高齢者が安心して暮らせる住宅はどこに?~深刻化する入居差別と「受け皿」と化す貧困ビジネス

アーカイブ

初出:朝日新聞社「論座」サイト 連載「貧困の現場から」 2017年3月24日

困難を極める単身高齢者の部屋探し

昨年12月、私が代表を務める一般社団法人つくろい東京ファンドが運営する個室シェルター「つくろいハウス」(東京都中野区)に80歳の男性が入所した。

佐久間さん(仮名)は月に十数万円の年金収入があるものの、2年前、住んでいたアパートが老朽化して取り壊しになり、立ち退きを余儀なくさせられた。すぐに次のアパートを探したものの、不動産店で自分の年齢を告げると、どこの店でも「それは難しいですね」と言われ、退去までに次の部屋を確保することができなかった。仕方なく、荷物を処分して、カプセルホテルに移り、部屋探しを続けたものの、いつまで経っても見つからない。そこで、ホームレス支援団体に相談し、私たちのシェルターに入居することになったのだ(プライバシー保護のため、個人情報の一部を変えてある)。

「つくろいハウス」は、ホームレス状態にある人がアパートに移るまでの一時的な待機場所であり、近隣の不動産店の協力も得て、入所者がアパートに移るためのサポートも行っている。しかし、佐久間さんの部屋探しは困難を極めた。ご自身は持病もなく、足腰もしっかりしているのだが、その年齢ゆえにアパートの大家さんたちが孤独死を恐れ、受け入れてくれないのだ。アパートに入居した後も私たちが緊急連絡先となり、定期的な安否確認を行うと言っても、受け入れてくれる物件はなかなか出てこなかった。

私は過去に80代の単身高齢者の部屋探しを何度かお手伝いしたことがある。その際に協力してくれた知り合いの大家さんに今回もお願いしようと思って連絡をしたところ、大家さん自身が高齢になったため、すでに代替わりしていて、アパートの管理や入居審査は不動産会社に任せることになったという。その管理会社の担当者は親身になって話を聞いてくれたものの、検討の結果、やはり80代の単身者の入居は無理と言われてしまった。

その後も各方面をあたった結果、最終的に今年2月下旬、佐久間さんはなんとか6畳一間の風呂無しアパートに入居することができた。ご本人は「銭湯が好きだから風呂無しアパートでも良い」と言っていたが、バスルーム付きの物件にこだわっていれば、いつまで経っても部屋は見つからなかったかもしれない。

貧困ビジネス施設が「終のすみか」に

佐久間さんのように、住んでいた賃貸住宅を立ち退きによって追われてしまう高齢者は少なくない。首都圏では2011年の東日本大震災以降、耐震性の弱い木造賃貸住宅の取り壊しや建て替えが進んでおり、その結果、そこに暮らしていたお年寄りが住まいを失ってしまうケースも散見される。立ち退き料が支払われたとしても、次に入居する住宅が見つからないために、高齢者がホームレス化してしまうのだ。

こうした木造賃貸住宅(木賃アパート)は、戦後の住宅難の時代に作られたものが多く、かつては山手線を取り囲むように「木賃ベルト」と呼ばれる木賃アパート密集地域が広がっていた。木賃アパートの家賃は安く、かつては地方から都市に流入した学生や労働者の受け皿になっていたが、現在暮らしている住民の多くは低年金の高齢者だ。例えば、年金収入が月10~11万円しかない単身高齢者が家賃3万円の風呂無しアパートに暮らしているといった具合である。

立ち退きによって木賃アパートを追われた高齢者はどこに行くのだろうか。木賃アパートが建て替えになる場合、ワンルームマンションが新たに建てられることが多く、それに伴って家賃は月6万円以上に上昇することになる。家賃をまかないきれないため、新しい物件に入れない高齢者の中には、立ち退きをきっかけに福祉事務所に相談し、生活保護を申請する人もいる。収入が生活保護基準(東京都内で単身世帯の場合、住宅費を含めて約12~13万円)を下回っており、資産がほとんどないといった要件をクリアすれば、年金生活者でも生活保護を利用できるからだ(この場合、生活保護基準と年金額の差額が保護費として支給される)。

しかし、生活保護制度を利用しても、行政が住まいの確保にまで動いてくれるケースはまれである。福祉事務所の中には、立ち退きに遭っている高齢者が窓口に相談に来た場合、民間の宿泊施設への入所を勧めるところが少なくない。その中には、「貧困ビジネス」と言われる劣悪な環境の施設も多く含まれている。

昨年(2016年)12月30日、毎日新聞に掲載された「無料低額宿泊所 年150人死亡…東京・千葉 滞在長期化」という記事によると、住まいのない生活保護利用者の宿泊場所として運営されている民間の宿泊所において、入所者の死亡が相次ぎ、東京都と千葉県の民間宿泊所だけで年間150人以上が死亡退所しているという。また同記事によると、「船橋市の宿泊所で死亡退所した19人は全員男性で、死因はがんが最多の8人。平均年齢は67.8歳、平均入所期間は4年8カ月で、最高齢は80歳、最長入所期間は8年7カ月だった」という。貧困ビジネスの施設が高齢者の「終(つい)のすみか」と化している現状があるのだ。

空き家を活用した住宅セーフティネットの創設へ

自分で暮らしていける年金収入があっても、あるいは生活保護によって最低限の収入が保障されていても、高齢者が安心して暮らせる住まいを確保できない。

こうした高齢者への入居差別の問題は、近年、国レベルでも大きな議論となっている。

2014年には国土交通省に「安心居住政策研究会」という有識者の審議会が設置され、「高齢者、子育て世帯、障害者等の多様な世帯の安心な住まいの確保に向けた目指すべき方向性、今後取り組むべき対策等」の検討を行った。

2015年4月に発表された同研究会の「中間とりまとめ」では、高齢者の入居に拒否感を持つ家主の割合を現在の6割から2020年度までに半減させる、という目標値が掲げられた。

この「6割」という数値は、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が2010年11月に実施した「高齢者の入居に拒否感がある賃貸人の割合が59.2%にのぼる」という調査結果を踏まえたものであった。「拒否感」とは「なるべくなら入れたくない」という気持ちを持っているという意味である。

しかし、皮肉なことに「中間とりまとめ」が発表された後の2015年12月に実施された同協会の調査では、「拒否感がある賃貸人の割合」が70.2%まで上昇してしまった。その影響か、2016年4月に発表された安心居住政策研究会の最終報告では前述の数値目標は盛り込まれなかった。

最終報告は、全国各地の自治体に設置されつつある居住支援協議会の活動を活性化させることにより、高齢者など住宅の確保に配慮が必要な人たち(「住宅確保要配慮者」)の入居を円滑にしていくという内容に落ち着いた。居住支援協議会とは、「住宅確保要配慮者」が民間賃貸住宅に円滑に入居できるよう支援するため、それぞれの地域の自治体の住宅部局、不動産業界団体、民間の居住支援団体等によって構成される協議会である。国土交通省は居住支援協議会の設立を各自治体に呼びかけており、1協議会ごとに年間1000万円の補助を出している。

さらに国土交通省は、2017年度から空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度を創設することをめざしている。都道府県ごとに空き家の登録制度を作り、一定の基準を満たす空き家には高齢者などの入居を断らないことを条件に、改修費等を補助するというものである。新事業に向けて、住宅セーフティネット法の改正案も2月に閣議決定された。

 

全国的に増え続ける空き家を活用した住宅セーフティネット制度の創設は、私自身が提言してきたことであり、国がようやく重い腰をあげたことは歓迎したい。しかし新制度によって、実際に低所得の単身高齢者が入居できる住宅がどの程度供給されるか、といった点はまだまだ不透明だ。春から始まる住宅セーフティネット法改正案の国会審議に、多くの方々に注目してもらいたい。

日本の高齢者の持ち家率は約8割にのぼるため、賃貸住宅に暮らす高齢者の問題は見過ごされがちだ。しかし、近年の非正規雇用の増加により、年齢が下がるにつれ、住宅ローンを組める層は減少している。高齢者が賃貸住宅を借りられない状況を今のうちに改善しておかなければ、将来に大きな禍根を残すであろう。

 

※関連記事:改正住宅セーフティネット法が成立!まずはハウジングプアの全体像に迫る調査の実施を!

[`evernote` not found]

>

« »