日々のできごと 書評・関連書籍
稲葉剛・小川芳範・森川すいめい編『ハウジングファースト~ 住まいからはじまる支援の可能性』(山吹書店・JRC)が4月20日に刊行されました。
「ハウジングファースト」の全体像を紹介する本を日本で初めて出したい!という思いから、私が1年半前に立案。関係者に声をかけて、お忙しい中、書いていただきました。
編集は、NPO法人TENOHASIのソーシャルワーカーの小川芳範さん、ハウジングファースト東京プロジェクトの代表医師である精神科医の森川すいめいさんと共に行いました。
出版は、拙著『ハウジングプア』を2009年に出していただいた山吹書店にお願いしました。
この本は、欧米で始まっているホームレス支援の革新的手法「ハウジングファースト」の理論と実践を日本で初めて紹介した書籍になります。
東京で「ハウジングファースト」型の支援を実践している医療・福祉関係者、アメリカのハウジングファーストを研究している研究者など、計10名が執筆を担当しています。
精神科医で、近年は「オープンダイアローグ」の紹介者として知られる斎藤環さんからは、素晴らしい推薦文をいただきました。
住まいは「尊厳」であり、住まいは「自由」だ。
つまり住まいは人間の条件なのだ。
オープンダイアローグやハームリダクションといった「新しい人間主義」の最先端、それがハウジングファーストなのである。-斎藤環
生活困窮者支援や生活保護の関係者だけでなく、精神保健医療福祉、障害者福祉、住宅セーフティネットといった分野において実践や研究をしている方、これらの分野に関心のある学生さんや一般の方々に読んでいただきたいと願っています。
よろしくお願いします。
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『ハウジングファースト~ 住まいからはじまる支援の可能性』
稲葉 剛 (著, 編集), 森川 すいめい (著, 編集), 小川 芳範 (著, 編集), 熊倉 陽介 (著), 山北 輝裕 (著), 吉田 涼 (著), 小林 美穂子 (著), 大澤 優真 (著), 渡邊 乾 (著), 高橋 慎一 (著)
欧米で始まっているホームレス支援の革新的手法「ハウジングファースト」の理論と実践を日本で初めて紹介した本
ハウジングファーストとは、無条件に、安定した住まいを提供する。「安定した住まいを得たいか否か」、問いはそれだけ。 得たいならば、住まいを支援する。そして、必要に応じて、本人のニーズにもとづいた支援をする。支援と住まいは完全に分けられる。 支援がなくても住まうことができ、住まいを失っても支援を利用することができる。それが、ハウジングファーストである。
価格:¥ 2,808
単行本(ソフトカバー): 224ページ
出版社: 山吹書店
ISBN-10: 4865380698
ISBN-13: 978-4865380699
発売日: 2018/4/20
目次
はじめに 「ハウジングファースト」という試みが始まっている(森川すいめい)
第1章 ハウジングファースト型のホームレス支援のエビデンスとその実践(熊倉陽介+森川すいめい)
第2章 パスウェイズ・トゥ・ハウジングとハウジングファースト(山北輝裕)
第3章 国内におけるホームレス対策の進展とハウジングファースト~東京23区における状況を中心に(稲葉 剛)
第4章 貧困ビジネス施設の実態(吉田 涼)
第5章 「自分の部屋が欲しい」―かなえてあげられなかったあなたへ(小林美穂子)
第6章 ハウジングファーストの人間観と支援アプローチ(小川芳範)
第7章 ホームレス状態にある人に対する居住支援の現状と課題~つくろいハウスの実践を通して(大澤優真)
第8章 日本の精神科医療とハウジングファースト(渡邊 乾)
第9章 ハウジングファーストと障害者自立生活運動(高橋慎一)
第10章 拡大する「住まいの貧困」とハウジングファースト(稲葉 剛)
◎ハウジングファースト東京プロジェクトのご紹介
おわりにかえて(稲葉 剛)
※関連記事:ハウジングファーストを紹介する動画がアップされました!
2018年4月20日
メディア掲載
2018年4月16日付け東京新聞朝刊・特報面の「生活保護受給者の『薬局一元化』政策が波紋」という記事に稲葉のコメントが掲載されました。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2018041602000141.html
【特報】生活保護受給者の「薬局一元化」政策が波紋
厚生労働省は生活保護の受給者が使う薬局を1カ所にまとめるという「薬局一元化」の実施を全国の自治体に呼び掛けている。受給者の医療費抑制に向けた施策だが、受診した病院の最寄りの薬局で薬を受け取れないという不便のみならず、新たに交通費がかかったり、薬局が少ない地方では利用自体が難しくなる恐れもある。関係者の間では「本当の狙いは医療から遠ざけることでは」といった声も上がる。 (白名正和)
(中略)
立教大の稲葉剛・特任准教授(居住福祉論)も「厚労省の削減策は、通常の食費すら削らざるを得なくなるような生活実態から乖離した内容だ。当事者が意見を言えぬまま、施策を一方的に押し付けられているのはおかしい」と憤る。
稲葉氏は「私たちのことを、私たち抜きで決めないで」という障害者運動のスローガンを例示し、「当事者が政策決定に参画するのは世界の流れ。生活保護も例外ではない」と話した。
「薬局一元化」問題については、生活保護問題対策全国会議による「意見書」もご参考にしてください。以下をクリックするとリンク先に移ります。
「生活保護「改正」法案の一部削除等を求める意見書」を提出・発表しました(生活保護問題対策全国会議ブログ)
※関連記事:生活保護の利用当事者、経験者の声が国政の場に響き始めた!
2018年4月16日
講演・イベント告知
【5/2 19:00-】LGBT×貧困→ハウジングファースト
【5/2 19:00-】LGBT×貧困→ハウジングファースト
開催日時 5月2日(水)19:00-21:00 (開場:18:30~)
参加費 500円
定員 100人
対象 ALL(セクシュアリティ制限無し)
参加方法 事前申込・当日参加両方有り
お申込みは、こちら。
会場 なかのZERO 視聴覚ホール(本館地下2階)
東京都中野区中野2-9-7 アクセスは、こちら。
主催 LGBTハウジングファーストを考える会・東京
※このイベントは、東京レインボープライド2018「プライドウィーク」に参加しています。
LGBT当事者からの相談事例には、家族やパートナーからの暴力や、セクシュアリティに由来するメンタル不安などを理由に生活困窮となり、住まいを失うケースが少なくありません。
とくに、ゲイ・バイセクシュアル男性やトランスジェンダーをはじめとするLGBTの場合、既存のシェルターなどの施設を利用できず、同性と相部屋になったり、本人が望む性別とは異なる施設入所を余儀なくされ、自立に向けて大きな支障となることもあります。
今回、ハウジングファーストの先駆けとして、都内で生活困窮者の住宅支援を行っている、一般社団法人つくろい東京ファンドなど、関係機関の協力のもと、貧困により住まいを失ったLGBT当事者へのサポートを考える会を開催します。
内容:相談事例の紹介、DV・虐待サバイバー支援の現場から見えてくること、 つくろいハウス事例報告(稲葉剛)、LGBT支援ハウスの開設に向けた今後の取り組み、その他
お申し込み:会場準備の都合上、以下のフォームから事前にお申込みください(空席がある場合、当日参加も受け付けます) 。
https://ssl.form-mailer.jp/fms/daefb21a563349
主催:LGBTハウジングファーストを考える会・東京
呼びかけ人:生島嗣(NPO法人ぷれいす東京代表)、石坂わたる(中野区議会議員)、稲葉剛(一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事)、 稲吉久乃 、遠藤まめた(やっぱ愛ダホ!idaho_net.代表)、大江千束(LOUD代表)、大島岳(一橋大学大学院)、 金井聡(一橋大学大学院)、金谷勇歩、カラフル@はーと、前田邦博(文京区議会議員)、山縣真矢(NPO法人東京レインボープライド共同代表理事)
※関連記事:ハウジングファーストを紹介する動画がアップされました!
2018年4月9日
日々のできごと 書評・関連書籍
2016年に上梓した拙著『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)は、順調に版を重ねてきましたが、このたび、電子書籍版(Kindle版)が発売されました。
貧困問題の入門書として、学生さんなど、この問題に初めて触れる方に広く読んでいただいています。
まだの方はぜひこの機会にお読みいただければと思います。よろしくお願いします。
以下の画像をクリックすると、Amazonのページに行きます。
【書籍紹介】
政治だけじゃない。貧困が広がる社会を、私たち自身が変えることができる。下流老人、貧困女子……。一億総中流社会の崩壊がより深刻な今、貧困問題はだれにとっても人ごとではありません。ではどのようにしたら、そうした問題を解決したり、未然に防いだりすることができるのでしょうか。長く貧困問題の現場に関わり、さまざまな提言や制度改革に取り組んできた著者が記す、貧困社会を変える希望の1冊。用語解説もつき、中学生くらいからでもよみやすく、わかりやすい内容です。
私の書いた本では、他に『生活保護から考える』(岩波書店)、『英語のおさらい』(自由国民社)も電子書籍版(Kindle版)が出ています。
ちなみに『英語のおさらい』は、私が学習塾講師をしていた時の経験に基いて書いた「大人が中学英語をやりなおす」というコンセプトの本です。貧困問題に関する内容ではないので、お間違えなく。
※関連記事:『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)が増刷!朝日新聞に書評も掲載されました。
※関連記事:【2016年10月22日】 『SYNODOS』にインタビュー記事が掲載
2018年4月6日
提言・オピニオン
“Nothing About Us Without Us”(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)
この言葉は、世界各国の障害者運動が長年、掲げてきたスローガンです。日本においても、近年、障害者福祉の分野では厚生労働省が政策を立案する過程において、障害の当事者が審議会の委員などの立場で参画し、当事者の意見が政策に反映されるのが通例になっています。
しかし、同じ福祉行政でも生活保護の分野では、制度を利用している当事者の声が政策に反映されるという機会はこれまでほとんどありませんでした。それどころか、安倍政権は前回(2013年度)と今回(2018年度)の生活保護基準見直しにおいて、当事者の声を全く聴くことなく、引き下げを決めました。
生活保護の利用当事者が厚生労働副大臣に直接申し入れ。
こうした状況に風穴を開けるかもしれない出来事が3月29日にありました。
生活保護の利用当事者4名が支援者らとともに高木美智代厚労副大臣に面会し、今年10月からの生活保護基準の引き下げや生活保護世帯のジェネリック医薬品使用を原則化する法改正に反対する申し入れを行なったのです。
きっかけは、山本太郎参議院議員が3月6日の参議院内閣委員会で行われた質疑で、安倍晋三首相に対し、生活保護基準引き下げに関して当事者の声を直接聴くように迫ったことでした。
安倍首相は「担当の厚労大臣がしっかりと所管をしているので、そうした声については担当の大臣あるいは役所からしっかりと承りたい」と答弁。このやりとりを受けて、私たちは厚労省の政務三役が当事者の声を直接聴く機会を作るよう、山井和則衆議院議員を通して要望を行いました。
しかし、3月19日に行われた申し入れには、政務三役は都合がつかないということで参加せず、代わりに社会・援護局長が要望書を受け取りました。
※関連記事:生活保護「改正」法案に異議あり!厚労省政務三役が当事者に会うことを求めます。
私たちは生活保護基準見直しの決定権を持つのが厚生労働大臣である以上、政務三役が対応をすべきだと主張。厚労省側は難色を示しましたが、最終的に初鹿明博議員が3月23日の厚生労働委員会で加藤勝信厚労相より「政務三役で時間的に対応できるのであれば検討したい」という答弁を引き出してくれて、実現に至ったのです。
私自身は同席できませんでしたが、髙木副大臣との面談の場で、4名の当事者はそれぞれ自分の言葉で利用者の生活状況を説明し、これ以上の引き下げを行わないよう求めたと聞いています。副大臣は「(引き下げは)客観的なデータに基づいて判断している」と述べるにとどまったようです。
今回の面談により、生活保護をめぐる状況がすぐに改善されることはないでしょうが、野党の各議員のご協力により当事者が直接、政策を決定する政治家に生の声をぶつける機会を作れたことの意義は大きいと考えています。ご尽力いただいた議員の皆様に感謝いたします。
生活保護利用の経験がある議員2人が衆院本会議で発言!
3月29日には、生活保護をめぐって、もう一つ大きな動きがありました。
民進、立憲、希望、共産、自由、社民の野党6党が「子どもの生活底上げ法案」(正式名称「生活保護法等の一部を改正する法律案」)を衆議院に共同提出したのです。
この法案は、貧困の連鎖を断ち切るとともに、貧困世帯の子どもの生活の安定を図るため、以下の措置を行なうという内容になっています。
(生活保護法関連)
・厚生労働大臣は、2017年に行われた生活保護の基準の検証に用いられた水準均衡方式を見直して必要な措置を講ずるとともに、その間、要保護者に不利な内容の保護基準を定めてはならないこと
・高校卒業後も世帯分離をせず、世帯を単位とする生活保護を受けながら大学・専門学校等に通えるように配慮しなければならないこと
(児童扶養手当法関連)
・児童扶養手当の支給対象の拡大(20歳未満の者に拡大)
・児童扶養手当の月額の増額(42500円から1万円増額して52500円に引き上げ)
・児童扶養手当の支払回数の見直し(年3回から毎月支払に)
この法案の内容は私たちが要望してきたこととも重なっています。野党が提案した法案ですが、政府や与党もぜひ真剣に議論をしていただきたいと願っています。
3月30日には、衆議院本会議で「子どもの生活底上げ法案」と、政府提出の「生活困窮者自立支援法」改正案の趣旨説明と質疑が行われました。
この審議の動画は、インターネット中継のビデオライブラリで見ることができます。
この本会議での審議で私が特に注目したのは、立憲民主党が起用した2人の新人議員でした。2人とも過去に生活保護を利用していた経験があり、その経験をもとに発言をしていました。
「子どもの生活底上げ法案」の趣旨説明を行なった池田真紀議員は、冒頭でご自身の経験をもとに生活保護基準の引き下げを強く批判しました。
私は下の子が生まれる前に貧困状態となり、シングルマザーになりました。パートのかけもち、トリプルワークでも生活は厳しく、一時、生活保護を受給しました。命の恩人である弁護士に出会え、この制度につながり、私も子どもたちも命が救われました。法の解釈と運用によっては人の命が奪われる危険性のある生活保護制度が、正しく運用されることで命が救われる、まさに憲法第 25 条の実現でした。
私は、そのために福祉事務所の生活保護行政を正したい、その思いで福祉事務所ケースワーカーになり、子どもの貧困対策や権利擁護を行うフリーソーシャルワーカーとしても活動してきました。福祉の実態がまだまだ理解されていない、当事者の声や現場の声が、政治にまだまだ届いていない、そのことから政治をめざし、国会議員になりました。
そんな私からすれば、今回の政府の生活保護切り下げは、貧困家庭やその子どもをますます苦しめるもので、強い怒りを感じざるを得ません。
貧困家庭の子どもたちの生活を底上げする法案こそが今必要であると考え、私たちは子どもの生活底上げ法を提出しました。
その後、質疑に立った中谷一馬議員は、ご自身の子どもの頃の経験をもとに、安倍晋三首相に対して大変鋭い問いかけを行いました。
私は、自分自身が母子世帯の貧困家庭で育った原体験から、世の中の「貧困」 と「暴力」を根絶したい。そして「平和」で「豊かな」社会がいつもいつまでも続く世の中を創りたい。そんな想いで政治の道を志しました。
父と母は私が、小学生のときに離婚をしました。 母は、私と妹二人、兄妹三人をなんとか養おうと早朝から深夜まで働いてくれ ましたが、働いても働いても生活は厳しくなるばかりでした。ひとり親家庭のお母さんたちは 81.8%の人が働いているにも関わらず、平均収入は約 200 万円に過ぎません。そしてひとり親世帯の相対的貧困率は 50.8%に達します。 この状態は本人の努力が足りないのではなく、多数のひとり親家庭のお父さん、お母さんが必死に働いてもワーキングプア、貧困状態に陥るという社会的な構造に欠陥があることの証左です。
そして働き続けた母は、ある時期に身体を壊し、寝込むようになりました。 そしてうちは、生活保護を受けることとなりました。 その時、子どもだった私は、ただ無力で、そのことに悔しさを感じながらも、 母の代わりに働きに出て、家計を支える力はありませんでした。
そうした環境で育った私から見て、政府提出法案に最も足りないものは、市民生活に対する想像力と社会的弱者に対する共感力です。
そこで総理に伺います。 総理は、今までの人生の中で、生活するお金がなくて困った経験はありますか。エピソードなどあれば教えて下さい。
安倍首相は、この質問に対する答弁で、政府として子どもの貧困対策を進めていると強調しつつも、「私には生活するお金がなくて困った経験はありません。想像力と共感力が欠如しているのではとの批判は、甘んじて受けなければならない」と述べざるをえませんでした。
過去に生活保護を利用した経験のある議員が、そのことを国会の場で明らかにして発言した例を私は他に知りません。
3月29日に生活保護の利用当事者が厚生労働副大臣に直接申し入れをしたのに続き、30日に池田議員、中谷議員が衆議院本会議の場で生活保護利用経験者として発言したことは、生活保護の利用当事者、経験者の生の声が国政の場に響き始めたことを意味します。
もちろん、こうした事実によって、生活保護をめぐる政治の力学がすぐに変わることはないでしょう。3月28日には、今年10月からの生活保護基準引き下げを含む2018年度予算が成立しました。
しかし、少なくとも今後、政府は響き始めた声を黙殺することはできなくなりました。この声をさらに大きくできるよう、私もさらに働きかけを強めていきたいと思います。
※関連記事:【2017年12月29日】SYNODOSに生活保護に関するインタビュー記事掲載
2018年4月2日
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