【2014年10月7日】NHK NEWS WEB:“最低限”の住まいの行方は

メディア掲載

10月7日付けのNHK NEWS WEBに「“最低限”の住まいの行方は」という記事が掲載されました。
生活保護の住宅扶助基準引き下げの動きに関する記事で、稲葉剛のコメントも掲載されています。

http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2014_1007.html (一定期間が過ぎるとリンクが消えます)

“最低限”の住まいの行方は

生活保護を受ける人に支給される費用のうち食費や光熱費に当たる「生活扶助」が去年から段階的に引き下げられています。
ことしに入ってからは、さらに住宅費部分を見直す議論も進み、生活保護の受給者や支援団体から「最低限度の住生活を保障するという考えが抜け落ちている」などと反発の声が強まっています。
ネット報道部の山田博史記者が取材しました。

被災地の路上生活からアパートへ

「生活保護はありがたい制度ですが、住宅費や生活費がこれ以上減るのは厳しいです」。
仙台市で生活保護を受けて暮らす50代の男性が漏らしました。
東日本大震災で仕事と住まいを失い、市内の公園で初めて路上生活を始めました。
おととし暮れに路上生活者の支援団体に勧められて生活保護を受けることになりましたが、住まいがなかなか見つからず、さらに2か月、路上生活が続きました。

仙台市の場合、生活保護を受ける単身者に支給される住宅費の上限額は3万7000円。
震災後、住宅不足が続いた仙台市で、この条件での部屋探しは難航しました。
男性を支援した「宮城県生活と健康を守る会連合会」の山脇武治事務局長が、ようやく築30年以上のアパートの1室を探しました。
男性は現在、入浴は週2回、日中は電気を消して読書をするなど、生活を切り詰めながら過ごしています。
「アパートが古くて2階から生活音が響いたり結露したりと、厳しい面もありますが、住まいがあるのはありがたいです。ただ、生活はギリギリです」。

「部屋が見つからなくなる」

男性の部屋を探した「宮城県生活と健康を守る会」の山脇さんは、震災後、被災地の低所得者を巡る住宅事情は大きく変わったといいます。
震災後5か月ごろからつきあいのある業者を回っても全く物件がなくなり、相談を受けても断るしかない状況が続いたと言います。

おととし、石巻市の70代の男性から相談を受けたときは、住宅事情がより厳しい石巻での部屋探しは無理だと判断し、仙台に出て来てもらってなんとか確保しました。
山脇さんは「今は新築物件が次々と建てられていますが、生活保護世帯が入居できる物件はまずなく、特に単身者は厳しい。これで例えば住宅費の上限額が10%削られて3万3000円台にでもなればとても部屋は見つかりません。被災地では弾力的に運用してほしいと思っているのに、本気で引き下げようとしているのでしょうか」と話します。

生活保護“抑制”の流れ

生活保護費が年間で3兆7000億円にも上る中、国は事実上、抑制の動きを強めています。
すでに食費などに充てる「生活扶助」は、去年から3年で約670億円減らすことが決まり、受給者は最大で10%減額されることになっています。
さらに去年6月に経済財政諮問会議に示されたあと閣議決定した「骨太の方針」で生活保護のさらなる見直しが打ち出されました。

この流れを受けて厚生労働省が学識者を集めて設置している審議会の生活保護部会で、住宅費に当たる部分や暖房費に充てる冬季加算の見直しについての議論が慎重に進められています。
議論の進め方に委員が疑問を示す場面もあり、5月の会議では、生活保護の住宅費基準額(上限額)が、低所得世帯(世帯収入300万円未満)の平均家賃より約2割高いという資料が示されたのに対し、委員が「上限額と平均家賃を比較するのはおかしい。意図的なミスリーディングを導く比較だ」と指摘する一幕もありました。
厚生労働省は現在、生活保護世帯が実際にどんな住居に住んでいるか、全国のケースワーカーを通して10万世帯以上を対象とした実態調査を進めていて、今月中に集計して審議会で議論してもらうことにしています。

支援団体から反発の声

こうしたなか、先月15日、東京駅に近いビルで生活保護のさらなる削減に不安を募らせる支援団体や学者など約120人が参加した集会が開かれました。

生活保護を受けている車いすの男性は、10件以上の不動産業者を回っても部屋すらなかなか見せてもらえなかった体験を話し、「住宅費を減らされてまた家を探さなければならなくなるのでしょうか」などと不安を訴えました。
また、冬季加算の見直しについて、岩手県二戸保健福祉環境センターの沼田崇子福祉課長は、「冬季加算の支給は11月から3月までですが、二戸地域では10月から6月まで暖房が必要で、灯油代も上がり現状でも足りません。減らすのはありえないと思います」と話しました。
全国の支援者らで作る生活保護問題対策全国会議代表幹事の尾藤廣喜弁護士は「単に財政が厳しいからという発想で国の議論が進められている。最低限度の生活を保障する中で住宅をどうすべきかこそ考えるべきだ」と訴えました。

「健康被害につながりかねない」

この集会で司会を務めた「住まいの貧困に取り組むネットワーク」世話人の稲葉剛さんは、約20年間にわたって東京で路上生活者の支援などに取り組み、特に住宅問題の重要性を訴えてきました。

稲葉さんは、東京では家賃が高いうえに特に身寄りのない単身の高齢者は「倒れたら困る」などの理由で借りにくい“居住差別”を受けやすく、住宅費の上限額を超えると管理費に上乗せされてなんとか入居できるケースが珍しくないといいます。
「その場合、食費や電気代を削って家賃に回すことになりますが、住宅費部分がさらに削られると夏の熱中症など健康被害の問題になりかねません」と指摘します。
また、被災地と同様、都内では震災後、オリンピックも見据えて木造アパートをマンションなどに建て替える動きが加速しているといいます。
稲葉さんは「本来なら低所得者も入居できる公営住宅の充実など住宅政策の見直しが必要です。生活保護が使いづらくなると低所得者が都会で暮らせない状況が生まれてくると思います」と話しています。

厚労省は「削減でなく適正化」

一方、生活保護を巡る議論について、厚生労働省保護課は「最初から削減するというわけではなく、適正な額になるよう検証、見直しをかけているということです。厳しい財政の中で社会保障費も聖域ではないと厳しく言われていますが、検証結果を見て必要があれば上がる部分もあると思います」と話しています。

現在進めている調査結果を見たうえで、ことし12月に審議会に報告書を出してもらう方針で、国の来年度予算に反映される見通しです。
憲法で国民の権利とした「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために設けられた生活保護。その中で住まいの問題がどう位置づけられるのか、国の姿勢が注視されています。

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