日々のできごと
大阪・釜ヶ崎にある「こどもの里」に長期にわたって取材して完成したドキュメンタリー映画『さとにきたらええやん』が6月から全国各地で上映されます。
まだの方は、ぜひ映画の公式サイトにアップされている予告編動画を見てください。
※『さとにきたらええやん』公式サイトは、こちら。
赤井英和さん、鎌田實さんら、さまざまな方がこの映画に応援コメントを寄せていますが、私もコメントをさせてもらっています。
NPO法人もやいの交流サロン「サロン・ド・カフェこもれび」でも映画のポスターを貼って応援しています。
サロン・ド・カフェこもれびにて。
つくろい東京ファンドのニュースサイト「マチバリー」でも、重江良樹監督にロングインタビューをさせていただきました。こちらの記事は近日中にアップされる予定です。
重江良樹監督と記念撮影。左は「マチバリー」編集担当の佐々木大志郎。
私がこの映画の舞台となっている「こどもの里」の存在を知ったのは、ここに集まる子どもたちが毎年冬におこなっている「こども夜回り」の活動をルポライターの北村年子さんから教えてもらったのが最初でした。
私が理事を務めている一般社団法人ホームレス問題の授業づくり全国ネットが制作した教材用DVD「『ホームレス』と出会う子どもたち」でも、「こども夜回り」の映像が使われているのですが、まだ小さな子どもたちがおにぎりを握って、野宿の人たちに声をかけて回るシーンには大変、感銘を受けました。
また、1970年代に活動をスタートさせた「こどもの里」は、今で言うところの「子どもの貧困」対策の最前線で活動を続けてきた団体であるとも言えます。子どもたちの遊び場であり、食堂でもあり、シェルターでもある、という活動は他に類を見ません。
その活動理念は以下のように記されています。
※「こどもの里」ウェブサイトより
釜ヶ崎で生きるこどもの権利を守る「こどもの里」には、大きな信念が二つあります。
一つは、こどもの最善の利益を考えること。
〔安心〕 安心して遊べる場・生活の場と相談を中心に、常にこどもの立場に立ちこどもの権利を守りこどものニーズに応えるのを、モットーとすること。
二つは、こどもの自尊心を守り育てること。
〔自信、自由〕 自分に与えられた境遇の中でこども(人)のもつ「力」を発揮、駆使してたくましく生きているすばらしいこどもたちを、社会の偏見や蔑視から守り、自信を持って自分の人生を選び進めるよう支援することをモットーとすること。
2012年に、橋下徹・大阪市長(当時)が「子どもの家事業」を廃止し、「こどもの里」への補助金を削減した際には、事業存続を求める署名活動が全国的に展開されました。その後、「こどもの里」はNPO法人格を取得し、認定NPO法人になることをめざして賛同者を募っています。
※「こどもの里」ウェブサイト:運営の源 小さなたくさんの力をください
応援コメントにも書きましたが、映画は決して声高に「子どもの貧困」問題を語るのではなく、「こどもの里」の日常を淡々と描いています。それだけに、見る人に多くのことを考えさせる内容になっています。
ぜひ、たくさんの方に映画を見ていただきたいと思います。また、映画を通して「こどもの里」の活動を知っていただき、支援の輪を広がることを願っています。
2016年5月30日
提言・オピニオン
今から20年前の1996年6月、トルコのイスタンブールで第2回国連人間居住会議(ハビタットⅡ)が開催されました。ハビタットⅡは、20世紀の後半、世界各国で都市への人口集中が進み、住民の居住環境の悪化が深刻な社会問題となったことを踏まえ、人類が直面する居住問題の解決に向けた取り組みを促進するために開催されました。
会議には、各国の政府代表だけでなく、地方自治体、NGO、研究者、企業などが参加。6月14日に採択されたイスタンブール宣言では、「人間にふさわしい住まいは、命の安全、健康、福祉、教育や本当の豊かさ、人間としての尊厳を守る基礎であり、安心して生きる社会の基礎である」という前提のもと、「適切な居住への権利」は基本的人権であることが宣言され、各国政府は居住権の保障を自国の住宅政策の最重要課題として進めていくことを確認し合いました。
イスタンブール宣言には日本政府も署名しました。日本政府も「住まいは人権」であることを認め、住宅政策を拡充していくことを国際的にも確約したわけです。
それから20年経って、国内の住まいをめぐる状況はどうなったでしょうか。
住まいの貧困の極限形態であるホームレス問題については、2006年以降、生活保護の運用を改善させる運動が広がったことにより、路上生活をせざるをえない人は減りつつあります。
しかし、民間の賃貸住宅市場で高齢者や障害者、外国籍の住民といった人々が住宅を借りにくい状況は改善されておらず、高齢者や障害者の「入居に拒否感がある賃貸人の割合」はむしろ高まっています。
また、国内の貧困が若年層にまで広がったことにより、若者の住宅問題も深刻化しています。2000年以降は、ワーキングプアの若者がネットカフェや脱法ハウスといった不安定な居所で暮らさざるをえない状況が大きく広がりました。
2014年に、私も参加したビッグイシュー基金・住宅政策提案・検討委員会による調査では、首都圏と関西圏に暮らす年収200万円未満の未婚の若者のうち、6.6%が広い意味のホームレス状態を経験していることが明らかになりました。親と別居している若者に限定すると、その割合は13.5%にのぼります。
*「若者の住宅問題」調査の詳細は以下の画像をクリックしてください。
このように、まだまだ日本国内では「住まいは人権」が確立されたとは言えない状況があります。
国内の住宅問題に取り組む諸団体は、イスタンブール宣言が出された6月14日を「住まいは人権デー」と位置づけ、毎年、記念のイベントをおこなってきました。
今年の「住まいは人権デー」では、「住宅セーフティネットと若者の住宅問題」をテーマにした集会を開催します。
※6月14日(火) 「住まいは人権デー」の夕べ ―住宅セーフティネットと若者の住宅問題
また、6月12日(日)には若者を主体とするCALL for HOUSING DEMOCRACY が「家賃下げろデモ」をおこないます。
※6月12日(日) CALL for HOUSING DEMOCRACY 家賃下げろデモ at 新宿
これらの一連の行動を通して、今夏の参議院選挙でも住宅政策の転換を争点に押し上げたいと考えています。
ぜひ多くの方のご参加、ご協力をお願いいたします。
※関連記事:障害者差別解消法施行!障害者への入居差別はなくせるのか?
2016年5月30日
講演・イベント告知
2016年「住まいは人権デー」の夕べ
―住宅セーフティネットと若者の住宅問題―講演、討論、交流
と き 2016年6月14日(火)午後6時30分~
ところ 新宿区・大久保地域センター 3階会議室A
JR新大久保駅徒歩8分 地図はこちら。
《プログラム》
記念講演 「住生活基本計画の10年と住宅セーフティネット」(仮題)
―川崎直宏氏(市浦ハウジング&プラニング副社長)
(同社は“ハウジングを通じて社会に貢献する”を掲げて活動する計画、設計のコンサルタント。「住生活基本計画(全国計画)」の策定に関与し、都道府県の計画策定にも関わっています)
提 言 「低所得の働く若者対象の住宅セーフティネット施策について」
―6月12日の「ハウジングデモクラシー」を掲げた若者住宅デモの報告を含めて
討論と交流 「住宅セーフティネットと若者の住宅問題」
資料代:500円(払える人のみ)
※住まいは人権デーと住生活基本法10年の検証
6月14日は1996年の同日に国連人間居住会議(ハビタット)が住宅人権宣言を採択したことを記念して、わが国で毎年住まいは人権デーとして取り組んでいます。
また、今年は「住生活基本法」施行から10年を経過し、住宅・居住政策の検証の連続講座を下記住宅3団体で進めています。今回は第3回講座を兼ねています。
〔開催団体〕
日本住宅会議
国民の住まいを守る全国連絡会
住まいの貧困に取り組むネットワーク
〔連絡先〕
NPО住まいの改善センター
℡ 03-3837-7611
fax 03-6803-0755
2016年5月30日
メディア掲載
2016年5月23日付け毎日新聞夕刊の記事「自民党『憲法改正草案Q&A』への疑問」に、稲葉のコメントが掲載されました。
関連部分を以下に引用します。
http://mainichi.jp/articles/20160523/dde/012/010/006000c
特集ワイド
自民党「憲法改正草案Q&A」への疑問 「小さな人権」とは 緊急時なら制限されてもいい…?
思わず首をかしげてしまった。「大きな人権」と「小さな人権」が存在するというのである。この表現は、自民党が憲法改正草案を解説するために作成した冊子「改正草案Q&A」の中で見つけた。大災害などの緊急時には「生命、身体、財産という大きな人権を守るため、小さな人権がやむなく制限されることもあり得る」というのだ。そもそも人権は大小に分けることができるのだろうか。【江畑佳明】
(中略)
ここまで論じたように、万一、改憲草案が現実化したら、人権が制限される懸念は高まりそうだ。その一方で「改憲を先取りするかのように、人権の制限は既に進められている」との声も出ている。
貧困に苦しむ人たちを支援するNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事の稲葉剛(つよし)さんは「安倍晋三政権は生活保護の支給額を段階的に引き下げています。さらに2013年の改正生活保護法で、親族の援助が受けられない時は、福祉事務所がその理由の報告を求めることができるようになりました。これでは生活保護の申請をためらう事態になりかねない。憲法25条の生存権、『健康で文化的な最低限度の生活を営む権利』が脅かされつつあるのです」と実情を訴える。
稲葉さんは改憲草案が「家族のあり方」に手をつけることにも危機感を抱く。改憲草案では24条で「家族は互いに助け合わねばならない」とする。この狙いを「貧困により家族の支えが限界に来ているという現実を直視せず、自らが理想とする家族像を押し付けようとしているのではないでしょうか。国には尊厳ある個人の生存権を保障するよう努める義務があるにもかかわらず、『家族なんだから助け合いなさい』とその責任を家族に転嫁したい意図を感じます」とみる。
「小さな人権」を認めれば、社会的に弱い立場の人たちの人権が「小さい」と判断されてしまうかもしれない。
人権は常に制約される可能性がある。改憲反対や脱原発をテーマにした市民集会を巡り、自治体が「政治的中立」などの理由で公的施設の利用に難色を示すケースが出ている。表現の自由や集会の自由が「小さな人権」と制約を受け続けたら……。
Q&Aでは「人権は、人間であることによって当然に有するもの」と基本的人権を尊重する姿勢は変わらないと記している。であれば、「人権の大小」という発想自体、生まれてこないのではないか。
※関連記事:「生活保護利用者の人権は制限してもよい」の先には、どのような社会があるのか?
2016年5月30日
講演・イベント告知
6月12日(日)、若者を主体とする CALL for HOUSING DEMOCRACY が「家賃下げろデモ」をおこないます。
稲葉も応援しており、参加する予定です。
詳しくは、こちらのTwitterアカウント、Tumblrサイトをご覧ください。
※関連記事:今後10年の住宅政策の指針が閣議決定!パブコメは反映されたのか?
2016年5月30日
提言・オピニオン
今年4月に障害者差別解消法が施行されて、1ヶ月が経ちました。
この法律は、2006年に国連総会で採択された障害者権利条約を日本が批准するために制定された法律の一つで、日本社会から障害を理由とする差別をなくしていくことを目的としています。
法律は差別を解消するための措置として、民間事業者に対しても「差別的取扱いの禁止(法的義務)」と「合理的配慮の提供(努力義務)」を課しており、その具体的な対応として、それぞれの分野の担当大臣は事業者向けの対応指針を示すことになっています。
住宅の分野では昨年12月、国土交通省が宅建建物取引業者を対象とした対応指針を公表しました。指針では「差別的な取扱い」として禁止する行為として、以下のような事例が挙げられています。
・物件一覧表に「障害者不可」と記載する。
・物件広告に「障害者お断り」として入居者募集を行う。
・宅建業者が、障害者に対して、「当社は障害者向け物件は取り扱っていない」として話も聞かずに門前払いする。
・宅建業者が、賃貸物件への入居を希望する障害者に対して、障害があることを理由に、賃貸人や家賃債務保証会社への交渉等、必要な調整を行うことなく仲介を断る。
・宅建業者が、障害者に対して、「火災を起こす恐れがある」等の懸念を理由に、仲介を断る。
・宅建業者が、一人暮らしを希望する障害者に対して、一方的に一人暮らしは無理であると判断して、仲介を断る。
・宅建業者が、車いすで物件の内覧を希望する障害者に対して、車いすでの入室が可能かどうか等、賃貸人との調整を行わずに内覧を断る。
・宅建業者が、障害者に対し、障害を理由とした誓約書の提出を求める。
障害を理由に賃貸住宅への入居を断る行為は、以前から人権侵害だとして行政機関による指導の対象になっていましたが、法律が施行されたことにより、明確に「違法」だと認定できるようになったと言えます。
2010年には東証一部上場企業の大手不動産会社が、入居者と結ぶ賃貸借契約書に「入居者、同居人及び関係者で精神障害者、またはそれに類似する行為が発生し、他の入居者または関係者に対して財産的、精神的迷惑をかけた時」は契約を解除するという条項を設けていたことが判明し、大阪府が改善を指導。この会社が問題の条項を削除し、障害者団体などに謝罪する、という出来事がありました。今後、こうした「明文化された形での入居差別」はなくなっていくと思われます。
国交省が公表した対応指針では、努力義務である「合理的配慮」の事例もあげられています。例えば、「多くの事業者にとって過重な負担とならず積極的に提供を行うべきと考えられる事例」としては、「障害者が物件を探す際に、最寄り駅から物件までの道のりを一緒に歩いて確認したり、一軒ずつ中の様子を手を添えて丁寧に案内する」という行為が例示されています。
法律の施行と国交省の対応指針によって、障害者は賃貸住宅に入居しやすくなるのでしょうか。先ほど、「明文化された形での入居差別」はなくなるだろうと述べましたが、逆に言えば、「明文化されない、明示されない形での入居差別」はなかなかなくならないのではないか、と私は感じています。
大阪府と不動産に関する人権問題連絡会が2009年に、府内の全宅建業者を対象に実施した調査では、22・7%の業者が「障害者については家主から入居を断るように言われた」と回答しています。こうした家主の意識はすぐには変わらないため、明白に法律違反だと見なされるような形での入居差別は減っていくでしょうが、はっきりと理由を言わないで入居を事実上、拒否するケースはむしろ増えるのではないかと懸念しています。
昨年、日本賃貸住宅管理協会が管理会社に対して実施したアンケート調査結果でも、障害者のいる世帯の入居を「拒否している」と答えた賃貸人の割合が2・8%と、五年前の同調査から1・2ポイント減少したのに対して、「拒否感がある」と答えた賃貸人の割合は74・2%と、前回よりも21・3ポイントも増加してしまいました。「拒否している」と明言するのは不適切だという認識は広がっているものの、四人のうち三人が「なるべくなら入れたくない」と思っているのでは、部屋探しのハードルは高いままでしょう。
昨年、全国賃貸住宅経営者協会連合会は、宅建業者、管理業者、家主向けに「障害者差別解消法について充分にご理解いただき、障害のある方々への適切なご配慮にお努めください」というタイトルのパンフレットを作成し、配布を始めました。家主の意識は一朝一夕には変わらないでしょうが、地道な啓発活動が求められています。
※全国賃貸住宅経営者協会連合会パンフレット(PDF)
※関連記事:今後10年の住宅政策の指針が閣議決定!パブコメは反映されたのか?
2016年5月4日
1