「追い出し屋」規制から住宅政策の転換を

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1、「追い出し屋」規制法案と家賃滞納者データベース化問題

本年2月23日、政府は悪質な家賃の取り立てから賃貸住宅の借家人を保護する新法案を閣議決定した。新法案の正式名称は、「賃貸住宅における賃借人の居住の安定確保を図るための家賃債務保証業の業務の適正化及び家賃等の取立て行為の規制等に関する法律案」。政府は今通常国会に法案を提出し、来年春以降の施行を目指している。

法案は、(1)家賃債務保証業の登録制度、(2)家賃等弁済情報データベースの登録制度、(3)家賃等の悪質な取立て行為(借家人への威迫、鍵交換、家財の持ち出し等)の禁止及び罰則(2年以下の懲役または300万円以下の罰金)、という3本の柱で構成されている。法案提出の背景には、家賃保証会社などが借家人の居住権を侵害する「追い出し屋」と化し、悪質な追い出し行為に関する国民生活センターへの相談件数が5年間で10倍以上に増加するなど、被害が急速に拡大していることがある。「追い出し屋」被害者を支援する法律家らで構成する「全国追い出し屋対策会議」は各地で計20件以上の損害賠償請求訴訟を提起している。
新法案の内容のうち、家賃保証会社への登録制度や悪質な取立て行為への規制は、法律家や借家人団体らが求めていたものであり、法律制定により露骨な追い出し行為が減少することが期待される。しかし、「追い出し屋」として社会的な批判を浴びた家賃保証会社の一部は、昨年秋、「全国賃貸保証業協会」(LICC)という業界団体を結成し、今年2月から家賃滞納者の記録を蓄積するデータベース(DB)の運用を開始している。

このデータベースが蓄積されると、過去に家賃滞納歴のある入居希望者が住宅に入居しにくくなることが予想され、民間賃貸住宅市場自体から締め出されてしまうことになる。今回の法案は、このDBを作成する業界団体をも国に登録させ、DBを運用面で規制する内容になっているが、DBの存在自体は追認しており、DB運用によりハウジングプア(住まいの貧困)層が増えることを防ぐ内容にはなっていない。

法案ではわずかに第61条において、「国及び地方公共団体は、家賃債務の保証を受けることができない者の居住の安定の確保を図るため、公的賃貸住宅に関する情報提供、公的賃貸住宅への入居における特別の配慮等必要な施策を講ずるよう努めるものとする。」という記述があるが、各地方自治体が自治体財政の悪化を口実に公営住宅等の縮小や新規建設抑制(例えば東京都では石原都政になって以来、都営住宅は一戸も増加していない)に動いているという状況を踏まえると、この努力規定は空しく響く。

私が代表を務めるNPO法人自立生活サポートセンター・もやいでは、生活困窮者の相談・支援活動を継続して行なっているが、2008年秋のリーマンショック以降、相談件数は以前の約3倍以上に増加し、現在では月に150人ほどの生活困窮者が事務所に次々に支援を求めてやって来る、という状況になっている。相談者のほとんどは仕事だけでなく、住まいをも喪失したハウジングプア状態にあり、アパートを手離す過程において家賃滞納を経験している人も多い。LICCの加盟社は2月末時点で13社だが、DBが本格稼働して加盟社が増えれば、DBは事実上、入居時の審査で家賃滞納歴のある者を振るい落とすブラックリストとして機能するであろう。そうすれば、ハウジングプア状態を経験した者はますます安定した住居を確保するのが困難になり、ハウジングプア層の固定化という事態が進行することになる。

LICCの動きは、「追い出し屋」を生み出してしまった業界の体質を改善するどころか、家賃滞納者が出てきてしまう社会的な背景を無視し、滞納者を市場自体から排除してしまえば問題は解決すると言わんばかりのものである。私はこれを「追い出し屋が締め出し屋に転身した」という表現で批判している。

2、定期借家契約による「住まいの細切れ化」

民間賃貸住宅市場から締め出されてしまった人々はその後、どうなるのであろうか。
その答えの一つは、「ハウジングプア層をターゲットとする貧困ビジネスの標的となる」というものである。その兆候はすでにあちこちで現れている。

本年(2010年)2月16日付け朝日新聞は、「家主敬遠?失業者向け住宅手当 利用、想定の4.3%」という記事を掲載した。ハウジングプア状態に陥った生活困窮者への目玉政策として、2009年10月より厚生労働省が開始した「住宅手当制度」(一定の要件で6~9ヶ月間家賃を給付する制度)の利用が進んでいないというのである。厚生労働省は2009年10月からの半年間で18万5千人の利用を予測し、300億円を計上したが、開始3ヶ月間の申請数は11518人で、うち支給決定数は7950人にとどまった。申請数に占める決定数の割合も低さも問題になっており、全国平均で69.0%、東京都の場合は申請件数1660件のうち56.3%しか決定していない。

制度が浸透しない背景には、受給要件の厳しさや制度の周知が進んでいないことに加え、受給額(東京都内で月53700円が上限)で物件が見つからないこと、連帯保証人が見つからないこと、大家側が支給期限内に仕事が見つからなかった場合の家賃滞納リスクを考慮して敬遠していることなどの要因が考えられる。

このことは、いくら政府がハウジングプア層の民間賃貸住宅への入居を促進しようとしても、高い家賃や保証人制度など民間賃貸住宅市場自体が抱える問題に介入しないまま借家人への直接支援を行なっても限界があるということを示している。

住宅手当制度への大家の敬遠を踏まえ、サブリース(また貸し)業者の「レオパレス21」は6ヶ月の定期借家契約というプランを用意し、各自治体窓口への営業を行なっている。これは住宅手当が支給されている間だけ居住権が継続するという内容であり、その期間を超えて居住を継続したい場合は再契約のための手続きと費用が必要になってくる。これは、一定期間の家賃支給を通して居住を安定化させようという制度の趣旨に反するものであり、制度を悪用するものであると言わざるをえない。

定期借家契約は2000年の借地借家法の改訂により導入された制度で、従来型の賃貸借契約では契約期間終了後も保障されている借家人の居住権が、定期借家では期間終了と同時に消滅する内容になっている。この制度は不動産業界団体の後押しにより、借家人団体などの反対を押し切って導入されたものである。定期借家制度は借家人に不利な契約になることから敬遠され、現在でも全体の5%程度しか普及していないが、近年では、生活保護世帯、ワーキングプア、高齢者、障がい者、ひとり親世帯など、入居差別により住宅を借りにくい層をターゲットに定期借家契約を進めてくる不動産業者も増加している。なかには2~3ヶ月間という短期の契約もあり、契約期間中に大家が家賃の値上げを提案し、拒絶すると契約終了時に追い出されてしまうというケースも珍しくない。

労働分野において派遣可能業種の原則解禁が「雇用の細切れ化」を進めたように、住宅分野では定期借家制度の導入という規制緩和策が「住宅の細切れ化」を進めているのである。

このようにDB化により、一般の賃貸住宅市場から締め出されてしまった人々に対して、「短期の定期借家なら貸してやる」と声をかけてくる業者は増えるであろう。それが意味するのは、不安定な居住形態に固定化される人々が増加するということである。

また最近では若年のワーキングプア層をターゲットに、「ゲストハウス」や「ルームシェア」という名目でベッドを貸し出す業者も増えており、その多くは借地借家法や旅館業法などの法律に基づかない契約形態であるものが多い。私がかつて相談にのった30代の男性は、「8畳のワンルームに2段ベッド5つで、一人あたり月35000円(日割無し)」という条件の部屋に居住していたことがあった。こうした現代版の「タコ部屋」業者も水面下で増殖していると思われる。

3、「囲い屋」による被害

一方、定期借家契約の住居や「タコ部屋」的な部屋にすら暮らすことができず、路上や公園などで暮らさざるをえない人々にも貧困ビジネスは触手を伸ばしている。こうした人々を狙っているのは、「囲い屋」と呼ばれる業者である。「囲い屋」には住居型と施設型の2種類があり、住居型は主として関西、施設型は関東に多い。

「囲い屋」とは、住所不定状態にある人々に声をかけて住居や施設に囲い込み、生活保護を受給させて、住宅費や食費という名目で生活保護費のほとんどを徴収するにもかかわらず、劣悪なサービスしか提供しない業者のことである。なかには、入居者の預金通帳や印鑑を無許可で預かっている業者も珍しくない。
大阪市などの調査では、大阪府内には住居型の「囲い屋」が少なくとも6業者あり、計約600人と契約している。同じく住居型の「囲い屋」である千葉県のシナジーライフという業者では、月約12万円の生活保護費のうち約10万円が徴収されていたが、食事として支給されていたのは劣悪な品質の米10キロだけであり、入居者は日々の食事も満足にとれない生活を強いられていた。2010年2月にはシナジーライフの入居者ら3名が保護費の一部や慰謝料を求める訴訟を千葉地裁に提起している。

施設型の「囲い屋」では、社会福祉法に基づく無料低額宿泊施設の届け出を行なっているものと、全くの無届けの施設がある。

2010年2月、名古屋地検特捜部は無料低額宿泊施設FISを実質的に運営する飯島利夫ら3人を、所得税約1億7000万円を脱税したとして、所得税法違反容疑で在宅起訴した。FISは、関東を中心に約20ヶ所(総定員数約2000人)の無料低額宿泊施設を運営しており、以前から不透明な資金の流れが指摘されていた。

飯島利夫はFISの関連団体である千葉県の厚銀舎の代表も務めているが、厚銀舎では2009年10月、元入所者2名が生活保護費を不当に天引きされたとして、業務上横領などの容疑に飯島代表らを刑事告訴している。

厚生労働省はこうした状況を踏まえ、2009年10月、「無料低額宿泊施設のあり方に関する検討チーム」を発足させ、劣悪な施設を規制する方向で議論を進めている。しかし施設型の「囲い屋」の中には、2009年3月に火災が発生して10名の生活保護受給者が死亡し、安全管理を怠っていたとして2010年2月に理事長と施設長が逮捕された「静養ホームたまゆら」(群馬県渋川市)のように、無届けの施設も多く存在する。規制はもちろん必要だが、生活保護行政がこうした劣悪な施設に依存せざるをえない状況を変えていかない限り、規制をかいくぐる新たな形態の貧困ビジネスが生まれるだけである。「追い出し屋」問題と同様、規制だけでなく、ハウジングプアを生み出す構造そのものに切り込んでいく姿勢が求められている。

4、住宅政策の一元化と転換を

このように昨年来、居住権を侵害する不動産関連業者や生活保護費を搾取する貧困ビジネスに対する社会的な批判が高まり、政府も規制に乗り出さざるをえなくなってきている。このことは、悪質な業者による被害を受けた当事者が声を挙げ、法律家が訴訟を提起し、各運動団体が問題を社会化してきた成果だと言える。
私が世話人を務めている「住まいの貧困に取り組むネットワーク」でも、悪質な不動産業者や管理業者に対して、そこの物件に暮らしている当事者が主体となったデモを行なうなど、問題の社会化とともに借家人当事者のエンパワーメントをめざして活動を進めている。

今まで見てきたように、「追い出し屋」問題、DB問題、「囲い屋」被害などが、ひと連なりの「住まいの貧困」の問題として存在するのに対して、行政側の対応は「追い出し屋やDBへの規制は国土交通省」、「住宅手当と生活保護関係は厚生労働省」というように分断されたままである。これでは、「問題が起こってから後追い的に規制を行なう」というレベルの対策しか期待できない。

近年、厚生労働省と文部科学省に分断された子どもの育成支援に関する政策を効率的に統合していくために「子ども家庭省」の創設が提案されているが、住宅政策についても複数の省庁に分かれた住宅政策を統合して、一貫性のある政策を推進するためには、「住宅省」(仮称)への省庁統合が不可欠であると私は考える。

その上で、戦後一貫して続いてきた持ち家重視の住宅政策を改め、民間賃貸住宅入居にあたっての公的保証制度の導入や入居差別の禁止を定めた法律の制定、公共住宅政策の拡充等を実施していくべきであろう。

特に東京においては、住宅を確保できないハウジングプア層が拡大する一方、民間の住宅では空き家率が約2割に上っており、「住まいのミスマッチ」が生じている。幅広いハウジングプア層に対する公的保証制度が導入されれば、空き家を抱える大家も喜んで住宅を貸し出すようになり、住宅手当の利用率も上昇するであろう。また、借り上げ型の公営住宅を増やすこともミスマッチの解消に貢献するであろう。

今回の「追い出し屋」規制法案がこうした転換に向けた第一歩となるかどうかは、社会全体の関心にかかっている。拡大し続ける「住まいの貧困」にストップをかけ、「安心して暮らせる住まい」がすべての人々に保障される社会をめざすために、消費者団体をはじめとする各団体との連携をぜひ強めていきたいと考えている。

(2010年4月、『消費者法ニュース』に掲載)

※参考文献


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