立教カジノイベントの「一部変更」に関する見解 ~学内開催の中止は歓迎するが、数々の問題点は解消していない

提言・オピニオン

本日(6月28日)、立教大学がカジノ推進イベントについて内容の「一部変更」を発表しました。

【6/28 14:50追記:内容変更】グローバル・リーダーシップ育成プログラム第7回東京オープンフォーラム『日本統合型リゾート~健全社会のIRを目指して』

本日の発表は、以下のようにまとめられます。

・7月6日に学内で開催する予定であった公開シンポジウムは学外に会場を変更する。
会場変更の理由は「主催のマカオ大学が、よりアクセスの良いコンパクトな会場で、皆様と近しく知見や課題を共有できる形で開催したいとの主旨で判断した」からである。

・マカオ大学主催の3日間のIR人材研修プログラムへの共催は取り消さない。一部のプログラムは予定通り、学内で開催する。

・当初の予定から登壇者が変更になったこと、豊島区が後援を取り消したこと、イベント内容が立教にふさわしいものなのか等、この間、指摘されてきた問題点には全く言及していない。

 

カジノ経営者3人が講演する学生無料の公開シンポジウムの学内開催がなくなったことは歓迎すべきことだと思います。

しかし、学内外からの批判が強まったこと、豊島区が「中立性がない」と判断をして後援を取り消したことが学内開催の中止に影響したことは明らかであるにもかかわらず、そのことに全く触れていないのは不可解でしかありません。

立教大学は豊島区が中立性がないと判断したイベントを強行するのでしょうか。

私は個人サイトの記事において、今回のイベントの問題点を以下のようにまとめていました。

立教カジノイベントの何が問題なのか?

1.7月6日(土)に予定されている公開シンポジウムは、カジノ業界のPRイベントでしかなく、学術研究の要素はない。そもそも立教に限らず、教育機関で開催するのは不適切である。

2.公開シンポジウムの登壇者が大学の部長会で承認された内容から変更になっているという指摘があり、立教大学当局は説明をする責任がある。

3.公開シンポジウムは、3日間のプログラムの一部だが、カジノ業界の人材育成を目的とするプログラムに協力をすることが立教大学の教育理念とどう合致するのか、大学当局は説明をする責任がある。

このうち、1については学内での開催はなくなりましたが、立教大学が共催して同じような内容のイベントが学外で開催されるならば、カジノPRに協力するという点では変わりありません。

また、本日の大学当局の発表は、2、3の疑問についても全く答えていません。

立教大学当局は学内外からの批判をどう受け止めているのか。

なぜ登壇者が変更になり、豊島区が後援を取り消すという前代未聞の事態を招いたのか。

受講料15万円を徴収して、カジノ業界の人材を育成するプログラムに協力することが、立教の教育理念や建学の精神とどのように整合性がとれるのか。

引き続き、説明を求めていきたいと思います。
#立教はカジノに魂を売るなキャンペーンに引き続き、ご注目ください。

2019年6月28日

立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授
一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事

稲葉剛

【追記】後日、確認をしたところ、主催のマカオ大学の意向により、立教大学は7月6日の公開シンポジウムの共催から外れたとのことです。そのため、上記の「1」の問題点は解消されました。しかし、他の問題点はまだ残っています。

立教カジノイベントの何が問題なのか?

提言・オピニオン

私は2015年度より立教大学の社会人向け大学院(21世紀社会デザイン研究科)で特任准教授を務めています。

立教大学には大変お世話になっているのですが、今年6月16日、やむにやまれぬ思いで「#立教はカジノに魂を売るな」というSNSでのキャンペーンを一人で始めました。

私はこれまで25年間、ホームレスの人たちを支援する中で、ギャンブル依存症に苦しむ多くの人たちに関わってきました。

そのため、カジノ法案に反対の立場から声をあげてきました。

関連記事:ギャンブル依存症問題を悪化させるカジノ法案は通してはならない。

カジノ法案は残念ながら成立してしまいましたが、カジノに対する世論の反対は強く、開設の準備は足踏みしていると言われています。

そんな中、カジノ業界が世論工作の突破口として注目したのが大学だったのでしょう。立教大学というキリスト教系の大学の協力を得て、カジノ推進イベントを開催することで、カジノのイメージアップにつなげたいという戦略があったのだと思われます。

「#立教はカジノに魂を売るな」のキャンペーンは大きな反響を呼び、今日(6月25日)の段階で、最初のツイートは1290回以上、リツイートされました。

この問題の概要と経緯については、BuzzFeed Newsの記事によくまとまっているので、そちらをご一読ください。

大学がカジノ推進のシンポジウム? 「#立教はカジノに魂を売るな」と学内外から批判の声

ここではSNSでの反応も踏まえて、改めて問題点を整理したいと思います。

私の主張のポイントは、以下の3点です。

1.7月6日(土)に予定されている公開シンポジウムは、カジノ業界のPRイベントでしかなく、学術研究の要素はない。そもそも立教に限らず、教育機関で開催するのは不適切である。

2.公開シンポジウムの登壇者が大学の部長会で承認された内容から変更になっているという指摘があり、立教大学当局は説明をする責任がある。

3.公開シンポジウムは、3日間のプログラムの一部だが、カジノ業界の人材育成を目的とするプログラムに協力をすることが立教大学の教育理念とどう合致するのか、大学当局は説明をする責任がある。

では、順番に見ていきましょう。

 

カジノ経営者ばかりが登壇するシンポジウム

問題のイベントは、マカオ大学主催、立教大学共催で開催される「グローバルリーダーシップ育成プログラム 国際統合型リゾート経営管理学 第7回:『日本統合型リゾート~健全社会のIRを目指して』」(7月5日~7日)の一環として開催されるものです。

このプログラムには豊島区が後援しており、豊島区長の高野之夫氏による挨拶も予定されています。ちなみに、高野区長は立教大学の出身です。

プログラムの全体(3日間)の受講料は15万円という高額になっており、対象者は、「管理職またはホスピタリティ&ゲイミング産業での企業経験を有する者が望ましい。」とされています。事前申し込み制で定員は40名となっていましたが、当初の締め切り日までに定員まで達しなかったようで、募集期間が6月25日まで延長になっています。

3日間のプログラムを見ると、4人のマカオ大学の教員が講義をおこない、グループ討議も行なうという内容になっています。いちおう全体では、学術的な体裁を整えているようです。

マカオ側参加者は東京ディズニーリゾートでの「実地研修」も予定されています。

マカオ大学が立教大学と連携する理由は以下のように書かれています。

さてGLDP第 7 回は 2019 年 7 月 5 日~7 日に東京で開催します。今回は、日本で始めて観光学部を導入し、日本のホスピタリティ産業発展において、長年先駆的役割を果たしてきた立教大学と共催することに相成りました。立教大学は観光学士課程を有する他、大學院ビジネス研究科において観光学、ホスピタリティ学、観光施設開発学など多岐に亘り観光学の研究・教育に優れており、IR教育に特化するマカオ大学と観光学に力発揮する立教大学が協力することにより、日本IR産業発展へ高度人材育成を実現していけると確信しております。

 

プログラムでは、2日目の午後のシンポジウムのみ一般を対象としており、こちらのみの参加は「2,000円(ただし学生は学生証提示で無料。本学以外の学生も可)」となっています。

このシンポジウムには、講演者4人、討論会のパネラー3人の計7人がメインのスピーカーになっていますが、この中には研究者が一人もいません。

講演をする4人のうち、観光庁審議官の秡川直也氏以外の3人は、マカオやラスベガスのカジノ経営者で、ポスターで最も写真が大きいローレンス・ホー氏は「マカオのカジノ王」と呼ばれる人物です。

登壇者から判断しても、このシンポジウムは、あからさまな業界PRイベントであり、学術研究の名に値するとは思えません。

このシンポジウムのみ、学生無料としているのは、特にカジノ経営者の講演を学生に聞いてもらいたいという意図があるのだと思われます。

私がこれまで相談にのった生活困窮者の中にも、学生時代にパチンコ等のギャンブルにはまった結果、依存症になって生活が破綻したという方が何人もいました。若者にカジノの魅力を伝えようというイベントは、若者たちをギャンブル依存症へと誘導しかねないものだと言えます。

 

登壇者がいつの間にか変更に

BuzzFeedの記事では、私以外の別の教員の証言として、シンポジウムの登壇者が大学の部長会で承認された内容から変更になっているという指摘がありました。

別の同大学教授によると、このシンポジウムは4月25日に開かれた大学の意思決定組織である学部長会で承認されたが、その学部長会ではかられた提案書に書かれた人とは別の登壇者になっているというのだ。

「部長会にかけられた提案書では、登壇者はマカオ大学の教授3人とカジノコンサルタントとなっていたのです。大学が学内で行う学術シンポジウムは、多様な論点に目を配る学問のルールに則って行わなければならないはずです」

「研究者が登壇するのであれば、『学術的な側面を中心に議論する』という趣旨にも合っていたでしょう。けれども、承認されそうな研究者の名前を並べておいて、承認後に、カジノ運営者ばかりという偏った登壇者に変えたなら問題です。カジノ推進のプロパガンダと批判されても仕方ない内容です。大学は然るべき手続きを踏んで、この差し替えを承認したのでしょうか?」

学部長会では一部の学部長から、ギャンブル依存症問題などの指摘があり、デメリットも慎重に精査するよう求める発言もあったという。

 

私自身は特任教員という立場であり、学内の会議体に参加したり、議事録を読む資格がありません。

この教員の方が勇気を出して証言をされたことに感謝したいと思います。

なぜPR色を強める登壇者変更になったのか、立教大学当局は説明をする責任があります。

 

立教大学の建学の精神に反する

仮に大学で開催しても問題のない学術研究イベントだとしても、立教大学が共催するからには、立教の教育理念との整合性は問われるべきです。

立教大学の建学の精神や教育理念について、現総長の郭洋春教授は大学のホームページで以下のように語っています。

立教大学の物語は、1874年 聖書と英学を教える私塾「立教学校」から始まります。当時の日本は実利主義の傾向が強く、物質的な繁栄を目指す風潮にありました。このような時代の流れに危機意識を抱き、西洋の伝統的なリベラルアーツカレッジをモデルとして、心の豊かさとリーダーシップをあわせもち、世の中に自ら貢献できる人間を育むべく、立教は今日まで歩んできました。

現代のグローバリズムは、より便利に、ライフスタイルの多様化を促す一方、過剰な競争にさらされる面もあります。立教で学ぶ人は、そこでためらうことなく、他者に手を差し伸べられる人に育ってほしい。

 

私塾「立教学校」は、アメリカ聖公会の宣教師チャニング・ムーア・ウィリアムズ主教が設立しました。

「実利主義」や「物質的な繁栄を目指す風潮」に「危機意識」を抱いて学校を開いた創設者が、145年後、その学校がカジノ人材の育成に力を入れていると知ったら、何と言うでしょうか。

また、郭洋春教授自身も昨年、読売新聞への寄稿の中で、大阪のIR構想について「カジノはマカオなど各地にある。カジノは果たして、日本でしかできない体験だろうか。周辺の飲食店などの需要を奪うマイナス面も出てくるだろう。」と懸念を表明しています。

独自の観光資源 発掘を(郭洋春 立教大総長)

郭教授には、経済学者としての見解との整合性についても語っていただきたいと思います。

問題のシンポジウムの開催まで、あと2週間を切りました。

ぜひ学内外から立教大学当局に対して、声をあげていただけるとありがたいです。

貧困ビジネス規制のはずが、ハウジングファースト潰しに?パブコメにご協力を!

提言・オピニオン

厚生労働省は昨年11月から、「無料低額宿泊所」の規制強化などに関する検討会を開催し、検討を重ねてきました。

社会福祉住居施設及び生活保護受給者の日常生活支援の在り方に関する検討会

 

「無料低額宿泊所」(無低)とは、社会福祉法に基づく民間の宿泊施設です。無低に登録している施設は玉石混淆で、ホームレス支援NPO等が運営する良心的な施設も一部にあるのですが、高額な利用料を徴収しながら劣悪な居住環境やサービスしか提供しない「貧困ビジネス」施設も多く含まれているとして、ホームレス支援の現場では20年前から問題になっていました。

無低をめぐる問題については、東洋経済オンラインのこちらの記事がよくまとまっているので、ご参考にしてください。

生活保護費を搾取する「大規模無低」の正体 厚労省がお墨付き?貧困ビジネス拡大の懸念 | 政策 – 東洋経済オンライン

 

「施設」に対する規制に「住宅」も含まれる?

このたび、この検討会で無低規制の方向性が固まり、省令案が出されました。

省令案のPDFは、こちら。

ところが、その省令案の中身を見て、私は驚きました。無低という民間の「施設」を規制するはずの網が、NPO等が借り上げている「住宅」も規制対象とする、という内容になっていたからです。

この省令案の第二条の一(イ)には、無低の範囲として「入居の対象者を生計困難者に限定していること(明示的に限定していない場合であっても、生計困難者に限定して入居を勧誘していると認められる場合を含む。)」という定義があります。

規制をするにあたり、無低の範囲を広くして、全体に網をかけるという方向性だと思いますが、この定義だと、賃貸借契約を結び、家賃・共益費のみを徴収している住宅であったとしても、5人以上を受け入れていて、入居対象者を事実上、「生計困難者」に限定していれば、無低としての規制を受けるということになってしまいます。

そこで、改めて検討会で厚労省が提出していた資料を確認したところ、「無料低額宿泊事業の範囲」には、「生計困難者」を対象とする「住居貸付」も含むという説明があることがわかりました。

 

厚労省資料より。9つの区分の中で、「住居貸付」の一番上も無低という扱いになっている。

「無料低額宿泊事業の範囲」の資料(PDF)は、こちら。

 

このままだと、各地のNPOが運営している借り上げ住宅や、東京都が進めるハウジングファースト型のホームレス支援事業(今年度から本格実施される「支援付地域生活移行事業」)、国土交通省の進める「セーフティネット住宅」の一部も、無低としての規制を受けるという奇妙なことになってしまうのではないかと危惧しています。

ホームレスの人や生活保護利用者を積極的に受け入れている「善意の大家さん」も規制対象ということになってしまいます。

貧困ビジネス施設が規制されるのは歓迎すべきことですが、この規制の網がハウジングファースト型の事業にもかけられてしまうと、結果的に「ハウジングファースト潰し」につながりかねません。

現実的な判断として、ハウジングファースト型の「住宅」も無低としての届け出を出せばよいのではないか、という意見もあるかと思います。

しかし、その場合、入居者に対して「一日一回以上の状況確認を実施する」等、「施設」として入居者を管理することが求められます。

「住宅」と「施設」の違いとは何でしょうか。

それは「住宅」では「時間と空間が自由に使える」のに対して、「施設」では制約を受けるという違いだと私は考えています。

「住宅」という器を「時間と空間を自由に使える場」として提供する、というのがハウジングファーストの原則です。同じ器であったとしても、入居者の自由が制限されれば、「住宅」としての意味が失われます。その意味で、省令案はハウジングファーストの理念を否定していると言えます。

そこで私は厚生労働省に対して、下記のパブリックコメントを提出しました。

 随所に見られるパターナリズム

パブコメにも書きましたが、省令案には他にも、ホームレス経験のある入居者が「独立して日常生活を営むことができるか」という「能力」を、施設の管理者や行政が「判定」をして、誰がいつ地域生活に移行できるかを「決定」する、というパターナリズムに基づく記述が随所に見られます。

こうした発想は、生活保護法の居宅保護の原則をないがしろにするものです。

また、入居者の中にはさまざまな障害や生きづらさを抱えている人も少なくありませんが、これらの規定は、居住の選択に関して当事者の自己決定権を保障した障害者権利条約にも反するものだと私は考えます。

 

 パブコメ提出にご協力ください

パブコメは7月6日が募集の締め切りになっています。

「住宅まで無低の範囲に含めるな」、「居宅保護の原則に従い、入居者の自己決定権を尊重しろ」という意見をぜひ多くの方に寄せていただきたいと思います。

※パブコメはこちらから提出できます(下記をクリックしてください)。

無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準案に関する意見の募集について

ご協力よろしくお願いいたします。

 

【稲葉が提出したパブリックコメント】

私が代表理事を務める一般社団法人つくろい東京ファンドは、東京都内の6団体とともに「ハウジングファースト(HF)東京プロジェクト」というコンソーシアムを組み、世界的にも広がりつつあるHF型の路上生活者支援事業を都内で展開しています。つくろい東京ファンドは同プロジェクトの住宅支援部門を担当しており、都内で計26室の空き室を借り上げて個室シェルターや支援住宅として活用しています。

今回、厚生労働省が重い腰を上げ、貧困ビジネスの規制に乗り出したことは歓迎しておりますが、示された省令案には以下の点で問題があるため、修正を求めます。

第二条では無料低額宿泊所(以下、無低と略す)の範囲が示されていますが、「一のイ」では、賃貸借契約を締結して家賃・共益費以外を徴収していない住宅であったとしても、入居者の状況によっては無低の範囲とされると読み取ることができます。これは、「簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他施設を利用させる」という社会福祉法における無低の定義を逸脱しています。

このままでは、民間団体や地方自治体が実施するHF型の住宅支援事業や、善意の大家さんが路上生活者に声をかけて入居させているアパート、国土交通省が進めるセーフティネット住宅の一部も、無低としての登録を求められることになり、現場の混乱は必至です。国土交通省とも協議の上、家賃・共益費以外を徴収していない住宅は無低の範囲から外すことを明確にしてください。

また、無低の入居者の自己決定権やプライバシーを保障し、生活保護法30条(居宅保護の原則)及び障害者権利条約19条(居住選択の自由)に示された原則を徹底するため、以下の条文の変更も求めます。

第三条「その有する能力に応じ」を削除。

第三条3「基本的に一時的な居住の場であることに鑑み」から「基本的に」を削除。「独立して日常生活を営むことができるか」を「~を希望しているか」に変更。

第三条4「独立して日常生活を営むことができると認められる入居者」を「~を希望する入居者」に変更。

第二〇条を全文削除。

附則第2条及び第3条の「居室に関する経過措置」を全文削除。

厚生労働省がこれまでの生活保護行政、ホームレス支援策を蝕んできたパターナリズムと決別し、国土交通省とも協議の上、「住まいは基本的人権である」との理念に基づき、福祉政策、住宅政策の再編を行なうことを求めます。

2019年6月25日

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事

立教大学大学院特任准教授(居住福祉論)

稲葉剛

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