制度の狭間で孤立する低年金の高齢者をどう支えるのか(追記あり)

提言・オピニオン

2013年の大晦日、私の携帯に病院から電話がかかってきました。私が入院時に緊急連絡先になった70代のUさん(男性)が危篤状態にあるという内容でした。

その数時間後、Uさんは亡くなりました。病院関係者によると、内臓疾患のために入院していたUさんはその日、どうしても家に帰ると言い張り、看護師の静止を振り切って一時帰宅したと言います。夕方、無事に病院に戻ってきたのですが、すぐに病状が悪化。帰らぬ人となりました。Uさんが帰宅したかった理由は「部屋に置きっぱなしの現金が気になるから」。入院が長引き、医療費が支払えなくなることを心配したのでしょう。最後までお金の心配をし続けた人生でした。

Uさんとの出会いは十年以上前にさかのぼります。当時、渋谷で路上生活をしていたUさんは、ちょうど年金を受給できる年齢になり、アルバイトと年金の収入をあわせて、家賃が約3万円のアパートに入りました。その入居にあたっての保証人になることを頼まれたのです。

数年後、体調を崩したUさんはアルバイトを辞め、年金収入のみで生活をするようになりました。しかし、年金の金額は月額11万数千円ほどしかなく、ぎりぎりの生活を強いられることになります。2ヶ月に一度の年金の支給日の直前には、いつも「生活が苦しい」と訴えていたのを覚えています。

 生活保護を利用できない低年金の高齢者

私は何度かUさんの相談にのり、Uさんが生活保護を利用できないか検討しました。

しかし、70代単身の生活保護の基準は「現在住んでいるところの家賃額に7万数千円をプラスした金額」であり、何度計算をしてみても、Uさんは収入オーバーで、ぎりぎり対象にならないことがわかりました。生活保護の適用には医療費も考慮されるので、医療費も計算に入れてみたのですが、それもダメでした。

生活保護の基準は、よく13万円程度(東京の単身者の場合)と言われますが、これは家賃が上限額(53700円)かそれに近いアパートに住んでいる場合の基準になります。実際の基準は、その世帯の住宅費がいくらかかっているかによって変わります。Uさんの場合、家賃が高いところに住んでいれば、生活保護の対象となったはずですが、家賃が安いアパートに入ったために制度から排除される、という結果になったのでした。

さらに付け加えると、かつては70歳以上の生活保護利用者には月1万数千円の老齢加算がありましたが、この加算は2004年度から段階的に廃止されてしまいました。老齢加算があった時代なら、単身の高齢者の基準は「家賃プラス約9万」になるので、Uさんも生活保護を利用できたはずなのですが、老齢加算が廃止された結果、Uさんのような年金生活者は生活保護から排除されてしまったのです。

2013年8月からは、ほぼ全世帯で生活保護の基準が段階的に切り下げられてしまいました。これにより、低年金の高齢者はますます生活保護から遠ざけられています。

年金収入があっても、就労収入があっても、収入が基準以下で、活用できる資産がないなどの要件を満たせば生活保護は利用できるのですが、基準が下がると収入要件の幅が狭まってしまうのです。

私は何度かUさんの相談にのり、最終的には安いアパートから転居した上で、生活保護を申請する方法を考えました。しかし、その準備をしている間にUさんは体調を悪化させて入院し、そのまま亡くなられたのです。

年金

私はこれまで20年以上、生活困窮者の相談・支援活動をおこない、生活保護制度を利用することで生活を再建できた例を数多く見てきました。しかし、その一方で、一番対応に苦慮してきたのは、Uさんのようにぎりぎりで生活保護を使えない低年金の高齢者でした。

それは、月の年金額が「家賃プラス約8万円くらいの金額」の人ということになります。

日弁連は独自にまとめた生活保護法の改正案の中で、住宅費や医療費などの援助をもっと柔軟な基準で支給できるよう提言しています。パッケージとしての生活保護制度全体は利用できなくても、住宅のみ、医療のみといった支援がもっと柔軟に受けられれば、制度の狭間はなくなっていくはずです。

※日弁連「生活保護法改正要綱案」

年金額・家賃額と事件の起きた日付けは何を意味するのか

私がUさんのことを思い出したのは、6月30日に東海道新幹線で焼身自殺を図った男性の生活状況が徐々に明らかになり、彼の年金額が約12万、アパートの家賃が約4万であると知ったからでした。

当初、年金額が12万円とだけ聞いた時は、生活保護の対象になったのかもしれないと感じたのですが、部屋の家賃が4万円だと知り、彼もまたぎりぎりで対象外だったのかもしれないと考えるようになりました。

詳しい状況を踏まえないと何とも言えませんが、彼もまたUさんのように制度の狭間にいた高齢者だったのかもしれません。

また、彼が6月の最後の日に事件を起こしたのも、家賃の支払いと関係があったのかもしれないと感じました。報道によると、6月分の家賃を滞納していたようです。

通常、アパートの家賃は前月の末に払うので、6月末を過ぎると、7月分の家賃も滞納となり、家賃滞納が2ヶ月目に突入してしまいます。

アパートの入居者は借地借家法で定められた居住権があるので、本来、2ヶ月程度の家賃滞納では部屋を退去しなくてもいいのですが、そういった知識を持っていないと、「2ヶ月滞納が続いたので、もう退去しないといけない。ホームレスになるしかない」と感じたとしてもおかしくありません。

生活困窮の末に、家を失ってしまうという絶望感が、あのような行為の引き金になった可能性があるのではないでしょうか。

結果的に火災を発生させ、多数の死傷者を出した彼の行為は許されるものではありませんが、事件の背後に何があったのか、どうすれば悲劇をなくせるのか、私たちは考えていく必要があります。

【追記】

新幹線で焼身自殺をした男性の経済状況について、元福祉事務所職員の田川英信さんが国民健康保険料等を勘案すると 「保護の対象になる可能性が高いです」と指摘されています。田川さんのコメントは、みわよしこさんの記事に掲載されています。

下流老人の新幹線焼身自殺は、生活保護で防げたか|生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ|ダイヤモンド・オンライン

ご参考にしてください。


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