女子高生とホームレス~安心できる場所を作るために:対談 仁藤夢乃さん(一般社団法人女子高生サポートセンターColabo 代表理事)

対談・インタビュー

きっかけは「私達高校生も同じじゃん!」

稲葉:本日はあわやハウスにお越しいただき、ありがとうございます。今日の対談は、一般社団法人女子高生サポートセンターColabo代表理事の仁藤夢乃さんに来ていただきました。よろしくお願いします。
仁藤:よろしくお願いします。
稲葉:仁藤さんをご存知の方は多いと思いますけれども、「女子高生の裏社会」という本を私も読ませていただきましたが、JK産業の実態について大変詳しい報告をしていただきまして、また、最近テレビなどのメディアなどでも活躍されています。先日、反貧困全国集会でもシンポジウムで一緒だったんですけど、そこでもいろいろ話していただいたんですけど…。ご存知の方も多いと思うのですけど、仁藤さんがなぜこのような活動を始められたかというところから話していただけますか?
仁藤:私の高校時代は家とか学校でいろいろうまくいかなくて家庭も崩壊していて、学校も、「不登校」という言葉が嫌で「登校拒否」と言っていたんですけど、まわりにいる大人達ともすれ違いというか、理解し合えない生活をしていて、家庭では結構物が飛んだり、暴力的な言葉も飛び交うようだったのが中高時代でした。私は高校を辞めてしまったんですけど、そのあと家とか学校とかに居場所がなく、安心できる場所がなくて、私は渋谷の街で過ごすようになりました。一ヶ月の内25日くらいは渋谷で過ごして、高校生なんでアルバイトもしていたんですけど、まだ漫画喫茶とかネットカフェにでも泊まれる時はいい方で、お金のないときはビルの屋上にダンボールを敷いて一夜を過ごしたりとかしてました。その時は「うちらリアルホームレスだよね」とか、マスメディアで30代男性達がネットカフェ難民になっているニュースを知って「問題だよね」とか言い合っている時代でした。
稲葉:いつくらいですか?
仁藤:2006年に私は高校を中退したんですけど、だから、2004年、2005年くらいからそんな感じでした。
稲葉:もやいもそのくらいからネットカフェ暮らしの若者の相談が増えたんです。
仁藤:そうですか。私達もテレビ見ながら、「うちらもだね」なんて言ってました。
稲葉:この本のサブタイトルにも”関係性の貧困”という言葉が使われていますけど、私と湯浅誠が中心になって2001年に「もやい」という団体を立ち上げた時のキーワードが”人間関係の貧困”という言葉でした。1990年代からホームレスの人たちが各地で増え始めて、私達はその人達の支援をしてホームレスの人たちの状況を見るにつけ、経済的に貧困状態にあると同時に人間関係、繋がりの面で貧困状態にあるなと感じたんですね。ですから、その両方のサポートをしていかないといけないということで、特にホームレスの人たちがアパートに入る時に必要な保証人を提供するという事業を始めたわけですけども、それと全く同じような状況が2000年代からネットカフェという言葉がでてきたように、若年の働いている人たちに拡がって、それがいまや高校生にまで拡がっているというのが(仁藤さんの本には)克明に描かれていて、すごくショックを受けたのですけど、こういう中でどのような活動をしてらっしゃるのですか?
仁藤:そうですね、今は女の子達との関わり作りというか、関係づくりをしているんですけど、私も高校中退したあと、19歳くらいになって大学に進学しようかと思った時に、知人に勧められて湯浅さんの本を読んで、そこで湯浅さんや稲葉さんがおっしゃってる「貧困というのは経済的なものだけでなく、精神的や人間関係の貧困もある」というのをその時に学んで、「私達高校生も同じじゃん!」と思ったのが今の活動に通じているんだと思います。
稲葉:なるほど
仁藤:ホームレス支援に本当に似てると思うんですけど、夜の街を巡回して、22時半以降とか終電前に帰れない、または帰ろうとしない女の子達に話しかけて、そこから繋がって話を聞いたり相談を聞いたり。一緒にご飯食べよって会を開いて、いろんなお姉さん達を呼んで視野を広げたりしてもらったり、繋がりを作ったりとほそぼそとやっていたんですけど、それが本も出て、すごい注目するようになって、女の子たちからもSOSやいろんな声がすごく増えてきて、もうちょっと女の子達に届けられる活動にこれからしていきたいなぁと思っているんですけど、出会う女の子の中にも本当にホームレスの方々と同じような状況にある方がいらっしゃいますよね。家とか学校に居場所がないとか、たとえば虐待を受けているんだけど周りは気づいていないとか、気づいていても誰も手を出せない状態であるとか、そうやって安心して過ごしたり帰る場所がないときに女の子たちの行き場がないんですね。そんな時に街に立ったりとか、ネットにSOSを書いたりとかするわけですけど、そこに気づいて手を差し伸べようとする大人がほぼいないんです。
私も高校生の時に街に立っていた時に、周りの大人は冷たい目を投げかけ通り過ぎると思っていました。声をかけてくる大人っていうのは、買春目的のおじさんだったり、JKビジネスのような危ない仕事に誘うようなスカウトだったり、自分たちを性的な対象とか商品として見るようなそんな大人しかいないんです。
でも、そうではなくて本当はもっと支援したり支えたいという大人たちが街に立って声を掛けたり支援に繋げたりする必要があると思うし、そうしていきたいと思います。pic-b

行き場をなくした子どもたちはどこにいる?

稲葉:本の中でも、裏社会でのスカウトは力があるってお話を書いておられましたけど、社会的に孤立しがちな人たちが自分からどこに助けを求めていけばいいのか分からないという中で、向こうから声を掛けてくる人はむしろ搾取をする側の人っていうのは、ホームレスの世界も全く同じなんです。JK産業のスカウトが高校生に声をかけていくやり方と、日雇い労働者を集める手配師という、場合によっては住み込みの施設に入れてタダ働きさせるような人たちがいるんですが、そういう人たちが一見優しい感じで、ホームレスのおじさん達にご飯食べさせてやったり缶コーヒーおごってやったりして、気持ちをほだしてから取り込んでいくという、そのやり方と全く同じだなぁと思ったんですね。
で、それに対して、NPOの活動、ホームレス支援はすでに20年くらいの歴史がありますから行政側の支援も徐々に進んできたというところもあって、各地のNPOは動いているんですけど、それでも裏社会の方がどんどん新しい形態を作り出していきます。例えば貧困ビジネスといって生活保護の施設に囲い込んでいくといかですね、本当にいつもイタチごっこで、多分僕らの方が負けている。きちんと支援をしていこうとする力がまだまだ足りないなと思っているんです。今後仁藤さん達の団体として、厳しい状況の中でどういうアプローチをしていこうと思っていますか?
仁藤:そうですね、まず私もそういう女の子たちが今日帰るところがないという時に来れる場所を作りたいと思っていて、そこにご飯があったりとか、休める布団があったりとか、そこに安心できる、信頼できる大人がいるような場所を作りたいなあと思っています。それは、街でいろんな女の子に出会って声を掛けると、「本当に気づいてくれてありがとう」って言われたり、「女の人と話すの3週間ぶり。いつも声を掛けてくるのは男の人だから」とか答えてくる。事情を聞いみると、日常的な虐待というほどではなくても、週に一回だけ帰ってくる父親がすごい暴力を振るってくるとか、その父親から性的虐待を受けているとか、なかなか周りに言えない話が多くて。
でも、外の人にそういう話をすると、「児童相談所は何してるんだ」とか、「学校は何してるんだ」とか、「福祉に繋げ」とか「警察に通報しろ」とか言われるんですけど、実際は警察に補導されたところで「家があるでしょ、帰りなさい」って言われちゃったり、児童養護施設で保護される対象の年齢未満だったり、行き場がないんです。
私が高校時代はまだネットカフェに入れたりしてけれど、今は身分証なければダメだし、未成年は夜は入れない。街でも規制が厳しくなって補導員がすごくたくさんいて、街にいるもの危ない。
稲葉:ファーストフード店にもいられないという感じですか?
仁藤:女の子たちが夜に入ると、渋谷、新宿などは厳しくて私服警官が回っているので、マックにいても補導されたりした女の子から連絡がきたりするんですね。
稲葉:では、子どもたちはどこにいるんですか?
仁藤:そうなんですよ。そうなると、みんなスマホ持ってるので、ラインだとかカカオトークとか、子ども達に流行ってるアプリがあるので、そういうところで「今夜泊めてくれる人いませんか?」とか、「飲みに行かない?」とか、泊まるとこあるよって誘ってくれるおじさんに着いていくしかない。子どもたちは街にもいられなくなっている。pic-c

「とにかく今どうにかしなくちゃいけない」

稲葉:保護未満の子ども達がいると本でも強調されていますけど、そうした待機場所のない子どもたちを一時的には保護できるような、役所ではない気軽に相談できる場所で且つちょっと泊まれる場所っていうのが必要だなって思うんです。なかなか親権の問題とかあって難しいと思いますが。
仁藤:未成年に対する子達の支援って、本当に「親が一番」という方向で出来ているし、親権の問題ももちろんあるし、家に戻すのが一番幸せだという考え方で児童福祉とかも作られているので。でも、関わってる女の子達を見ていると、とにかく今どうにかしなくちゃいけないっていう状況があって。本当はそこに親への支援、親も子もどちらもサポートしていく必要があると思っています。ただ、今は子への支援も親への支援も中途半端な状況だし、当事者である親も子もSOSを出せなかったり、そもそも自分の状況に気づいていないという問題があったりしています。でも、私は目の前にいる子たちが、行くところがない時に援交おじさんに着いて行かなくていいようにしたいんですよ。
女の子達がなんで児童養護施設に行きたがらないかって言うと、そこに入る前に一回行政とか弁護士とか警察とか通さなくちゃいけないですけど、そこで時間が掛かったり、一泊しなくちゃならない時に携帯を取られたりするんです。でも携帯がないと、虐待されている子などは親が来るかもしれないと思って怖くなる、という事情があるんです。だから携帯を奪い返して脱走して、結局また援交おじさんとこに行くことになっちゃう。
だから私達が作りたいなと思っているのは、誰でも来られる開かれた場所で、避難が必要で制度に繋げなくてはいけないという女の子達の入り口になれる場所なんです。今ある行政の窓口も4時とか5時とかまでなので、私達としてはむしろ22時以降からっていうイメージでやっていきたいなと思っています。
稲葉:この7月にこの個室シェルターを開設して、つくろい東京ファンドという団体で運営しているんです。つくろい東京ファンドのコンセプトとしては、ホームレス支援の分野でも制度はできたんだけど、そこからこぼれ落ちる人たちがまだまだいらっしゃると、今お話を聞いていて、まさに福祉が抱えている問題は一緒だなぁと思ったんです。現在の制度はやっぱり手続きが雑であったり、行政側の紹介する施設が融通利かなかったり、使う人の立場に立っていない。だから、使う人の立場に立ってまず安心で安全な場所を提供しようということで、このシェルターを開設しました。
このシェルターはワンフロアーなので、男性限定にしているんですけど、将来的には女性のシェルターも何らかの形で作れないかなぁと考えていて、今後ともいろいろ連携させていければと、全面的に応援していきますのでよろしくお願いします。
仁藤:はい、是非、よろしくお願いします。
稲葉:本日はどうもありがとうございました。pic-a

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