「路上からは抜け出したい。でも、劣悪な施設には入りたくない」は贅沢か?
あなたは「自分がホームレス状態になる」ということを想像したことがあるでしょうか。以下のストーリーを読んで、想像をしていただければと思います。
あなたは、仕事を失い、家族とも離散して、家賃を滞納。アパートを追い出されてしまう。仕方なくネットカフェに寝泊まりをし、必死に仕事を探そうとするが、履歴書に書くべき住所がないことが求職活動の大きな妨げとなってしまう。
次第に所持金が尽き、ネットカフェから24時間営業のファストフード店に移り、最後には路上での生活へ。慣れない野宿のため、睡眠は充分にとれず、食べる物にも事欠き、健康の維持も難しくなる。
そんな極限状態から抜け出すための最後の手段が生活保護の申請だ。あなたは役所の窓口に行って自らの窮状を訴え、職員に嫌味を言われながらも、事前に支援団体のウェブサイトで調べた知識を駆使して、なんとか生活保護の申請にこぎつける。
今夜から泊まる場所がないと言うと、民間の宿泊施設を紹介される。言われた場所に行ってみると、室内は二段ベッドがずらりと並んだ二〇人部屋。それでも路上で寝るよりは良いと割り切って、シミだらけの布団にもぐりこむ。
翌朝、体がかゆくて眼を覚ます。隣のベッドの人に聞くと、シラミやダニが大量発生していると言う。同室者には暴力団員のような風貌の男もいて、別の入所者から金品を恐喝しているようだ。
一刻も早くここを出たいと思うが、勝手に抜け出すとまたホームレスに逆戻り。いつになったら出られるのか、不安になる。隣のベッドの人はすでにここに8年いると言っていた…。
「極端な話だ」と思われるかもしれませんが、ここで描いた施設の状況は、私が実際に施設入居者から聞いたことのあるエピソードを総合したものです。最近でも、都内の貧困ビジネス施設で働いていた元アルバイトスタッフが、週刊誌で内部の劣悪な状況を証言しています。
週刊朝日ウェブ版:年金が生活保護以下で「老後破綻」 漂流し、搾取される高齢者
こうした施設での環境になじめず、路上生活へと逆戻りしてしまう人も少なくありません。特に、精神疾患や知的障害を抱えている人が施設内でいじめやたかりの被害に遭うケースは後を絶たず、路上と施設を何度も「往復」している人も数多くいます。
「もし自分がホームレス状態になったら…」という想像をすれば、「路上からは抜け出したい。でも、劣悪な施設には入りたくない」という願いが決して、贅沢なものではない、ということがわかるのではないでしょうか。
こうした状況を打破するために必要なのは、「ホームレスであろうと、障害があろうとなかろうと、すべての人に基本的な人権として適切な住まいを提供することを最優先にする」という「ハウジングファースト」の発想です。
重度の障害のある人であっても、まずはアパートを提供し、その上で専門家のチームが地域生活を支えるという「ハウジングファースト」型の支援は、1990年代にアメリカで生まれ、近年、各国に広がりつつあります。
日本でも「ハウジングファースト」に基づく支援を広げられないか。そんな問題意識から、このたび国際シンポジウムを企画しました。ぜひ多くの方に参加していただければと思います。
立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科主催・公開シンポジウム
「ハウジングファーストと社会デザイン―フランスと日本の実践から 」
11月14日(土)12時~17時、立教大学池袋キャンパス5号館1階5123教室にて。
翌15日(日)にも、世界の医療団主催で「ハウジングファースト」をテーマにした国際シンポジウムが開催されます。こちらは予約制です。
なぜ住まうことから始める(ハウジング・ファースト)と回復(リカバリー)するのか ~世界と日本の現場から~
ライターのみわよしこさんが「ハウジングファースト」について私にインタビューをしてくれました。あわせて、ご一読ください。
※ダイヤモンドオンライン「生活困窮者が路上生活を抜け出せない負のカラクリ」(みわよしこ)
2015年11月11日