激化する「水際作戦」で排除される数百万人

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「自分が死んでも骨ひとつ拾わないと親に一筆書いてもらったら、生活保護を認めてやってもいい」

東京都内の福祉事務所に相談に行った20代の男性は、このように職員に言われて追い返されました。芸能人の親族が生活保護を受給していたことが問題視され、厚生労働省が生活保護制度における「扶養義務の強化」を打ち出す中、従来から存在した「水際作戦」(役所に相談に来た生活困窮者を窓口で追い返すこと)が激化している実態があります。

生活に困窮している方の中には、配偶者による暴力や親族からの虐待、引きこもりや精神疾患がきっかけとなった家庭内不和など、複雑な家庭環境を抱えている方が少なくありません。生活保護制度における扶養義務が強化されると、こうした個別事情は考慮されず、「とにかく家族に頼りなさい」という窓口対応が増えることが懸念されています。現時点ではまだ制度は変更なされていませんが、役所の窓口では制度改悪を先取りする形で扶養義務を口実にした追い返しが始まっているのです。

また、マスメディアによる生活保護バッシングが強まった今年(2012年)の5月以降、福祉事務所の窓口において「最近は生活保護に対する世間の眼が厳しい」と職員が繰り返し発言するという嫌がらせも頻発しています。生活保護費は「国民の税金」から出ているということを強調し、本人が抱えるスティグマ(制度利用を「後ろめたい」と思う気持ち)を刺激することで、申請を断念させようとするのです。本来であれば、制度に関する誤解や偏見を解消すべき立場にある行政職員がマスメディアによるバッシングを悪用していることに怒りを感じます。

生活保護制度をめぐる最大の問題は、こうした「水際作戦」やスティグマにより、数百万人とも言われる人々が制度から排除されていることにあります。その中から最終的に餓死や孤立死に追い込まれる人も少なくありません。厚生労働省の統計によると、1995年から2010年までの16年間に国内で餓死した人は延べ1084人にのぼります。現在の政府方針や役所の窓口対応はこうした悲劇を確実に拡大させるものです。

ぜひ多くの方々に、バッシング報道に騙されず、生活保護をめぐる「真の問題」は何なのか、ということを知っていただきたいと思っています。

(2012年11月23日付『週刊金曜日』)


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