【NHKへの手紙】貧困報道では生活保護に関する正確な情報提供をお願いします(上)

提言・オピニオン

NHKでドキュメンタリー番組制作に携わっている皆さんへ

1月27日(月)にNHK総合で放送された『クローズアップ現代』「あしたが見えない~深刻化する“若年女性”の貧困~」を見させていただきました。
今までマスメディアではあまり取り上げられなかった若年の単身女性やシングルマザーの貧困の実態を丁寧に描いた良質なドキュメンタリーでした。
しかし、番組中で生活保護制度に関して誤解を招きかねない表現があったことは看過できません。

番組ウェブサイトに掲載された放送内容の文字起こしから問題の部分を引用します。

【ナレーション】

この日も店には、小学生の子どもを育てる、30代のシングルマザーが、面接に訪れていました。
この女性は20代のころ、生活のために、一度風俗店で働いた経験がありますが、その後は別の仕事に就いていました。
去年、体調を崩して働けなくなり、生活保護を申請しましたが、生活状況を細かく調べるのに時間がかかると言われ、断念しました。
女性は、再び風俗の仕事に頼るしかなかったといいます。

【女性の証言】
シングルマザーの女性
「市役所にいくら通っても、申請するまで2か月かかるよ、3か月かかるよって。
待ってるわけにはいかないじゃないですか。だったらもう自分で働こうって決めて、気持ちだけですね。」

このナレーションの部分では、「生活保護を申請 時間かかり断念」というテロップが表示されていました。nhk01

しかし、一見してわかるように、生活保護を申請したが時間がかかるために断念した、という内容のナレーションやテロップと、「市役所にいくら通っても、申請するまで2か月かかるよ、3か月かかるよって(言われた)。」という女性の証言は矛盾しています。ナレーションやテロップでは申請したのにダメだったという印象を与えるのに対して、証言は申請の前の段階で足踏みをさせられたと述べているからです。

私たち、貧困問題に取り組むNPOは、全国各地の福祉事務所において生活に困った人を窓口で追い返す「水際作戦」が横行していると批判してきました。
その「水際作戦」の手法の一つに、生活保護制度に関する虚偽の説明をして、申請を断念させるという方法があります。
例えば、「住まいがないと生活保護を受けられない」、「働ける状態の人は受けられない」という虚偽の説明をして、相談者に「自分は生活保護を申請できない」と思いこませるわけです。
こうした場合、福祉事務所の面接記録の上では、「相談には応じたものの生活保護申請の意思は示されなかった」ということになります。

「生活保護の申請に時間がかかる」というのも、「水際作戦」で用いられる虚偽の説明の1つです。
生活保護の申請は、生活保護の申請書を記入して提出すれば済むことであり、「時間がかかる」ということはありえません。また、福祉事務所に対して口頭で申請の意思を表明しただけでも有効であると厚生労働省も認めています。

この女性は、「申請するまで2か月かかるよ、3か月かかる」という嘘を役所の担当者に言われ、生活保護の申請を断念させられたのでしょう。彼女は申請に至る前の相談段階で「水際作戦」にあったと考えられます。

この女性に対する福祉事務所の対応は明らかに違法な「水際作戦」ですが、番組内ではゲストの方が「このVTRのように、(生活保護の)申請を受け付けてもらえないというようなケースもあります。」と述べただけで、違法性に関する指摘はありませんでした。

私がこの点を問題にするのは、貧困問題を取り上げる番組の視聴者の中には、現在、生活に困窮している方や将来、生活に困窮する可能性のある方も多数含まれているからです。
そうした方々がこの番組を見た場合、「生活保護の申請に時間がかかる」という役所の説明を信じてしまい、生活に困窮しても生活保護制度は利用できないと誤解してしまうのではないでしょうか。
虚偽の説明を「嘘である」「違法である」と明示しないで放映してしまうと、結果的に制度に関する誤った認識を広めてしまうことになるのです。

もし私がこの番組の制作者であれば、ナレーションやテロップを女性の証言に沿った内容にした上で、「この役所の対応は違法です」というテロップを目立つように入れることでしょう。その上で、スタジオでも違法な「水際作戦」の問題点について詳しく説明をおこない、そうした違法行為にあった場合の相談窓口の連絡先をテロップで流します。
行政の窓口が虚偽の説明をした場合、その違法性を指摘して、同様の被害が広がらないようにすることこそ、報道機関の使命だと考えるからです。

なぜこのような番組構成になったのか、という点について、詮索をするのはやめておきます。
ただ、番組制作者の方に考えてもらいたいのは、せっかく貧困の実態に迫るドキュメンタリーを作ったとしても、生活困窮者が活用できる制度について誤解を与える内容が盛り込まれてしまえば、結果的に貧困を悪化させ、拡大させてしまうということです。

残念ながら、こうした傾向はNHKの他の番組でも見られます。(つづく)


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