国立競技場建て替え問題:まず聴くべきは地域住民の声では?

提言・オピニオン

さまざまな議論を呼んでいる国立競技場の建て替え問題。

本日5月28日、日本スポーツ振興センター(JSC)は新国立競技場の基本設計を明らかにしました。

建設通信新聞:新国立競技場の基本設計パースと模型がついに明らかに!!
http://kensetsunewspickup.blogspot.jp/2014/05/blog-post_28.html

新国立競技場については、デザイン・コンペを勝ち抜いたザハ・ハディッドの案に対して、「神宮外苑の歴史的な景観を壊す」、「建設費用がかかり過ぎる」、「積雪の重みに耐えられないのではないか」といった疑問の声が建築家らからあがり、2014年3月末に完了する予定だった基本設計がこの間、延期されてきました。

5月12日には、建築家の伊東豊雄さん、人類学者の中沢新一さんらが都内で記者会見を開催。
会見では、伊東豊雄さん設計の改修案が発表され、客席の増設やレーンの拡張をすれば、改修で十分対応できるとの主張が広がっています。

Our-Planet TV:伊藤豊雄氏「半額で工事できる」国立競技場の改修案発表
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1787

日本建築家協会(JIA)も5月23日、国立競技場の解体工事に着手しないよう求める要望書を東京都知事と文科大臣、JSC理事長宛てに提出しています。

日経アーキテクチュア:日本建築家協会、国立競技場の解体延期を要望
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK26014_W4A520C1000000/

私も、こうした専門家の意見に関係者が耳を傾け、国立競技場を建て替えるのではなく改修で対応すべきだと考えます。

私がそう考えるのは、景観やコストの問題もありますが、何よりも建て替えで競技場が巨大化することにより、周辺住民が立ち退きをせざるをえなくなるからです。
建て替えが人々の暮らしに直接影響を与えるという点も、もっと考慮されるべきだと考えます。

新国立競技場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建て替え案では競技場の敷地が拡大。現在、競技場の南にある明治公園のエリアも呑みこまれてしまいます。

そのため、明治公園が押し出される形で、地図のA-3地区の場所に「再配置」されることになっています。
A-3地区はイベントなどの際、「歩行者の滞留空間となるオープンスペース」と位置付けられています。この場所に現在あるのが、都営霞ヶ丘団地です。

東京都は都営霞ヶ丘団地を除却し、そこに住んでいる住民を都内の複数の都営住宅に移転させる計画を進めています。
競技場が巨大化することで、玉突きのように都営住宅に暮らす住民が追いやられてしまうのです。

すでに昨年から、「早期移転」という名称で新宿区内の別の都営住宅への移転が始まり、数十世帯が転居。残る約150世帯についても順次、移転を進めていく予定です。

移転先に予定されている都営住宅には、福島から避難している方も暮らしています。そのため、避難者への住宅支援を打ち切って、そこに霞ヶ丘から移転する人を入居させるのではないか、とも噂されています。そうなれば、さらに「玉突き」が起こることになります。

 

先日、私はこの都営霞ヶ丘団地を訪問し、数人の住民の方と話をしてきました。

住民の方によると、2012年7月、突如として「移転していただかないとならないことになりました」とのチラシがまかれて、立ち退きを知らされたとのこと。
その後、東京都やJSCによる説明会が開催されましたが、いずれも一回ずつで、その内容も決定事項を伝えるものに過ぎなかったと言います。

霞ヶ丘団地を新競技場の関連敷地とする、というJSCの決定は、都営住宅を管理する東京都都市整備局にすら事前に知らされていませんでした。

霞ヶ丘団地に暮らしている住民の中は、1964年の東京オリンピックに伴う都市開発にからみ、周辺地域から移転してきた、という経験がある人もいます。
その人たちは、一生のうちに二度もオリンピックのために立ち退きを強いられることになるのです。

「別の都営住宅が用意されるから、問題ないのではないか」と考える方もいるかもしれませんが、住民の6割は65才以上の高齢者であり、80代以上の方も少なくありません。
高齢者にとって、住み慣れた地域を離れ、コミュニティが解体されることは心身ともに大きな負担になります。

また、国立競技場や明治公園周辺には路上生活をしている人もたくさんいます。建て替えに伴い、この人たちも排除されてしまうでしょう。

折りしも、6月12日からブラジルで開催されるFIFAワールドカップでも住民の立ち退きが問題になっています。
サッカー好きで知られるブラジルですが、今は「ワールドカップに多額の予算を費やすより、福祉や住宅など人々の暮らしのためにお金をまわすべきだ」と大規模イベントへの抗議行動が広がっています。

オリンピックやワールドカップなどの大規模スポーツイベントを招致することにより、住民を追い出し、都市の再開発を強行していく。
そうした開発手法に対する批判は国際的にも高まっています。

国立競技場とその周辺地域を今後、どうしていくのか。
そのことを考える際に、ぜひ「そこに暮らしている人の視点」を忘れないでいただきたいと願います。

 

※6月14日(土)に開催する「住まいは人権デー」のイベントでも、大規模スポーツイベントと「住まいの貧困」の関連について一緒に考えていきます。是非、ご参加ください。

6月14日(土)2014年 「住まいは人権デー」ミーティング &パレード
http://inabatsuyoshi.net/2014/05/21/253

 

※「反五輪の会」による聞き書き。住民の方の思いや団地での暮らしぶりが詳細に語られています。ぜひご一読ください。

都営霞ヶ丘アパート住民Jさんが語る「霞ヶ丘町での暮らし」(前編)
http://hangorin.tumblr.com/post/79559426423/j

都営霞ヶ丘アパート住民Jさんが語る「霞ヶ丘町での暮らし」(後編)
http://hangorin.tumblr.com/post/81200081549/j

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