生活保護:「安全網」の役割を徹底せよ

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猛暑日が続いた今年の夏、私のもとには知り合いの高齢者が救急車で運ばれて緊急入院した、という連絡が相次いだ。

私は野宿者への支援活動を始めて13年になる。90年代に路上で出会った人の多くは70代になり、生活保護を受給するかそれと同水準の年金収入を得て、つましく暮らしている。生活保護を受けていれば最低限の衣食住費は賄えるものの、エアコンなどの購入費まで工面するのは難しい。この夏、倒れた高齢者の多くはエアコンの無いアパートに住んでいた人たちだった。

70歳以上の生活保護受給者には、月額約1万8千円の老齢加算が支給されていたが、06年度に全廃されてしまった。今年度からは、15歳以下の子どもがいるひとり親世帯に、月額2万数千円を上乗せする母子加算の段階的な廃止も始まっている。4年前から生活保護を受ける東京都新宿区内の男性(76)は「いまでは日々の生活のやりくりで精いっぱい。緊急時に備えた貯蓄に回す余裕もない」と話す。

削減は加算部分にとどまらない。厚生労働省は10月19日に、食費や光熱費など日常生活に充てる「生活扶助費」も見直すため、5人の有識者による検討会を立ち上げた。この検討会の開催が同省のホームページに掲載されたのは、第1回が開かれるわずか3日前だ。受給者の暮らしを直撃するのに、当事者の意見を聴くこともなく、ひっそりと、しかもバタバタと回を重ねており、今月30日には5回目が開かれる。検討会での報告を踏まえ、同省は年内にも引き下げを打ち出すとみられている。

検討会での議論で、引き下げの論拠とされようとしているのは「低所得世帯の消費実態との均衡」だ。低所得者の消費水準と比べ、生活保護費の方が高いから保護費の方を下げるという論法は、母子加算を削る際にも援用された。

しかし問題なのは生活保護費が相対的に高いことではなく、低所得者の消費水準が低く抑えられていることだ。生活保護を巡っては、受給資格を満たす多くの人が地方自治体の窓口で追い返されている。彼ら彼女らは生活保護の水準を下回る生活を強いられ、北九州市では餓死者まで出ている。水際で受給者を絞り込んで貧困生活を強要し、その水準の方が低いからと今度は生活保護の水準を下げるというのでは、憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」からは遠ざかる一方だ。検討会や厚労省は単に両者の差を論じるのではなく、低所得者の消費水準がなぜ低いのかという背景をよく分析するべきだ。
生活保護費は「最低生活費」とも呼ばれ、貧困かどうかを分ける指標としても活用されている。介護保険の保険料・利用料及び障害者自立支援法の利用料の減免、地方税の非課税基準額、公立学校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準などに連動し、国民健康保険料の減免基準と連動させている自治体もある。改正最低賃金法には生活保護との整合性を配慮することが盛り込まれたが、同法に基づく賃金改定への影響も大きい。生活保護費が下がれば、保護対象外の低所得者も軒並み負担増を強いられることになる。

そもそも、生活保護費の削減は、小泉政権下の「骨太の方針2006」に盛り込まれた方針だ。福田首相が掲げる生活重視路線がリップサービスでないのであれば、「最後のセーフティーネット」である生活保護をさらに縮小させるのではなく、ネットに穴が開いていないのかという点検を徹底することから見直しを始めてほしい。

(2007年11月29日、朝日新聞「私の視点」欄掲載)

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