【2015年5月24日&26日】 朝日新聞:川崎・簡易宿泊所火災に関するコメントが掲載

メディア掲載

朝日新聞の2015年5月24日付け朝刊と5月26日付け朝刊に、川崎での簡易宿泊所火災に関するコメントが掲載されました。
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http://www.asahi.com/articles/ASH5R527VH5RULOB00X.html

「最後の居場所」奪った猛火 川崎宿泊所火災から1週間

 9人が死亡し、19人がけがをした川崎市の簡易宿泊所(簡宿)の火災から24日で1週間。全焼した「吉田屋」と「よしの」の周りには、今も仲間の安否を気遣う住民たちが集う。猛火は原因究明も、死者の身元確認も難しくしている。
 23日午前9時。焦げたにおいが漂う現場前には、警察や消防の検証を見守る吉田屋の住民たちがいた。
 「ここに来れば、誰かいる。仲間が無事かを確かめ合うんだ」。1階に住んでいた男性(61)は、近くの別の簡宿から毎日のように足を運ぶ。寝る前になると、天井から落ちてくる火の粉を思い出し、眠れなくなる。心を落ち着かせようと、毎晩、カップ酒を飲み、床につく。
 死者は9人。身元がわかったある男性の遺体は、家族が引き取りを拒否した。「決して珍しいことではない」と市の担当者は言う。
 30軒以上の簡宿がひしめく川崎区日進町の取材を通して浮かび上がってきたのは、「無縁社会」へと突き進むこの国の姿だった。
 キャバレー店長、沖縄の基地関係者、潜水士……。職を転々とし、この街に流れ着いていた。「行く当てなんてどこにもない」。みな異口同音に言った。
 過去は語らず、ともに酒を飲み、カップラーメンを分かち合う。焼け落ちた簡宿は、家族と別れ、すみかを失った人たちが見つけた「最後の居場所」だった。
 市によると、周辺の簡宿には、1300人の生活保護受給者が暮らす。7割にあたる880人は、65歳以上の高齢者だ。
 「結局、ここに押しつけていたのはみなさんじゃないですか」。この街に70年以上住む、ある簡宿の男性経営者は憤った。
 1960年代、大工や作業員といった労働者が中心だった。当時は高度経済成長期。どこの宿も廊下にあふれるくらい人がいた。
 JR川崎駅前にいた路上生活者らを受け入れ始めたのは74年。男性は「川崎大師の玄関口にホームレスがいると見栄えがよくないという声が出て、組合として受け入れた」と振り返る。
 生活困窮者の支援に取り組むNPO「自立生活サポートセンター・もやい」(東京)の稲葉剛さん(45)は今回の火災について「『住まいの貧困』という社会の構造的な問題をあぶり出した」と指摘する。
 生活保護受給者への住宅扶助は、一般的に月5万~6万円。アパートを借りられる金額だが、単身で低所得の高齢者は、孤独死を嫌う家主から受け入れられにくい。「住居の選択肢が少なく、劣悪な環境に追い込まれている」と稲葉さんは言う。
 市が周辺の簡宿49棟を調べた結果、約7割に違法建築の疑いがあった。大の男が立てば頭が天井に届きそうな3畳一間は、宿泊施設としては不適切だった。
 行政も消防も放置してきた街。見て見ぬふりをしてきたのは、私たち自身でもある。(照屋健、村上友里)
■原因究明・身元確認は難航
 失火か放火か。神奈川県警の捜査も進む。
 これまでの調べでは、出火したのは、吉田屋の玄関から3メートルほど入った1階廊下付近。ベニヤの建材の上にウレタンが敷かれ、燃えやすかった。油をまいたような痕跡はなかった。焼け方が激しく、火元となり得るたばこの不始末や古い電気配線なども、確かめられないという。
 犠牲者の身元確認も難航している。判明したのは3人だけ。今後、DNA型鑑定を進める方針だが、血縁のある親族を探し出さなければ照合はできない。「親族との交流を絶っている人や、すでに親族がいない人も多いだろう。どこまでたどれるか」と捜査関係者は話す。引き取り手がない遺体は、市が無縁納骨所に納めるという。(永田大)
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http://www.asahi.com/articles/DA3S11773605.html

簡易宿に定住、なぜ 川崎火災9人死亡

 川崎市の簡易宿泊所(簡宿)2棟が全焼して9人が犠牲となった火災は、一時的な宿泊先であるはずの場で、生活保護を受ける高齢者らが長年暮らしている現状を浮き彫りにしました。「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する生活保護。住まいのセーフティーネットはいま、どうなっているのでしょうか。
 ■公営借家、高い倍率
 生活保護を受ける世帯数は、今年2月時点で161万8685世帯。この30年間で2倍以上に増えた。高齢者世帯の増加が目立ち、全体の半数近くを占める。
 受給者の家賃は「住宅扶助」として支給される。地域や家族の人数ごとに上限となる基準額が決まっている。東京23区で暮らす単身者なら基準額は5万3700円だ。基準額内で払える家賃のアパートなどを受給者が探し、実費が支給されるのが原則だ。
 では受給者はどんな住居で暮らしているのか。厚生労働省は昨年、約11万世帯を対象に実態調査をした。持ち家で住宅扶助がいらない人などを除く約9万6千世帯のうち、比較的家賃が安い公営住宅(公営借家)にいる人は2割にとどまり、6割超が民間アパートなどの民営借家だ。公営住宅募集戸数の応募倍率は全国平均で6・6倍、東京都では23・6倍に達する(国土交通省調べ)。受給者にとっても入居のハードルは高いようだ。
 無料低額宿泊所や簡易宿泊所で暮らす受給者は約2%。ただ地域差が大きいと考えられる。高度成長期に多くの建設労働者が集まった東京・山谷地区や大阪・釜ケ崎などには簡宿が密集している。横浜・寿地区には約120の簡宿があるが、横浜市によると滞在者の84%が生活保護受給者だという。
 居住環境でも課題は残る。健康で文化的な住生活を営むのに必要不可欠な面積として、政府は「最低居住面積水準」を決めている。単身者では25平方メートルだ。厚労省調査によると、これを満たす住居割合は、一般世帯が76%に対し、受給世帯(民営借家)は46%にとどまった。受給者のいる簡宿などは床面積が平均6平方メートルで、狭さが目立った。
 こうしたなか政府は7月から住宅扶助の基準額を全体では引き下げる。約4年間で約190億円の国費を削減する方針だ。引き下げ後の住宅扶助額で今の家賃がまかなえなくなる受給世帯は、約44万世帯に達すると見込まれている。一部の受給者が今後、引っ越しなどを迫られる可能性もある。生存権侵害であるとして日本弁護士連合会が引き下げ撤回を求めるなど、批判も強い。
 ■高齢者入居、拒む業者も
 「受給者が10件、20件の物件をあたっても、契約できないことは珍しくない」。東京23区で20年以上、ケースワーカーをしてきた男性(60)は実情をこう話す。
 一人暮らしの高齢者の場合、ハードルはさらに高くなる。孤立死して「事故物件」になることを業者が恐れるからだという。
 「障害者や高齢者で特に単身世帯であることによる入居拒否の実態が一部に見受けられる」。住宅扶助見直しを検討した厚労省審議会が今年1月にまとめた報告書も、そう指摘した。
 2009年。群馬県の無届け高齢者施設「静養ホームたまゆら」で入居者10人が亡くなる火災が発生した。この火災も、犠牲者の大半が東京都内の生活保護受給者だった。身寄りがない高齢受給者が、都外の施設に送られている実態が問題となった。
 首都大学東京の岡部卓教授(社会福祉学)は、惨事の背景に「構造的な問題がある」と指摘する。「ケアが必要になってアパートに住めなくなった高齢受給者などは本来、介護施設を利用できるようにすべきなのに空きがない。公営住宅も数が足りない。結果的に行き場のない人が無届け高齢者施設や宿泊所に集まってしまう」
 生活保護受給者のアパート入居を支援する認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」(東京都)。理事の稲葉剛さんは「受給者ら低所得の人に人間らしい住まいを確保するため、縦割りとなっている行政の取り組みを一本化するなど支援を強化すべきだ」と話す。
 生活保護法30条には、受給者はアパートなど居宅に住んでもらうという原則が明記されている。川崎市の簡易宿泊所にいた受給者について稲葉さんは「『彼らは選んであそこ(簡宿)に住んでいた』ととらえず、(居宅の)原則を実現するための支援が足りなかった結果とみるべきだ」。
 生活保護受給者の家賃の上限にあたる住宅扶助の基準額の引き下げについても稲葉さんは「これまでにも増して、住まいの選択肢は狭まってしまう」と心配している。
 (中村靖三郎、久永隆一)

 

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