職場でも、ジャンパー問題は大きな話題になったと言います。

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私の職場ではネットのニュースが流れた時点で、すぐ広まりました。
日頃、受給者ヘイトや保護ヘイトも耳にする私の職場ですが、幸いにして今回の報道では、ジャンパー問題を擁護する論調は聞きませんでした。

もっぱら「ダセっ」「センス悪すぎ」「あんなジャンパーを4000円でなんか買いたくない」と言うセンスにまつわる非難か、「キモ〜」などの揃いのジャンパーを着る気持ちワルさなどの発言しか聞きませんでした。

小田原では過去に刺傷事件があったことがジャンパー製作のきっかけだそうですが、この職場の団結力というのか密集力を、どの方向性に使うのかという問題なのでしょうね。

同調圧力に抗するのが苦手な国民性に加え、地方都市の役所ならば、私のような変わり者が一人もいない(ないし「生息」できない)可能性があります。誰か一人でも「オレは着ないから買わない」「おかしいんじゃないか」とかでも言えれば違ってたんじゃないか、と思います。

ただし希望のひとすじ的に深読みすれば、10年かかってジャンパー嫌悪派・反対派の少数派が勝負をかけたリーク作戦にでた!とは言えまいか。

今回の小田原のみならず、これだけ不正受給の問題がクローズアップされる職場は、どんな援助が行なわれ、どんな雰囲気か、想像できます。これに良しとしない人が内部にいたからこそ表沙汰になったのではないでしょうか?(と、問題がヒドイだけに思いたい)

アト、そもそも論ですが、援助と取締りを同じ職員がしなければならないというのが、矛盾の大きな一つです。究極の感情労働です。

私としては昔から夢見てますが、金銭給付とケースワークの分離、そして限りなく社会手当化すること、最終的にはベーシックインカムを実現することしか、感情労働の問題は克服しえないと思っています。(了)

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普段から、この方が職場で孤軍奮闘されているのがうかがえるコメントです。
ジャンパー問題が発覚した背景に、職場内の少数派がリークをしたのでは?という推測を述べられていますが、確かにこの点は気になるところです。

 

「お揃いのジャンパーを着て家庭訪問」そのものがありえない。

次に大阪市内の福祉事務所でケースワーカーとして働く、ペンネーム「ぴょん吉」さんのご意見です。
「お揃いのジャンパーを着て、家庭訪問をしていた」という事実そのものの問題点を指摘されています。

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生保の現場の感覚から言うと、「お揃いのジャンパーを着て家庭訪問」そのものがあり得ません。

生活保護制度とその利用者に対しては、まだまだ偏見が根強くあります。
貧困は個人の責任ではなく、制度の利用は権利であり、恥ずべきことではないのですが、そうは言っても利用者の方のほとんどが「まわりには知られたくない」という気持ちを強く持たれています。そのため家庭訪問に際しても、生活保護ケースワーカーが訪問していると近所の人に気づかれないように配慮します。

制服やお揃いのジャンパーなどの着用は厳禁です。乗っていく自転車にも役所の名まえは書きません。

生活保護の利用を周囲に知らしめるような行為は、受給抑制につながります。
そういう当たり前の感覚を喪失しているところが大問題だと思います。(了)

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「ぴょん吉」さんには、一昨年、大阪市の保護費プリペイドカードの試験導入についても、ご意見をうかがったことがあります。

この事業は結局、利用が65世帯にとどまり、大阪市は本格実施を取り止めましたが、「生活保護世帯のみ、プリペイドカードで家計を管理する」という発想と、「お揃いのジャンパーで家庭訪問する」という行動は、どこかでつながっていると私は考えます。

この時の「ぴょん吉」さんのご意見もぜひあわせてご覧ください。

関連記事:大阪市・生活保護費プリペイドカード導入は「ケースワーカーにもメリットなし」 現場からも異論の声

 

生活保護バッシング報道が職場に影響を与えている

3人目は、東京都内の福祉事務所で面接員として働いている方です。
ケースワーカーのストレスの原因や、日本社会に根強い自己責任論の影響を考察されています。

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2009年頃、関東のある自治体労働組合が「生活保護現場のケースワーカーにとってストレスは何ですか?」というアンケート調査を行ったことがあります。その時の結果は、約40%の人が「生活保護利用者の方に嘘をつかれること」と回答し第1位でした。

行政職員として勤務している他の部署で「住民の方から嘘をつかれる」という経験をすることはあまりないかと思いますが、なぜ生活保護利用者が嘘をついたのか?その背景に何があるのか?等、本来はそこから福祉的な援助が始まるはずなのですが多くの職員にとっては、それが多大なストレスとなっている実態があるのです。

ちなみに回答の第2位は、「生活保護の仕事に全く遣り甲斐を感じていない」で約30%の方の回答でした。 

近年の生活保護バッシング報道等による「自己責任論」も生活保護現場に大きな影響を与えており、そこから生活保護利用者に対する差別・偏見等が増幅されていると感じています。

生活保護利用者に対する差別・偏見等が強い職場では、生活保護利用者に対して敬称を使わず「〇〇はさー」と利用者の方を呼び捨てにして日常の会話が行われています。今回の問題は、これらの日常が表面化した一部の事例だと思っています。(了)

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この方は、ジャンパーを作った小田原市福祉事務所の体質には、「生活保護利用者に対する差別・偏見等が強い職場」に共通の問題がある、と指摘されています。

一人目の方も「日頃、受給者ヘイトや保護ヘイトも耳にする」と書かれており、こうした差別や偏見が小田原市だけでなく、各地の福祉事務所に広がっていることが推察されます。

小田原市だけでなく、全国各地の福祉事務所のあり方が問われていると言えるでしょう。(次回に続く)

 

【改善させました!】「保護なめんなジャンパー」の小田原市ホームページは制度を利用させない「仕掛け」が満載だった。

提言・オピニオン

※皆様がこの記事を拡散してくれたおかげで、その後、小田原市ホームページの内容は改善されました。詳細は末尾の「追記」をご覧ください。

昨日(1月17日)、神奈川県小田原市の生活保護担当職員が「保護なめんな」等と書かれたお揃いのジャンパーを作り、それを着用して生活保護世帯の家庭訪問を行なっていた、というニュースが飛び込んできました。

この問題は各メディアによって取り上げられましたが、特にTBSと東京新聞が詳しく報じています(一定期間が過ぎるとリンクが切れる可能性があります)。

小田原市 生活保護担当職員、ジャンパーに「なめんな」 News i – TBSの動画ニュースサイト

東京新聞:小田原市職員の上着に「不正受給はクズ」 生活保護担当が市民訪問に着用も:社会(TOKYO Web) 

問題のジャンパーは2007年に当時の係長らの発案によって作られ、これまで64人もの職員が購入したと言います。

記者会見の場で、小田原市の福祉健康部長は「着ていることは承知していた」と認めながらも、「受給者に対する差別意識をもっている職員はいません。そう言い切りたい」と述べましたが、福祉事務所において生活保護利用者を支援の対象ではなく、監視・管理の対象として見る目線が支配的であったのは間違いないと思います。

小田原市の生活保護行政は、生活に困窮している人たちに対して、ふだんどのような対応を行なってきたのでしょうか。

社会学者の岸政彦さんがTwitterで以下のようにつぶやかれているのを見て、私も小田原市の公式ホームページをチェックしてみることにしました。

岸さん

 

こちらが小田原市公式ホームページのトップです(画像をクリックするとリンク先に飛びます。以下、同じ)。

小田原1

 

生活保護に関する情報は、「暮らし」をクリックして、「福祉/健康」というコーナーで見ることができます。

こちらが「生活保護」関連ページのトップ。4つの項目が並べられています。

小田原2

 

もしあなたが小田原市在住で、生活に困窮していたら、このページにアクセスし、一番上にある「生活保護制度について」という項目をクリックするでしょう。

ところが、それは罠なのです。「生活保護について」という項目をクリックすると、出てくるのはこのページになります。

小田原3

 

このページは「生活保護について」というタイトルにもかかわらず、生活保護制度そのものに関する説明はありません。

その代わりに書かれているのは、以下のような内容です。一番問題のある部分を太字にしました。

生活保護よりも民法上の扶養義務(特に親子・兄弟間)の方が優先されますので、ご親族でどの程度の援助ができるか話し合ってください。また、生活保護以外にも生活を支えるための様々な公的な制度(年金・傷病手当・失業保険・労災・児童扶養手当・児童手当など)があります。生活保護は、これらの制度を利用しても最低生活を維持することができない方のための制度です。なお、働く能力のある方は、その能力を最大限活用していただくことが必要です。

生活保護制度には確かに親族の扶養が優先するという規定がありますが、それは保護の申請を受け付けた福祉事務所が親族に連絡を取るという意味であり、生活に困窮する本人が親族に自分で連絡をとることを義務づけるものではありません。

また、DVや親族間での虐待などの問題があれば、扶養できるかどうかの問い合わせは行わないことになっています。

この点について、厚生労働省のホームページでは、以下のように書かれています。

扶養義務者の扶養とは
親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けてください。

そのうえで、世帯の収入と厚生労働大臣の定める基準で計算される最低生活費を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、保護が適用されます。

「援助を受けることができる場合は、援助を受けてください」(厚労省)と、「ご親族でどの程度の援助ができるか話し合ってください」(小田原市)では、大違いです。

もしあなたがDVや家庭内の虐待の被害者であれば、「ご親族で~話し合ってください」という文言を見て、絶望し、生活保護の利用をあきらめるでしょう。

小田原市ホームページの記載は、生活保護制度に関する間違った説明をしており、違法性が極めて高いものです。

この他にも、このページには「資産との関係」など、「こういう場合は生活保護を利用できない」という情報ばかり書かれています。

「生活保護制度について」というタイトルでありながら、制度そのものに関する説明は一切なく、「制度が利用できない場合」の説明ばかりが書かれているのです。

では、生活保護制度そのものの説明はどこにあるのでしょうか。

皆さんは、先ほどの「生活保護」に関する「4つの項目」の一番下に「生活保護とは」という項目がひっそりとあるのに気づかれたでしょうか。

小田原2

ここをクリックすると、以下のページが出てきます。

小田原4

 

このホームページの構成からも、小田原市の生活保護行政が意図していることは明確だと思います。

生活に困窮した市民がホームページの「生活保護」コーナーにアクセスしても、まず最初に「こういう場合は受けられない」という情報ばかりを提供する。そこには制度に関する誤った説明も盛り込まれている。

生活保護制度そのものに関する説明は、アクセスしにくいように4つ並べた項目の一番下に置く。

こうしたことからも、今回の「なめんなジャンパー」問題は一部職員の暴走ではなく、組織全体の問題であるとわかります。

公式ホームページの記載は、小田原市で日常的に「水際作戦」や生活保護利用者への人権侵害が行われていたことを疑わせるに充分なものです。

今後、さらに追及していきたいと思います。

ブログ発表後に改善されました!

【1月18日(水)13:30追記】

上記の記事を本日10:45にアップしましたが、その後、小田原市がホームページの一部を改善しました。

改善されたのは、生活保護コーナーの項目の順番です。

問題のある記述が含まれる「生活保護制度について」が一番上から一番下に下がり、制度の趣旨を説明した「生活保護とは」が上に来ました。

しかし、問題の記述自体は改善されていません。引き続き、改善を求めていきます。

改善後のホームページ

改善後のホームページ

 

【1月18日(水)16:00追記】

先ほどまた小田原市ホームページを見たら、問題の箇所が修正されていました。

改善後のホームページ

改善後のホームページ

 

【修正前】生活保護よりも民法上の扶養義務(特に親子・兄弟間)の方が優先されますので、ご親族でどの程度の援助ができるか話し合ってください。

【修正後】生活保護よりも民法上の扶養義務(特に親子・兄弟間)の方が優先されますので、ご親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けてください。

修正後は、厚生労働省の説明に沿った内容に変更されています。違法性が高いという指摘を受けて修正したものと思われます。

他にも生命保険の解約返戻金の扱い等、改善をすべき箇所はありますが、これで一つ問題が解決しました。

多くの方がSNSなどで声をあげていただいたおかげです。ありがとうございました。

ただ、こうしたホームページを作って放置していた小田原市の生活保護行政の責任は大きいと言わざるをえません。

発端となったジャンパー問題も含め、引き続き、追及をしていくので、よろしくお願いします。

 

1月24日(火) 学習会「拡大する住まいの貧困と住宅セーフティネット」

講演・イベント告知

http://tax-justice.com/?p=581

公正な税制を求める市民連絡会(共同代表:宇都宮健児弁護士ら)の第8回学習会が1月24日に開催されます。テーマは「拡大する住まいの貧困と住宅セーフティネット」です。

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テーマ:拡大する住まいの貧困と住宅セーフティネット

日 時:2017年1月24日(火)18:30~21時

場 所:主婦会館プラザエフ3階 (JR四ッ谷駅徒歩1分) アクセスはこちら。

講 師:稲葉 剛(一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事・立教大学大学院特任准教授)

「住居は暮らしの器」と言われるように、適切な居住こそが幸せを実現します。
ところが、社会全体が貧困で住居が確保できなければ、「住居が無く、生きていけない」状況に陥ることになります。高度経済成長を経て豊かな社会を実現したはずでしたが、バブル経済崩壊後の四半世紀は日本社会では人々がいとも簡単に「住居が無く、生きていけない」状況に陥ることを示しています。

本学習会では、居住の本質に立ち返り「居住福祉」の実態とわが国が居住福祉に充てられるべき財政のあり方を学習します。ぜひ、ふるってご参加ください。

*資料代500円 事前申込不要

チラシPDFはこちら

主 催:公正な税制を求める市民連絡会
事務局連絡先:弁護士 猪股正 さいたま市浦和区岸町7-12-1東和ビル4階 埼玉総合法律事務所
℡048-862-0355 fax048-866-0425

関連記事:2017年を「居住福祉元年」に!~新たな住宅セーフティネットの構築に向けて

2017年を「居住福祉元年」に!~新たな住宅セーフティネットの構築に向けて

提言・オピニオン

福祉行政と住宅行政の連携強化

昨年12月22日、「第一回福祉・住宅行政の連携強化のための連絡協議会」が開催されました。この連絡協議会には、厚生労働省の社会・援護局長や国土交通省の住宅局長を筆頭に関係局の職員が揃って参加し、今後、生活困窮者や高齢者、障害者、ひとり親家庭などを支えるセーフティネット機能の強化に向けて、福祉行政と住宅行政の連携を深めていく、という方向性が確認されました。

世間ではほとんど注目されていませんが、霞ヶ関で始まったこの動きは、この国の福祉政策や住宅政策のあり方を大きく変える可能性があるのではないか、と私は期待しています。

連絡協議会の開催要綱には、「住まいは生活の拠点である。そして、その住まいに医療・介護・生活支援等のサービスを包括的に提供する体制を地域ごとに構築することが生活を支えるために不可欠である。」という文言が掲げられました。これはまさに、神戸大学名誉教授の早川和男さんが提唱してきた「居住福祉」の理念そのものです。

行政の縦割りが貧困問題の解決を阻んでいる

私は、安定した住まいを失った生活困窮者を支援する活動を23年間続けてきましたが、その取り組みを通して痛感してきたのは、「行政の縦割りが貧困問題の解決を阻んでいる」という実態でした。生活に困窮している「ヒト」を支える福祉を厚生労働省が管轄し、その人たちが暮らす住宅という「ハコ」は国土交通省が管轄する、という行政の縦割り構造は、中央省庁だけでなく地方行政のレベルでも貫徹しており、その弊害は様々な場面で現れています。

一例を挙げると、2015年に始まった生活困窮者自立支援制度において恒久化された住居確保給付という制度の問題があります。

もともとこの制度は、「派遣切り」問題が深刻だった2009年に「住宅手当」という名称で始まったものですが、「対象は離職者に限る」、「家賃補助は原則3ヶ月」、「アパートの家賃は補助するが、入居する際に必要な初期費用は支給しない(別枠の制度で審査が通った人のみ貸付)」等といった使い勝手の悪さから、利用者が年々減少し、2015年度の新規利用決定件数は月平均で551人と、かつての6分の1程度まで落ち込んでいます(図の緑の線を参照)。

厚生労働省資料より http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000137286.pdf

厚生労働省資料より
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000137286.pdf

 

関連記事:仕事さえあれば、貧困から抜け出せるのか?~生活困窮者自立支援制度の問題点

こうした現状について、生活困窮者自立支援制度を行政とともに進めてきたNPOの関係者からも疑問の声が出ています。
NPO法人抱樸の理事長である奥田知志さんは、西日本新聞のインタビュー記事において、以下のように指摘しています。

制度は生活保護に至る前に自立を促すという狙いがあるため就労支援に偏りがちで、支援メニューが高齢者にはそぐわないケースが少なくない。居住支援も弱い。離職などで住まいをなくした人には家賃相当額を支給する仕組みがあるが、対象年齢は65歳未満。年齢や状況を問わず、総合的に住まいの確保を支援する策がいるはずだ。

生活困窮者自立支援制度における住宅支援がなぜ弱いのかという問題を突き詰めると、この制度が厚生労働省の管轄であり、国土交通省が関与していないという問題が浮かび上がります。

そのため、厚生労働省は「ヒト」に対して家賃を補助する際も、あくまでそれは再就職支援の一環としての短期的なプログラムという位置づけにとどまります。住まいという「ハコ」に直接関わる分野は、国土交通省の協力がなければ、手を出せないのです。

こうした各省庁の縄張り意識が問題の解決を遠ざけているのは、火を見るよりも明らかです。

一度、頓挫した住宅セーフティネットの整備

この縦割りの問題に国レベルで初めて取り組んだのは、鳩山政権時に内閣の緊急雇用対策本部に設置された「セーフティ・ネットワーク実現チーム」でした。同チームは2010年5月、「離職などによる貧困・困窮者の『居住の権利』を支え(中略)諸外国でとられている家賃補助政策等の状況や課題も踏まえつつ、『居住セーフティネット』の整備に向けた検討を進める。」とする中間とりまとめを発表しましたが、その直後に鳩山首相が退陣した影響もあり、その提言が生かされる機会は失われてしまいました。

しかしその後、国内における貧困拡大にどう対処すべきなのか、という議論が民間レベルで広がるにつれて、福祉政策と住宅政策を一体的に展開する「居住福祉」政策を実現すべきだという私たちの主張は徐々に支持を広げていきました。

近年は、貧困問題に取り組む人々のソーシャルアクションにより、「下流老人」問題(藤田孝典さんによる造語)が深刻化していることや、若年層の貧困が少子化にも影響を与えていることなど、世代を越えて貧困が広がっていることが社会に知られるようになり、これらの問題を解決するためにも生活保護の手前で、住宅セーフティネットを強化すべきである、という主張が広く受け入れられるようになっていきました。

そうした中、国土交通省は来年度から空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度を創設することを決めました。これは、高齢者や障害者、子育て世代の入居を促進するため、空き家の登録制を作り、改修費や家賃軽減化の補助を行うというもので、2017年度予算において27億円が計上されました。

しかし、この事業も国土交通省が単独で実施してしまえば、福祉的な視点を欠くものになりかねません。
そこで、どちらから働きかけたのかはわかりませんが、厚生労働省と国土交通省の連携強化という動きが出てきたのです。

2017年を「居住福祉元年」に!

長年の課題である福祉行政と住宅行政の縦割りは克服できるのでしょうか。不安がないわけではありませんが、ここは大きく、「2017年を『居住福祉元年』に!」と新年の目標を掲げておきたいと思います。

世代を越えて広がる住まいの貧困を解消するためには、新たな住宅セーフティネットの整備が「待ったなし」です。今年を後世から見て、「福祉政策・住宅政策の転換点になった年」と言われるようになるよう、働きかけを強めていきます。

ぜひ皆様からも、厚生労働省・国土交通省の双方に「つまらない縦割り意識を捨てて、居住福祉政策を推進せよ」という声をぶつけていただければと願っています。また、地方行政のレベルでも、福祉行政と住宅行政の連携が進んでいるのか、目を光らせていただければと思います。

ご協力よろしくお願いします。

 

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