個室ビデオ店放火:「住まいの貧困」が問題だ

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2008年10月1日に大阪市であった個室ビデオ店の放火事件では、生活の困窮ゆえにこうした店を仮の住まいとして利用していた人々も犠牲になった。ネットカフェ難民にならって「個室ビデオ店難民」と名付けたメディアもあったが、「○○難民」という造語をつくるだけでは問題の表層をなぞるだけだ。むしろ、事件の背後に潜む国の住宅政策の貧しさにこそ、目をむけてほしい。

私がかかわるNPOには、生活に困り、住まいを失った多くの人が相談に来る。彼ら彼女らが寝起きする場所はネットカフェや簡易旅館、友人宅やファストフード店、住み込みの宿舎、路上など様々だ。就労先へのアクセスや懐具合にあわせ、宿泊先を変えている。

問題の核心は、人々の耳目を集めやすい宿泊場所の特異性ではない。ワーキングプア状態にある人が安定した住まいを確保するのが困難な状況にあること、いわばハウジングプア(住まいの貧困)と言うべき状況から抜け出せないことなのだ。

都市でアパートを借りるには敷金や礼金、手数料など多額の費用がかかる。低賃金の人がこれを負担するのは困難だ。最近は敷金や礼金が不要の「ゼロゼロ物件」も増えているが、借地借家法に違反して入居者の居住権を制限する契約を結び、家賃が1日でも遅れると鍵を取り換え、違約金を請求する会社もある。高い初期費用が払えず危険度の高い物件に入居し、ある日突然、住まいを失う人もハウジングプア状態にあると言える。

背景には、地域や企業任せで特に貧困層への住宅政策を怠ってきた国の無策ぶりがある。日本では公営住宅政策が厚生労働省ではなく国土交通省の管轄であることに象徴されるように、住まいの問題を福祉政策に結びつける発想が欠落してきた。

行政のハウジングプア対策は省庁の縦割りに阻まれ、対象者の定義すら混乱している。ホームレス(路上生活者)は旧厚生省、住宅喪失不安定就労者(ネットカフェ生活者など)は旧労働省、住宅セーフティネット法に基づく住宅確保要配慮者は国交省が管轄し、互いの連携は皆無に等しい。省庁の壁を越え、政治の力で政策を進めさせるためにも、総選挙ではワーキングプアとともにハウジングプアが争点となることを期待したい。

政府は、すべての人に安定した住まいを保障するという理念を掲げ、公営住宅を含む住宅政策を厚労省に一元化し、不安定な居所に住まざるをえない人の実態調査から始めるべきだ。

個室ビデオ店の悲惨な事件が明らかにしたハウジングプアの現状は、国の住宅政策の貧しさを照射している。この言葉を広めることで、政策の転換を促すことが必要なのだ。

(2008年10月7日、朝日新聞「私の視点」欄に掲載)


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