【2015年7月17日】 信濃毎日新聞にインタビュー記事が掲載されました。
2015年7月17日付け信濃毎日新聞夕刊にインタビュー記事が掲載されました。共同通信の配信記事で、京都新聞、山形新聞にも掲載されました。
住まいの貧困問題 若者たちも孤立 支援を
NPO理事 稲葉剛さん
〈10人が亡くなった今年5月の川崎市の簡易宿泊所火災。不安定な居住環境で暮らす高齢者の「住まいの貧困(ハウジングプア)」問題を浮き彫りにした。しかし、ハウジングプアは高齢者だけでなく、今や多様な形で若い世代にも広がっていると、警告する〉
20年以上前から路上生活者の支援活動をしています。2001年に「自立生活サポートセンター・もやい」をつくりました。住まいの問題は、当初は「路上生活から抜け出たいのに、保証人がいないのでアパートに移れない」という50~60代の日雇労働者からの相談がほとんどでした。それが非正規雇用の拡大とともに、ワーキングプア層の20~30代の若者たちからの相談が、どんどん増えてきたのです。
仕事をして、その日の所持金でネットカフェやサウナに泊まったり、金がないと24時間営業のファストフード店で夜を過ごしたり、完全になくなれば路上生活…。住み込みの仕事で寮に入っても、解雇されると住む場所を失い、転々とする。
時々の状況で一晩を過ごす場所を変えるので、ネットカフェ難民のように寝る場所だけに注目しても意味がありません。仕事が不安定なワーキングプアが増えると住むところも不安定になるという意味では「表裏一体の問題じゃないか」と気づき、6年前に本を出版して問題提起しました。
ハウジングプアの問題は、住まいがないことで経済的な貧困から抜け出せない悪循環になるだけでなく、人間関係のつながりが切れ、社会的にも孤立すること。経済と人間関係の二重の貧困に陥ってしまいます。
〝路上一歩手前〟の若者は増え続けていると感じています。最近も「違法貸しルーム」が社会問題になったように、住む場所が多様化して、その実態が見えない不可視化が進んでいる。
非正規雇用で住まいの確保が難しい人は、無年金や低年金になりやすい。将来的には低所得の高齢者があふれかえる状況になるが、今の制度だと生活保護以外に使えるセーフティーネットがありません。それでいいのでしょうか。
〈対策に腰の重い行政に業を煮やし、「つくろい東京ファンド」を立ち上げた。住まいのない生活困窮者のために個室シェルターを提供する試みだ〉
欧米では「ハウジングファースト」と言い、住まいのない人の支援は、プライバシーが守られ安全が確保された住居の提供から始めるのが主流です。そこで、ビル所有者にマンション8室を提供してもらい昨年、個室シェルターを始めました。
住まいのない人がいる一方、空き家が約13.5%もあるというミスマッチは何とかならないか。国が空き家対策で低所得者に貸す仕組みをつくってくれるといいが、動きません。まず民間でモデル的な事業をやってみようと踏み出したわけです。大都市なら空き家の活用は有効だと思います。
ハウジングプア対策として「住宅省」をつくって、行政の一元化を図れと言いたいですね。箱物は国土交通省、生活に困窮している人への支援は厚生労働省と分かれ、現在は縦割りの弊害が大きい。これでは居住福祉的な観点が広がっていきません。国交省と厚労省がセットで動いて、箱物の規制や整備を行い、住まいに困っている人が適切な住居に入れる支援をやっていかないといけないのです。(聞き手・保坂渉/写真・萩原達也)
【いなば・つよし】
1969年広島市生まれ。東大教養学部卒。94年から路上生活者の支援活動に取り組む。認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事、「住まいの貧困に取り組むネットワーク」世話人。今年4月から立教大大学院特任准教授。著書に「ハウジングプア」(山吹書店)「生活保護から考える」(岩波新書)など。
※つくろい東京ファンドへの寄付については、こちらのページをご覧ください。
2015年8月3日