中学生のみなさんへのメッセージ

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ひとりひとりの人間を見てほしい

みなさんは、「ホームレス」という言葉を聞いて、何を連想するでしょうか?「くさい」?「きたない」?「あぶない」?・・・いろんな人にきくと、だいたいマイナスのイメージが多いですよね。でも、ぼくがみなさんにお願いしたいのは、最初から決まったイメージで見るのではなく、ひとりひとりを見てほしい、ということなんです。そしてそれは、中学生のみなさんだからできることだと思っています。
たとえばみなさんは、いろんな事件がおこるたびに「イマドキの中学生は・・・」とわかったようなことを言っている人をテレビなどで見たことはありませんか?そんな時、どんな思いがしましたか?「ひとくくりにするのではなく、ひとりひとりを見てほしい」と思った人もいるのではないでしょうか。ホームレスの人たちもおんなじです。「ホームレスは・・・だ」とひとくくりにされて悪口を言われるたびに、きずついて、「それはちがう」と思っているひとりひとりの人間がいます。そのことをまず知ってもらいたいと思います。

「ホームレス」という名前の人はいない

「あそこにホームレスがいる」とか「最近、ホームレスが増えてきた」とか言っている人がいますよね。でもぼくは、これは変な言い方だな、と感じてきました。「ホームレス」とは家がなくて、公園や路上などでくらさなければならない「状態」を指すのであって、「ホームレス」という「人」がいるのではありません。だから「ホームレスの人がいる」というのならわかるのですが。「ホームレスがいる」と言うのはおかしいと思うのです。「ホームレスがいる」というと、まるで「ホームレス」という名前の人たちがいるような気がしませんか?
「ホームレス」は状態をあらわす言葉だから、今日、外で寝ている人も、屋根のあるところで生活できるようになれば、もう「ホームレス」ではありません。ところが、「ホームレス」という名前の人がいると思いこんでいる人たちは、このことがわからないようです。たとえばホームレスの人が入る施設の計画が発表されると、「建設反対!ホームレスは来るな!」と言って反対をする大人の人たちがいます。施設に入れば、もう「ホームレス」ではありません。服を着がえて、毎日おふろに入ることもできます。「ホームレス」の状態をなくすために施設をつくるのに、「ホームレスは来るな!」というのは変な話ですよね。
ぼくの知っている元ホームレスの人は、不動産屋で「以前ホームレスをしていた」ということがばれただけで、アパートに入れなくなりました。なんとか「ホームレス」の状態から抜け出そうとしている人たちの足をひっぱる人がいる、というのはほんとうに悲しいことです。

「働きたくても、仕事がない!」

ではなぜホームレスの人たちがこんなに増えてしまったのでしょう?ホームレスの人が増えてしまった理由にはいろんなありますが、いちばん大きいのは仕事の問題です。「働きたくても、仕事がない!」・・・そういう声をぼくはたくさんのホームレスの人から聞いてきました。
「仕事なんていくらでもあるんじゃないの?」と思う人もいるかもしれません。若い人の感覚からするとそうかもしれませんね。でもホームレスの人の中には50代、60代の人がたくさんいるし、体をこわしている人もいます。そしていったんホームレスの状態になってしまうと、「住所がないから」という理由で会社はやとってくれなくなります。そして食べ物もろくにとれない路上での生活を続けていくうちに、さらに体を悪くしてしまう、という悪循環にいたってしまうのです。
この問題についてぼくは、やはり政府がしっかりしてほしいと思っています。「働きたくても、仕事がない!仕事がしたい!」という多くの人の声に正面からこたえてほしいと思います。

言えなかった「答え」

ぼくが以前、2人のホームレスの人と高校に行って、授業で話をした時のことです。ひとりの学生が「私の家も親が失業して、たいへんだったときもあったけど、なんとかみんなでのりきりました。みなさんは国になんとかしてほしい、とか言っているけど、どこかに甘えがあるのではないですか?」と質問をしました。
その質問に対して、ひとりのホームレスの人は「そういう面もあるかもしれない」と言いました。もうひとりの人は、「何回も面接に行ってるんだけど、仕事が見つからない。本当に仕事がしたいんです!」と訴えました。
ぼくは一緒に行ったホームレスの人たちがその質問にどう答えるのか、ドキドキしながら見守っていて、自分でその質問に対して答えることができませんでした。「甘えがある」と言うことも、「甘えはない」と言うことも、ホームレスの人たちをひとくくりにして話すことになります。「ホームレスの人たちはみんながんばっている」とか、「みんないい人だ」と言うのは、「みんな悪い人だ」とか「みんなアブナイ」と言うのと一緒で、ウソになります。じゃあ、何と言えばいいのか?
ずっとそのことを考えてきて、今では、こんなふうに答えたいな、と思っています。
「君と君の家族が体験したそのつらさと、いまホームレスの人たちが感じているつらさは、ぜったいにどこかでつながっています。そういうつらい思いをしなくてもいい世の中をぼくはつくっていきたいし、そのために何ができるか、君たちと一緒にそのことを考えたい」
言えなかった相手に代わって、いま、みなさんにその言葉をおくります。

路上で命が奪われないために

ぼくは東京の新宿で、ホームレスの人たちとともにいろんな活動をしてきました。いつもホームレスの当事者の人たちと一緒になって、ごはんを何百人分もつくったり、夜の街を歩いて、具合の悪い人がいないか声をかけたり、ときには重病の人に出会って、救急車を呼んで病院についていったりしてきました。残念ながら、人が路上で亡くなるのにも何回も立ち会ってきました。
「路上で人が亡くなるような社会はおかしい」とぼくは思います。具合が悪いのに誰にも声をかけられずに放っておかれたり、食べるものがなくてやせ細ったり、寝ている時にいきなり暴力をふるわれたりして、たくさんの命が路上で奪われていっています。そんなことはもうヤメにしたい。そんなことのない世の中をつくりたいと思っています。
そのために何ができるか、ぜひみなさんと考えたい。そして、まず多くの人たちに、路上で苦しい思いをしている人たちがいる、ということを知ってほしいと思います。このブックレットを読んでくださったみなさん、まずは友だちや家族の人と「ホームレス」について語りあうことからはじめてみませんか。

(2003年8月、NPO法人CEP・子どもひろば作成のパンフレットに掲載)

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