五輪を契機とする野宿者排除問題で「蒲田・大森野宿者夜回りの会」が都・大田区等に申入れ

提言・オピニオン

東京都大田区で野宿者支援活動を続けてきた「蒲田・大森野宿者夜回りの会」の越智祥太医師からの情報提供です。

東京五輪を契機に各地で野宿者排除の動きが見られ、生活保護行政においても野宿者への対応が適切に行われていないことを踏まえ、「蒲田・大森野宿者夜回りの会」は、特に大田区の事例を以て、国交省、東京都法務局(法務省)、東京都庁(福祉部、人権局)、大田区(区長、健康政策局、福祉管理課、生活福祉課、総務課、人権・男女平等推進課)に申し入れを行いました。
申し入れ内容は下記のとおりです。

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2019 年 9 月 30 日

国土交通大臣殿
法務大臣殿/法務省人権擁護局長殿
東京都知事殿/東京都総務局長殿/東京都総務局人権部長殿/東京都福祉保健局長殿
大田区長殿/大田区人権・男女平等推進課長殿/大田区地域基盤整備課長殿/大田区生活福祉課長殿
公益財団法人 人権教育啓発推進センター長殿
公益財団法人 東京都人権啓発センター長殿

以下を申入れます。

貴職のご活動に敬意を表します。
東京五輪が近付き、都内各地で、野宿者排除が、国土交通省や東京都・大田区はじめ各区によって行われることが増えてきております。
河原や、道路や、公園や、役所の前までも、認められます。

長い野宿生活で老化や病弱が認められる野宿者に対し、今後の生活や住居や医療福祉等について、本人とよくよく話し合い相談に乗る対応もなされぬまま、ただ排除されることが横行してきております。
特に最近は、委託業者に依頼し、公的職員の対応もないままの排除まで認められます。

東京五輪・パラリンピックで、本来は国際的に人権が尊重されるべきとされながら、足元での人権の軽視が許されてよいはずがありません。
誰もが人として権利が尊重され、軽率な排除をされず、本人と十分な対話の上で、本人の状態に応じた生活や医療福祉が保障される対応が行われることを確認していただきたく、申し入れます。
よろしくお願い申し上げます。

日本国憲法第 25 条には、
1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に
努めなければならない。
と、規定されています。

日本も批准している国際人権規約(社会権規約)では、
第 1 条 1 で自決の権利としての、経済的、社会的、文化的発展の追求権、2 で生存のための手段を奪われない権利、が保障され、
第 2 条 1 で締約国は、権利の実現のため、援助及び協力の行動を約束しており、2 で権利はいかなる差別もなく保障することを約束しています。
第 5 条 2 で基本的人権、
第 9 条 で社会保険その他の社会保障についての権利、
第 11 条 1 で食糧、衣類、住居の生活水準・生活条件の権利、 2 で飢餓から免れる権利、
第 12 条 1 で到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利、2 (d) で病気の場合にすべての者に医療及び看護を確保するような条件の創出、
第 15 条 1 (a) で文化的な生活に参加する権利、を保障しています。

ましてや、東京五輪にあたり制定された、東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例では、 「一人一人に着目し、誰もが明日に夢をもって活躍できる都市、多様性が尊重され、温かく、優しさにあふれる都市の実現」を東京は目指してきたことが述べられ、「 人権尊重に関して、日本国憲法その他の法令等を遵守」し、 「いかなる種類の差別も許されないというオリンピック憲章にうたわれる理念が、広く都民に浸透した都市を実現しなければならない」とされています。

「東京に集う多様な人々の人権が、誰一人取り残されることなく尊重され、東京が、持続可能なより良い未来のために人権尊重の理念が実現した都市」として、 「誰もが認め合う共生社会を実現し、多様性を尊重する都市をつくりあげるとともに、様々な人権に関する不当な差別を許さない」「 人権が尊重された都市であることを世界に向けて発信」すると、前文で明確に規定しています。

第 1 条 では、いかなる差別も許されない、オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念が広く都民等に一層浸透した都市となることを目的とし、
第 2 条 では、都は、人権尊重の理念や多様性を尊重する都市をつくりあげる取組を、2  で国や区市町村と、4 で事業者と、協力して推進することが謳われています。
第 10 条 では、都は不当な差別的言動を解消する啓発等を推進するものとしています。

現在、東京五輪を契機に都下において行われている野宿者排除は、日本国憲法にも、国際人権規約にも、そしてそもそも五輪憲章人権条例にも、違背するものです。

可及的速やかな野宿者への差別解消と、人権尊重を反映した対応を、お願い申し上げます。

1.多摩川河川敷
・野宿者の住まう所に河道拡幅工事ということで、10月から強制排除しようとしています。
・現実に、大人しい野宿生活者には、強制排除の話を国交省職員はしています。
・排除で困る野宿者が出ることが分かっているので、蒲田生活福祉課を紹介しています。

2.蒲田 
(1)大田区役所入口の野宿者を、事前の福祉相談なく、大きな三角コーンを置き強制排除。
・窓ガラスにも、黄色い貼紙で、冷たく排除通告だけしています。


(2)蒲田庁舎前の野宿者も、事前の福祉相談なく、三角コーンとバーを置き強制排除。

(3)多摩川近くの路上
・警察の名を利用した役所の警告書。威丈高な命令口調です。


(4)JR 蒲田駅西口駅前広場
・元の樹木周囲の円形ベンチは野宿者が寝るということで排除され、工事後、樹木を取り巻く金属製の柵のみに変えられ、地域の高齢者が座れる場所もなくなってしまいました。

(5)蒲田庁舎などの生活保護窓口
・野宿者排除と軌を一にして、野宿者が単独で相談に訪れた際、生活保護を受け付けられず路上に戻る他なかったり、対人関係が苦手な人で本来は単身で住めるアパートやせめてドヤ( 簡易宿泊所)の方が適切であるのに特定の無料低額宿泊施設法人に優先的に紹介されて結局いじめられて路上に戻ってしまったり、ドヤに紹介されても週末金曜日に相談に行くと月曜日までドヤ代と食費合わせ 3 日間で少額金銭 7 千円しか支給されなかったり、という対応が多く、福祉相談をしても良い記憶がなくなり、二度と相談したくなくなり路上生活を継続せざるを得ないという選択に至る野宿者が多いことは、非常に残念なことです。最初の福祉相談での対応が非常に重要で、福祉事務所の皆様には、柔軟な受容的なご対応をお願いしたいと思います。

3.大森
・大森駅前の東口駅前広場の工事に関し、下記の様な発言まで出ています。

(2018 年 7 月 13 日まちづくり環境委員会から)
都市開発課長「……路上で住まれている方が憩える場になるのかというところにつきましては、……そういった方々が居座らないように、何ができるかというところを一緒に考えていきたいとは思います」( 答弁後に区議から質問され、その後に慌ててごまかしましたが。 )
・東口駅前広場の再工事は、下記のように野宿者が休むことができないように、そのために地域高齢者も休む場所がないように、設計されてしまっています。

※上記は提出時の情報であり、省庁・都庁・大田区役所との交渉の中で、不十分な把握が更に明らかになったこともあることを、ご承知置き下さい。

蒲田・大森野宿者夜回りの会 医師 越智祥太

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「蒲田・大森野宿者夜回りの会」は今後も継続して、この問題に取り組んでいくとのことです。

引き続き、ご注目ください。

関連記事:五輪まで1年、路上生活者はどこへ? – 稲葉剛|論座 – 朝日新聞社の言論サイト

 

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