【NHKへの手紙】貧困報道では生活保護に関する正確な情報提供をお願いします(下)

提言・オピニオン

NHK002この手紙の前半部はこちらです。

2012年11月19日にNHK教育で放映された『ハートネットTV』「シリーズ貧困拡大社会 見過ごされた人たち」では、生活保護基準以下で暮らさざるをえない人々の実態が取り上げられました。
この番組も、それまで一般に知られていなかった生活困窮者の状況を取材したドキュメンタリーとして評価しています。

しかし、この番組の中でも生活保護制度について誤解を与えかねないシーンがありました(この点については当時、番組あてにメールをしています)。
山梨県のNPOスタッフが、病気の母親と二人暮らしをしている51歳の男性の家庭を訪問して、話を聴く場面です。

 

【ナレーション】
さらに話を聞くと、市役所に生活保護の相談に行っていたこともわかりました。
しかし男性は健康な上、十分働ける年齢であると見なされ、申請することができませんでした。

【男性の証言】
窓口の人に「生活保護はだめだから職業訓練所を受けたらどう?」と言われたことがある

 

ここでも役所側の対応の問題点への言及はありませんでした。

「健康で働ける人はダメ」というのは典型的な「水際作戦」の手法です。
役所の違法行為の結果、男性とその家族が生活保護基準以下の困窮生活を強いられているのは明らかですが、その問題は看過されてしまったのです。

ここでも私は、その場面に「この役所の対応は違法です」という注意書きを文字で入れるべきだと思います。
テレビでは番組の一部だけを見る視聴者も多く、ここだけを見ると、健康で働ける人は生活保護を利用できない、という誤った情報が視聴者に印象づけられるからです。

近年、民放各社が国内の貧困問題を取り上げなくなる中、NHKが様々な角度から貧困問題を取り上げ、良質なドキュメンタリーを継続して放映してきたことを私は評価しています。
しかし、ドキュメンタリー制作に携わる皆さんには、貧困の実態を明るみに出すだけではなく、貧困をこれ以上悪化させないために行政をチェックするという役割を担っていただきたいと考えています。

ご存知のように、他の先進国に比較して日本の公的扶助制度の捕捉率は非常に低く、生活保護の要件がある人のうち実際に制度を利用できている人の割合は2~3割にとどまると推計されています。
その背景には、役所の「水際作戦」や制度に対する誤解、制度を利用することを恥ずかしいと思うスティグマがあります。
貧困問題を報道で取り上げるのであれば、こうした捕捉率を下げている要因を一つずつ取り除くための報道に取り組んでもらえればと心より願っています。

特に、生活保護を利用できていない生活困窮者の実態を報道する際、その人に対する福祉事務所の対応に法的な問題がなかったかどうか、生活保護などの社会保障制度に詳しい専門家にチェックしてもらう体制を作っていただきたいと考えています。

貧困の実態を取り上げるだけでなく、公的機関による違法行為を明確に批判し、制度に関する誤解やスティグマを積極的に解消していく。
そんな番組を私は見てみたいと願っています。

【追記】
1月27日にNHK総合で放映された『クローズアップ現代』「あしたが見えない~深刻化する″若年女性″の貧困~」の中で描かれた「水際作戦」については、厚生労働省からも「不適切」であるという見解が示されました。番組において、指導監督官庁からも明らかに「不適切」であるとみなされる対応の事例を紹介しながらも、その問題点の指摘がなかったことについて、重く受け止めていただきたいと思います。

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