なぜ単身高齢の生活保護利用者が「ドヤ」に滞留させられていたのか?

提言・オピニオン

5月17日未明、川崎市で簡易宿泊所2棟が全焼する火災が発生し、9人が死亡、19人が重軽傷を負うという大惨事になりました。

報道によると、2棟に宿泊していた74名のうち70名が生活保護の利用者で、単身の高齢者が多く含まれていたと言います。

簡易宿泊所とは旅館業法に基づく旅館の一形態で、かつては多くの日雇労働者が宿泊し、「ドヤ」(「宿」のさかさま読み)という俗称で呼ばれていました。高度経済成長期に日雇労働者を受け入れるために建設された木造の「ドヤ」の多くは老朽化しており、防火対策も充分に取られていないことが今回の火事で明るみに出ました。

火災が起こった「ドヤ」は2階建てを3階に改築した違法建築であったことが判明しています。

本来、福祉施設ではない「ドヤ」になぜ単身・高齢の生活保護利用者が多数宿泊しているのでしょうか。

私はその背後に、以下の3つの問題があると考えています。

  • 生活保護行政の問題
  • 住宅政策の問題
  • 高齢者福祉政策の問題

その3つの問題を説明する前に、まずはホームレス状態の人が生活保護を利用する際の流れについて説明します。

住まいのない状態に人が生活保護を申請した場合、首都圏では通常、福祉事務所が民間宿泊所か、「ドヤ」に宿泊することを勧めます。

民間宿泊所は、正式には社会福祉法に基づく「無料低額宿泊所」という名称があるのですが、この名称とはほど遠く、大部分は「無料」でも「低額」でもありません。

近年、この「無料低額宿泊所」に、生活保護費のほとんどを天引きしながらも劣悪なサービスしか提供しない「貧困ビジネス」の施設が多数含まれていることが社会問題になっています(一部に良心的な施設もありますが)。

※関連記事 埼玉新聞:<川崎火災>狭い居室密集 無料低額宿泊所、県内入所者も不安

一方、「ドヤ」は旅館業法に基づく簡易宿泊所という位置づけになります。民間宿泊所の多くが宿泊費だけでなく食費も天引きするために、生活保護費のほとんどが手元に残らない仕組みになっているのに対して、「ドヤ」では宿泊費しかかからず、生活費は自分で使えるため、生活保護を申請する人の間では、民間宿泊所より「ドヤ」での生活保護を望む人もたくさんいます。

また、民間宿泊所の多くが相部屋であるのに比べ、「ドヤ」は狭いとはいえ、曲りなりにも個室のところが多いので、個室での暮らしを希望する人が「ドヤ」での宿泊を自ら望むこともあります。

しかし、今回明らかになったように、「ドヤ」の中には建築構造に問題があったり、老朽化しているところも少なくありません。特に川崎の「ドヤ」は他地域に比べても、高度経済成長期に建てられたまま、建て替えをしていないところが多いようです。

 居宅保護の原則が守られていない

ポイントは、こうした民間宿泊所や「ドヤ」はあくまで一時的な居所に過ぎないという点です。生活保護法第30条では、居宅保護の原則が定められていて、一人暮らしができる人については一般のアパートやマンションで暮らすことが前提になっています。

地方都市の中には、ホームレス状態の人が生活保護を申請したら、すぐにアパートの転宅一時金(入居に必要な敷金等の初期費用)を支給して、アパートに入ってもらっている例もあります。

住まいのない人が生活保護を申請するケースが多い大都市では、一時的な受け皿として、民間宿泊所や「ドヤ」を利用するのは仕方がない面もありますが、そうであっても、早期にアパートでの生活に移れるよう支援すべきなのです。

ところが、福祉事務所の中には「一時的な居所」に過ぎないはずの民間宿泊所や「ドヤ」に多数の生活保護利用者を長期間、「滞留」させている例が散見されます。

私がこれまで受けた相談の中にも、「貧困ビジネスの施設に8年入れられていた」という人がいました。川崎の「ドヤ」にも10年以上、暮らしている高齢者がいるようですが、これらは福祉事務所の怠慢(あるいは意図的な不作為)と言わざるをえません。

一人暮らしができる人はアパートに、介護の必要などがあって一人暮らしが困難な高齢者は特別養護老人ホームなどの介護施設に移ってもらうのが、福祉のやるべき仕事だからです。

なぜ地域生活への移行が進まないのでしょうか?

1つには、福祉事務所職員の中に「あの人たちはアパート生活ができない」という偏見があって、なかなかアパートに移そうとしない、という問題があります。

これまで私は何人もの生活保護利用者から「ドヤ/民間宿泊所からアパートに移りたい」という相談を受けてきました。ご本人が福祉事務所のケースワーカーと話し合いをする場に同席にしたこともたくさんありますが、ケースワーカーが「もう少し様子(本人の生活状況等)を見させてくれ」と「待った」をかける場面が多くありました。

そうした場合、ご本人の権利としてアパートの転宅一時金申請を書面でおこなうこともよくありますが、それに対してあからさまに嫌な顔をされることもよくありました。

一部の職員の対応には、「プライバシーが確保され、適切な居住環境の住まいに暮らすことは基本的人権である」という考え方が欠如しているように感じられました。この問題は拙著『ハウジングプア』の中でも詳しく論じています。

他方、長く「ドヤ」住まいをしてきた高齢者の中には、アパートに移ると孤立してしまうのではないか、と不安を感じている人も確かにいます。

しかし、だからと言って劣悪な居住環境に人を長期間とどめていいことの理由にはなりません。
アパート入居後の見守りや地域での居場所づくりといったサポートを強化することによって、不安を解消する努力をするべきだと考えます。

2つ目には民間賃貸住宅市場における入居差別の問題があります。

NPO法人もやいでは、2001年より生活困窮者の入居支援(賃貸住宅に入居する際の連帯保証や緊急連絡先の引き受け)をおこなってきましたが、単身高齢者の孤独死が社会問題化する中、単身高齢者のアパート入居のハードルは年々上がってきているように感じます。

本来、こうした低所得者を受け入れるべき公営住宅は都市部での応募倍率が高く、なかなか入れない状況にあります。

単身の高齢者がアパートになかなか入居できない、入居できても劣悪な物件にしか入れないという問題は、2011年11月に新宿区で発生した木造アパートでの火災でも明らかになりました。

※関連記事 新宿区大久保アパート火災が投げかけたもの

3つ目には、特別養護老人ホームなど、高齢者のための適切な介護施設の不足があります。これは2009年3月に発生した群馬県の無届老人ホーム「たまゆら」の火災でも指摘された問題ですが、未だに解決していません。

このように「適切な住まい」(アパートや介護施設)への移行が進まない中、各地の民間宿泊所や「ドヤ」に単身高齢者が滞留している状況があります。

こうした問題に対する提言はこれまでもおこなってきましたし、今後もおこなっていく予定ですが、悲劇を繰り返さないために、まず多くの方に「なぜ単身高齢者が『ドヤ』に滞留させられていたのか」という問題を知っていただきたいと願っています。

 

※関連記事 【2015年5月24日&26日】 朝日新聞:川崎・簡易宿泊所火災に関するコメントが掲載

 


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