居住をめぐる貧困ビジネス

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2008年秋のリーマンショックに始まった世界同時不況は、日本中に「派遣切り」の嵐を巻き起こした。同年の年末に東京・日比谷公園に開設された「年越し派遣村」では、派遣会社の寮を追い出され、仕事と同時に住まいを失った大量の派遣労働者の存在がクローズアップされた。

同じ年の春から、国は「ネットカフェ難民」をめぐる一連の報道を受け、大都市圏の自治体と共に「住居喪失不安定就労者」への支援策を開始していた。低賃金であるがゆえに安定した住まいを確保できず、ネットカフェなどの不安定な居所を生活の拠点とせざるをえない若者たちの存在が看過できない社会問題として認知されていたからである。

これらの事実は、現代日本の都市における貧困が生活困窮者本人にとって「住まいの貧困」(ハウジングプア)という形で顕在化しやすいことを意味している。

「衣食住」という言葉があるように、「住まい」とは言うまでもなく、人々の暮らしを支える基盤である。現代社会において住居や住民票を喪失することは、日常生活上での困難を増やすだけでなく、社会的信頼を失い、携帯電話の取得も困難になるなど、求職活動においても不利な立場に追いやられることを意味している。「貧困であるがゆえに住まいを失い、住まいを失っているがゆえに貧困から抜け出せない」という悪循環に陥ってしまうのである。

それゆえ、多くの先進国では「派遣会社の寮」に見られるような労働型の住居を避け、低廉な賃貸住宅を労働者に供給する政策をとっている。国際労働機関(ILO)は1961年、「労働者住宅に関する勧告」を採択し、「すべての労働者及びその家族に十分かつ適切な住宅及び適当な生活環境を提供することを確保するため、一般的な住宅政策の範囲内で住宅及び関連共同施設の建設を促進することを国の政策の目的とすべきである。困窮度の非常に高い者には、ある程度の優先順位を与えるべきである」という原則を述べた上で、「使用者がその労働者に直接住宅を提供すること」は、「やむを得ない事情のある場合を除き、一般的に望ましくないことを認識すべきである」と指摘している。つまり、派遣会社の寮などの労働型の住宅は、仕事と同時に住まいを失う危険性が高いから、国が率先して低所得者向けの住宅を整備するよう勧告しているのである。

政府が半世紀前に出されたこの勧告に従っていたならば、派遣切りにより多数の人びとが住宅も失うという状況は避けられた可能性が高い。「住まいの貧困」の背景には、中間層の持ち家取得推進のみを重視し、低所得者層の住宅支援を置き去りにしてきた「住宅政策の貧困」という問題が存在しているのである。

その「低所得者向け住宅政策の不在」を突くように拡大しているのが、居住系の貧困ビジネスである。そのため、安心して暮らせる住まいを求めていくことと、貧困ビジネスの告発は裏表の関係にある。

こうした問題意識のもと、2009年3月、東京で「住まいの貧困に取り組むネットワーク」が誕生した。ネットワークには、野宿者支援活動、借家人運動、ワーキングプアの労働運動など様々な活動に関わる人々が参加している。その活動を通して見えてきた居住系貧困ビジネスの状況を以下で述べていきたい。

「住まい」に関わる貧困ビジネスで、ここ数年で社会問題化した事例を類型化すると以下の4つに分けられる。

1 スマイルサービス、シンエイエステートなどの「ゼロゼロ物件」業者

2008年、東京の中央線沿線を中心に「ゼロゼロ物件」を提供していた「スマイルサービス」が、家賃を滞納した入居者の鍵交換、荷物撤去、居室への侵入等で入居者ら9名より提訴された(後に和解が成立)。同社は一時期、入居者との間に「施設付鍵利用契約」という名称の契約を結んでおり、入居者の居住権を著しく侵害する内容になっていた。批判を受け、現在は一年間の定期借家契約に変更。同社は別会社の「ハウスポート」という名前で事実上、営業を続けている。

同様の「ゼロゼロ物件」では、東京都三多摩地域を中心に物件を展開する不動産業者シンエイエステート及び関連会社のシンエイも問題になっている。2009年4月、東京都内の男性が家財道具を全て撤去されたとして、両社を提訴した。両社が家賃滞納時の「督促手数料」(3000円)や退去時の退室立会費など法的根拠のない金銭の徴収を行なっていること、連帯保証人を立てられない入居者に対して「居住権がない」という記載のある一か月単位の短期一時使用契約を締結していたことに対して、入居者からの批判が高まり、入居者を支援する「住まいの貧困に取り組むネットワーク」は、2009年8月、これらの契約内容の改善を求める要求書を両社に提出した。こうした動きを受けて、東京都は2010年6月、シンエイエステートに対して宅地建物取引業法違反を理由に29日間の営業停止処分を科している。

2 フォーシーズなどの家賃保証会社

家賃保証会社は入居者から保証料を受け取る代わりに、家賃滞納時に貸主に家賃を代位弁済することを業務とするが、損失を抑えるために入居者の居住権を侵害して追い出し行為を行なうことも多く、「追い出し屋」の温床になっているとして批判が高まっている。中でも株式会社フォーシーズは悪質な取り立てで知られ、2009年2月、福岡簡易裁判所はフォーシーズが福岡市内の男性に対して午前3時まで取り立てを続けた行為に対して慰謝料の支払いを命ずる判決を言い渡した。また、フォーシーズは2009年1月まで、家賃を1回でも滞納すれば連帯保証委託契約を自動的に打ち切り、「再契約保証委託料」として一万円を入居者に支払わせるという契約書を使っていた。東京都豊島区内に暮らす女性がこの契約が「公序良俗に反し違法だ」として、内容証明便で返還を要求したところ、2009年6月、一部が返還されている。

こうした追い出し行為に対して、法律家で作る「全国追い出し屋対策会議」が全国各地で相談活動、家賃保証会社等に対する損害賠償請求訴訟を行なっている。

追い出し行為に対する世論の高まりを受けて、政府は2010年2月、悪質な家賃の取り立てから賃貸住宅の入居者を保護する新法案、通称「追い出し屋規制法」案を国会に提出し、4月には参議院を通過した(2011年1月末現在、衆議院で継続審議となっている)。一方、家賃保証会社の協会は家賃滞納履歴のデータベース作成を開始し、家賃滞納歴のある入居希望者が民間賃貸住宅市場全体から締め出される危険性が懸念されている。

3 野宿者を狙う宿泊所ビジネス

民間賃貸住宅の入居者だけでなく、ホームレス状態にある生活困窮者をターゲットにした貧困ビジネスも跡を絶たない。その手法は、公園等で野宿者に声をかけて宿泊施設に囲い込み、生活保護を申請させて、保護費の大半を食費・宿泊費名目で徴収するというものであり、公的な宿泊施設の不備を突く形で大都市圏を中心に広がっていった。

2009年10月、千葉市内の宿泊所の元入所者が生活保護費を横領されたとして、NPO法人厚銀舎の飯島利夫代表を告訴した。告訴状によると代表らは銀行口座を開設するため、本人が書くべき「生活保護受給証明書」の申請書を同意も得ず作成、押印し、稲毛区役所に提出して証明書を入手したと言う。飯島代表は、関連団体FISの脱税事件で2010年3月に名古屋地裁で有罪判決を受けている。FISは首都圏を中心に約20ヶ所の宿泊施設(総定員数約2000人)を運営しており、依然から不透明な資金の流れが指摘されていた。

2011年1月には、東京を中心に14ヶ所の宿泊施設を運営しているNPO法人東京サポートセンターの理事兼事務局長の男性が数年間にわたり、元入所者2人の生活保護費計約1180万円を着服していたと、生活保護の実施機関である八王子市が発表した。代理受給のための委任状を偽造していたものとみられており、八王子市は刑事告訴する方針である。

これらの事例にみられるように、宿泊所ビジネスでは入所者の身柄が施設内に囲い込まれているために、保護費が本人の手に渡らないよう書類が偽造されてしまうケースが散見されている。また、劣悪な居住環境や食事の対価として高額の食費・宿泊費を保護費から差し引く契約内容にしてあるなど、合法性を装っているために行政機関も問題を認識しながらも放置してしまっている事例も多い。

こうした宿泊所ビジネスの中には、社会福祉法に基づく無料低額宿泊施設の届け出をしているものと無届けのものがあり、また届け出の有無にかかわらず、生活保護受給者を対象とする宿泊施設の中には良心的な運営をしているものも混在している。こうした状況が規制の実施を困難にしている面がある。

2009年3月に火災が発生して10名の生活保護受給者が死亡し、安全管理を怠っていたとして2010年2月に理事長と施設長が逮捕された「静養ホームたまゆら」(群馬県渋川市)のように、高齢の生活保護受給者をターゲットにした貧困ビジネスも近年見られるようになった。こうした高齢者施設の多くは、本来の生活保護の実施機関から遠隔地に設置されているため、そのことがさらに問題の露見を困難にしている。

4 生活保護費を搾取するアパート

2010年以降に判明した新たな貧困ビジネスの手法として、野宿者をアパートに住まわせた上で、その生活保護費の大半をピンハネする団体の存在が明らかになっている。千葉県内に展開する「シナジーライフ」という団体は、千葉県内や東京都内で野宿者に「生活保護が受けられ、3食も大丈夫」などと声をかけ、千葉市内でアパートを借りさせた上で生活保護費を申請。月4~5万円の家賃の他に、5万円程度を食費などの名目で徴収していたが、食料は月に白米が10キロ届けられるだけであったという。被害者は約200人いると見られており、2010年2月以降、8人の入居者らが損害賠償請求訴訟を提起している。

住まいのない生活困窮者にアパートをあっせんして入居させ、生活保護費から高額の家賃や弁当代を徴収する業者は関西では「囲い屋」と呼ばれており、法律家らによる「関西囲い屋対策会議」が被害の掘り起こしを行なっている。大阪市は、「囲い屋」を生活保護申請の入り口で排除するため、住まいのない生活保護申請者に公的な施設を提供するなどの支援を2010年4月から実施している。

このように貧困ビジネスの業態は様々であるが、共通しているのは「安心できる住まいが欲しい」という生活困窮者の正当な欲求を業者が悪用している点にある。「貧困ビジネス」であるとの批判に対して、こうした業者は「敷金・礼金無しで住まわせてやっているのだから、契約内容に文句を言うな」「保証人になってやっているのだから、我慢しろ」「屋根があるところに住まわせてやっているのだから、野宿よりマシだろう」と主張するのであろう。

そうであれば、批判の矛先は個々の業者だけでなく、こうした業者の温床となっている社会の構造にも向けなければならない。

その構造とは、多くの生活困窮者にとって「安心して暮らせる住まい」へのアクセスが阻害されていることである。具体的には、住宅行政において公的住宅政策が貧弱であること、民間賃貸住宅市場において入居差別が野放しになっていることやアパート確保のために高額な家賃や初期費用を要求されること、生活保護行政において「居宅保護」の原則が徹底していないことなどがある。

これらの問題を「住まいの貧困」の問題として一体的に捉え、政府に住宅政策の転換を求めていくこと。居住系貧困ビジネスの告発や規制強化を求める運動とともに、「住まいの貧困」そのものの解消に向けた運動をしていくことが、いま求められている。

(2011年9月刊行『貧困ビジネス被害の実態と法的対応策』日本弁護士連合会貧困問題対策本部 編、民事法研究会)所収


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