【2018年2月9日】毎日新聞などに札幌・自立支援住宅火災の背景を論じた記事が掲載

メディア掲載

2018年2月9日付け毎日新聞に札幌の自立支援住宅火災の背景にある問題を論じた原稿が掲載されました。

もともとは共同通信への寄稿で、静岡新聞、山形新聞等にも掲載されています。

https://mainichi.jp/articles/20180209/ddl/k01/040/091000c

札幌・自立支援住宅火災
自立支援住宅の現状と課題 識者に聞く 立教大特任准教授・稲葉剛さん /北海道

毎日新聞 2018年2月9日 地方版

11人が犠牲になった札幌市の自立支援住宅「そしあるハイム」の火災。生活困窮者らの「最後の砦(とりで)」となっている支援住宅の現状や課題について、識者2人に聞いた。

行き場ない生活困窮者 行政主体で「受け皿」を 民間の善意、限界

生活困窮者らの自立支援を掲げる札幌市の共同住宅「そしあるハイム」で火災が発生、40代から80代の男女計11人が死亡する惨事となった。

この住宅の防火体制が十分だったのか、住宅ではなく無届けの老人ホームに該当するかどうかという点については現在、行政による調査が進行中である。だが、地元の福祉関係者の間では、この住宅が行き場のない生活困窮者の「受け皿」として活用されてきたということも、もう一方の事実として押さえておきたい。

近年、こうした「受け皿」での火災が相次いでいる。昨年5月、北九州市の木造アパート「中村荘」で、入居者6人が死亡する火災が発生した。「中村荘」は日払いで入居できるアパートとして、地元の福祉関係者の間で知られており、ホームレスの人たちが生活保護を申請した際の当面の宿泊場所として利用されてきた実態があった。

昨年8月には、秋田県横手市のアパート「かねや南町ハイツ」で火災が発生し、入居者5人が死亡した。このアパートは仕出し業を営む会社が開設したもので、近くの精神科病院から退院してくる精神障害者の「受け皿」として機能していた。

3件の火災に共通しているのは、いずれも老朽化した木造建築であったため、火の回りが早く、災害に弱い高齢者や障害者が逃げ遅れたという点である。私はその背景に、現代の日本社会が抱える構造的な問題があると考えている。

住まいを喪失し、行き場のない生活困窮者、高齢者、障害者を受け止める「受け皿」を誰がつくるのかという課題は長年、福祉行政と住宅行政の縦割りのはざまに取り残されてきた。2000年代に入り、生活困窮者を支援するNPOや法律家が中心となり、生活保護の申請を支援する活動が広がった結果、多くの生活困窮者が路上生活から抜け出すことが可能になった。

しかし、福祉行政は「受け皿」の整備を行わず、劣悪な居住環境に生活保護申請者を囲い込んで高額な利用料を徴収する「貧困ビジネス」施設に依存していく構造が生まれた。また行政側も、本来こうした人々の「受け皿」となるべき公営住宅を削減していった。

そうした中、全国各地で生活困窮者を支援するNPOなどが中心となり、独自に物件を確保して、生活困窮者の一時的な住まいを提供しようという取り組みが広がっていった。しかし、これらの団体が用意できる資金には限界があり、活用できる物件は老朽化した木造建築物に限られてしまう傾向があった。

手弁当で「受け皿」をつくっても、火災が起こってしまえば、被害が拡大しやすい物件を利用せざるを得なかったのである。私はここに民間の善意の限界があったと考えている。

最も問われるべきは、「受け皿」づくりを民間任せにしてきた行政の責任だ。福祉行政と住宅行政は縦割りの壁を超えて、介護施設や公営住宅、安全な民間ストックの活用など、積極的な「受け皿」づくりへとかじを切るべきである。

■人物略歴

いなば・つよし
1969年広島市生まれ。東大卒。専門は居住福祉論。住まいの貧困問題に取り組む「一般社団法人つくろい東京ファンド」代表理事。主な著作に「貧困の現場から社会を変える」。


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